【論文】社会保障制度基盤を揺るがす「改革」―「地域共生社会」で強調される自助・共助―

  • 芝田 英昭(しばた ひであき)
    立教大学教授

2017年6月15日

月刊『住民と自治』 2017年7月号 より

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政府は、2020年代初頭に、社会保障における公的責任を捨象し自助・自立を強制する「地域共生社会」の実現を目指しています。本稿では、その本質と、社会保障運動の展望に迫ります。

はじめに
「地域共生社会」は何を目指すのか

厚生労働省は、2016年11月25日社会保障審議会介護保険部会に「とりまとめ」として介護保険改革の概要を示し、政府は2017年2月7日「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案(以下「介護保険法等改正法案」)」を閣議決定し同日衆議院に提出され、4月18日衆議員本会議可決、5月26日参議院本会議において可決・成立しました。

同法律案は、厚生労働省に設置された「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」(以下、実現本部)の第一回会合に、厚生労働省が示した「地域包括ケアの深化・地域共生社会の実現」(厚生労働省、2016)に依拠しています。また、実現本部が2017年2月7日の同法案閣議決定前に、「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」(以下、改革工程)をとりまとめましたが、この改革工程に従って介護保険法などの2017年改正案を提出しましたし、同工程は2018年以降の改革スケジュールも具体的に示しています。

しかし、改革工程が目指すのは、介護保険法の改正だけにとどまりません。今回の介護保険法等改正法案は、介護保険法、健康保険法、児童福祉法、医療法、社会福祉法、老人福祉法、地域保健法、生活保護法、地域再生法、子ども・子育て支援法などを含む31法の改正案で、多岐にわたります。いわば、地域は、高齢者だけではなく、各世代がさまざまな生活課題を抱える「場」であることから、多様な課題解決として多くの法改正を内包するのは、ある意味当然なのかもしれません。

実現本部は、「地域共生社会」の名の下に、地域に生起するあらゆる課題・問題を地域住民が自助・共助を基本に解決していくとしていますが、この方向性は、生存権を公的責任の下具現化した社会保障制度の基盤を揺るがす重大な誤謬を犯しかねません。本稿では、実現本部の「地域共生社会」がはらむ問題に焦点を当て、地域社会での住民共同の運動・実践との違いを考えましょう。

さて、介護保険法等改正法案は、(1)地域包括ケアシステムの深化・推進では、①地域包括支援センターの機能強化として、医療・介護・福祉領域での相談窓口の一元化、②高齢者と障害者が同一の事業所でサービスが受けられる「共生型サービス」の創設、③療養病床の経過措置期間の6年間延長と、日常的な医学管理や看取りなどの機能を持つ「介護医療院」の新設、(2)介護保険制度の持続可能性の確保では、①介護保険利用者のうち所得の高い層の負担割合を3割にする、②各医療保険者からの介護納付金に総報酬割制を導入、などが示されましたが、本稿では、地域共生社会に関わる部分を中心に論じることにします。

「地域共生社会」と社会保障概念の矮小化

筆者は、実現本部の「社会保障」概念理解が意図的かそうでないかは別にして、極めて偏向していることに驚きを禁じ得ません。まず、改革工程本文全9ページのうちで「社会保障」の単語は、3度しか使用されていませんし、ほとんどが社会保障を「公的な支援制度」、「公的支援」、「保健福祉」、「福祉分野、保健・医療」、「保健、医療、福祉」と言い換えていることです。

たとえば、実現本部は「社会保障」が必要となった背景を、「戦後、高度成長期を経て今日に至るまで、工業化に伴う人々の都市部への移動、個人主義化や核家族化、共働き世帯の増加などの社会の変化の過程において、地域や家庭が果たしてきた役割の一部を代替する必要性が高まってきた。これに応える形で、疾病や障害・介護、出産・子育てなど、人生において支援が必要となる典型的な要因を想定し、高齢者、障害者、子どもなどの対象者ごとに、公的な支援制度が整備(傍線筆者)」(厚生労働省、2017、1㌻)されたとしています。また、この文章は、改革工程の最初に記述されており、実現本部が社会保障をどう理解したのかを示していると解するべきです。

