【論文】「『我が事・丸ごと』地域共生社会」からみた「自治体戦略2040構想」

  • 大沢 光(おおさわ ひかる)
    青山学院大学法学部教授

2019年3月5日

月刊『住民と自治』 2019年2月号 より


「自治体戦略2040構想研究会 第二次報告」は、「新たな自治体行政の基本的考え方」の一つに「公共私によるくらしの維持」を挙げています。本稿は、その具体的な内容に迫ります。

「公共私によるくらしの維持」と「圏域単位での行政」

2018年7月に公表された「自治体戦略2040構想研究会 第二次報告」(以下、「2040報告書」という)は、「人口減少と高齢化に伴って、自治体職員の減少、地縁組織の弱体化、家族の扶助機能の低下、民間事業者の撤退などが生じ、公共私それぞれのくらしを維持する力が低下する」ため、自治体の役割を「プラットフォーム・ビルダー」へと転換し、新たな「公共私の協力関係」を構築すべきだとしています。「圏域単位の行政」とは、こうした役割を持つことになった自治体が最大限効率的に行政サービス提供を行いうる単位という観点から構想されたものとみることができるでしょう。

2040報告書については、すでに総論のレベルで地方自治の保障という観点から重大な問題があることが指摘されています。そこで本稿は、2040報告書が描く、行政サービス、とりわけ福祉サービス提供に係る「新しい公共私の協力関係」とはいかなるものなのかという問題関心から、2040報告書の「公共私によるくらしの維持」に焦点を当ててその内容を検討することにします。

「プラットフォーム・ビルダーへの転換」と「新しい公共私の協力関係」

2040報告書における「公共私によるくらしの維持」論のポイントは、「『プラットフォーム・ビルダー』としての自治体」と、「サービス提供の担い手としての『共助の場』の創出」にあるといってよいでしょう。

「プラットフォーム」という言葉は、ソフトウエアが動作するときの基盤(OS、環境、設定など)のことを指しています。ここでいうソフトウエアとは、「新たな各府省の施策(アプリケーション)」を意味しており、このソフトウエアの開発は、関係府省間が連携して取り組む必要があるとされています。こうした点で、厚労省が現在進めている「『我が事・丸ごと』地域共生社会」を目指す施策が、今後、一定の修正などを経てソフトウエアとして導入されていく可能性は極めて高いと考えられます。

それでは、自治体が「プラットフォーム・ビルダー」であり、その職員が「プロジェクトマネジャー」であるとすれば、だれが「各府省の施策(アプリケーション)」を実際に動かしてサービスを提供していくのでしょうか。それが「共」や「私」、とりわけ「共」ということになるのでしょう。なぜなら、「公的部門、民間部門、いずれもが労働力の供給制約を受ける中に」あるからです。それゆえ、「定年後の世代はもちろん、現役世代であっても、一定時間は助け合いの役割も担う『一人複役』が可能となる環境を整備することが必要」であり、「高齢者も含めた誰もが、支える側にも、支えられる側にもなることができる仕組みが求められる」というのです。他方で、自治体には、「放置すれば深刻化し、社会問題となる潜在的な危機に対応し、住民生活の維持に不可欠なニーズを、より持続的、かつ、安定的に充足するために」、「ソーシャルワーカーなど技能を習得したスタッフが随時対応する組織的な仲介機能が求められる」といいます。このようにして、労働力および財源が制約されていくなかにおいて、「公が共や私との連携を前提としてくらしを支えていくためには」、具体的には、「共や私において必要な人材や財源を確保できるようにする必要があ」り、そのため、「公として適切に支援や環境整備を行うとともに、将来の財源のあり方についても議論していく必要がある」というのです(傍線筆者。以下同じ)。

このようにして、自治体は、ソフトウエアとしての「各府省の施策」を動かす「担い手」としての「共や私」を支え、「共や私」において必要な人材や財源を確保できるようにする「支援や環境整備」を行う役割に限定されるのです。

