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【座談会】座談会 何が課題? どう改革する? 児童相談所問題―野田市の心愛さん死亡事件の二つの報告を踏まえて

  • 浅井 春夫(あさい はるお)
    立教大学名誉教授
  • 小宮 純一(こみや じゅんいち)
    ジャーナリスト
  • 仙田 富久(せんだ とみひさ)
    スクールソーシャルワーカー
  • 畑井田 泰司(はたいだ やすし)
    横浜市南部児童相談所
  • 2020年5月17日
  • 月刊『住民と自治』 2020年4月号 より

千葉県野田市で昨年1月、小学4年生の栗原心愛さん=当時(10)=が虐待により死亡しました。その死から私たちは何を学ぶべきか。子どもの権利の立場から、児童相談所の改革課題を考えます。

はじめに

浅井:最初に子どもの虐待問題との関係を含めて自己紹介をお願いします。

畑井田:横浜市役所に入庁以来ずっと児童相談所で一時保護所を担当してきました。去年、異動で虐待対応チームの係長になり、お子さんの直接処遇から親御さんの支援へかわり、内心戸惑いがあります。ケースワーカーの経験が十分でないため、若い皆さんのエネルギッシュな動きに助けられています。

仙田:児童相談所の児童指導員や児童福祉司としての10年を最後に京都府を退職し、その後京都府のスクールソーシャルワーカーとして10年従事しています。その他に市町村で8年ほど要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)の虐待対応専門員を務めながら、ホームレスの相談員を5年、そして子どもの権利の運動をしています。

(* 要保護児童対策地域協議会:関係機関が情報や考え方を共有し、要保護児童等への適切な支援を図ることを目的に地方公共団体が設置・運営する組織。)

小宮:埼玉県の地方新聞社の記者として30年間取材し、フリーになって11年やっています。子ども虐待の取材で自分に課してきたことは、特に死亡事例です。全てをきっちり検証したり、取材すれば教訓がつまっています。いまは、子どもを絶対に死なせない児童相談所を想定した漫画『新・ちいさいひと』などの取材をやり、週刊『金曜日』に記事を書いています。

児童相談所の何が「問題」か

○児童相談所バッシングを考える

浅井:いま児童相談所が、組織的にと言ってもいいくらいにマスコミにたたかれています。どこに問題があり、どんな論理が使われているのでしょうか。

小宮:本当にほれぼれするような、この人だったら深掘りをして取材したいと思うような児童福祉司がいなくなりました。それは、厚生労働省の専門官も市町村も同じです。検索すれば分かるようなことしか言わない。児童福祉司は、僕の取材では10年やってようやく一人前です。ところが、10年以上の経験年数をもっているのは全体の15%で、7割が5年未満です。

一番言いたいのは、現場の力量が落ちていることです。特に家族全体のアセスメントがきわめて脆弱です。「調査」にとどまっており「評価」がありません。チェックリストやアセスメントシートなど、国が出したものをひな型に翻訳しているだけです。自分の眼と耳で調べ、判定会議で討議しなくてはいけません。

仙田:千葉県は野田市の事件で県柏児童相談所所長等に文書訓告を出しましたが、行政処分ではありません。いち早く行政のトップや本庁が責任を回避し、現場が悪いとおとしめられています。私の知る限りでは、トップの知事が謝罪をしたことがありません。

表1 野田市の虐待死事件の主な経過
表1 野田市の虐待死事件の主な経過

マスコミも、小宮さんのようなベテラン記者は少なく、中身を十分に分析していません。特定のメディアに登場する元児童相談所児童心理司や、「児童相談所だけには任せておけないので警察が全件把握して」といった発言をしている元警察官僚のNPO代表など、一部の方々の意見を増幅して、一部マスコミが児童相談所なんて役に立たないという世論づくりをしています。

浅井:児童相談所が家族を分離させ、家族の崩壊につながるという考え方に基づいた特定の団体の人たちが、組織的に児童相談所を攻撃しています。バックには日本会議の流れもあります。

畑井田:現場の児童福祉司は頑張っています。夜遅くまで残業し、これも規制があり月60時間。アセスメントシートはあくまでも手段なのに、それを作ることが目的になっています。ケースに向き合って親御さんとしっかり話をする、いわゆる種をまく時間がすごく制約されているなと思います。

