【新春対談】政府のウソを見抜く力(堤 未果✕芝田 英昭)

住民と自治2017年2月号より

2017年2月15日

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芝田英昭(しばた ひであき)
立教大学教授

堤 未果(つつみ みか)
国際ジャーナリスト


わたしたちが、数え切れないほどのまやかしや偽情報から真実をより分け始めたとき、政府はもう、ウソをつけなくなります。

主語は「わたしたち」

芝田:激動と混沌の世界にあって、国民はいま何をしなくてはいけないのか、そのためには、何を見ていかなくてはいけないのか、対談で明らかにしていきたいと思います。

早速ですが、『政府はもう嘘をつけない』(角川新書、2016年)という堤さんの本は、政府にもう嘘をつかせない、という思惑があってのタイトルだと思いますがショッキングでした。

堤:わたしの本は毎回タイトルにわたしの思いが込められています。たとえばこの本の前作の『政府は必ず嘘をつく』(角川新書、2012年)というタイトルは、敬愛するハワード・ジン教授の言葉です。政府は必ず嘘をつくもの、だから鵜呑みにせず、歴史をひも解き、自分の頭でものを考え、世界を見なさい、と。わたしはまだ学生でしたが、この言葉がとても役に立っています。これを日本の若い人たちにもぜひ伝えたいと思いました。

ここで間違えてはいけないのは、権力側が「必ず嘘をつく」という前提は、無力感を感じるためではなく、自らを思考停止させないためだということです。そして現実は、資金力のある人が、情報を全部つかんでいて、彼らだけが儲かり、その他大勢が苦しむ仕組みが着々とできている。彼らが利益をためこんだタックスヘイブン(租税回避地)すら規制できない、もうなす術がないじゃないか! と思うでしょう。これは主語が「政府」だから無力感を感じるのです。主語を「わたしたち」にしてみてください。わたしたち一人ひとりが、上からの情報を鵜呑みにせず、自らの頭で考え意志を持ったとき、簡単に騙されなくなる。つまり市民が政府の嘘を見抜く眼を持ったとき、政府はもう嘘をつけなくなる。「主権者はわたしたち」ですよという、エールなのです。

国際ジャーナリスト 堤 未果
国際ジャーナリスト 堤 未果

お金で買われる大学

芝田:本のなかで、お金の動きを見るとだれがこの世の中を支配しているのかがよくわかるといっていますね。

驚いたのは、2008年のアメリカの大統領選挙戦における寄付を見ると、寄付金額の第1位にカリフォルニア大学が入っています。ほか20位までにハーバード、スタンフォード、コロンビア大学が入っています。

堤:かつて大学は象牙の塔とよばれる聖域でした。そこで研究されたものは公益であり、社会をより善くするための公の資産と考えられていた。でもいつの間にかそれが変質していたことが明らかになったのがリーマン・ショックの時でした。あの時、アイスランドの銀行などをはじめ、リスクがどんどん拡大する銀行の格付けがトリプルAだったのを覚えていますか? コロンビアやハーバードなどの有名大学の教授が「これは有益な商品だからドンドン買いましょう」と太鼓判をおして、皆がそれを信じて購入し、マネーゲームが加速していった。権威ある大学の先生がいったら、皆さん信じますよね。それでたくさんの人々が破綻しすべてを失いましたが、もちろん大学の先生は責任を取りません。

実は過去数十年の間に、米国政府は教育予算を削って、株式会社のように大学に営業をさせ始めました。そのときから大学、正確にいうと大学の権威がお金で買われるようになったのです。国が予算を出さない分、企業が大学に研究費や寄付を出すようになりました。だからいまではその大学のスポンサーや、教授の研究費がどこから出ているのかを見れば、その利害関係がわかるようになりました。「大学の権威」さえお金で買えるようになった。あらゆるものに値札がついてしまうということが、いまの世界のトレンドの一つです。日本もこのモデルを導入していますよね?

