【論文】東日本大震災から5年―住民からみた岩手県の復興ー

住民と自治2016年4月号より

2016年4月15日

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井上 博夫(いのうえ ひろお)
岩手大学 教授


震災から5年。津波被災地、岩手県沿岸市町村は、いまどうなっているか。復興の現状と復興期間後半期を迎えるに当たっての課題を考えます。


国は復興期間を10年間と定め、当初の5年間を「集中復興期間」と位置づけましたが、その5年が経過し復興期間の後半に入ろうとしています。被災地の現状と課題を岩手県沿岸市町村の住民と自治体から見ます。

岩手の被災地では人口流出が拡大していない

2015年10月、震災後はじめて行われた国勢調査に基づく人口の速報値が、各県で発表されたのを受け、新聞紙上でも「被災3県の沿岸、15・6万人減」と大きく報じられました。岩手県沿岸12市町村でも、2010年国勢調査結果と比べ、2万2761人(8・3%)の人口減少が確認されました。なかでも被害の大きかった大槌町では、3544人(23・2%)減少しました。

しかし、その内容をよく見てみると、「歯止めのない人口流出が進んでいる」という状況ではないことがわかります。表1は、住民基本台帳人口をもとに、震災前後の各年における人口増減数を自然増減(出生者数─死亡者数)と社会増減(転入者数─転出者数)に分解して示したものです。これによれば、確かに2010年度~11年度には大きく人口が減少しています。自然減が10年度と11年度に急増しているのは、震災による死者・行方不明者によるものです(12市町村の震災による直接死者と行方不明者は合わせて5791人、災害関連死は425人)。また、社会減も11年度には6000人を超えています。しかし、12年度以降、自然減は、震災以前と同じく高齢化に伴い徐々に増加の傾向が見られますが、社会減(人口流出)はむしろ震災前よりも少なくなっています。


表1 岩手県沿岸12市町村の人口の推移(住民基本台帳人口の増減)
(単位:人)
08年度09年度10年度11年度12年度13年度14年度
自然増減-1,963-1,993-3,623-6,578-2,049-2,097-2,172
社会増減-2,179-1,344-1,019-6,263-670-1,251-1,036
人口増減-4,142-3,337-4,642-12,841-2,719-3,348-3,208
  • 注1)沿岸12市町村とは、宮古市、大船渡市、久慈市、陸前高田市、釜石市、大槌町、山田町、岩泉町、田野畑村、普代村、野田村、洋野町。
  • 注2)2008年度~12年度は当該年度4月1日~3月31日の増減数、2013年~14年は当該年1月1日~12月31日の増減数。
  • (出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数に関する調査」各年版より作成。

また、住民票は残したまま内陸部などに移り住んでいる人が多いのではないかと心配されたため、実際に住んでいる人を対象とした調査である国勢調査の結果が注目されていました。しかし、15年1月1日現在の住民基本台帳人口25万8369人に対して、国勢調査結果は25万1325と7044人少ないだけであり、10年国勢調査時における住民基本台帳人口との差異よりも小さくなっています。福島県沿岸の原発被災地では、浪江、双葉、大熊、富岡の4町で避難指示により国勢調査人口がゼロとなっているのをはじめ、双葉郡の町村では住民基本台帳人口と国勢調査人口に大きな開きが生じているのとは状況が異なります。

岩手の沿岸被災地の場合、人口流出は震災直後の一時期の現象であり、その後は、地元市町村に住み続けて地域の復興・再生に期待を寄せている状況が想像されます。

復興はどこまで進んだか

では、人々の暮らしと、まちの復興はどこまで進んでいるのでしょうか。

住まいの再建

仮設住宅入居者は、ピーク時(2011年10月)の4万3738人に比べれば減少したとはいえ、2016年1月31日現在、まだほぼ半数の2万1464人です(みなし仮設の4881人を含む)。岩手県では、みなし仮設は少数であり、応急仮設住宅の劣悪な環境での生活が5年に及びます。