あとは人事制度です。公務員なので数年で異動しなければいけません。そうなると、せっかくの人間関係、人脈の蓄積がみんな消えてしまいます。また、法律がいろいろ変わって、現場の体制が追いついていません。その研修へ参加している間に仕事がたまって、それをこなすのに土日も返上です。

浅井:私が気になっているのは、現場に結果的に責任を押し付けるようなマスコミの報道の出し方です。もう少し構造的に問題を考えていかなければいけない課題があるはずです。あえて言えば子どもの命を救っているケースの方が多いはずなのに、その点についてはほとんど評価もありません。

○内部と外部から見えること

浅井:児童相談所の内部では何が話題になっているのでしょうか。

畑井田:虐待ケースがどんどん増えている(表2)のはなぜだろう、ということが一つあります。警察からの通告、とくに心理的虐待の通告が多く、その対応に追われてしまっています。本当は今日は面接だったけれども、通告があったからそこに行かなければいけない、という話を現場ではよく聞きます。

表2 児童相談所における児童福祉司一人当たり相談対応件数(2018年度)
表2 児童相談所における児童福祉司一人当たり相談対応件数(2018年度)
注)厚生労働省の各年度「福祉行政報告例」から編集部作成。
児童福祉司配置数は2018年度3252人、2013年度現在1733人。(各年度4月1日現在、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課調べ)
児童虐待座談会補足資料
厚生労働省「平成30年度福祉行政報告例週結果の概要」から仙田富久氏作成

横浜市には児童相談所は4カ所ありますが、人口約370万人なのであと2つは必要です。作るとニーズの掘り起こしになるのはわかりますが、今の体制だと一時保護所も含めて、なかなか子どもの切実な声や、親御さんの悲痛な叫びが届きにくくなっています。職員は増員されていますが、「いや~児童相談所かあ」といった正直な声の方が多いです。

仙田:やはり児童相談所の数ですね。人口50万人に一カ所が標準といわれていますが、そんなもので足りるはずがありません。京都府の場合は30万人程度に1カ所ですが、私がいた10年前でも丸一日ケース会議です。地域が離れているので出かけて行くのにも時間がかかります。適正規模をもう一回考えてみる必要があります。

一時保護所のキャパシティもあります。今日でもすぐに保護しなければならないケースに対応できていません。

もう一点、「児童相談所運営指針」や「子ども虐待対応の手引き」がありますが、現実には自治体によって随分と扱いが違います。児童相談所の全ての対応のうち児童福祉司指導の割合も、東京都は全国一の7・9%ですが、千葉県は0・17%です。こんなに違いがあっていいのでしょうか。

(* 児童福祉司指導:児童福祉法27条第1項第2号の規定による措置(法的権限の行使)としての在宅指導。)

図1 児童虐待対応の基本的な流れ
図1 児童虐待対応の基本的な流れ
「市町村・都道府県における子ども家庭支援体制の整備に関する取組状況について(厚生労働省子ども家庭局、2019年1月)の図を編集部で一部修正。

浅井:職員の配置基準は予算上徐々に改善はされてきていますが、児童相談所を人口50万人に1カ所など、最低基準として法制化しなければいけない問題が、なおざりになっています。国の責任が問われます。

○ジャーナリストの立場から見えること

小宮:一点突破の解決はできません。漫画『新・ちいさいひと』最新号はDV通告と48時間ルールなどをテーマに、目黒区の結愛ちゃんの事件をベースに作っています。その解説で書きましたが、野村総合研究所が調査研究報告でかなり細かい数字を出しています。

(* 野村総合研究所の調査研究報告:『児童相談所及び市町村に対する警察からの児童虐待通告等の実態把握のための調査研究』2018年3月)

(* 48時間ルール:児童虐待の通告があると、児童相談所は48時間以内に子どもの安全を確認するように求められている。)