芝田:日本の場合も2004年に国立大学が法人化されて以降、大学が市場化されてしまいました。国からの補助金も減らされています。結局、大学は、産学協同という形をとり、企業からお金をもらい活路を見いだそうとしています。とくに防衛省は2015年度から、安全保障技術研究推進制度に基づく競争的資金の公募を開始しました。こうした制度を使って、経常的な研究費の確保が困難になっている大学や研究機関の苦しさに付け入る姿勢が、強まっていることに危機感をもっています。

堤:教育を市場化し、大学を株式会社化してしまうと、全上場企業に義務付けているような四半期決算の数字やデータが大学の価値を決めるようになってゆきます。100年くらいのスパンで予算を組まなければいけないものが利益と効率を優先し、四半期で結果がでなければ無駄として切り捨てられる。長期の研究や人材育成の視点がスカスカになります。アメリカの現場を見ていればよくわかりますが、教育や医療、自治体の公共サービスといった市場化にそぐわないところに市場原理が導入されると、後々苦しむのは国民なのです。

立教大学教授 芝田英昭
立教大学教授 芝田英昭

税を逃れるグローバル企業を見よ

芝田:パナマ文書の問題で、租税を逃れるためにタックスヘイブンに会社を設立してそこで資産運用をしている人が日本にも多くいることが明らかになりました。

堤:はい、世界中にいます。今回の新刊の冒頭に書きましたが、タックスヘイブンは、いってみれば、国家が課す納税の義務から逃れられる有力なツールです。タックスヘイブン自体が商品になっていて、富裕層は、一番安くて一番条件のいい商品として選べるわけです。だから、パナマを規制しても、じゃあもっと安い所に行けばいい。たとえば今回、アメリカは率先して、グローバル企業の租税回避対策の強化を世界に呼びかけ、OECD諸国も賛同しましたが、実際にはアメリカ国内にデラウェア州やアラスカ、コロラド、モンタナ、ネバダ、ノースダコタ州などの有力タックスヘイブンがある。タックスヘイブンのような国境がない商品を国家が規制するのはとても難しいのです。

イギリスの議会を傍聴したとき、AmazonのCEOが「違法なことは何もしていない。ちゃんと何億ポンドも税金を払ったじゃないですか」とこたえたのに対し、ベテランの女性議員が「違法だとはいっていません。インモラルだといっているのです」といっていた。違法ではないが人としておかしい、倫理が歪んでいるのです。

わたしたちは何にでも値段をつける社会に洗脳されているので、いつのまにか、納税をコストだと考えるようになっている。でもそもそも納税はコストじゃなくて義務で、公共インフラを支えていくために必要な財源です。だから納税義務を課して累進課税をやったわけですよね。そのおかげで人類の歴史は中間層が生まれ、それが自治体の公共サービスを支えてきたわけです。

芝田:2014年までの5年間、トヨタ自動車は法人税をまったく納めていませんでした。やはり払うべき企業が税金を払わないと、結果的には低所得者層にしわ寄せがいってしまいます。象徴的なのが消費税です。法人税と違って、消費税は物を買うと必ず払わなければなりません。国税庁の統計によると、法人の7割が法人税を払っていません。2015年度決算の国の税収で消費税収が1位になって、17兆4262億円になっています。企業が国に納税して国民に還元するという常識ある社会のルールが機能していません。

堤:トヨタの幹部が先日「若い人がもう車を買ってくれないのは、車のゲームが出回ったせいだ」などととんちんかんなことをいっていましたが、自社は税金を払わない上に非正規社員の増加率が全国2位という経営手法ですから、なぜ若者が車を買えなくなったのかはいわずもがなですね。タックスヘイブンとはこのように、社会の一員としての「モラル」が問われる問題なのです。

トランプ氏に付いたアメリカ国民
お金の流れを見よ

芝田:オバマ大統領は、“Change”といったけれども何も変えられませんでした。それを見ると、TPPをやめるといったドナルド・トランプ氏が大統領になったら、推進する可能性がありませんか。

