【論文】47都道府県人口ビジョンと総合戦略の特徴、見えてきた課題

住民と自治2016年6月号より

2016年6月15日

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中山 徹(なかやま とおる)
奈良女子大学大学院教授


政府が策定した長期ビジョン、総合戦略を踏まえ、すべての都道府県が人口ビジョン、総合戦略を策定しました。ここではその人口ビジョン、総合戦略の内容を概観し、そこから読み取れる課題を考えます。

2060年の人口見通し

事態がこのまま推移すれば日本の人口は大幅に減少します。それを都道府県別に見たのが29㌻の表1です。①が2010年の人口、②は少子化と東京一極集中が改善されなければ2060年の人口がどうなるかという予測です。人口比率欄の②/①は2060年でどの程度まで人口が減るかを見たものです。

②/①欄を見ますと、全国的に人口は67・7%になります。人口減少率にしますと32・3%、おおよそ今の3分の2まで減ります。しかし、都道府県によって減少率はかなり異なります。2010年の半分以下になる県が2県(秋田43・1%、青森46・5%)、40%以上減少する県が20道県(北海道、岩手、山形、福島、栃木、新潟、富山、山梨、長野、岐阜、奈良、和歌山、鳥取、島根、山口、徳島、愛媛、高知、長崎、鹿児島)です。

人口減少率が最も小さいのは沖縄県で4・5%です。減少率が20%以下の県は2県(神奈川、愛知)、30%以下の県は4都県(埼玉、東京、滋賀、福岡)です。

国の長期ビジョンでは2030年に出生率を1・8、2040年以降は2・07を想定しています。また2020年には首都圏と地方間で人口の社会増減がゼロになり、その後も継続されるとしています。それが実現できますと2060年で人口1億人が確保でき、21世紀の終わりには人口が9000万人台で安定します。では各都道府県は人口ビジョンでどの程度の見通しを示したのでしょうか。表1の③は都道府県の人口ビジョンで示された2060年の人口見通し、③/①は2010年と比較した人口比率です。人口見通しとは、少子化対策などを進めることで、将来的に維持できると試算した人口です。

人口増加の見通しを示したのは沖縄県だけです。人口増加率は16・3%です。人口減少率が10%未満は7都県、そのうち首都圏が4都県(埼玉、千葉、東京、神奈川)、大都市圏が2県(愛知、滋賀)です。人口減少率が10%~20%の県は10府県、そのうち大阪大都市圏が3府県(京都、大阪、兵庫)、福岡県もここに入ります。

人口見通しで減少率が最も高かったのは秋田県で43・7%の減少率です。40%以上の減少率としたのは秋田県だけです。30%~40%の減少率としたのは6県で、そのうち東北が3県(青森、岩手、山形)、それ以外は島根県、山口県、鹿児島県です。

都道府県人口ビジョンが実現されると東京一極集中が進む

地方創生の大きな目的は、出生率を上げ人口減少に歯止めをかけること、東京一極集中を是正することにあります。そこで、すべての都道府県人口ビジョンが達成された場合、東京一極集中がどのように変わるかを見ます。表1の人口割合は全人口に対する各都道府県の割合を見たものです。2010は2010年の割合、2060は人口ビジョンで示された2060年の人口見通しが達成されたときの人口割合です。2010年で一番は東京都の10・3%です。東京都と埼玉県、千葉県、神奈川県の合計は27・9%です。

2060年で人口割合の一番多いのは東京都の11・4%で、2010年より1・1%増加しています。また、1都3県の合計は30・9%となり、2010年より3%も増えます。もし都道府県人口ビジョンがそのまま実現されると、東京一極集中はいまより進みます。

人口ビジョンの特徴

各都道府県が策定した人口ビジョンの構成、方法は極めてよく似ています。それは人口ビジョンの策定方法、内容について、政府がかなり細かな方向性を示したからです。

将来人口予測では各都道府県がシミュレーションを行っていますが、これは政府が配布したワークシートに数値を入れて作成したものです。ですから計算方法はまったく一緒です。比較検討するグラフもだいたい三つ~五つです。ほぼすべての都道府県が、国立社会保障・人口問題研究所の値、出生率が回復した値、社会増減が均衡した値でグラフを作っています。そして大半の県は一番大きな数値のグラフを採用しています。