警察庁は児童相談所には「面前DV」を通告するのに、なぜ法律上同格の市町村には通告しないのでしょうか。「少年警察活動規則」に児童相談所しか書いていないというのが理由ならばそれを直せばいい。児童相談所が受けている、警察からの通告の70・8%が心理的虐待で、うち44・7%が面前DVだと野村総合研究所は報告しています。それが今、どれだけ児童相談所の負担になっているか。しかも48時間以内に確認というルールがかかっています。「面前DV」なら児童相談所が使えるリソース(資源)より、市町村のほうがワンチームでいろいろなリソースがあるのです。

(* 面前DV:児童が同居する家庭における配偶者等に対する暴力。)

○最前線の職場の「問題」は

浅井:児童養護施設を辞めた職員の手記を集約しましたが、辞める残るの分岐点は、「支えられている感」があるかないかが決定的に重要です。

小宮:いま、SNSに一時保護所職員と児童福祉司さんたちの「いちほ」というグループがあり、フェイスブックで悩みごとが出されています。なぜ彼らは、本音の悩みをSNSでしか言えないのでしょうか。

浅井:自治体の非正規職員がどんどん増えているのも深刻です。地方公務員全体の3割が非正規で、女性では8割といいます。条件はどんどん悪くなり、一方で課題は多くなっています。この間で股裂き状態になっているのが、現場のしんどさの構図だと思います。

千葉県と野田市の二つの報告書を読んで

○専門機関の連携はどうだったか

浅井:つぎに、野田市の死亡事件で何があきらかになったのか、何を問題として取り上げなければいけないのかうかがいます。

仙田:関係機関における連携の意味がそれぞれ違うまま一人歩きしています(図2)。関係機関が他の機関に求めている期待とはこんなものなのでしょう。一方で、不信不満が現場では渦巻いています。子どもの命が奪われている時に、仲間内でいがみ合いしている場合じゃありません。そこで警察に情報を丸投げしたらうまくいくんじゃないかという動きがありますが、それは児童相談所の自殺行為です。

図2 各機関の異なる期待=不信不満
図2 各機関の異なる期待=不信不満
仙田富久氏作成の図を編集部で一部割愛

畑井田:今回の事件では、それぞれがお互いに、「言っておいたよ、後はしらない」と、組織防衛に終始して魂の叫びを拾おうとはしなかったのですね。

浅井:児童福祉の構造は県と市町村の二重構造です。県単位でやることと、市町村単位の保育所とか、母子生活支援施設をどのように整備していくのかが問われています。

小宮:私は基礎自治体が児童相談所を一つずつ持つことが理想だと思います。ただ、児童相談所の職員、特に児童福祉司さんの養成の問題があります。

野田市の事件で何が明らかになったのかという点でいえば、心愛さんは2回SOSを出したにもかかわらず関係機関は命を救えませんでした。死ぬ5カ月前に、あの子が「父さんと一緒では困る」と助けを求めたのはじいちゃん、ばあちゃんです。父親と対峙してくれる大人として、学校を含め公的機関を一切信用していなかったのです。

もう一つは、父親から口をふさがれて「いつか死ぬんじゃないかと私は思っていた」と心愛さんは言っています。この恐怖感を想像できないのでしょうか。精神科医が所見を付けたPTSD(心的外傷ストレス障害)は、パンツを下ろされた性虐待ではなく、この「死ぬかもしれない」というトラウマ体験からくるものです。児童相談所の記録を読んでも誰もそれを読み取っていません。DVを「モラハラ」と伝達した前住地の沖縄県糸満市を含め、プロテクション機関が穴だらけで素人すぎます。

○ 現場の対応はどうだったか

浅井:子どもの声を聴き取れなかったことは、基礎自治体に移したからといって聴き取れるものでもありません。現場実践の何が課題なのでしょうか。野田市の報告書を基本にご発言ください。

小宮:一つは人事異動でのことです。3月末、児童相談所の担当児童福祉司と課長が変わりました。その時に前任の担当児童福祉司が父親に手紙を出しています。そのなかで、「児童相談所がお宅のお嬢さんに関与しなくなるためには、お嬢さんが嘘をつかなくなり、困らせないこと」と。これは、父親から誘導されて書かされた心愛さんの偽物の作文を見せられて書いています。父親に従っておけば、自分たちはもう奴から攻撃されない、そういう心情が読み取れます。教育委員会が、心愛さんが書いたアンケートを父親に渡した時、渡した本人も、渡せばもうこの人から攻撃されなくて済むと思ったのです。どういう怖さかと検証委員はしつこく聞きましたが、「心臓をギュっと鷲づかみされるような怖さ」だそうです。大人でもそうなのに、それと向き合っている心愛さんになぜ想像が及ばないのでしょうか。しかも、こともあろうに県の報告書は、手紙のことを「我々はしらない、勝手にやったこと」と書いています。

