【論文】三江線廃線と沿線地域のこれから 地域の持続可能性とローカル線の役割

  • 関 耕平(せき こうへい)
    島根大学法文学部准教授

2017年9月27日

月刊『住民と自治』 2017年9月号 より

印刷用PDFファイル▼


車窓からは「田植えする人々」の手元が見え、人間が人間らしく生きている農村風景を味わいながらのんびりと楽しむことができる、いまでは数少ない貴重な鉄道、それが島根県江津市から広島県三次市を結び、江の川に沿って進む三江線である。この三江線について、JR西日本(以下、JR西)は、廃線を正式に届け出て、2018年4月での廃止が決まっている。三江線の営業距離は108・1㌔㍍、国鉄分割民営化後、本州のJR廃止路線としては最長距離となる。

こうしたローカル線廃止の動きは、全国へと広がる可能性が極めて高い。すでにJR北海道は、在来線の路線距離のほぼ半分について「単独で維持が困難」としてバスへの転換や沿線自治体による運営への切り替えなどを表明している。こうした動きにどう対抗するかが今後、全国的に問われよう。本稿は三江線を事例に、廃線までの経緯と構図を明らかにして教訓を引き出すとともに、沿線の地域再生に向けた動きについても紹介したい。

廃線という「地方切り捨て」の最前線

三江線の廃線でわたしたちが失うものは想像以上に大きい。鉄道は地域にとって単に移動手段にとどまられない大きな意味を持っている。たとえば駅周辺に中心街が形成されるという地域づくり上での集積機能や、地域のシンボル・文化性、さらには地域への愛着をはぐくむといった価値である(関ほか著、2017、第8章、岡崎執筆、参照)。まさに鉄道は地域資源、生活財産である。この点を踏まえるならば、ローカル線の廃止は地方切り捨てそのものである。

国交省(2013)は鉄道廃止が地域にもたらす影響として、①交通への影響:代替バスによる運賃の増加、定時性が失われることでのサービス・信頼性の低下で、公共交通全体の利用者減が生じる、②日常生活への影響:通学圏の縮小、マイカー送迎増加による送迎者の負担、長時間移動やトイレ問題による高齢者の出控え、③沿線地域の活力の低下:沿線自治体のすべてにおいて小売業の事業所数が減少、④行政への影響:廃止路線跡地の維持管理・代替バスへの補助、の4点に整理している。三江線沿線では近年、U・Iターン者が増加し、田園回帰の傾向がみられる典型地域である。生徒の通学可能な圏域が縮小することで子育て世代が家族単位で他地域へ転出するなど、田園回帰に冷や水を浴びせることにならないのか懸念される。

移動手段についてはバス転換など、代替交通の確保がなされるので問題がないとする意見も多い。しかし実態はまったく違う。

島根県邑南町の口羽公民館において、2016年1月に開催された廃線に向けた住民説明会のなかでJR西は、「三江線廃線の代わりに、住民の皆さんの移動ニーズに合致した新たな公共交通モデルを確立する、そのための廃線です」と明言し、廃線とバス転換によって地域の公共交通がより便利になることを確約するような説明であった。

その1年半後の2017年7月12日、同じ会場で三江線代替交通に関する住民意見聴取会が行われた。ここで提示された三江線代替交通の案にたいして、住民からは「代替交通の体をなしていない」という厳しい声が寄せられた。確かに各集落をつなぐ自治体コミュニティーバスをきめ細かく走らせているものの、運行委託先業者の都合もあり、休日には口羽から浜原方向への一切の路線バスを確保できないというのである。現状から後退した「代替交通の体をなしていない」原案が住民に提示されている。しかもその意見聴取会にはJR西や島根県の担当者は出席しておらず、沿線自治体の担当者のみが住民に対応している。住民の要望は沿線市町を通じて、JR西・県が出席する代替交通に関する法定協議会の場で伝達されるというが、住民の悲痛な声が果たして本当に届くのだろうか。

廃線へ追い込まれた経緯と構図、そして教訓

三江線廃線の動きを地元紙が報道したのは2015年10月、翌年9月にJR西は正式に廃線を表明、2018年3月末での廃線を正式に国に届け出るという、たったの11カ月という短期間での「決着」であった。その間行われた住民説明会は4回(うち1回は自治体からの状況説明)であった。

当初、沿線市町は廃線方針を「白紙」にしたうえで交渉のテーブルに着くことをJR西へ求めた。一方、島根県はあくまでも「中立的」立場で行司役に徹し、態度を明確にしなかった。その後の周辺市町との協議において、JR西は「いかなる方策によっても鉄路としては維持しない」という姿勢を固持した。こうしたなかで沿線市町による鉄道の存続も検討されたものの、多額の転換交付金が支給されたかつての国鉄分割民営化の時期とも状況が異なり、沿線自治体による鉄道の維持は財政的な裏づけに乏しいため困難とされ、現実的な選択肢たり得なかった(図表)。