方法、構成、形式以外にも共通点があります。一つ目の共通点は、人口がどのように推移してきたか、どの地域にどの程度転居しているか、何歳ぐらいの人が転居しているかなど現状分析はある程度行っているということです。二つ目の共通点は、一つ目よりはやや弱いですが、Uターン希望者の割合、未婚者で結婚を希望している人の割合、希望する子ども数と実際の子ども数のギャップなど、ある程度の意識も把握していることです。ところが三つ目として、いろいろな施策を展開してきたがなぜ若者たちが東京へ転出するのか、なぜ希望する子どもを持つことができないのかなど、現状を引き起こしている原因がまったくといっていいほど分析されていないという共通点を指摘しなければなりません。

国の枠組みを踏襲した総合戦略

人口ビジョンを実現する施策が総合戦略です。そこで47都道府県が作成した総合戦略の特徴を見ます。政府の総合戦略で設定した政策分野は「地方における安定した雇用を創出する」「地方への新しいひとの流れをつくる」「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「時代に合った地域をつくり、安全なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」の四つです。

全体的に、国の4分野を踏襲しているといえます。11県は分野だけでなく、順番も国と同じです(宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、神奈川、高知、佐賀、熊本)。国が地方としたのを、宮城、栃木、熊本に変えただけ、県内に変えただけ(福島、埼玉、神奈川)、本県に変えただけ(茨城)という県もあります。また分野は同じですが、順番を変えているのが10府県です(新潟、長野、京都、島根、岡山、山口、徳島、福岡、大分、宮崎)。

内容的には大きく変わりませんが、国が一つにまとめた政策分野を二つに分割したり、反対に国が二つに分けた政策分野を一つにまとめた県が13県あります(岩手、群馬、富山、山梨、岐阜、静岡、愛知、和歌山、広島、香川、愛媛、長崎、鹿児島)。結局34府県は国と同じ枠組みで総合戦略を作成しています。

具体的な施策は従来施策の延長

都道府県が総合戦略で重視した具体的な施策を見ますと、多くは従来から取り組まれてきた施策の延長です。もちろん、従来の施策を延長、充実させることは重要です。しかし、地方創生は従来の施策では解決できなかった少子化、東京一極集中を反転させることが目的であり、従来施策の延長だけでは地方創生の目標を達成するのは難しいでしょう。

とくにその傾向が顕著に読み取れるのは結婚・出産・子育て支援です。婚活を重視している県が多く見られます。そのこと自身は批判しませんが、それで少子化に歯止めがかかるとは思えません。新しいひとの流れについても同様のことがいえます。これらの政策分野については具体的な施策そのものが少なく、県として何を進めるべきか、よくいえば検討中、悪くいえば何をしたらいいのかわからない状態だと思います。

人口ビジョンを達成するのは至難のわざ

政府の長期ビジョンでは2030年に出生率を1・8、2040年に2・07という見通しになっており、都道府県人口ビジョンもそれに準じた見通しが多くなっています。このような見通しを実現するためには、出生率のV字回復が必要です。出生率の変化を見ますと、2005年の1・26を底に最近はやや改善しています。しかし2013年は1・43でしたが2014年は1・42に0・01下がっています。最近10年間(2004年から2014年)で出生率は0・13上昇しています。年間に直すと0・013の上昇です。

2040年に2・07にするためには2014年から2040年の26年間で0・65の上昇が必要です。年間に直すと0・025です。この10年間の2倍のペースで出生率を上げなければなりません。保育所の待機児童がいつまでたっても解決しない、奨学金に莫大な利子が付く、雇用が不安定なためいつまでたっても結婚できない、このような状況で都道府県は出生率のV字回復を実現しなければなりません。

長期ビジョンでは2020年に首都圏と地方間の転出入をゼロとし、それ以降もその状態を続けるとしています。都道府県人口ビジョンでも同じような目標を掲げたところが多くなっています。1970年以降、首都圏が転出超過になったのは1994年と1995年の2年間だけです。最近の10年間では111万9382人の転入超過です。2015年は12万7623人の転入超過のため、2020年に均衡を図るためには毎年転入者を2万5524人、減らさなければなりません。そして2020年以降は転出入ゼロを40年間維持しなければなりません。TPPによって第一次産業を困難な状態に追いやり、2020年東京オリンピックに向けて首都圏で集中的なインフラ整備を進めています。このような状況で都道府県は首都圏との転出入の均衡を図らなければなりません。