社会保障は、地域や家庭が果たしてきた役割の代替なのでしょうか。我々が生きている現代社会(資本主義社会)は、生産手段を所有している人以外は、賃金労働者であり自らが持てる労働力を売ることで初めて生活(労働力の再生産)ができます。ただ、賃金は、労働力の価値に対しての対価ですから、個々が抱える生活問題(生活過程に起こる社会問題。具体的には、失業、保育、介護、疾病、障害などから生起する生活困難など)すべてを個人で解決できるだけの金額は支払われていません。したがって、労働者が生活問題を抱えれば、いとも容易く人が人らしく生きるレベル(健康で文化的な生活)を下回ってしまい、生存権を侵害することになります。つまり、社会保障は生活問題を緩和・解決するための制度・政策であり、そのことを通して生存権を保障する機能を有しているのです。

改革工程には、この観点がまったく欠落しています、というよりは意図的に歪曲したと捉えるべきでしょう。つまり、社会保障(改革工程では公的な支援制度等としている)を、家庭や地域の役割の代替制度だとすることで、地域課題解決の責任の所在を地域住民や個人にすり替えることが可能となるからです。

自助・共助を強調する地域共生社会の先にある憲法改正

実現本部がいう「地域共生社会」とはいかなるものでしょうか。当面の改革工程では「地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」(厚生労働省、2017、2㌻)としています。確かに理念的には同意できる部分もありますが、その実態は国や自治体の責任を曖昧にし、地域住民に地域生活課題解決の責任を丸ごと丸投げする方向性とも受け取れます。

介護保険法等改正法案の中の社会福祉法改正案では、4条(地域福祉の推進)に新たに2項が加えられました。同項は、「地域住民等は、地域福祉の推進に当たっては、福祉サービスを必要とする地域住民及びその世帯が抱える福祉、介護、介護予防、保健医療、住まい、就労及び教育に関する課題、福祉サービスを必要とする地域住民の地域社会からの孤立その他の福祉サービスを必要とする地域住民が日常生活を営み、あらゆる分野の活動に参加する機会が確保される上での各般の課題(地域生活課題)を把握し、地域生活課題の解決に資する支援を行う関係機関との連携等によりその解決を図るよう特に留意するものとする(傍線筆者)」としています。確かに、地域住民が抱える課題は、多岐にわたり「福祉領域」に限定するのは困難でしょう。

しかし、福祉にとどまらず、住まい、就労、教育、孤立や参加までを包摂した課題を、地域住民自らが解決を図れとしていますが、国は2017年度予算において、社会保障自然増分6400億円(概算要求)を4997億円に圧縮している事実に鑑みれば、社会保障予算削減とセットでの地域共生社会の提案であることは極めて矛盾しています。

実現本部が示した地域共生社会実現イメージ図によると、「我が事・丸ごとの地域づくり」では、「市町村による包括的な相談支援体制の整備」としていますが、後述するように、介護保険法改正案では、この体制の根幹はあくまでも民間の地区社協などに委託するとなっていることから、国や自治体の責任が不明確であることは否めません。

「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部「地域包括ケアの深化地域共生社会の実現」
出典:厚生労働省(2016)「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部「地域包括ケアの深化地域共生社会の実現」

地域生活課題に関しては、地域住民が自ら共同の運動の一環として取り組むのは重要ですが、国家が上意下達的に自治体の責任を曖昧にして地域住民に丸投げすれば、地域間格差が拡大し、ますます地域が疲弊するのではないでしょうか。また、地域共生社会の実現は、地域住民に共助を強制するだけでなく、その先にある憲法改正への布石と見るべきではないでしょうか。

ちなみに、2012年4月27日に決定された自由民主党の「日本国憲法改正草案」前文は、「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」(傍線筆者)とし、自助・互助を謳っており、この点こそが、地域共生社会とも共通する「精神」です。