一方、住宅再建の進展状況は、生活再建支援金受給者のうち加算支援金を申請した人の数で推定することができますが、基礎支援金申請者数2万3237件に対して、加算支援金申請者数は1万363件(45%)であり、住宅再建できた世帯は半数に満たないことがわかります。その原因の多くは、宅地供給が進んでいないことにあります。2015年12月末現在、高台の造成などによる防災集団移転促進事業は、計画2205区画に対し、完了は1178区画(53%)。津波で流された市街地のかさ上げなどによる土地区画整理事業は、計画5343区画に対し、完了はわずか432区画(8%)のみです。また、災害公営住宅も、計画5771戸に対して完成したのは2748戸です。とりわけ土地区画整理事業の進捗が遅れているため、地域復興の拠点となる市街地の形成を目的とした津波復興拠点整備事業は、10地区で計画されていますが、完了した所はまだ1カ所もありません。

さらに被害の大きかった山田町、大槌町、釜石市、陸前高田市では、宅地及び災害公営住宅整備の完了予定は2018年度以降となっており、住まいが確保されるにはまだ時間がかかります。

医療施設の再建

岩手県沿岸部の医療施設は、病院・診療所(医科・歯科)合わせて240施設ありましたが、そのうち127施設が被災しました(うち全壊70、大規模半壊14)。仮設診療所整備などの支援もあり、2016年2月1日現在、被災施設の90・4%が再開しています。全壊した病院のなかには、山田、大槌、高田の県立3病院も含まれ、一時は存続が危ぶまれる事態もありましたが、住民の強い要望を受けて50床程度での再建が決定されました。

ただし、現在も仮設での再開に留まっている施設が14あり、病院が一つもない町が生まれているため、早期の再建が期待されています。

事業の再建

表2 岩手県沿岸12市町村における事業再開の状況(2015年8月1日現在)
事業再開の状況(%)建物・設備の復旧状況(%)業績(売上等)(%)
再開済一部再開合計ほぼ震災前の状態に復旧3/4程度復旧した仮設店舗 ・事業所で再開震災前よりもよい震災前と同じ程度合計
建設業74.516.891.357.55.523.262.421.083.4
水産加工業75.711.387.061.417.88.914.927.742.6
製造業67.811.679.458.511.011.020.324.644.9
卸・小売業50.721.672.341.89.726.513.018.631.6
飲食・サービス業51.910.323.622.719.742.4
その他54.615.169.755.76.720.623.726.149.8
  • (出所)岩手県「『被災事業所復興状況調査』結果報告(平成27年第2回)」より作成。

表2は、岩手県が沿岸12市町村の商工会議所または商工会の会員で被災した事業者を対象にアンケート調査を行った結果です。

復興工事による需要が増えている建設業では、ほとんどの事業所が事業を再開し、業績も「震災前よりもよい」というところが多数を占めています。一方、水産加工業と製造業では、事業の再開は進みましたが、業績の低下に苦しんでいるところが多いです。

そして、もっとも復興から遠いのが、卸・小売業、飲食・サービス業とその他です。これらの業種では、事業再開状況が他の業種に比べて遅れているだけではなく、業績も震災前に比べて低下している事業者が多数を占めています。それは、震災前に市街地でお客さん相手の商売を行っていた店が、市街地ごと津波で流され店舗も住宅もなくなった上に、土地区画整理事業がまだ完了していないため、事業を本格的に再建できないでいるものと思われます。そして、仮設店舗などで再開している事業所がかなりの数にのぼっています(表2)。

そこで、現在、仮設店舗などで事業を行っている店が、まちの復旧・復興とともに本格的に再開し、その後も事業継続できるかどうかが、まちの復興にとっても重要となっています。

仮設店舗・事業所で事業を復旧した事業者(すべての業種)に対する質問への回答によれば、本設での再開を「予定している」事業者は71・3%ありますが、本設再開の時期については、「予定している」と回答した事業者の54・6%が「未定」と答えています。さらに、本設再開の課題を聞いたところ、「まちづくりの進展・用地確保」(34・2%)、「顧客・販路の回復」(17・3%)、「資金の確保」(16・8%)の順となっています。

