【論文】人口減少に負けない地域づくりとは?

  • 川上 哲(かわかみ さとし)
    東京自治体問題研究所研究員,都留文科大学非常勤講師

2017年11月1日

月刊『住民と自治』 2017年10月号 より

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はじめに
─「田園回帰1%戦略」による地域の持続可能性─

2017年7月7日から8日にかけて、鳥取県岩美町で「第22回全国小さくても輝く自治体フォーラムin岩美町」が開催されました。本全国小さくても輝く自治体フォーラムについて、簡単に報告いたします。

歓迎行事、傘踊り 筆者撮影
歓迎行事、傘踊り 筆者撮影

わたしがフォーラムへ参加したのは2016年の高知県馬路村に続いて2回目です。普段、東京という大都市でさまざまな活動をしている人間にとっては、人口減少に直面する小さな自治体の取り組みを聞くこと自体がとても新鮮であり、新たな視点を持つ上で極めて貴重な機会となっています。

さて、1日目は記念講演と分科会が行われました。記念講演では、「人口減少と田園回帰1%戦略」と題して、一般社団法人持続可能な地域社会総合研究所所長の藤山浩氏がお話をされました。藤山氏については、同氏の『シリーズ田園回帰① 田園回帰1%戦略 地元に人と仕事を取り戻す』(農文協、2015年)を読んだことがあるくらいで、実際にご本人のお話を伺ったのは今回が初めてでした。

記念講演 写真提供:鳥取県岩美町
記念講演 写真提供:鳥取県岩美町

藤山氏は、高度経済成長以降の集中型国土が形成されてきた結果、同時多発的に地域社会が限界状況に陥っているという現状認識からお話を始めています。ここで重要なのは、単に人口減少に直面する地方だけではなく、東京のような大都市部においても「1㌔㍍四方に高齢者だけでも4~5000人が暮らす状況が出現する」と述べられたように、現在の地域を取り巻く状況は日本全国に関わる問題であると指摘している点です。

こうした限界状況に対して、いま、地域に根ざした暮らしを取り戻すという田園回帰の動きが全国各地で見られるようになり、過疎地域においても、平均して地域人口の1%分の定住を毎年増加させれば、地域の持続可能性が展望できるという「1%戦略」についてお話がありました。藤山氏がすごいのは、住民基本台帳を元に「地域人口ビジョンシミュレーションシステム」という「1%戦略」を裏付けるプログラムを開発し、実証的な提起を行っていることです。そのプログラムに基づいて、今回のフォーラム開催地である岩美町のシミュレーションをしてみると、毎年42世帯98人の定住を増やしていけば、同町の人口(1万1485人、2015年国勢調査時)は今後もおおむね1万人台で安定するという結果になりました。

このように、具体的な数値として目標が設定されれば、地域でどのような取り組みが必要なのか、より精緻な政策を組み立てることができます。藤山氏は、全国各地を飛び回り、「1%戦略」に基づいた地域の具体的な取り組みをサポートしています。講演ではそのうちいくつかの事例が紹介されました。

講演でわたしがとくに印象に残ったのは、「1%戦略」もさることながら、藤山氏の家族や地域に対する思想です。藤山氏は「家族そろって夕食を食べる」ことが重要であると述べていました。ささいなことかもしれませんが、現在、日本でどれだけこうしたことができているのかといわれると、確かに「うーん」とうなってしまうのではないでしょうか。それが可能なためには、やはり家族やそれを取り巻く地域の持続可能性や明るい将来展望があればこそです。藤山氏の提起はそうした家族や地域に対する愛着がベースにあるのだと思います。

お金には代えられない価値がある

記念講演の後は、①観光、②しごとづくりと定住促進、③地域運営の三つに分かれて分科会が開催されました。わたしは②のしごとづくりと定住促進の分科会に参加しました。

浦富海岸 写真提供:鳥取県岩美町
浦富海岸 写真提供:鳥取県岩美町

同分科会では、多田憲一郎氏(鳥取大学)を助言者に、手嶋寿征氏(鳥取県北栄町産業振興課)、中村隆行氏(同県大山町・漁師)、梅谷真慈氏(一般社団法人上山集楽)の三氏から、それぞれの地域における仕事づくりと定住の取り組みについて報告がありました。

