【論文】見えない女性の貧困とその構造―ホームレス女性の調査から―

  • 丸山 里美(まるやま さとみ)
    立命館大学産業社会学部准教授

2017年9月9日

月刊『住民と自治』 2017年8月号 より

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野宿者のうち、女性の割合はわずか3%です。このことは、女性の貧困が見えにくいこととつながっています。なぜ女性の貧困は見えにくいのでしょうか。

近年、メディアではしばしば女性の貧困がとりあげられるようになっています。女性の貧困の特徴は、その姿が見えにくいということです。ではなぜ、女性の貧困は見えにくいのでしょうか。

わたしはこれまで、女性のホームレスについて調査研究をしてきました(注)。野宿者のうち、女性の割合は3%で、その数は男性と比べてごくわずかです。このことは、女性の貧困が見えにくいこととつながっています。ここでは、なぜ女性のホームレスが少ないのかを説明することから、女性の貧困が見えにくい理由を考えてみたいと思います(注2)。また、現状の福祉制度の問題点と、それを改善するために行われている取り組みの例を紹介します。

女性が世帯主の世帯が形成されにくい

なぜ、男性と比べて、女性の野宿者は圧倒的に少ないのでしょうか。その理由の一つは、女性が世帯主の世帯が形成されにくいことにあります。

現在の労働・社会保障政策は、賃労働をする夫と家事労働をする妻とその子からなる、「標準家族」をモデルに設計されています。そのため、女性は外で働いていたとしても、その身分は不安定で低賃金なものになりがちです。実際、男性の非正規労働者は労働者全体の20・0%なのに対して、女性では55・0%であり、女性労働者の賃金は男性を100としたときのわずか69・3で(2011年)、女性は男性と比べて経済的自立が難しい状態にあります。また、税金や社会保険の配偶者控除は、パート労働を選択するよう女性を方向づける制度で、見直しが進められている「第3号被保険者」も、雇用者の妻を無拠出で国民年金に加入させるという、標準家族を優遇する制度になっています。つまり社会保障政策も、「標準家族」の利益が最大となるように設計されているのです。

このような制度の下での女性の生活は、父や夫という男性稼ぎ手といる限り、経済的には比較的安定しているでしょう。しかし「標準家族」とは異なり、単身だったり死別・離別によって男性稼ぎ手を失うと、女性は貧困に直面する可能性が途端に大きくなります。とくに母子世帯の母親は、子どもの養育と賃労働の両方を担うために生活に困窮することが多く、性別役割分業を前提とした社会であるために生じる女性の貧困が、もっとも顕著にあらわれる存在です。高齢女性の貧困も深刻です。女性は男性よりも平均寿命が長いために高齢期を単身で過ごすことが多くなりますが、高齢期の生活を支える年金は、本人と配偶者の現役時代の働き方によって受給額が決まり、とくに未婚・離婚のために単身の期間が長い女性が、無職や低賃金・不安定労働をしていた時期があると、受給に必要な25年の加入期間を満たせなかったり(注3)、少額の年金しかもらえなかったりということになりやすいのです。

このように、現在の日本社会では、女性が独立して生計を営むのは容易なことではありません。そのため、たとえ結婚生活に問題があっても、なかなか離婚に踏み切れないという女性は少なくないのです。

「貧困の女性化」という言葉があります。これは、貧困世帯のなかで女性が世帯主である世帯の割合が多数を占めることを指し、アメリカをはじめ、先進国で見られる現象ですが、日本はそれが見られない例外的な国だといわれています。「日本の女性は貧困の女性化を達成するほど自立していない。離婚や経済的自立には手が届かないのだ(注4)」、つまり、女性が家を出て独立した世帯を営むための社会的条件すら整っていないというのです。このように日本では、貧困に陥りやすい女性が世帯主の世帯自体がそもそも少なく、性別役割分業を前提とした制度とそこから生じる女性らしさの心理的拘束によって、女性が家庭に縛りつけられていること、このことが皮肉にも、女性の野宿者があらわれにくい理由の一つとなっているのです。いいかえれば、貧困女性はホームレスになるかわりに、家の中にいるのです。

社会福祉の網

さらにこの「標準家族」モデルは、女性を社会保険よりも、社会福祉や公的扶助に結びつけてきました。こうした制度が貧困女性の生活保障として機能していることが、女性の野宿者があらわれにくいもう一つの理由でしょう。

生活を保障するための制度は保険と扶助とに大きくわけられます。雇用保険、医療保険、年金などの社会保険は自ら保険料を支払うため、失業や病気、高齢化などによって生活保障が必要な状態になると、拠出に対する権利として給付が行われます。一方、生活保護に代表される扶助は、拠出によらず最低限の生活を保障する制度であるため、権利ではなく恩恵と考えられており、受給に際しては資力調査が行われ、その生活水準は最低限度のものに抑えられています。そして、男性は賃労働をすることが多いために社会保険に結びつきやすく、キャリアが継続せず低賃金の職に就きがちな女性は、社会保険に入れないことも少なくなく、生活保障が必要になると、社会福祉や公的扶助の利用に結びつきやすいのです。