それでは、この「支援や環境整備」はどのようにして行われるのでしょうか。また、ここでいう「将来の財源のあり方」についてはどのように考えられているのでしょうか。

2040報告書は、大都市部においては、「共助の場を創出する」ため、「地域を基盤とした新たな法人を設ける必要」を説き、地方部においては、「地縁組織の法人化等により、組織的基盤を強化する必要」を唱えています。いずれも、権利義務の主体となってサービス提供を行うことができる法人化が念頭に置かれているようであり、今後、「新たな地域自治組織」が新たな行政サービス提供主体として構想される可能性も指摘されています。しかし、ここでは、こうした議論には深入りせず、先の問いに対する一つの解答を示した2017年の社会福祉法(以下、単に「法」という)の一部改正(以下、単に「2017法改正」という)の内容を考察することで、2040報告書の内容を具体的につかんでいくことにします。

2017年社会福祉法一部改正と「共助の場」の創出

2017法改正は、「地域共生社会」の実現を目指した「地域包括ケアシステム強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」(2017年6月公布。平成29年法律第52号)において行われています。

「地域共生社会」とは、「制度・分野ごとの『縦割り』や『支え手』『受け手』という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人一人の暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指す」構想です。この構想の核心は、福祉サービスの担い手を創出する「地域づくり」にあります。2040報告書が示す「共助の場」の創出が具体化されているといえるでしょう。

それでは、2017法改正のうち、①「共助の場」の形成・創出(法4条、5条、106条の2、106条の3)と、そのための②「市町村における包括的な支援体制の整備」(法6条、106条の3)について概略を見ておきましょう。

(1)「共助の場」の形成と創出=「我が事・丸ごと」の「地域づくり」

2017法改正は、「地域住民等」に対し、「福祉・介護・介護予防・保健医療・住まい・就労及び教育に関する課題」や社会的孤立といったさまざまな生活問題(「地域生活課題」と称されます)について、支援関係機関(「地域生活課題の解決に資する支援を行う関係機関」をいいます)と連携等をすることにより解決を図るよう留意することを義務づけました(法4条2項)。そして、社会福祉法人などの「社会福祉を目的とする事業を経営する者」(以下、「社会福祉事業者」という)やボランティアなどの「社会福祉に関する活動を行う者」には、新たに「地域福祉の推進に係る取組を行う他の地域住民等との連携を図」る努力義務が課せられました(法5条)。

このようにして、まずは「地域住民等」(「地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者」(法4条1項)をいいます)に地域の生活課題を解決することが求められますが、そのうち地域住民などでは対応困難であり、かつ、自ら適切な支援が困難な生活課題を社会福祉事業者のうち相談支援事業などを行う者が把握したときは、支援関係機関の必要性を検討し、必要があると認めるときは支援関係機関に対し支援を求める努力義務が課せられました(法106条の2)。

こうした法改正によって、地域の生活課題の解決のための「地域」のネットワーク化が進められました。これは、地域包括ケアシステムの深化・促進の取り組みの一つとして位置づけられた施策です。具体的には、福祉・介護・保健医療・住まいなどの「生活に不可欠なニーズ」に係るサービス提供は、原則として「住民に身近な圏域」(小学校区が例示されていますが、合併などにより小学校区域が大きくなっている場合には、自治会を単位とすることなども例示されています)において存在する多様な主体、たとえば、地区社協、社会福祉法人、NPO法人、住民ボランティア団体、学校、PTA、老人クラブ、子ども会、民生委員・児童委員、自治会などの連携などにより解決が図られることになりました。そして、国および地方公共団体には、こうしたネットワーク化を促進する施策や措置を講ずる努力義務が課されました(法6条2項)。このようにして、2017法改正により、福祉サービスの提供を「地域」に担わせるアウトソーシング化・ネットワーク化が図られたのです。

もっとも、サービス提供の担い手とされる「地域」の機能は、2040報告書が指摘するように低下しています。そこで、2017法改正を受けて、2017年12月12日に、「社会福祉法に基づく市町村における包括的な支援体制の整備に関する指針」(厚労省告示第355号)(以下、単に「告示」という)が公表され、これに基づき、市町村は「包括的な支援体制の整備」(法106条の3第1号から第3号まで)のための事業を行うことが求められました。すなわち、①「地域力強化推進事業」、および、②「多機関の協働による包括的支援体制構築事業」です。

(2)包括的な支援体制の整備

(1)─①は、福祉サービスの担い手となる「地域」力を強化する取り組みを行うものです。たとえば、住民・町内会などや、地域のまちおこし・産業などの他分野への働きかけ、地域課題を早期に発見するための活動拠点整備、住民などに対する学習会の実施や地域福祉活動へのきっかけづくりなどの事業が挙げられます。また、地域住民の相談を「住民に身近な圏域」において「丸ごと」受け止め、助言、情報提供を行い、必要に応じて支援機関につなげる場として、地域住民のボランティア、地区社協、地域包括支援センター、相談支援事業所、地域子育て支援拠点、福祉各制度に基づく相談支援機関や地域に根差した社会福祉法人、NPO法人などが挙げられており、これらの団体によるネットワークの形成が図られています。