地方創生の本質

アベノミクスの目標は日本が国際競争に勝ち残ることです。そのためにTPP、規制緩和、インフラ投資の首都圏への集中などを進めています。

20世紀、自民党政権の下で5回にわたる国土計画が策定されました。国土計画の目的は過疎・過密の解消、国土の均衡な発展です。計画内容に違いはありますが、このかけ声の下で地方向け予算が維持され、安価な労働力供給基地、自民党の政治基盤維持に活用されました。

ところが20世紀後半から進み出した国際化によって、アジアが日本の安価な労働力基地に変わりました。また財政危機の深刻化により、従来のような地方向け公共事業費の維持が困難になりました。さらに小泉内閣の登場で都市部で自民党が一定の票を確保できるようになりました。そのような背景の下で、小泉内閣は構造改革と称し、国際競争には役立たないとされた地方向け予算を大幅に削減しました。その典型が市町村合併、地方向け公共事業費の削減です。それによって確保した予算を都市部の大型公共事業に振り替えました。そのような施策の典型が国土形成計画でした。それまでの国土計画とは異なり、国土形成計画では、どのような国土を展望するのかという具体的な目標がまったく書かれず、国土の形成は地方に丸投げされました。

このような地方切り捨てを進めた結果、地方経済は疲弊し、それが地方の反乱へと発展しました。自民党政権が崩壊した大きな理由は、地方切り捨てに対する反発でした。

民主党政権を経て再び政権についた自民党は、頓挫した構造改革を動かしました。これがアベノミクスです。しかし、小泉構造改革と同じ失敗をするわけにはいきません。アベノミクスでは地方切り捨てではなく、地方再編を打ち出しています。この内容は大きく二つです。一つは地方再編成の方向です。インフラ投資などは首都圏に集中するため、首都圏一極集中は防ぎようがありません。そのため、地方では今後、大幅な人口減少、地域経済の縮小が見込まれます。小泉構造改革では切り捨てでしたが、アベノミクスでは大幅な人口減少の下で地方が生き残る方向性を示しています。それがコンパクトとネットワークです。個々の自治体が様々な施策を実施するのではなく、市町村が連携して行政サービスを維持しよう。個々の自治体がばらばらと投資するのではなく、地域の拠点都市に投資を集中させようというわけです。

もう一つはその再編を地域自らが自己責任で進める仕組みです。小泉構造改革で進められた市町村合併は上から強行されたものでした。今回は上から強行するのではなく、自治体が自ら再編成を進める仕組みが導入されました。国が示した内容に基づいて自治体が計画を作成する。その計画を政府が評価して交付金をつける。さらに計画の進行管理・評価を自治体自ら行う仕組みです。

この二つを進める施策が地方創生です。つまり国際競争に相応しい国作りと矛盾しない地方再編成を進める施策です。いままでのところ、人口ビジョン、総合戦略、連携中枢都市圏などは政府が示した枠内で自治体が計画を立案しています。また、全体の予算が少ないという不満は地方から出されていますが、地方創生そのものに対する表だった反発は出ていません。何しろ政府に評価されなければ予算が獲得できないからです。そして自らが進行管理・評価する仕組みを大半の自治体がすでに作っています。

地方創生に取り組む視点

地方創生の個々の内容を見ますと重要なものがたくさんあります。そのためそれらの施策を否定する必要はありません。国が示した枠組みにこだわらず、地域にとって本当に必要なことを展開すべきです。そのために地方創生の交付金が使えるなら、積極的に活用したらいいと思います。

その一方で、地方創生の本質を理解し、抜本的な問題解決策も考えるべきです。アベノミクスが進めるTPP、首都圏へのインフラ整備の集中、労働規制の緩和、このような施策と地方の再生は両立しません。自治体がそのような政府の政策に反対し、本当に求められる地方の再生をめざすべきです。そのような大きな取り組みと地域での様々な取り組みが進めば、都道府県人口ビジョンで掲げた出生率の向上、首都圏との転出入の均衡が実現できると思います。