堤:アメリカの政治はお金で買われているので、お金の流れを見ることが重要です。オバマ氏が選挙後に公約を翻してグローバル企業と銀行のための政策を次々に実行したのは、そうした業界から史上最大額の選挙献金を受け取っていたからでした。なぜ選挙中あれだけ企業マスコミにたたかれたトランプ氏を米国民が選んだのか? 最大の理由はトランプ氏がいままでの人々と違い、大企業や銀行のひも付きでない候補者だったからです。しがらみのない人物しかいまの金権政治を壊すことはできませんから。だからトランプ氏は就任直後に公約を翻すことはしないでしょう。ただしこれは日本にとっては「凶」と出るでしょう。トランプ氏は「アメリカファースト」主義ですから、TPPよりさらに自分たちに有利な条件を日本にのませることができる米韓FTAに切り替えて交渉を続ける可能性が高いからです。

日本の5大紙、テレビを見ても、お金の流れで分析しているものがないからトランプ氏が支持される理由がわからないのです。共和党対民主党とか、共和党のだれそれがどうしたとかしか見ていません。

芝田:なるほど。

堤:それにアメリカ人は割と皆さん愛国者なので、アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための政治で、もう一度アメリカを№1にしたいのですね。アメリカ発の大企業、グローバル企業じゃなくて、アメリカを№1にしたい人がトランプ氏を支持しています。

アメリカの国民がなぜバーニー・サンダース氏とドナルド・トランプ氏をあれだけ支持したかというと、政治が商品・投資商品になっていることが自分たちの国や暮らしを破壊していることに気付いたからなのです。

芝田:ドナルド・トランプ氏は自前で選挙戦をやりましたので企業のひも付きでない、いままでの大統領とは違うことをやるだろうという期待が国民にあるわけですね。

しかし、アメリカにはたくさんのグローバル企業がありますので、自分の利益ばかりに腐心する人たちが盛り返してくる可能性がありますね。

堤:もちろんです。ひも付きでないトランプ氏を押し上げたのは金権政治を壊したい国民の側であって、お金で政治が買われる仕組み自体はまだガッツリと残っているからです。これからまず閣僚人事でなかに入り込もうとし、それから上下院を占めた共和党議員たちにお金が降り注ぐでしょう。トランプ氏は試されることになります。

TiSA(新サービス貿易協定)は
もっと危険

芝田:ドナルド・トランプ氏がTPPをやめますといったのでTPPばかりに気を取られていますが、もう一つ、TiSAの問題が大きいと思うんですよ。TiSAに関してはなかなか報道もされないし、そういう議論が進んでいることすら知らない人が多いです。外務省のホームページで最新の情報を見ますと、2016年6月1日、パリで50カ国の閣僚が集まって非公式会合を持っています。TiSAは、公共サービス部門におけるTPPのようなもので、医療や福祉、あるいは教育分野に、グローバル企業が入り込んでくる協定です。とくにISD条項を使われる可能性が将来的にあることが、どこにも出てこないという危機感を持っています。

堤:TiSAはスケールが大きいですし、50カ国ですからね。TiSAに関してはチェックメイトといわれていて、TPP、TTIP、TiSAの3兄弟の最後の1人です。とにかくすべてが秘密交渉。秘密でやっていること自体がおかしいのですけれど。TiSAの対象には、自治体の公共サービスが全部入っています。教育、医療、福祉全部です。だからある意味、世界の1%の超高所得層が目指すドリームワールド、これがTiSAです。

ただ、デジタル時代なので、最近、TiSAの問題自体の情報が相当漏えいしています。世界の1%の超高所得者層の人たちは、お互い大きいところばかり見ているので、下のほうでじわじわ情報が漏れていることを防げないからです。ヨーロッパではTTIPとセットで危ないといわれています。50カ国も入っているので、そんなに簡単には決まりません。日本国内でそのお試しをちょっとずつしていることに、国民は早く気が付かなければなりません。

いきなりお湯のなかに入ったら熱いけれど、水がだんだん沸いてくるとカエルも逃げないでそのまま死んでしまうじゃないですか。あれをいま政府はやっているのです。TiSAに到達する前に止めなければなりません。

