【論文】小規模自治体が向き合う橋梁の老朽化

  • 高木 直良(たかぎ なおよし)
    NPO建設政策研究所研究員

2018年3月15日

月刊『住民と自治』 2018年4月号 より

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5年に1度は行うことが義務付けられた橋梁の定期点検が市町村で54%まで進みましたが、小規模自治体ほど必要な補修や次期点検の実施に不安を抱えています。その実態と今後の方向性について考えます。

パウダースノーで有名な北海道ニセコ町(人口約5000人、一般会計予算規模約43億円)の「芙蓉橋」が2018年2月1日から1カ月間、補修工事のため全面通行止めになりました。2017年も同時期に補修工事を行いましたが、なぜ極めて条件の悪いこの時期に工事を行うのでしょうか。2017年はこの橋を多く利用する近隣農家の要望で、春から秋までは通行止めにはできませんでした。2018年の場合は橋脚部の水面近くの修復対象であるため、この川で盛んになったラフティングを妨げる河川の締め切りなしに工事ができる冬季を選んだのです。この地域ならではの事情といえます。

全国の自治体でこうした橋梁の維持補修の状況がいまどうなっているのか政府との関係を含め、実態を俯瞰してみたいと思います。

国土交通省「社会資本メンテナンス元年」と自治体の橋梁定期点検義務化

政府(国交省)の橋梁など社会資本の市町村を含む全国的な老朽化対策は、2012年12月に、NEXCO中日本の中央高速道笹子トンネル(山梨県大月市)の天井板崩落事故以降に本格化します。その「前史」ともいえる取り組みも多くありましたがここでは省略します。

国交省は翌2013年を「社会資本メンテナンス元年」として位置付け、「社会資本の老朽化対策会議」を設置し同年1月30日に緊急提言をまとめ、3月21日には3年間の施策を「社会資本の維持管理・更新に関して当面講ずべき措置」として決定しました。国交省は自ら「元年」と称したように、ここでようやく全国の自治体に対する財源的支援(社会資本整備総合交付金の充当)を含む実践的な方策を打ち出したことになります。

総務省の2008年の行政監査(注2参照)時の抽出調査では市町村の管理している橋の定期点検率は5・4%にすぎず、その背景には財政不足に加えて多くの町村で橋梁保全業務に携わっている土木技術者数が0人という実態があり、改善されていません(図1)。その後、社会資本関係の省庁横断の連絡会議も行われ、各省庁は各地方自治体に対する対策を求め、2014年7月には橋やトンネルなどの5年に1度の定期点検を義務付けたことで、各自治体での点検が一気に進みました。

図1 市町村における橋梁管理に携わる土木技術者の人数 出典:国土交通省『道路メンテナンス年報(2016年度)』2017年8月、45ページ
図1 市町村における橋梁管理に携わる土木技術者の人数
出典:国土交通省『道路メンテナンス年報(2016年度)』2017年8月、45ページ

同時期に、「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生」の閣議決定(2013年6月14日)で「インフラの老朽化が急速に進展する中、『新しく造ること』から『賢く使うこと』への重点化が課題である」とされたことを受けて国交省は「インフラ長寿命化基本計画」を策定(2014年5月21日)し、各地方自治体にも「公共施設等総合管理計画」の策定を求めました。

橋梁の老朽化と自治体の財政実態

また国交省は2014年に各都道府県に「道路メンテナンス会議」を設置し、今後5年間の点検計画をたてるように求めました。そしてこの年以降、全国の自治体が管理する道路施設全体の点検、補修計画作成、補修工事進捗度合いを調査し、同省が「道路メンテナンス年報」として公表しています。2017年8月には2016年度の実態を公表しました。この年報から見えてくることは、点検は進んできた(2016年度で橋梁は54%完了)がその後の対処が進んでいないということです。5年に1回(2014年~2018年)の点検ですから、2016年度の実績が54%であることはほぼ予定通りといえます。(ちなみにトンネルは47%)

点検調査は各橋を目視により行い、診断項目にしたがって、各部位ごとの評価と全体の健全度を判定し、その結果をⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと4ランクに分類します。Ⅰは「健全」で「構造物の機能に支障が生じていない状態」、Ⅱは「予防保全段階」で「構造物の機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態」、Ⅲは「早期措置段階」で「構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態」、Ⅳは「緊急措置段階」で「構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態」と定義されています。

雪のなか、修繕工事中の芙蓉橋(ニセコ町尻別川)
雪のなか、修繕工事中の芙蓉橋(ニセコ町尻別川)

