【論文】貧困下におかれた女性の支援―自治体の取り組みのあり方―


「見えない貧困」といわれる女性の貧困についてデータによって可視化しながら、その解決に向けた国の施策のみならず、自治体の女性の貧困に対する取り組みのあり方についてさぐります。

はじめに

女性の貧困は、近年、新書やテレビの特集番組などでも取り上げられるようになり、大きな関心がもたれるようになってきています(NHK「女性の貧困」取材班、2014年など)。女性といえば全人口の約半分を占めますので、多くの人にとって無視できないはずの問題です。本稿では、女性が直面する貧困問題の現状や背景について基本的な点を確認した上で、自治体が女性の貧困にどのように取り組んでいくべきかを考えます。(注1)

女性の貧困に注目する理由

なぜ女性の貧困に注目することが必要なのでしょうか。その理由は男性よりも女性のほうが貧困に陥りやすいからです。1978年にアメリカの研究者が「貧困の女性化」と表現したこともあります(Pearce 1978)。日本でも男性よりも女性のほうが貧困に陥りやすい状況にあります。

図は男女別・年齢別にみた相対的貧困率を表したものです。これによると、0歳から20歳代までは男性が貧困に陥りやすいのですが、30歳以上になると女性の方が貧困率は高くなり、とくに75歳以上になると約10%ポイントも高くなります。75歳以上では3割近い女性が貧困になっているのです(男性はその半分ほど)。

図 男女別・年齢階層別相対的貧困率(2010年)
図 男女別・年齢階層別相対的貧困率(2010年)
原出所:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2010年)を基に、内閣府男女共同参画局「生活困難を抱える男女に関する検討会」阿部彩委員の特別集計より作成。
出所:内閣府『平成24年版 男女共同参画白書』87ページ

また、2010年の大人が2人で子どものいる世帯の相対的貧困率は12・4%ですが、一人親で子どもが一人いる世帯の相対的貧困率は54・6%を超え(内閣府、2015a)、そのうち多くを占める母子家庭世帯の貧困が深刻です。

女性が貧困に陥りやすい社会的背景

では、なぜ女性が貧困に陥りやすいのでしょうか。ここでは大きく非正規労働の問題と暴力の問題の2つに分けて、その社会的要因について検討します。(注2)

(1)女性と非正規労働

第一の要因は、女性は非正規労働者になりやすいことにあります。2015年の非正規労働者の割合は、男性で21・9%、女性で56・3%と、女性は男性の2倍以上になっています。その一因は、出産や育児のために仕事を辞めざるをえない女性が多いことにあります。2005年から2009年の間に第1子出産前に仕事を持っていた女性(妻)の62%が出産後に仕事を辞めています。これは育児休業を確実にかつ十分に取得することが困難なこと、保育所の待機児童数が解消されないことなどにも大きな原因があると考えられます。2015年の保育所などの待機児童数は2万3167人、放課後児童クラブの待機児童数は1万6941人です。また、子どもが大きくなってから働きたいと思っても、新卒一括採用が主流の日本では非正規の仕事しか得られない可能性が高いのです。

非正規労働者は賃金が低く、社会保障給付も少なくなり、解雇規制も弱く、もし離婚や死別などで女性が一人暮らしや母子世帯になれば、貧困に陥りやすくなります。しかも、国民年金に加入していても、老齢年金は満額でも生活保護基準以下の収入にしかなりません。低賃金のため十分な貯蓄も望めないかもしれません。そのため、老後に貧困に陥る女性が極めて多いのです。つまり、若い間の貧困は、その後生涯にわたって貧困をもたらす可能性が高いのです。多くの場合、父親や夫、息子(=男性)の扶養によって貧困は顕在化していませんが、父親の退職や病気、夫のリストラ・非正規化、離婚・死別などによって顕在化するのです(江原、2015)。