したがって、男性が社会保険の網からもれ、社会福祉や公的扶助を利用しようとするときには、稼働能力の有無が厳しく問われることになり、稼働能力があると判断されると、現実には仕事がなかったとしても、社会福祉や公的扶助の利用は認められずに、野宿生活に陥ることになりがちです。一方、女性の場合には、そもそも社会保険から排除されがちになるため、男性と比べて社会福祉や公的扶助の利用を認められやすいのです。とはいえ、その際に必要な資力調査は、本人の財産や収入だけではなく、収入をもたらしてくれる可能性のある男性関係にまで及び、生活の細部にわたって監視や管理が入り込むことになります。

しかしこうした資力調査や最低限度の生活を受け入れるかぎりにおいて、女性は福祉制度や公的扶助を利用しやすく、それらが女性を路上に出る一歩手前で受け止めているのです。つまり、貧困女性はホームレスになるかわりに、社会福祉の網のなかにもいるのです。

性産業と居候

女性のホームレスが少ないもう一つの理由として、性産業が生活に困窮した女性を吸収し、路上に出ることを防いでいることがいえるでしょう。2014年1月のNHKの「クローズアップ現代」では、寮や託児所つきの風俗店ではたらく女性が増えてきているという報道がなされ、「福祉が風俗に敗北した」と大きな話題になりました。風俗店が、貧困女性たちのセーフティーネットになっているというのです。しかし性産業の世界に入る女性が増えた結果、競争は激しく、単価も安くなっており、若い女性ならだれでもすぐに稼げるというような仕事ではなくなってきているとの指摘もなされています(注5)。

また、性産業とはいえませんが、貧困の女性やホームレスの女性が、生活費や住居を求めて男性と短期的に関係を持つということがあり、それが女性の貧困が野宿者という形ではあらわれてこない理由の一つになっていることもあるでしょう。宿泊させてくれる男性を探している家出中の若い女性は、「神待ち少女」としてメディアなどでもとりあげられていますし、貧困者の相談に応じているNPO法人自立生活サポートセンター・もやいの調査でも、相談者のなかで、女性は男性に比べて「居候」している人の割合が高いことが示されています(注6)。

ホームレスの女性を対象とした福祉制度の問題点

貧困女性、なかでも広い意味でのホームレスの女性が支援を受けようとすると、現行の福祉制度のなかでは、生活保護法、生活困窮者自立支援法、婦人保護事業、児童福祉法、DV(ドメスティック・バイオレンス)防止法と、おもに5つの福祉制度を利用できる可能性があります。

このうち生活保護は、貧困者でも最低生活水準の生活ができるように収入を補うもので、ホームレスの人の場合は、住宅を確保して現金給付を受ける場合と、生活保護施設に入居する場合があります。生活保護が適用される以前に、就労自立が見込まれる人なら、生活困窮者自立支援法を活用することが推奨されており、就労支援や一定期間の家賃相当額の補助を受けることができます。婦人保護事業は、単身のホームレスの女性に、おもに対応していますが、生活保護とどちらが先に適用されるべきかは明確に規定されていません。婦人保護事業とは、1956年成立の売春防止法が根拠法となっており、「性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子」を保護更生させるための事業として定められました。しかしこの「おそれ」を拡大解釈する形で、売春に関わりがなくても、貧困状態にある女性や夫の暴力から逃れてきた女性、精神・知的障害を持つ女性など、広い意味でのホームレス状態にある女性たちの受け皿として活用されてきたという歴史的経緯があります。未成年の子どもがいるホームレスの女性は、児童福祉法の対象となって、母子生活支援施設に入居することもあります。また住まいを失った理由がDVの場合には、DV防止法の対象となり、婦人相談所やDVシェルターに入居することがあります。

これらの制度・事業は、本来的にはそれぞれの制定目的に応じて、母子やDVから逃げてきた女性など、対象となるケースが定められているはずです。また、生活保護以前に生活困窮者自立支援法がまず適用されるべきであるなど、各制度・事業が適用される順序が決められています。しかし現実には、こうした順序が明確になっていなかったり、アセスメントがうまくできていなかったりする結果、必要な女性のもとに適切な支援が届いているとはいいがたく、ミスマッチが起きている現状があります。