また、本設再開を「予定していない」と答えた事業者に対して、その理由を聞いたところ、一番多いのは「年齢・後継者不在」(43・1%)ですが、「仮設継続」(36・9%)との回答もかなりの数あり、復興まちづくりを進めるにあたって、その意味するところも考慮する必要があるのではないでしょうか。

まちの復興が直面している課題住まいと事業の統合的な再生

これまで見てきたように、被災地の復興に当たって、防災集団移転促進事業や土地区画整理事業に時間がかかり、なかでも市街地を再建するための土地区画整理事業は長い期間を要するため、住まいの再建や商業・サービス業などの事業の再建が遅れてきました。完了予定年度は2016年度から18年度以降まで、市町村によって前後しますが、そうしたまちづくりのための「土台」づくりを終え、今後は順次、その上にまちを形成していく時期を迎えます。そこで、その際に直面する復興の課題を検討したいと思います。

表3 沿岸被災市町村の事業所構成(2009年)
事業所総数(所) うち公務以外の第3次産業(%) 第3次産業の主な業種(%)
小売業 宿泊業・飲食サービス業 生活関連サービス業、娯楽業 医療、福祉
大船渡市 2,734 82.2 24.0 10.4 11.1 5.4
陸前高田市 1,283 81.4 25.9 8.3 11.7 6.3
釜石市 2,396 85.0 22.4 13.9 11.1 5.9
大槌町 793 80.8 27.7 12.3 11.4 4.3
山田町 909 79.1 23.5 10.9 10.4 5.4
  • 注)農業・林業・漁業に属する個人経営の事業所は調査対象外。
  • (出所)「平成21年経済センサス基礎調査」より作成。

表3に見るように、震災前の被災地にあった事業所数の圧倒的な割合が第3次産業でした。そのなかでも、小売業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業などの主に市街地に立地する事業が大きな部分を占めていました。したがって、こうした事業所の再建は、まちの再建にとっても、住民の生活を支える上でも重要といえます。

ところが、まちづくりは、今、二つの課題に直面しているように思われます。一つは、住まいと商業とが地理的に分離してしまうおそれがあることです。もう一つは、今回の震災復興に当たっては、事業再建支援の点でいくつかの制度が創設されましたが、まだ事業者の多様な環境に十分対応しきれていない面があることです。

住まいと商業の分離

陸前高田市では、津波被害を受けた市街地のうち海から遠い部分をかさ上げして土地区画整理事業を行い、新たな中心市街地を形成するとともに、高台を造成して防災集団移転促進事業を実施することにしています。そして土地区画整理事業区域の中央に「まちなか再生計画」の区域を設けて、ここに商業機能を集約することによって魅力ある持続可能なまちの再生を図る、というのが復興まちづくりの考え方です(図1)。

図1 陸前高田市の土地利用計画
  • (出所)陸前高田市「まちなか再生計画」2015年12月

ところが、心配される事情があります。それは、土地区画整理事業区域内のかさ上げ地に換地を得た土地所有者が、その場所に住宅を建設しない可能性があるということです。なぜなら、長い期間を待ちきれず、すでに別の場所に住宅再建した人、より安全な場所を求めて高台などへの住宅建設を希望する人がかなりの数になると思われるからです。かさ上げ地に土地を所有していた人が換地で高台に移る場合、空いた土地は、市が津波復興拠点事業を活用して買い取って中心部に集め、公共施設用地に充てたり、テナント型商業施設や個店に賃貸するようにしたりしています。それでも土地区画整理事業区域の周辺部には、しばらくは住宅が張り付かずに空き地として残ってしまう所が生まれるのではないかといわれています。

また、中心部の「まちなか再生区域」には商業施設が立地することになっていますが、ここでも当初の予定とは異なる事態が生じています。中心市街地再生の取り組みは、市と商工会が連携して進めてきており、商工会も再生計画区域に住居兼店舗を建てるよう勧めてきましたが、結果的には、ほとんどが店舗のみで住居は高台等の別な場所になってしまった、とのことです。