(2)女性と暴力

第二の要因は、女性は暴力的な支配構造におかれやすいことです。たとえば、2014年に配偶者から身体的暴行・心理的攻撃・経済的圧迫・性的強要のいずれかを一つでも受けたことが「何度もあった」割合は女性で9・7%です(男性は3・5%)。また、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は2004年に4万9329件でしたが、2014年には10万2963件に倍増しています。2015年の強姦の認知件数は1167件、強制わいせつの認知件数は6755件でした。これまでに異性から無理やりに性交された経験のある女性は2014年に6・5%でした。2015年の検挙件数は児童買春事件で728件、児童ポルノ事件で1938件でした。児童虐待事件のうち性的虐待の検挙件数は117件でした。以上は一例ですが、これだけみても1年の間に女性は暴力や性被害に多くあっていることがわかります。(注1)

2014年の精神障害者(20歳以上)の統計をみると、総数で男性は143万人でしたが、女性は222万人(60・9%)とかなり多くなっています(内閣府2015b)。暴力や性被害にあった女性は「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)などの精神障害に陥りやすいのです。その結果、対人恐怖症や男性不信などによって、生活や仕事に支障をきたし、貧困に陥る可能性も高くなります。

性産業、いわゆる風俗業の問題もあります。性風俗業界で働く女性の支援をする社団法人Grow As People(GAP)が2015年4月から2016年3月にホテルなどで客と会う無店舗型風俗店で働く女性377人に実施した調査結果によれば、働き始めた動機(複数回答)は生活費が96人(25・4%)と最も多く、学費、奨学金や借金の返済、娯楽費を含めた経済的な理由では215人(57・0%)でした。また、平均月収は18~22歳が81万9200円と最も多く、加齢とともに減り43歳以上では18万2000円でした(毎日新聞2017年4月21日)。生活費や借金の返済などのために女性が性産業に身を委ねなければならず、しかも加齢とともに仕事が続けられなくなるのです。このような性産業で働く人は労働条件が不安定であるだけでなく、犯罪や暴力にも巻き込まれやすく、生活困難・貧困のリスクがいっそう高いといえます(遠藤、2015)。

(3)「女性と貧困」の意味

さて、こうしてみると女性の貧困は女性だけの問題ではないことが見えてきます。母子世帯の貧困を考えても、女性の貧困は子どもの貧困と密接です。また、女性が非正規労働や出産・育児で退職をするのも、男性が生計中心者で、女性は家事・育児を担い、働くとしてもパートで補助的な収入でよいという性別役割分業の考え方の影響を受けています。つまり、女性の貧困は男性の働き方、家事や育児の担い方と密接にリンクしているのです。したがって、女性の貧困は家族、仕事、社会のあり方そのものを問う問題なのです。その意味を込めて、本特集のテーマは「女性の貧困」ではなく、「女性と貧困」としています。

自治体の取り組みのあり方

(1)労働環境と社会保障制度の改善

それでは、女性の貧困にどのように取り組んでいくべきでしょうか。日本弁護士連合会(2017)は女性の労働環境や社会保障などに関して包括的な提案をしています。その提案とは、男女雇用機会均等法改正(賃金差別の禁止の追加)、長時間労働の規制、最低賃金引き上げ、労働者派遣法改正(専門職種への限定、登録派遣禁止など)、有期労働契約の規制、ポジティブアクション(クオータ制の導入など)(注4)、社会保障や税制が前提とする男性稼ぎ主と専業主婦で構成された「標準モデル世帯」を見直し、単身者やひとり親世帯に配慮した制度への改正、児童扶養手当の改善や育児・介護・教育の支援の充実などです。

このように女性の貧困には労働環境や社会保障などさまざまな側面から対策が求められます。これらの取り組みを女性の貧困に配慮したものにできれば、女性の貧困は大きく改善するでしょう。逆にいえば、これらの制度の不十分さが女性を貧困に追い込んでいるともいえます。これらの多くは国が実施すべきものですが、自治体でもできることがありますし、国の制度を自治体で実施しているものもあります。自治体で女性の貧困の問題解決のために何ができるかを考えていく必要があります。同時に、自治体で対応が困難な問題は、意見書などを出して国に改善を求めることも大事です。

(2)地方自治体の取り組みの課題

自治体の取り組みについて、岩永(2015)は次の3点の必要性を指摘しています。第一に、施策の企画・立案・実施の前提となる各種の調査において、性別データを整備することです。性別データがないと何が問題かもわかりません。第二に、生活困窮者を支援する、男女共同参画センター・各種女性センター・民間団体などの活動と地方自治体が果たす役割の重要性を再認識することです。施策があっても必要な女性にその支援が届いていない現状があるからです。第三に、貧困からの救済と貧困の予防について、短期・中期・長期で目標を設定することです。短期的には女性の救済を最優先し、中・長期的には劣悪な労働環境の改善、職業訓練や就労準備支援などを整備し、最終的には性に中立的な社会制度を構築していくことです。