図表 三江線存続に向けた方策と模索の構図
〈図表 三江線存続に向けた方策と模索の構図〉
出所:筆者作成

地方圏の自治体はその財源の多くを国に依存している。こうした依存財源=地方交付税交付金の支給額は、国が認める必要額(基準財政需要額)にもとづき算定され決定される。赤字の鉄道事業を維持するための財政支出については、現在、国が認める必要額とはみなされないため、実際に支出する場合は、完全に「自腹」での地方財政負担となってしまう。財政的に余裕がなく、国からの交付金に頼った財政運営を旨とする地方圏であればあるほど、鉄道の維持のための経費を自治体財政として負担することは、現実的には困難である。こうしてJR西が鉄路維持を放棄した段階で、実質的に残されたのは「バス転換」という選択肢のみであった。

こうして廃線を余儀なくされていったのであるが、ここでの教訓の第一は、都道府県の対応の重要性である。中立と称して行司役に徹した島根県知事の対応は結果的に廃線への流れを決定的にするものであったし、これへの不満の声は沿線自治体からもあがっている。これと対照的なのは、長期間をかけて災害復旧を果たし復活した名松線(三重県)の事例における三重県知事の断固たる姿勢であった(関ほか著、2017、第4章、保母執筆、参照)。いずれにせよ都道府県知事の対応がこの問題を左右する大きな要因であり、そのための世論形成が重要になってくる。

第二の教訓は、2000年の鉄道事業法改正以降、鉄道の廃止が許可制から届出制へと移行したことで、沿線地域の死活問題ともいえる鉄道の存廃が、一民間企業(ここではJR西)の経営状況や意思決定で決められ、当事者である沿線自治体や住民が関与できないというシステムが成立してしまっている点である。これに対して長期的には廃止届について、沿線住民・自治体との合意形成を要件とする法整備が必要である。当面は、たとえばボトムアップ型で「公共交通基本条例」を制定するなど、地域の意思決定を公共交通のあり方に反映し、JR西の社会的責任を追及するといった、安易な廃線を許さないためのあらゆる努力が求められる(保母武彦による2017年7月1日「守れ!北の鉄路」道民集会レジュメ)。

より根本的には、国が鉄道を道路なみの社会インフラとして位置づけつつ、財政的責任を負うことが必須であろう。

鉄道資産の活用をめぐる動き

三江線の廃線後、鉄路や駅舎など鉄道資産の管理をどうするのか、これは沿線地域の未来を決する重大なことといってよい。JR西は、沿線自治体へ無償譲渡する意向を2017年4月に明らかにしたものの、一括譲渡の場合のみ無償で、駅舎だけといった一部譲渡の場合は有償、しかも同年9月までの契約締結が条件とした。これに対して沿線自治体の首長は、線路やトンネルの放置は獣のすみかになってしまうこと、落石防止の対策など、管理費用のねん出が困難なことから、「一括」での譲渡に否定的である。できれば活用の道を探りたい、しかし莫大な管理費を前に二の足を踏んでしまう、こうした沿線自治体の慎重な姿勢はもっともである。

こうした事態を打開するため、島根県がJR西から一括していったん無償で鉄道資産の譲渡を受け、当面の間の維持・管理に責任を持つことはできないか。三江線が県境を越え複数の自治体にまたがっていること、沿線自治体の小さな財政規模ゆえ鉄道資産の譲渡受け入れが困難である点を踏まえれば、「広域」的な役割を担い、市町村を「補完」する県行政のまさに出番といえる。県資産としていったん維持・管理することで、沿線自治体と住民が急かされることなく、じっくりと時間をかけ利活用策を議論できる条件が整う。実際に沿線市町から県への同様の要望も出されていた。しかし島根県知事・溝口善兵衛氏は2017年7月11日、県として一括譲渡の受け入れ主体にならないことを早々と表明してしまった。

沿線地域の再生へ向けた主体形成

こうした逆風にもかかわらず、廃線反対の取り組みは廃線決定後も意気消沈することなく、沿線住民・自治体による鉄道資産の活用と沿線地域の再生に向けた動きへと着実に展開しつつある。たとえば複数の団体と個人とで「三江線地域フォーラム」が結成され、一部鉄路の維持、動態保存と体験運転のアトラクション、駅舎の活用といったアイデアを具体化させつつある。

ここで注目すべきは、この「三江線地域フォーラム」には複数の沿線自治体や県境を越えて構成メンバーがつどっている点である。歴史を振り返れば太古の昔から江の川流域を通じた交易があり、近代になってこれを代替してきたのが三江線であった。こうした流域や三江線沿線の地域・人の「つながり」、一体性が再生されていくなかで、流域・沿線地域全体の発展を担う主体が形成されつつある。この動きを国や県行政がしっかりと後押しできるかどうかが問われている。

【参考文献】

2017年9月27日

月刊『住民と自治』 2017年9月号 より

  • 関 耕平
    関 耕平(せき こうへい)
    島根大学法文学部准教授

    1978年秋田県生まれ。岩手大学卒、一橋大学で博士号取得(経済学)。日本地方財政学会理事。島根大学法文学部講師をへて、2008年4月から現職。財政学・地方財政論担当。『三江線の過去・現在・未来』今井出版、2017年4月(共著)を刊行。

印刷用PDFファイル▼

▲ ページの先頭へ戻る