法律は「点」をつなぎ「線」で見よ

芝田:いまの安倍政権は、グローバル企業がサービス部門を支配する流れを下支えしています。医療分野では、いままでは人権として、国民皆保険制度の下で、公的にケアしていくことが当たり前でしたが、これからの医療は、商品化し、買う対象にしていこうという姿勢がより鮮明になってきました。

堤:とくに2016年年末に方針が決まる、高額療養費制度の見直しが心配ですね。これに手を突っ込まれたら国民皆保険は終わりだ、と、医師たちもいっています。それから透析の自己負担はいまは月額1万円(高所得者は2万円)ですが、これをあげていこうという議論が始まっています。ほかにも介護とベビーシッターなどの仕事に、国家戦略特区内で外国人技能修習生を就労させ始めることなど、政府内でさまざまな規制緩和が進んでいます。

芝田:国民の医療費支出増大と安全性などが担保されない懸念が高いことから、日本では「混合診療」が原則禁止されてきました。しかし、「規制改革会議」の強い要望で「保険外併用療養制度」として、開始されてしまいました。

堤:2016年4月1日から「混合診療」を拡大する「患者申出療養制度」を知っている人はどれほどいるのでしょう?「患者申出療養制度」というと患者のための制度のように聞こえますが逆なのです。法律は、名前がうつくしくても、蓋を開けるとその中身は正反対であるケースが多いので、注意が必要です。法律は、一度変えてしまうと社会の仕組みが変えられてしまう。一度変えた法律を元に戻したり変えたりするのは、至難の業です。

芝田:重要法案ほど、芸能人のスキャンダルや猟奇的事件、大災害など大きいニュースに国民の目が向いているとき、こっそりと通過しています。

堤:その通りです。たとえば、日本中の関心が熊本地震報道に向いているなか、「刑事司法改革関連法」が2016年5月24日成立しました。「取り調べ可視化」と5大紙やテレビは報道しましたが、録音録画で可視化される事件は全体の3%でどこをだすか選ぶのは検察側です。では、何をメディアは伝えなかったかというと、「通信傍受の対象拡大」です。いままで警察は、犯罪捜査の一つとして国民の通信を傍受するためには、裁判所の許可を取ってから通信関連業者を立ち会わせなければいけませんでした。しかしこれからは、第三者の立会いが不要になり、警察が通信関連業者に電話を一本かけるだけで、国民の電話を聞く、メールやブログ、SNSなどにわたしたちの知らないところでログインし、その内容を傍受(盗聴)できるようになりました。これを外からチェックする第三者機関は、いまのところ存在しません。

法律は「点」をつなげて「線」で見なければなりません。

すべてのテレビ・5大紙で同じ内容をやっているときは一番大事なものが隠れている

堤:映画「シン・ゴジラ」はご覧になりましたか。

芝田:まだ、みていません。

堤:とても良くできた映画で大変面白かったのですが、いくつか気になった箇所があったんです。

実は「シン・ゴジラ」には、野党が全然出てこないのです。緊急時に与党が一生懸命国家のために頑張るのですが、第一野党はおろか、米軍が出てくるといつも何かを主張する共産党すら出てきません。一党だけしか存在しないことが、いつの間にか刷り込まれてしまうのです。2016年夏の参院選のとき、マスコミはなぜ都知事選ばかり報道していたのか。都知事に小池さんが当選した後も、自民党内部の争いばかり連日テレビでやっていますよね。すると、自民党のことしか情報が入ってこなくなります。国政も自民党、都政も自民党、いつの間にか自民党一党というイメージになってゆきます。

芝田:そうですね。

意図的にクローズアップされる情報の裏に、本来、わたしたちが知らなければいけない隠された情報があるような気がします。

堤:たとえば、築地市場の移転問題は、あたかも都議会のドンと小池都知事の攻防のように伝えられました。女の人が一人で頑張っている、選挙のときもおじさんたちにいじめられてかわいそう、というふうに小池さんに同情が集まると、小池さんがどんな政策を掲げ、何をやろうとしているかを見逃してしまいます。

映画「シン・ゴジラ」と一緒で、人は感情が動かされたときにいとも簡単に大事なものを見逃します。そういう意味では、小池都知事にとって、いまがすごくチャンスで、おそらく東京から国家戦略特区がどんどん進み、公が民に浸食されてゆきます。『住民と自治』で大特集をしてほしいくらいの話です。