ホームレスの女性がこれらの福祉制度のうちどれを利用することになるのかは、地域にある社会資源に依存します。地域資源が少ない地方都市では、そもそも女性が利用できる制度や資源は限られており、各制度の制定目的にかかわらず、その地域にある社会資源を活用するしかありません。一方、東京都や大阪府などの大都市では、さまざまな制度を利用できる可能性があるために、かえって混乱が生じています。複数あるうちのどの制度を利用することになるのかは、アセスメントにもとづいたものというよりは、最初にたどりついた窓口の種類、対応時間、施設の立地など、外的条件によってしばしば決められているのです。その結果、子ども連れの女性が単身者向けにつくられた施設を利用していたり、満員で入所を断らなければならない施設がある一方で稼働率が50%に満たない施設があるなど、ミスマッチが起きています(注7)。

ソーシャルワーカーたちの取り組み

本来、このようなミスマッチが起きないよう、これらの女性に関わる制度や利用できる社会資源の特性を理解し、適切にアセスメントを行い、貧困女性たちを必要な支援に結びつけるソーシャルワークを行う専門職(ソーシャルワーカー)として、婦人相談員がいます。これは、婦人保護事業の一環として定められている職で、全国に1415人(2016年4月1日現在)いますが、貧困女性がおとずれる市の相談窓口には配置されていないという場合も少なくありません。また、婦人相談員は非常勤だったり、勤続年数が短かったりする人が多く、高い専門性が必要な職であるにもかかわらず、経験やキャリアを積める体制になっていません。このように、専門的知識を持ったソーシャルワーカーの不足が、貧困女性に対して適切な福祉的支援が届きにくい理由のひとつだといえるでしょう。

たとえば大阪府は、府下のわずかな市をのぞき、市の相談窓口に婦人相談員が配置されていない自治体の一つです。そのためもあって、貧困の女性が利用できる社会資源は複数ありますが、先述したようなミスマッチが生じています。こうしたなかで、少しでも状況を改善しようとしている関連機関の職員有志の自発的な取り組みがあります。大阪府下の女性を対象とした施設や相談機関は、根拠法や施設種別が異なっているために普段はほとんど交流がないのですが、M&C(Mother&Child)ネットワークというこの団体では、勤務時間外に職員有志が私的に集まり、適切なアセスメントをするための基礎資料となるように、各制度・施設の特徴や適性を整理し、関連機関に発信しようとしているのです。このように縦割りの制度をつなぐ連携が各地域で行われていくことが、現状の問題点を改善していくために望まれます。

また、必要な支援が必要な女性に届いていないというミスマッチが生じている背景には、「高齢者福祉」「障害者福祉」「児童福祉」のような対象者別になった福祉制度の形で、「女性福祉」のような領域が確立されていないということもあるでしょう。そのため、女性を対象とした福祉制度がさまざまな領域に散らばっており、効率的な制度利用をすることを難しくしているのです。歴史的に、貧困女性を対象とした福祉制度としては、婦人保護事業がありますが、制定から60年以上が経つ売春防止法を根拠法にしており、時代にそぐわないものになっています。最近では、このことから生じている問題を解消しようと、売春防止法から婦人保護事業を切り離し、総合的に女性を支援する「女性自立支援法」を新たに制定しようとする取り組みが、長く婦人保護事業を担ってきた人々の間ではじまっており、その成立が期待されます。

【注】

  • 1 丸山里美『女性ホームレスとして生きる─貧困と排除の社会学』(世界思想社、2013年)。
  • 2 ここでは「ホームレス」という言葉を、野宿者だけではなく、ネットカフェや深夜営業の喫茶店などで夜を過ごしている人、住む場所がないために一時的に福祉施設に滞在している人、病院や刑務所を出たあと行くところがない人などを広く含む意味で用い、路上生活をしている人を指すときは、野宿者という語を用いています。
  • 3 年金の受給に必要な最低限の加入期間は、2017年8月から10年間に短縮されることになりました。
  • 4 Axinn, June, 1990, "Japan: A Special Case", Gertrude Schaffner Gordberg and EleanorKremen eds., The Feminization of Poverty: Only in America?, New York: Praeger Publishers,pp.104.
  • 5 坂爪真吾『性風俗のいびつな現場』(筑摩書房、2016年)など。
  • 6 相談者の居所は、男性では野宿が42・2%、知人宅は4・4%であるのに対し、女性では野宿が4・2%、知人宅が11・6%と、女性は男性に比べて野宿が少なく、知人宅への居候が多くなっています。詳細は、丸山里美・上間愛・小野寺岬・加藤茜・柏崎彩花・後藤広史・妻木進吾・大西連『もやい生活相談データ分析報告書』2014年参照。
  • 7 詳細は、丸山里美「貧困の広がりと婦人保護施設の役割─増加する女性ホームレスの入所とその背景」須藤八千代・宮本節子編『婦人保護施設と売春・貧困・DV問題─女性支援の変遷と新たな展開』(明石書店、2013年)参照。

2017年9月9日

月刊『住民と自治』 2017年8月号 より

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