【論文】「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟判決 国と東電に勝訴!


▶勝訴の旗を掲げる原告側の弁護士、福島地裁前。
▶勝訴の旗を掲げる原告側の弁護士、福島地裁前。

生業訴訟とは

2017年10月10日、福島地裁において、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(以下、生業訴訟)の判決が言い渡されました。全国の集団訴訟のなかで3件目の判決。国、東京電 力(以下、東電)双方の法的責任を認めたのは前橋地裁に続き2例目。国の指針を超える賠償を命じたのは、前橋地裁、千葉地裁に続き3例目となりました。

生業訴訟は、被害者約4000人が、国と東電を被告として、事故の責任を追及するとともに、原状回復と損害賠償を求めた裁判です。原告は、事故当時、福島県と隣接県に居住していた人々で、居住地にとどまっている人(滞在者)と、居住地から避難した人(避難者)が、1つの原告団を構成しています。福島県内全市町村に原告がおり、いわば「オール福島」・「オール被害者」の原告団です。

国の責任を認め、救済範囲を広げる

判決は、国の責任について、文部科学省の地震調査研究推進本部が2002年に発表した地震活動に関する「長期評価」は、「規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する知見」であって、その信頼性を疑うべき事情は存しないとして、それに基づき試算していれば、敷地高を超える15・7メートルの津波を予見できたと指摘。そのうえで、国が津波に対する安全性確保を東電に命じていれば「全交流電源喪失による事故は回避できた」と結論づけ、規制権限不行使は「著しく合理性を欠く」と国の責任を断罪しました。東電についても、同様に予見可能な津波対策を怠ったとして過失が存すると断じました。

判決の特徴は、国(経産大臣)に規制権限を与えた趣旨を、法令の目的に照らして丁寧に認定した点にあります。判決は、経産大臣に何のために規制権限が与えられているのかという点について、確保されるべき安全とは、国民の生命、健康および財産の保護にあると、明快に示しました。そのうえで、「津波による損傷を受けるおそれがある」原子力施設は、技術基準に適合しない(=安全性を欠いている状態、すなわち法令違反の状態)ことから、経産大臣には「予想される自然現象のうち最も過酷と考えられる条件」として合理的に想定される津波に対しては、これを予見する義務があったと判断。そうした義務を前提として、2002年の「長期評価」の発表によって、原発が津波による損傷を受けるおそれがあることが判明し、安全性を欠いている状態になったのであるから、これを改めさせるべきであったにもかかわらず、規制権限を行使しなかった違法があると評価しました。

▶裁判所前で待ち構える原告や支援者に判決内容を報告する筆者、福島地裁前。
▶裁判所前で待ち構える原告や支援者に判決内容を報告する筆者、福島地裁前。

判決の論理は、たとえるなら、津波による損傷を受けるおそれのある原発を稼働させるのは、整備不良の飛行機をそのまま飛ばすのと同様だというもので、極めて明快です。 また、判決は、国の指針に基づく賠償の対象地域を拡大し、賠償金についても上積みを認めるなど、救済対象を広げる判断を示しました。

判決の意義と今後の課題

今回の判決は、国と東電の法的責任を認めた点に大きな意義があります。これまで国と東電は「津波は想定外だった」と主張してきました。判決はこれを明確に否定しました。原子力を扱う以上、危険を予見したのならば、万全の対策を講じなければならないという、当たり前のことではあるのですが、大変貴重な判断です。

また、「万全の対策を講じなければならない」という判決の趣旨は、再稼働を進めるいまの国の姿勢にも一石を投じるものです。というのも、新規制基準は、避難計画など住民の安全確保を含んでおらず、万全な対策を講じていないからです。安全性より経済的利益を優先させる姿勢に警鐘を鳴らす判決です。

被害・損害については、国の指針の不十分さを明確にし、国や東電が主張してきた「年間20ミリシーベルト以下では被害はない」とする“20ミリシーベルト受忍論”を退けました。地域については、福島県のみならず、茨城県の一部にも拡大しました。

何より強調されるべきなのは、生業訴訟では、原告に共通する損害を一律に請求し、「代表立証」(原告個別の立証に代えて代表者の立証で証明すること)の形を採ることにしましたが、これにより原告ではない人も新たに原告となれば、今回の判決と同様の救済を受けうる点です。原告にとどまらない、あらゆる被害者の救済に一歩踏み出した判決だといえます。

ただし、今回の判決では、わたしたちの主張がすべて認められたわけではありません。より高い水準で判決を勝ち取るべく、控訴審でさらに主張立証を尽くす予定です。原状回復、原告にとどまらない被害者全体の救済、さらには脱原発を求めて、引き続き全力を尽くします。

馬奈木 厳太郎