先の「年報(2016年度)」によると市町村では、管理する橋梁47万8099橋のうち、13万3696橋の点検を実施した結果、判定区分割合は、Ⅰ43%(5万7138橋)、Ⅱ48%(6万4507橋)、Ⅲ9%(1万1911橋)、Ⅳ0・1%(140橋)であり、判定区分Ⅲの割合は、建設経過年数が長くなるほど高くなる傾向にあり、建設後40年を経過すると10%を超えると記されています。

この点検にもとづく修繕・措置について、国交省はⅡは「予防保全型修繕」、Ⅲは「事後保全型修繕」の実施を求め、全体として老朽化対策が進むことを期待しているのです。しかし、その進行度合い(着手率)は極めて低く(図2)、Ⅱ判定の「予防保全型修繕」では2014年度点検の3%、2015年度点検の1%にすぎず、Ⅲ判定の「事後保全修繕」は2014年度点検の16%、2015年度点検の9%となっています。

図2 事後保全型、予防保全型の修繕着手率※
※2014・2015年度に判定区分Ⅱ、Ⅲと診断された橋梁のうち、修繕(設計を含む)に着手した橋梁の割合(2016年度末時点) 出典:国土交通省『道路メンテナンス年報(2016年度)』2017年8月、17ページ
図2 事後保全型、予防保全型の修繕着手率※
※2014・2015年度に判定区分Ⅱ、Ⅲと診断された橋梁のうち、修繕(設計を含む)に着手した橋梁の割合(2016年度末時点)
出典:国土交通省『道路メンテナンス年報(2016年度)』2017年8月、17ページ

この結果は、現在の市町村の財政状況から見て当然の結果だといえます。限られた財源をどこから使うかといえば、点検結果で傷みのより激しく修繕を急がれるものから着手するのが自然だからです。各自治体、とりわけ小規模な市町村にはまったく財政的余裕はないため、Ⅲ判定のうちでもⅣに近いものから順に手を付けていこうというのが実態です。

ニセコ町の場合、最初に記した「芙蓉橋」1橋の修繕も4カ年に分けて(4年目は橋台の補修)行うので、次の橋梁修繕は2019年度以降になるといいます。同町のⅢ判定の橋は55橋中7橋であり全部を完了するのはまだ先になりそうです。ニセコ町に近く、やはりリゾート地を抱える北海道留寿都村(人口約2000人、一般会規模計約25億円)の場合、2016年度点検結果では25橋中21橋がⅢ判定(うち11橋は15㍍以上)とされていますが、1橋を2カ年に分けて修繕する状況という厳しい実態があります。

自治体が向き合う整備と維持、補修の困難

ニセコ町の場合、建設課5係6人のうち土木職は土木係長の1名のみです。計画的に進める事業は道路整備(近年は歩道設置工事、橋梁改修)、舗装補修ですが、管理係と連携して道路施設改修や冬季の除雪関係対応も行っており、多忙を極めています。

留寿都村の場合も農林建設課の建設係・水道係5人が村営住宅や除雪を含む建築土木部門と上下水道を受け持っているのですが土木職の職員は配置されていません。

2014年7月、国交省は橋梁やトンネルの5年に1度の定期点検を義務付け、2018年度で1巡目が終わり、次のサイクルに入っていきます。ニセコ町の土木係長は2巡目の点検を進めることに戸惑いを感じると話しています。今回の点検で健全度がⅠやⅡに判定されたものも一律に対象とするのは実態にそぐわないし、点検業務の委託費(約3000万円)の確保ができないのではないかという心配からです。

愛知県豊田市は「健全度Ⅰと診断された橋梁に対しては、自治体で点検頻度を決められるようにすること」や「近接目視以外に小型無人機などの新技術活用を導入すること」を内閣府に提案しています(『日経コンストラクション』2017年11月13日号報道)。

豊田市の規模は人口約42万人、2017年度当初予算一般会計規模1783億円であり、予算規模ではニセコ町の45倍にも達するのですが、「豊田市の管理する橋は、1200橋ほどあり、年間240橋くらい点検する必要がある。費用は毎年1億円程度で、これが未来永劫続くことになる」と述べ「維持管理の予算の多くを点検費用が占めていて、肝心の補修にかける予算を圧迫している」(『日経コンストラクション』2017年11月13日号報道)として財政上の負担の重さを訴えているのです。この提案を支持する自治体があることも紹介されていますが、現在のところ国交省はこうした声には否定的です。確かにコンクリート橋のひび割れが現在軽微である場合でも、その進行が思いがけず早い場合もあり、5年後の点検が不要とは限らないからです。