総合的相談窓口の設置

「地域の住民が抱える課題について、分野を超え『丸ごと』の相談を受け止める場」(厚生労働省、2017、5㌻)を設置するとし、住民が抱える課題は、「福祉分野だけでなく、保健・医療、権利擁護、雇用・就労、産業、教育、住まいなど(傍線筆者)」であるとしています。この住民の抱える課題の相談窓口一元化を、まず2017年度に全国100カ所でモデル事業として実施し、法改正を通じて2018年度より全国で実施するとしています。相談窓口の一元化それ自体は、住民の利便性や抱える課題の複合化を考えれば必要でしょう。

しかし、この相談を担う体制は、「例えば、地区社協、市町村社協の地区担当、地域包括支援センター、相談支援事業所、地域子育て支援拠点、利用者支援事業、社会福祉法人、NPO法人等」(政府、2017、4㌻)としていることから、自治体が公的責任に則り独自に総合的相談窓口を設置するのではなく、社協などに委託するとみられ、これまで自治体が直接行ってきた福祉関係の相談やさまざまな行政サービスも外部化・縮小されることが懸念されます。いわば、公助の縮小を共助(住民同士の助け合い)にすり替えるといっても過言ではありません。

共生型サービスの創設は、介護保険法と障害者総合支援法の一元化の第一歩となる

介護保険法等改正法案は、「高齢者と障害者が同一事業所でサービスを受けやすくするため、介護保険と障害福祉制度に新たに共生型サービスを位置付ける」(政府、2017、1㌻)とし、児童福祉法上の指定事業者(居宅サービス等の種類に該当する障害児通所支援に係るものに限定)、または障害者総合支援法上の指定事業者(居宅サービス等の種類に該当する障害福祉サービスに係るものに限定)から、介護保険法の訪問介護・通所介護などの居宅サービス事業に申請があった場合、当該事業に照らして、都道府県または市町村が「共生型サービス事業者」に指定するとしています。

確かに、介護保険には65歳問題が存在し、障害者は64歳までは障害者総合支援法上のサービスを利用していますが、65歳を境に多くが介護保険優先の名の下に、介護保険指定事業者へのサービスに移行することを求められています。その意味では、共生型サービスであれば、同じ事業所からのサービスを継続できる優位点は存在します。

しかし、障害者にとって64歳までのサービス量に比べ、65歳からのサービス量は介護保険適用で激減し、自己負担も増えているのが実情です。この点の改善がないまま、同一事業所でサービスが受けられるメリットを強調しても、当事者の納得は得られません。また、共生型サービス導入の狙いは、介護保険法と障害者総合支援法の統合であり、その第一歩であると見るべきです。共生型サービスの導入で、サービス供給面において両法の統合を図り、その利便性を強調して、一気に統合への道筋をつけると見るべきです。

両法が統合されれば、国民すべてが被保険者となり、障害者も含めてすべて国民が保険料の支払いを求められるでしょう。また、統合された介護保険から障害者がサービスを利用する場合も、介護保険法上の自己負担が求められることになります。

とにかく、障害当事者抜きでこのような流れが作り出されるのは、民主党政権時の歴史的基本合意や障害者の権利に関する条約の前文「(O)障害者が、政策及び計画(障害者に直接関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定の過程に積極的に関与する機会を有すべきである」に反するといわざるを得ません。

地域共生社会と国民監視国家の親和性

2013年5月24日に、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」が成立しました。同法は、社会保障領域などへの利用拡大を目指して2015年9月に、2013年法が施行される前に改正され、2015年10月5日に施行されました。同年10月より、マイナンバーの通知がなされました。2016年の年明けから自治体においてマイナンバー・カード(任意)の交付が始まりましたが、交付の際「顔認証システム」での本人確認が行われました。この顔認証データは、マイナンバー交付以外には使用しないとしていますが、破棄されない限り住民の膨大な顔認証データが、自治体に蓄積されることになります。