(1)─②は、「市町村域」において、生活困窮者自立相談支援機関や地域包括支援センターなどを中核として、市町村が多様な相談支援機関と連携し、必要な支援を「コーディネート」する体制を整備する事業です。

さらに運用のレベルでは、社会福祉施設などの職員の社会福祉サービス活動専従基準の見直しや、社会福祉法人は、直接社会福祉に関係しなくても地域社会に参加・協働するものであれば「社会福祉サービス」として公益的活動ができることなどが通知され、拡大解釈による規制緩和も進められています。

2040報告書が描く「新しい公共私の協力関係」像

2017法改正の内容から、2040報告書が描く「新しい公共私の協力関係」像が具体的に見えてきます。すなわち、住民生活に不可欠なニーズに対応する福祉サービスは「地域」へアウトソーシングされてこれが担い、自治体は社会問題化しうる深刻な地域生活課題についてのみ、コーディネーターとして支援関係機関への仲介機能を果たすことになります。そして、自治体のもっぱらの役割は、「地域」がサービス提供の担い手として十分に機能できるよう支援し、環境整備(体制づくり)をすることに限定されるのです。

そして、このようにして福祉サービスの提供がもっぱら「共助の場」としての「地域」において担われることになれば、福祉サービス提供に必要な人材・労働力も「地域」が自前で調達するよう求められる可能性があります。そこで、さらに、2040報告書が示していた「将来の財源のあり方」について、告示が示す内容を見ておくことにします。

告示における福祉サービス提供に係る財源調達についての考え方

(1)─①の実施については、既存の地域づくり事業の一体的実施による各分野の補助金の柔軟な活用、共同募金の活用、クラウドファンディングやソーシャル・インパクト・ボンドの導入が示唆されています。たとえば、ソーシャル・インパクト・ボンドとは、「社会投資債」とも訳されるように、投資を通じて社会貢献をする取り組みのことです。また、地域づくり事業は地方創生政策とも関連づけられており、地方創生交付金との連携も想定されています。このように、福祉サービスに係る費用を(租税により)新たに公的に負担すべきとの考え方はもはやどこにも見られません。

次に、(1)─②の実施については、「本事業や、地域に不足する新たな社会資源の創出・運営に係る財源を安定的に確保する観点から、」「社会福祉法人による地域貢献の取組や共同募金の活用、企業又は個人からの寄付金拠出の働きかけ等」(実施要領(案)8㌻)の取り組みの推進が求められています。社会福祉法人が保有する資産などを活用して公益的取り組みなどをすることとした制度改正はすでに2016年になされています。そして、市町村は、このようにして「確保した自主財源等を原資として、主任自立支援相談員や生活支援コーディネーターなどの多職種間での連携・協働を図りつつ、ボランティア等地域住民の参画を促し、単身世帯への見守りや買い物支援、各種制度の対象とはならない生活支援サービスなど、地域に不足する社会資源の創出を図るための取組を推進する」(同上)というのです。

このように見ていきますと、2040構想が描く「新しい公共私の協力関係」において「くらしを維持」するための行政サービスの財源は、原則として、公的負担ではなく、企業の寄付やボランティア、投資などにより「地域」が「自主的に」賄うことが想定されていると考えられます。行政サービス提供に係る財源・費用負担のあり方についても、大きな転換が目指されていると見ることができます。

「地域」・「圏域」と行政サービス受給権の保障

2040報告書が描く新たな「公共私の協力関係」においては、行政はもはや行政サービス提供の協働の相手方でさえありません。市町村(行政)はまさに「プラットフォーム・ビルダー」として、福祉などの公共のサービスを提供する基盤=地域づくりを誘導し、推進する役割と責任のみを負うにすぎません。すでにみてきたように、こうした構想はすでに具体化され始めており、「共助の場」の形成・創出の体制づくりが着々と進められていることに留意しておくべきでしょう。