芝田:なるほど。

堤:TPPが頓挫しても東京から国家戦略特区をやられると、東京vs.地方の価格競争になり、寡占化が起こって地方が敗北します。いま小池さんが都議会でやろうとしていることが、地方自治体のいっそうの衰退につながることをよく見てほしいです。

芝田:わたしも気が付きました。築地から豊洲への市場移転の問題がクローズアップされているときに、国家戦略特区を活用し、都市公園の敷地内に保育所等施設の設置が可能となり、保育が内閣府の進める企業主導型保育に変えられていました。

堤:そうです。公立ではないのです。

芝田:新聞には、企業主導型保育で待機児童問題を解消します、と小さく書かれていました。そういう意味ではマスコミの責任は非常に大きいと思います。

堤:これもまたお金の流れに戻りますけれども、すべてのテレビチャンネル、5大紙で同じものをワーッとやっているときは一番大事なものが隠れています。これはスピンコントロールといって、昔からあるテクニックなので、知っている人は知っています。これを一度知ると、「ああ、またか」と思うようになります。

デジタル断食の勧め

芝田:2016年の参議院選挙から18歳選挙権が施行されて、若い人たちが意見をいう機会も増えてきました。

堤:選挙権行使のハードルが下がったことはプラスだと思いますが、参議院選挙の蓋を開けてみたら自民党に投票した若い人が非常に多かったですね。ネット戦略は自民党がピカイチです。

芝田:若い人たちはある意味、自民党のネット戦略に乗せられたともいえます。堤さんは本のなかで、アルゴリズムの問題を書いていましたが、自分が検索した結果がスーパーコンピューターの学習機能のなかで積み上げられていることを自分で感じ取ることができない仕組みになっています。だから自分の好きな情報だけにアクセスさせられて、自分が関心のない情報は何も入ってこない。デジタルを利用すればするほど、自ら情報鎖国化を生み出してしまうのです。

堤:今回の『政府はもう嘘をつけない』という本には、情報リテラシーを付けるテクニックをたくさん盛りこみました。検索エンジンの問題はほとんどの人が気付いていません。洗練された情報戦略に踊らされないためには、情報の背後にだれがいるか、その存在をしっかり意識することです。

たとえば、GoogleやYahoo!は、企業が無料で提供している検索エンジンで、全部マーケティングです。わたしたちは、無料で検索エンジンを利用する代わりにこちらも無料で何かを提供しているのです。子どもや若い人たちには、検索エンジンもSNSも「ただで使用できる代わりに、ユーザーの個人情報を大量に集計して企業に売っている」ということを伝え続けることが大事です。SNSなどでたくさんの人とつながっていたつもりが、いつの間にか、同じ嗜好を持つ狭い仲間内の会話だけになっていませんか。ときには、自分と正反対の考えを持つ人の意見に耳を傾け、意識して視野を広げることが情報操作の罠から自分を守ることになるのです。

だから、わたしは時々デジタル断食をしています。

芝田:たまにはやったほうがいいですね。

堤:考えないという時間と、1個のことだけを一人で深く考える時間、それに情報をシャットアウトする時間の3つを生活に取り入れると、本能が戻ってきます。本能というのは実は違和感です。ニュースを見ていて何かが引っかかる、わからないけど何かがもやもやするという感覚です。情報を断食すると、何かおかしいというアンテナがさえてきます。このアンテナがさえなくなって脳がフリーズするのは、情報の入れすぎのときですね。

足元にある道具、手のなかの宝物

芝田:政府の嘘にだまされず、それに抵抗するために何ができますか。

堤: 国民が本当に知りたいことは、新聞の見出しには出ないと思ったほうがよいですね。

そして何よりも、戦う敵を間違えないことが重要です。これからは地方自治体がカギになると思います。

芝田:地方自治体レベルでも、たとえば介護保険は保険者が自治体になっていますから、地方自治体レベルでいろいろな運動を展開できると思うんです。

ところが公務員や自治体議員バッシングに向かい、いつのまにか本来の目的を見失ったり内紛が起きたりなかなかうまくいきません。自治体職員だって住民のために公共サービスを担うプロパーですから、市民と自治体職員が対峙してはいけないと思います。敵を間違えてしまっている可能性があって、一緒に考えなければならない人と手を組みながら、自分たちが住みよい社会、地域をどう作っていくのかを考えなければいけません。