また、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が2016年5月24日に可決・成立し、取り調べの可視化(部分的な録音・録画)、司法取引(合意制度など)の導入、通信傍受(盗聴)の拡大、などが盛り込まれました。捜査当局による盗聴は、国民的批判の下、対象犯罪を薬物、銃器、組織的殺人など、暴力団関係の組織犯罪4類型に限定し、通信事業者の常時立会いを義務付けすることで1999年に成立しました。しかし、2016年改正法は、盗聴対象を組織犯罪4類型から、窃盗、詐欺、恐喝、逮捕監禁、傷害などの一般犯罪を含む広範囲に拡大し、実質的に一般市民を盗聴対象としました。また、通信事業者の立ち会い義務を外したことで、国家が常時国民を監視できることになりました。

さらに、2017年3月21日には、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正法が閣議決定され、現在国会において審議されています。

この一連の流れから、国民が国家から常時監視されていることで、民主的な政治的発言や行動・活動をしにくくする狙いが透けて見えてきます。ただ、国家が監視しているだけでは、国民を完全には統制できないことから、一段進んだ形態として、「住民相互の監視システムと密告」装置を構築しようとしています。それが、まさしく「現代版隣組制度」としての「地域共生社会」ではないでしょうか。地域生活課題に我が事・丸ごと関わる住民が「国民」であり、関われない・関わらない人は「非国民」とのそしりを免れないことになるでしょう。

おわりに
共同の力と繰り出し梯子理論

シドニー・ウェッブが1911年に著した『防貧策』は、社会福祉領域における公私関係論を論じた歴史的著作といわれています。同書において、ウェッブは、「この理論(「繰り出し梯子」理論:extension ladder)のもと、新たな支援方法を常に追求し、困難な事例に対しても愛情に溢れたケアを心がけ、宗教的背景をもつ民間部門が、公的機関だけによって実施される比較的低水準のサービスを上回るサービスを実践・実施することで、結果的に公的サービスにおける健康で文化的な水準を押し上げる効果がある」(Webb, S. & B. 、1911、 252㌻)と指摘しています。この「繰り出し梯子理論」には、現代にも通じる示唆があります。

地域における住民共同の運動・実践が、公的サービス(社会保障やその他の公共サービスも含む)を上回る内容を有することがしばしばあります。この住民共同の運動・実践が、私的サービスを公的サービスに昇華させる流れが、あたかも繰り出し梯子が伸びるように見えることから、そう命名されました。たとえば、介護保険における訪問介護事業は、1956年に長野県で制定された「家庭養護婦派遣事業」を端緒として、その後大阪市など革新自治体に広がり、結果的に1963年に老人福祉法12条に「老人家庭奉仕事業」として法定され、2000年施行の介護保険法では、8条2項に明記されました。

また、保育運動においても、同様の状況がありました。1960年代の高度経済成長に伴う女性労働者の増大のなか、労働と保育の両立を求めて、「ポストの数ほど保育所を」を合言葉に大きな運動が広がり、結果的に公的保育所(認可保育所など)の増設につながりました。

現在政府がいう「地域共生社会」は、社会保障などの公的サービスを縮小したところに、その代替として地域住民に地域課題解決責任を押し付けるものですし、住民共同の運動・実践とはまったく異なるものです。

住民共同の運動・実践は、その目的に公的責任の強化、あるいはその実践を公的制度に押し上げる狙いがありますが、「地域共生社会」は、そもそも公的責任を捨象し住民の自助・共助(助け合い)に変質させることを狙っていることを鑑みれば、ますます住民共同の運動・実践が必要になってきたといえます。

脱稿日:2017年6月1日

【引用参考文献】

  • 自由民主党(2012)「日本国憲法改正草案」、2012年4月27日。
  • 厚生労働省(2017)「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)【概要】」、我が事・丸ごと地域共生社会実現本部、2017年2月7日。
  • 厚生労働省(2016)「地域包括ケアの深化・地域共生社会の実現」、我が事・丸ごと地域共生社会実現本部第一回会合、2016年7月15日。
  • 政府(2017)「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案のポイント」、2017年2月7日。
  • Webb, Sidney. & Beatrice. [1911], The Prevention of Destitution, Longmans, Green & Co.

2017年6月15日

月刊『住民と自治』 2017年7月号 より

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