酒蔵は儲かるのか

兵庫県自治体問題研究所
土井 孝一(当所常任理事)


酒蔵も10月か11月には新しい年度の酒造がはじまります。これからはじまる平成27酒造年度でどのような酒を造るか、どれくらいの量を造って、どう売るかということを決定する時期でもあります。

一般消費者としては「どのような酒」の部分に興味が集中するのはやむを得ないですが、ここで量と販売に少し幅を広げた話をしてみたいと思います。おおざっぱな計算ですが、一升瓶2000円(消費税込み)の酒があるとして、小売への卸価格は1500円、蔵出し価格は1300円ぐらいが相場だろうと思います。ここから酒税と消費税を除いた純粋な酒蔵の売上は1000円。清酒製造業の原価率は7割程度であり、そのうち半分が瓶詰コストとなると、純製品のコストは350円。このうち7割が米の費用とすると、残りの105円にその他のコストが割り当てられることになります。ここに、浸漬から蒸米、種麹の購入、乳酸菌や酵母の購入、醸造用アルコールの購入から温度管理費用、搾酒に至る機械のメンテナンスや償却費用を考えると、とてもコストの削減などできない相談だとわかります。実際、県内の家族経営の蔵元は「瓶代もラベルの印刷費も上がった。50銭、1円という単位でも厳しい」と話しています。全国でも年間100石程度の製造量の蔵が多いですが、この量で年間の利益は300万円、200石でも600万円となると、これはなかなか続けていくのは困難でしょうし、代替わりを機に廃業というのもやむを得ないと思います。しかも、これは全部売れたらという話で、小さな蔵ほど販売力が乏しいという現実があります。人件費などとても出て来ず、蔵元杜氏が一人で、或いは親子二人で、残りはパートでというなかで、製造から販売、配送まですべてこなしているというのが実際の姿です。

県内には但馬杜氏、丹波杜氏という全国に名を馳せた流派がありますが、農閑期の出稼ぎとして説明されてきた形態が急速に縮小したのも、高齢化による杜氏や蔵人の減少だけでなく、かつて、2000石、3000石を造って大手酒造会社へ桶売りしていたものが、今は100石、200石という製造量になるなかで、とても人など雇えなくなったという事情もあります。

政府が2013年に発表した成長戦略のなかで、「世界を惹きつける地域資源」として日本酒を「輸出戦略の一翼を担う」と位置づけました。県内でもこれに応えて、世界市場に打って出ている中小の酒蔵も結構あり、成功を期待しますが、現実は政府の描くものとはかけ離れているように見えるのです。一方、この小さな酒蔵こそ、高い技術をもって、世界を惹きつけつつある日本酒の多様性の魅力、文化をつくりあげているのも事実です。