堤:まさにいまの話は象徴的です。

ヨーロッパがTiSAを一度決裂させたポイントは敵を間違えるなということでした。

自分の住んでいる小さいレベルの地域で、住民とその地域の自治体職員や自治体議員、それからローカル紙の記者やローカル局のレポーター、地域医療を支える診療所の医師や保健師、公立学校の先生、ここが団結して一緒になると、トップダウンで簡単にはつぶせなくなります。敵を間違えない運動というのはすごく大事です。

芝田: 大きな本丸を一気に変えることはなかなかできないけれど、地域レベルで変えていくことは意外とできますよね。

堤:おっしゃるとおりです。本丸ばかりを見ているから自治体議員は野放しになる。これはもったいないです。自治体議員を味方にして、小さいグループをそこここに作ったら、国会議員を動かすことができます。

あんまりひどい議員しかいなかったら、自分たちから自治体議員を出せばいい。国会議員よりもハードルが低いですから。ツールはいっぱい転がっているのに、上ばっかり見ていると足元にある道具に気づかなくなります。

さらに大事なことは、WHOや世界の国々から高く評価されている日本の国民皆保険制度や成功した共助モデルとして絶賛された農業協同組合、それに各地の自治体のような、守るべきものを見失わないことですね。いまは分断を狙って「既得権益」バッシングの嵐でしょう?

でもこの分断の罠に引っかかっては駄目です。わたしたちがしっかり見なければいけないのは、その制度が日本国民を弱肉強食のグローバル資本から守り、恩恵をもたらしていること、社会のなかで「公」の価値を訴えてゆくことのほうなのです。それこそがいま、しがらみのないトランプを選んだアメリカやEUから離れたイギリス、NATOを疑問視し始めた欧州の国々や国連から抜けたいアフリカ諸国など、世界の潮流なのですから。

グローバル資本が喉から手が出るほど欲しがっている宝物の価値に値札がつけられそうになっているいまこそチャンス、自分の手のなかにある宝物の価値にしっかりと意識を向けてください。

人間は手の中にある宝の価値に気付いたら、強くなれるんです。それこそがわたしたち市民にとっての、最強の武器になりますよ。

芝田:騙されない力とあきらめない力を手に入れることが自分の未来を他人に預けないということですね。ありがとうございます。

  • 2016年9月21日東京都内オフィスで対談
  • 2016年12月27日脱稿
  • 編集構成:『住民と自治』編集部

住民と自治2017年2月号より

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立教大学教授 芝田英昭
芝田英昭(しばた ひであき)
立教大学教授

福井県生まれ。金沢大学博士後期課程単位取得退学。2009年から現職。専門は、社会保障、医療における無保険問題、福祉国家、ニュージーランドの社会保障。著書に『3.11を刻む』(文理閣、2013年)、編著『安倍政権の医療・介護戦略を問う』(あけび書房、2014年)、「社会保障改革の現段階と介護保障の今後」『介護保険白書』(本の泉社、2015年)、編著『増補改訂 基礎から学ぶ社会保障』(自治体研究社、2016年)。

国際ジャーナリスト 堤 未果
堤 未果(つつみ みか)
国際ジャーナリスト

東京都生まれ。ニューヨーク市立大学大学院で修士号取得。2006年『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で黒田清日本ジャーナリスト会議新人賞を受賞。2008年『ルポ 貧困大国アメリカ』(3部作、岩波新書)で日本エッセイストクラブ賞、新書大賞受賞、『政府は必ず嘘をつく』で早稲田大学理事長賞受賞。近著に『沈みゆく大国アメリカ』(2部作、集英社新書)、『政府はもう嘘をつけない』(角川新書)など。

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