そのため、かさ上げ地の商業施設、高台の住宅というように、町の機能が分離してしまい、まちの賑わいと居住の利便性が確保されるかどうかが心配されます。そしてこうした状況が、陸前高田市に限らず、多くの津波被災地で生じています。

事業再建支援策の課題

民間事業者の復旧・復興についても、単純な「自己責任」に委ねるのではなく、震災後の比較的早い時期から、仮設店舗・事業所の無償貸与、グループ補助金などの新たな支援制度が導入されたことは評価に値します。しかし、その時々の予算措置に依存していたため、当初は量的な制約や不安定性を伴いました。また、国の補助金が持つ制度的な制約から、被災事業者の多様な状況に柔軟に対応するには裁量性を欠いていたため、障害となった問題について、一つひとつ要望と協議を通じて改善を重ねていかなければなりませんでした。

たとえば、同じく中心市街地で事業再開をめざす事業者でも、土地区画整理事業区域内に土地を所有していた人とそうではない人、自前の建物を所有していた人と賃貸で営業していた人などの事情の違いにより、再建の方法が異なります。そのため、換地に店舗の再建をめざす人、市有地を借地して店舗の再建をめざす人、テナントとして入居できる商業施設を求めている人、仮設店舗を移築して、または現在地でそのまま営業を続けることを希望する人、など様々です。

これに対して、グループ補助金は、被災した建物や設備などの復旧費用の一部を補助することが制度趣旨のため、支援対象から外れてしまう被災事業者が生まれるとともに、中心市街地の賑わいを再生するといった、持続的まちづくりの観点はまったく抜け落ちています。そこで、まちなか再生計画に基づき、まちづくり会社などが行う商業施設などの整備について津波立地補助金を交付するという制度が作られ、2014年3月に第1回公募が行われました。現在のところ、岩手県内で「まちなか再生計画」の認定を受けたのは、まだ山田町と陸前高田市のみです。この津波立地補助金は1件5億円を上限とするという条件があるため、被災事業者が多い陸前高田市では計画づくりが困難に直面しましたが、協議の末ようやく2件が認められたとのことです。さらに、集中復興期間が終わる2016年度以降も制度が継続されるかどうかは不明です。

自己決定できるような支援のしくみ

集中復興期間の5年間が終わり、2016年度からは復興期間後半に入ります。しかし、土台作りが見えつつあるだけで、まちはまだ姿を見せていません。これから、いよいよ本格的なまちづくりが始まり、ハードからソフトへと復興事業の中身が移っていかなければなりません。そこでは、持続可能なまちづくりとするためにも、被災地の住民と自治体が、地域の実情に合わせて自己決定できるような支援のしくみへの大胆な転換が期待されます。

【注】

  • 1)朝日新聞2016年2月11日付。
  • 2)岩手県「応急仮設住宅、みなし仮設住宅の被災者の状況(平成28年1月31日現在)いわて復興の歩み」2015年12月。
  • 3)被災者生活再建支援法は、住宅の全壊・大規模半壊等により居住が困難となった世帯を対象に、基礎支援金を支給し、住宅を建設・購入、補修、賃貸した世帯に、再建方法に応じて加算支援金を支給することになっています。申請者数は、岩手県「いわて復興の歩み」2015年12月による。
  • 4)岩手県「復興実施計画における主な取り組みの進捗状況」2016年1月。
  • 5)復興庁「住まいの復興行程表(2015年9月末現在)」。
  • 6)岩手県「医療提供施設の被害及び再開状況」2016年2月1日現在。

住民と自治2016年4月号より

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井上 博夫(いのうえ ひろお)
岩手大学 教授

岩手大学人文社会科学部教授、財政学。著書は岡田知弘・自治体問題研究所編『震災復興と自治体』(共著、自治体研究社、2013年)など。

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