【論文】だれのためのコンビニ 第3回 ブラック化するコンビニ・バイト


コンビニの仕事で見逃せないのが、アルバイトやパートの問題です。クリスマスや節分のときには、ケーキや恵方巻きの販売ノルマが従業員に課され、自腹を切って購入させる「自爆営業」が以前話題になりました。今回は、コンビニ店舗の労働問題を取り上げてみます。

ブラック労働の中身

表1は、求人情報会社が集計した56職種の募集賃金のうち、下位10位までを取り出したものです。2018年8月現在、三大都市圏の平均時給は1000円を超えましたが、コンビニは955円で、56職種中、下から2番目の低さです。過去5年間の賃金の伸び率も、全体平均を下回っています。ちなみに、首都圏に絞ると、2017年10月に改訂された東京の最低賃金は958円でしたが、同時期のコンビニの時給は1005円、最低賃金を50円ほど上回る水準でした。2018年は985円への改訂が決まっていますので、時給も上がることが予想されます。

表1 三大都市圏におけるアルバイト・パートの 募集時給動向(全56職種のうち下位10位)
表1 三大都市圏におけるアルバイト・パートの 募集時給動向(全56職種のうち下位10位)
注:リクルートの3誌掲載の求人データ。56職種のうち、下位10位を抽出。
出典:リクルートジョブズリサーチセンター『アルバイト・パート募集時平均時給調査』各年版から筆者作成。

接客や陳列、発注、清掃……コンビニの業務は多岐にわたります。店内は多品目・多機能ゆえに迅速に対応しなければなりません。それなのに低賃金ですから、コンビニ・バイトは敬遠され、深刻な人手不足を招いています。しかし、待遇改善の余地は限られています。経営者という名目上、本部への高いロイヤルティーを支払った後に店舗運営の労働コストを負担するため、オーナーにとっては賃金を引き上げれば自身の所得がさらに引き下がる構造になっているからです。しかも、既存店の売上高の最近の伸び率は1%未満なのに、最低賃金は年3%伸びており、最低賃金アップに伴う人件費増が店舗経営とオーナーの利益を一層圧迫しています。

加えて、不適切な労務管理も問題になっています。2017年に東京労働局が行った監督指導結果によると、監督を実施した269事業場のうち96%で法違反が見つかっています。主な内容は、違法な時間外労働や定期健康診断の未実施でした。また、労働法への不十分な理解から、従業員への不当な扱いも生じています。厚労省が2015年に行った「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査」では、シフト変更や休憩なしが他の職種よりも高めであったほか、商品などの買い取り強要をされた人が1割に上りました。

長時間営業の弊害も出ています。ファミリーマートの従業員が、月200時間以上の残業で勤務中に過労で事故死するという悲劇が起きました。この件では訴訟となった末に、2016年に遺族と和解に至っています。

最後の手段としての外国人労働力

深刻な人手不足が進むなか、新たな戦力として注目されるようになったのが、シニア世代や外国人留学生です。とくに、外国人は、ここ数年で急激に増え、大手3社だけで5万人、従業員全体の5~8%を占めるに至っています(表2)。とくに都市部では、外国人留学生なしにはもはや成り立たなくなっています。

表2 コンビニ大手の外国人労働者数
表2 コンビニ大手の外国人労働者数
注:2018年8月末現在。いずれも概数。
出典:『朝日新聞』2018年9月20日付。

また、コンビニ大手は、国内外で外国人を戦略的に確保する取り組みも行っています。ローソンは、国内70の日本語学校と提携するほか、2015年にはベトナムと韓国に現地研修所を開設し、来日前に接客などの事前研修を行っています。また、2009年からベトナム人留学生向けに奨学金制度を設けましたが、ローソンでのアルバイトが支給の条件になっています。ファミリーマートも、2016年から留学生バイトを確保するため、国内の専門学校と提携を結んでいます。セブン-イレブンも、2018年からベトナムの大学からインターン生の受け入れに着手するようになりました。

しかし、外国人従業員は、大半が留学生で、法律上、週28時間までしか働けません。コンビニは24時間営業ですから、それに見合う労働力としては十分ではないところがあります。そこで、外国人労働力をもっと受け入れようという動きも登場するようになりました。コンビニ業界が加盟する日本フランチャイズチェーン協会は、2017年末に外国人技能実習制度の対象職種として、また2018年9月には2019年春新設予定の在留資格の対象業務として、コンビニを追加するよう、厚生労働省への要望を目指すことを公表しました。

業界側の説明では、この目的は海外展開の戦力としての活用であると強調していますが、人手不足対策としての安い労働力導入の側面はぬぐえません。しかも、技能実習制度は、これまでにも人権侵害が続発していて、強制労働との批判が絶えない制度です。もし外国人労働力がこのままの調子で増えていけば、日本人はコンビニの仕事からますます離れ、コンビニは外国人主体の低賃金職種として固定化されてしまうおそれがあります。

根本にあるFC契約と本部の責任

果たして、外国人への依存を高めるだけで、コンビニの問題は解決するのでしょうか。

そもそも、先に紹介した低賃金・長時間労働は、悪質な加盟店オーナーによる逸脱というよりも、加盟店が本部の指揮下で経営するいまのFC契約が問題の根本にあります。「自爆営業」も、本部主導で発注目標が設定され、仮に拒否すれば契約更新されないおそれがあるため、従わざるをえないところからきているといわれています。つまり、本部による加盟店コントロールのしわ寄せが、末端の従業員にかかっているのです。

コンビニのブラック労働を解消するには、外部からの安易な労働力調達に頼るのではなく、本部がこの問題に責任を持ち、加盟店の側に立って内部をどこまで改革できるかにかかっているといえるのではないでしょうか。

岩佐 和幸

主著に『入門 現代日本の経済政策』共編、法律文化社、2016年。『資本主義的グローバリゼーション』監訳、高菅出版、2015年など。