橋の表面の舗装や高欄などの傷みの進行は、日常の職員の巡回や利用者からの通報などで発見は比較的容易ですが、橋面の裏側の状態を通常は目視することはできません。5年ごとの点検時には専用の橋梁点検車・高所作業車を使用したり、大掛かりな仮設足場を組んで近接目視を行うことで可能となりますが、とくに小規模自治体には点検を継続する費用は大きな負担となります。さらに点検結果による必要な補修を適切に実施することは困難となっています。前述のように各自治体は多くの「公共施設」(庁舎や公営住宅など)に関してもやはり老朽化の進行への対策、耐震補強を進めなければなりません。関係各省庁からの一定の補助金が用意されてはいますが、要求に対しては6割程度の確保にとどまっているなど自治体にとっては極めて重い負担となっています。

人口減少時代の橋梁などの維持管理

2014年に出された日本創成会議の「ストップ少子化・地方元気戦略」(いわゆる「増田レポート」)は、若年女性の減少に注目し「消滅可能性都市」という言葉で自治体を名指しし、大きな社会的衝撃を与え、政府の「地方創生」や「国土のグランドデザイン2050」にも反映されました。「地方創生」には「地域再編」の戦略が位置付けられ、国土政策の基本には「コンパクト+ネットワーク」を置くという構想です。

研究者からも歯止めのかからない人口減少の進む集落の「集団移転」という選択肢も提案(林直樹ほか「撤退の農村計画論、学芸出版社、2010年)されています。また「住宅や田畑を含めた集落の集約」(作野広和島根大教授)により「むらおさめ」を視野にいれた議論も出されています。

2016年度「道路メンテナンス年報」では橋の点検の結果、Ⅳ「緊急措置段階」と診断された橋は市町村では371橋で、これに対し架け替えや大規模改修をできるのは56%で、「撤去・廃止」23%、対応「未定」が20%と報告されています。少なくない自治体で、Ⅳ判定の橋を架け替えるのか、住民を説得して撤去をするのかという厳しい選択を突き付けられています。

単体で機能しているハコモノ公共施設と異なり、道路や上下水道などの公共土木施設はネットワークとしてつながっていることで機能しています。農村部の集落の多くは分散しており、ネットワークが断たれることは集落の存亡にかかわることです。

個別の橋の存廃は市町村の単位では論じられず、橋の先にある集落(コミュニティー)をこれからどう位置付けるのか、集落の人々の生活をどう守るのかというまちづくりの方向性、政策と一体に考えるべき課題です。大事なのは地域のコミュニティーをどう守り、維持するのか、地域の小学校の統廃合問題や高校の再編問題にどう対応するのか、買い物できる店をどう守るのかという問題の先にこの橋を維持し架け替えるのか、または撤去するのかという問題の結論があります。場合によっては、地域のあるエリアに集住することが必要になり、結果として撤去の選択もありえます。

小田切徳美『農山村は消滅しない』(岩波新書、2014年)では「低密度居住地構想」の必要性を論じており、高知県の県内15カ所の「集落支援センター」づくりが紹介されています。

前出の2016年度の「道路メンテナンス年報」では高知県全体で判定Ⅳの橋は18(うち大豊町で6橋)に上ります。これらの橋を今後架け替えるのか、撤去を検討するのかは行政側の一方通行の判断ではなく各地の「集落支援センター」などの活動を通して、住民の意思による各集落の将来の姿と結びついた判断を期待したいと思います。同時に国はⅣの橋をこれ以上増やさないためにも判定Ⅲの橋梁の補修をどの自治体も早急にできるよう人材と財政の支援を強化すべきではないでしょうか。

【注】

  • 1 河川流水より下の部分の構造物の工事のために工事個所に河川水が入らないように鋼矢板などによって囲うことです。
  • 2 1980年代のいわゆる「荒廃するアメリカ」を教訓とする2003年国交省の検討委員会による「アセットマネジメントシステム導入」答申、2007年に国内の鋼トラス橋の部材の破断発見や、同年8月のアメリカ・ミネアポリス市のつり橋事故後の「道路橋の予防保全に向けた有識者会議」による提言、2008年総務省による「社会資本の維持管理及び更新に関する行政評価・監視」での道路橋の保全対策等を中心にした全国的な調査と対策の勧告などがあります。
  • 3 総務省は2014年に各自治体に「公共施設等総合管理計画」の策定に取り組むよう要請しました。ここでの「公共施設等」は、「いわゆるハコモノの他、道路・橋りょう等の土木構造物、公営企業の施設(上水道、下水道等)、プラント系施設(廃棄物処理場、斎場、浄水場、汚水処理場等)等も含む包括的な概念である」とされています。

2018年3月15日

月刊『住民と自治』 2018年4月号 より

  • 高木 直良
    高木 直良(たかぎ なおよし)
    NPO建設政策研究所研究員

    1946年北海道生まれ、北海道大学工学部卒後東京都建設局勤務。2006年退職後2015年までNPO建設政策研究所研究員として勤務。北海道ニセコ町在住。著書に『公共事業再生』『「都市再生』がまちをこわす』(いずれも自治体研究社、共著)

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