(3)相談支援と居場所づくりの必要性

上記のような自治体が取り組むべき課題のなかでも、とくに「相談支援」と「居場所づくり」を強調したいと思います。第一に、相談支援は、湯澤(2005)によれば、隠れて見えない女性の問題が可視化されるきっかけとなり、社会資源(社会福祉制度など)につなげて「社会的な解決」に取り組み、個人の問題を社会の問題へと転換していくことが可能となります。このような視座を持つことによって、一人ひとりの女性の問題を解決するなかで、先述の労働環境や社会保障制度などの改善に結びつけることができます。

第二に、居場所とは、太田(2015)によれば、危険な人や社会から守ってもらえ、安心できる「避難所」である一方、その人自身やその活動が他人や社会から認められ、必要とされる場という意味もあります。たとえば、DV(ドメスティック・バイオレンス)などから女性や子どもを守るためのシェルターを提供するNPO法人いくの学園(大阪)(注5)、「安心して人の中で自分と向き合い、困難と希望をわかちあえる『場づくり』」を提供している公益財団法人横浜市男女共同参画センターの「ガールズ支援」などがあります(小園、2015)。また、近年注目されている子どもの貧困を踏まえ、母子生活支援施設など子どもの視点を踏まえた安心できる居場所の整備や援助を充実していく必要があります。

相談支援や居場所づくりは、住民である女性に身近な自治体だからこそ取り組んでいくことができるものです。そして、これを女性の貧困問題を個人の問題として閉じ込めるのではなく、社会の問題として社会化する視座をもって取り組んでいくことが大事です。

【参考文献】

  • 岩永理恵(2015)『女性の貧困問題と地方自治体のとるべき施策』全国知事会調査研究報告書
  • 江原由美子(2015)「見えにくい女性の貧困」小杉・宮本編(2015)45-72㌻
  • 遠藤智子(2015)「『よりそいホットライン』の活動を通じて」小杉・宮本編(2015)175-200㌻
  • 太田明(2015)「〈居場所がない〉ということ」総合人間学会編『〈居場所〉の喪失、これからの〈居場所〉』学文社、64-74㌻
  • 小杉礼子・宮本みち子編(2015)『下層化する女性たち』 勁草書房
  • 小園弥生(2015)「横浜市男女共同参画センターの“ガールズ”支援」小杉・宮本編(2015)、223-241㌻
  • 内閣府(2015a)『平成27年版子ども・若者白書』
  • 内閣府(2015b)『平成28年版 障害者白書』
  • 内閣府(2016)『平成28年版男女共同参画白書』
  • 日本弁護士連合会(第58回人権擁護大会シンポジウム第1分科会実行委員会)(2017)『女性と労働』旬報社
  • 湯澤直美(2005)「社会的出会いとしての相談」須藤八千代ほか著『相談の理論化と実践』新水社、89-128㌻
  • NHK「女性の貧困」取材班(2014)『女性たちの貧困』幻冬舎
  • Diana Pearce (1978) "The Feminization of Poverty", The Urban & Social Change Review, Boston College,  11(1/2), pp.28-36.

【注】

  • 1 性別の問題は、LGBTなどの性的マイノリティーの観点からも検討が必要ですが、今後の特集に期待します。
  • 2 ここで使用するデータは、断りがない限り内閣府(2016)を参照しています。
  • 3 性暴力の加害者の多くは「家族」や「夫」、「交際相手」などの身近な人であることがこの問題をいっそう深刻にしています(遠藤、2015)。
  • 4 クオータ(割当)制とは議員や管理職などで女性の定数割合を定めることです(日本弁護士会2017:163)。
  • 5 NPO法人いくの学園のウェブサイト(http://www.ikunogakuen.org/)を参照。
木下 武徳

日本やアメリカの社会福祉策を研究している。近著に『アメリカにおける公的扶助の行政不服審査』『國學院経済学』(63(2/3)、2017年)など。