地域における事柄は地域の住民自身で解決する、という理念自体は否定されるべきことではないでしょう。しかし、これまで見てきたような具体的な制度改革の有り様からすれば、2040報告書に基づく制度設計では自治体間の福祉サービス水準の格差をもたらすことは明らかでしょう。それゆえに、2040報告書では、「圏域単位」での行政のスタンダード化により、少なくとも介護保険運営を「圏域単位」で行うことでこれを安定化させ、圏域内に地域包括ケアシステムを構築し、圏域内の自治体が連携して効率的に医療・介護サービスを提供する体制を整えるという方向性が目指されているように見えます。2040報告書の「東京圏のプラットフォーム」という構想にはこうした意図があるように考えられます。そして、それ以外の福祉サービス提供は、「地域」の自主財源により、圏域内の自治体間あるいは「地域」間の格差を当然のこととして、「地域」のなかで地域住民などが連携して対応する、という姿になるのではないでしょうか。

自治体は、憲法上、住民の生活に不可欠なニーズを保障する責務を負っており、民間団体によるサービス提供が行われない場合に自治体が直接これを保障する責任を負うべきことは、各社会福祉立法に定められているところです。また、こうした福祉サービス受給権の保障に係る責任を国も負っているのであり、自治体においてこれが困難である場合には、国が補完すべき責任がありますし、何より福祉サービスの質を担保するためのさまざまな措置をとる責任があります。

「地域」が福祉サービスを原則として担うことから、こうした「対人サービス」を担う人材は福祉に係る専門性を必ずしも持たなくてもよい、ということにもなりかねません。また、サービスの質の担保や問題が起きたときの法的責任を負う主体も曖昧です。後者の問題は、サービス提供を担う組織の法人化という議論ともかかわってくる問題です。国や自治体による福祉の専門性や人員配置などのサービスの質の確保、そしてニーズに応じたサービスの保障のあり方が、改めて問われているのです。

また、「地域づくり」では、しばしば住民が「主体的に」「参加」しあるいは「参画」して協働する、といわれますが、ここでいう住民参加は、地域のあり方に係る民主的な決定への参加、とりわけ費用負担のあり方に係る意思決定への参加を意味してはおりません。ここでは、「我が事」として福祉サービス提供に関わることを「主体的な参加」といっているにすぎません。仮に、地域のなかでどのようにして福祉サービスを提供していくのか、その方法に関わる意思決定に参加する仕組みが創られたとしても、それだけでは十分ではなく、行政機関が行使すべき権限や費用負担の配分・分配に関わる「参加」権が語られなければなりません。法的なレベルでの福祉サービス提供にかかる自治や民主的決定のあり方については検討すべき論点が多々あるのではないかと考えます。なお、ここでいう参加には、福祉サービス受給権の保障のプロセスに参加する手続的権利という趣旨も見られません。

最後に、「地域」を担い手と位置づけ、こうした「共」に「正式」な制度では「対応できない」・「しない」公共サービスを担わせる現象が広くみられるようになってきた今日、ニーズに応じた行政サービス受給権の保障のあり方という理論的課題が改めて提起されていると考えられます。

【注】

  • 1 さしあたり、ガバナンス2018年9月号の「特集 『基礎自治体』の行方」を参照。
  • 2 「『我が事・丸ごと』地域共生社会」構想の内容やそれが持つ問題性等については、さしあたり、ⓐ住民と自治2017年7月号の「特集 我が事・丸ごと『地域共生社会』の不安と希望をめぐる」や、ⓑ福祉のひろば2018年3月号「特集 『我が事・丸ごと』地域共生は現場にどのような影響を及ぼしているのか」などを参照。
  • 3 白藤博行「地方自治保障戦略なき『自治体戦略2040構想』」地方自治職員研修2018年11月号32㌻。
  • 4 地域共生社会の実現という側面からの同法改正については、たとえば、芝田・前掲注(2)ⓐ6㌻以下を参照。
  • 5 「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」(2017年2月7日 「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部)7㌻。これは、「経済財政運営と改革の基本方針2016」および「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月2日閣議決定)を踏まえ、「地域力強化検討会中間とりまとめ」(同年12月26日)を受けて作成されたものです。

2019年3月5日

月刊『住民と自治』 2019年2月号 より

  • 大沢 光
    大沢 光(おおさわ ひかる)
    青山学院大学法学部教授

    専門は行政法学。主な研究対象は、社会福祉の法制度です。

▲ ページの先頭へ戻る