定住促進といっても、実際に地域に仕事がなければうまくいかないのは自明のことです。しかし地域に仕事をつくりだすのは容易なことではありません。三氏の報告からはその困難さが読み取れました。一方でまだ小さくはあるものの、育てていけばいずれ大きくなるのではという実践報告も貴重です。

北栄町の事例からは、基幹産業の農業でどのように地域経済循環を確立していくのか、次世代を担う若者が魅力を感じる農業とはどのようなものなのか、そのための取り組みの一端を垣間見ることができます。具体的にはイチゴ農家の育成で、北栄町をイチゴの産地として「もうかる」農業を実現し、新規就農者や定年退職者などの定住を図るというものです。

大山町の事例では、「築き会」という若手起業家集団の活動が紹介されました。報告者の中村氏は漁師ですが、他にも宮大工や作家など、「築き会」には多様なメンバーがいるそうです。大山町の豊かな自然のなかで発想力を育むことができ、起業にチャレンジする若者が集まっています。中村氏は「類は友を呼ぶ」と述べていましたが、同じ起業家としてさまざまなサポートもお互いに行いながら、同時に定住促進、地域貢献も行うのが「築き会」の特徴です。

岡山県美作市の上山集楽の事例も興味深いものです。報告者の梅谷氏は地域おこし協力隊で上山集楽に入り、そのまま定住したという人物で、まだ30歳です! 当初、地域に入っていくのは困難を極めたそうです。地域の人の信頼を得ることが何よりも大事で、地域を変えていく提案はそこからでないと始まらないということです。現在はそうした苦労を経て、地域の人の信頼も得て、「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」という棚田8300枚の復活と景観維持に取り組んでいるということです。

これらの取り組みはまだ途上であり、すべてがうまくいっているわけではありません。参加者からは「実際にはどれくらいの収入になるのか」などの質問がありましたが、もちろんそれほど多くの収入が得られているわけではないというのが報告者からの回答でした。ただし、お金には代えられない価値=環境や人間関係などがあるのもたしかです。自分の生き方を自分で選択していくことができ、そしてそれが地域への貢献にもつながる可能性を感じさせる分科会でした。

地方創生を生かしたさまざまな取り組み

2日目は「地方創生をどういかし、どうすすめるか」と題するシンポジウムが行われました。保母武彦氏(島根大学名誉教授)をコーディネーターに、木田悟史氏(日本財団鳥取事務所長)、石橋良治氏(島根県邑南町長)、小林清氏(鳥取市のNPO法人いんしゅう鹿野協議会事務局長)、榎本武利氏(岩美町長)の四氏がシンポジストを務め、それぞれが現在取り組んでいることなどについて報告がありました。詳細に触れることはできませんが、それぞれユニークな活動を行っています。

シンポジウム 写真提供:鳥取県岩美町
シンポジウム 写真提供:鳥取県岩美町

なかでも邑南町の事例は大変興味深いものでした。石橋町長は「地域に安心感を与えるのは行政の責任である」と、人口減少が進んでいるからといって、町民の不安をあおるような政策は厳に慎むべきだと述べていたのが印象的です。具体的には学校統廃合はしないという方針を打ち出したり、保育に手厚い支援を行ったりと、町民が安心できる施策を進めているそうです。

おわりに
─競争ではなく共同の地域づくりを─

全国小さくても輝く自治体フォーラムの会(以下、フォーラムの会)は、人口減少社会論に対抗し、まだまだ地域のさまざまな取り組みは進めていけるということを実証していくことに大きな意義があります。今回のフォーラムでも具体的な事例が数多く紹介されました。

地域の持続可能性を地域自身の責任に転嫁し、地域を人口の奪い合い競争に追い立てていくのではなく、国家によるナショナル・ミニマム保障を大前提に、地域がお互いに共同して発展し、持続可能な社会を作っていくことが何よりもまず必要です。フォーラムの会は地域同士が連携していく上での要になります。これまでの地域のさまざまな取り組み事例を踏まえ、より大きな政策構想を打ち出していくことをフォーラムの会には期待します。

次回は北海道訓子府町で開催されます。

2017年11月1日

月刊『住民と自治』 2017年10月号 より

  • 川上 哲
    川上 哲(かわかみ さとし)
    東京自治体問題研究所研究員,都留文科大学非常勤講師

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