人口 人口予測 人口見通し 2060/2010 人口比率(%) 人口割合(%)
2010(①) 2060(②) 2060(③) ②/① ③/① 2010 2060
全国 128,057 86,740 101,940 67.7 79.6 100.0 100.0
北海道 5,506 3,082 3,908 56.0 71.0 4.3 3.6
青森 1,373 639 859 46.5 62.6 1.1 0.8
岩手 1,330 679 885 51.1 66.5 1.0 0.8
宮城 2,348 1,572 1,844 67.0 78.5 1.8 1.7
秋田 1,086 468 611 43.1 56.3 0.8 0.6
山形 1,169 610 790 52.2 67.6 0.9 0.7
福島 2,029 1,070 1,420 52.7 70.0 1.6 1.3
茨城 2,970 1,900 2,410 64.0 81.1 2.3 2.2
栃木 2,008 1,180 1,520 58.8 75.7 1.6 1.4
群馬 2,008 1,287 1,600 64.1 79.7 1.6 1.5
埼玉 7,195 5,500 6,750 76.4 93.8 5.6 6.3
千葉 6,216 4,335 5,762 69.7 92.7 4.9 5.4
東京 13,159 10,360 12,238 78.7 93.0 10.3 11.4
神奈川 9,048 7,597 8,334 84.0 92.1 7.1 7.8
新潟 2,374 1,340 2,140 56.4 90.1 1.9 2.0
富山 1,093 646 806 59.1 73.7 0.9 0.8
石川 1,170 789 931 67.4 79.6 0.9 9.0
福井 806 494 605 61.3 75.1 0.6 0.6
山梨 863 500 750 57.9 86.9 0.7 0.7
長野 2,152 1,285 1,605 59.7 74.6 1.7 1.5
岐阜 2,081 1,190 1,470 57.2 70.6 1.6 1.4
静岡 3,765 2,387 3,052 63.4 81.1 2.9 2.8
愛知 7,411 6,096 7,008 82.3 94.6 5.8 6.5
三重 1,855 1,195 1,420 64.4 76.5 1.4 1.3
滋賀 1,411 1,127 1,285 79.9 91.1 1.1 1.2
京都 2,636 1,790 2,310 67.9 87.6 2.1 2.2
大阪 8,865 5,950 7,800 67.1 88.0 6.9 7.3
兵庫 5,588 3,657 4,500 65.4 80.5 4.4 4.2
奈良 1,401 839 1,051 59.9 75.0 1.1 1.0
和歌山 1,002 525 703 52.4 70.2 0.8 0.7
鳥取 589 333 434 56.5 73.7 0.5 0.4
島根 717 393 470 54.8 65.6 0.6 0.4
岡山 1,945 1,320 1,550 67.9 79.7 1.5 1.4
広島 2,861 1,942 2,358 67.9 82.4 2.2 2.2
山口 1,451 810 1,010 55.8 69.6 1.1 0.9
徳島 785 419 656 53.4 83.6 0.6 0.6
香川 996 600 760 60.2 76.3 0.8 0.7
愛媛 1,431 814 1,034 56.9 72.3 1.1 1.0
高知 764 390 557 51.0 72.9 0.6 0.5
福岡 5,072 3,590 4,540 70.8 89.5 4.0 4.2
佐賀 850 543 657 63.9 77.3 0.7 0.6
長崎 1,427 778 1,008 54.5 70.6 1.1 0.9
熊本 1,817 1,176 1,444 64.7 79.5 1.4 1.3
大分 1,197 761 961 63.6 80.3 0.9 0.9
宮崎 1,135 712 856 62.7 75.4 0.9 0.8
鹿児島 1,706 1,020 1,157 59.8 67.8 1.3 1.1
沖縄 1,393 1,330 1,620 95.5 116.3 1.1 1.5
合計 87,020 107,439
  • ③は都道府県人口ビジョンで示された値。ただし値の記載がない都道府県はグラフから読み取った概数。
  • 全国は国が定めた長期ビジョンの値、合計は都道府県人口ビジョンの合計。
  • 沖縄県は2060年の代わりに2050年の見通しを示している。そのため沖縄県の2060欄に記入した数値は、2050年の見通しである。
  • 東京都は人口見通しを数値で示していない。そのため、2060年は2010年の93%とした。93%は千葉、埼玉、神奈川県の平均値である。
  • 複数の見通しを示している県は一番大きな値とした。

住民と自治2016年6月号より

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中山 徹(なかやま とおる)
奈良女子大学大学院教授

1959年大阪生まれ、京都大学大学院博士課程修了、工学博士。大阪自治体問題研究所理事長。専門は都市計画学、自治体政策学。

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