それともう一つ、一時保護を解除し祖父母宅に移す条件について、児童相談所から学校に対して「父とは絶対に会わせない」ようにと言っていました。ところが児童相談所の援助方針会議の記録を読むと、「父と二人きりでは会わせない」と書いてあります。この違いは極めて大きい。父親に対する見立ても甘いし、対応も自己保身的です。こんな人たちに子どものいのちを守れるはずがありません。

仙田:児童相談所は役所ですから、文書は公文書です。児童福祉司個人で出すことなどはあってはなりません。

最初になぜ報告書が二つあるのかと思ったら、市の報告書の最後に、県へ一緒に検証しようと申し入れたが受け入れられなかったと書いてあります。これがいまの市と都道府県の間にある障壁かと思います。

どこまでもこだわりますが、「児童福祉司指導」は完ぺきなものだと思いません。私の経験でいうと、約束させる項目を書いて、援助方針会議で「そんなことを言っても」とみんなからたたかれて、それで条件を親に渡して守ってくださいと言う。守らないときにはまた一時保護か施設入所などの再保護をする。そんなことをやっていました。万能ではないけれども、野田市の事件も一時保護の解除の時に「児童福祉司指導」をしていれば、こんなことにはならなかったでしょう。ところが、それができない条件が、千葉県の児童相談所にはあったのでしょう。

畑井田:父親の見立て、アセスメントの掛け違いです。父親に最初会った時に、児童福祉司や保健師が、おかしい変だなと感じたとの記述もあったのに、組織が代わっていくうちに勝手に解釈を加えたり、なるべくこっちにこないようにと真実を曲げてしまったのではないでしょうか。あと、学校の先生が突然、一時保護所に面会に行くなど、まわりが脈絡なく行動してしまっています。その辺の手綱さばきがしっかりできていません。

浅井:児童養護施設であれば、夜に親が「会わせろ」などと言って殴り込んでくることがあります。それを現場の対応力で帰さなければいけません。市の報告書で職員への聞き取りをやっていますが、これでよかったのかという迷いがあったのだろうかとすごく気になりました。ゆらぐことのできる力が奪われてはいないでしょうか。

〇要対協のあり方

小宮:例えば要対協は守秘義務がかけられていますので、児童相談所の一次情報も原則的には出しますし、重層的な情報が集まります。ところが実際に調べてみると、そこに来る係長職とか要職の人は、ケースワークをやったことがないからファシリテートはできません。そこになぜ幹部職を配置するのでしょうか。現場の人間がいなければいけないのに、そこが決定的になおざりになっています。

(* ファシリテート:質問によって参加者の意見を引き出したり、合意に向けて論点を整理すること。)

仙田:児童相談所を退職してから、週に半日だけ要対協に呼ばれましたが、そこでは個別ケース会議をよくやりました。児童相談所に対して、「市町村はこう考えているのになんでできないのか」と言いました。要対協で意見を言えば児童相談所は持てる権限を全部発揮して、それを援助方針会議に持っていき決定します。

問題は、全部ではないと思いますが、各市区町村に置く子ども家庭総合支援拠点でも、国の基準では専任が一人いればいい。しかも専任は係長職をやっていたりして、あとは兼任、非常勤でいい。おまけに1964年の通知「家庭児童相談室の設置運営について」により、相談員は非常勤職員です。専門職が軽くあしらわれすぎています。

浅井:要対協は年2回が平均的で実務的なことをやるのは難しいでしょう。情報交換に重きをおいて、二段階目の実務者会議レベルでの取り組みをしないと機能しません。もう一つは緊急対応ネットワークで、問題があったら例えば保育園でもどこでも関係者が集まってもらう仕組みです。この三層構造でやらないと要対協もいかされません。

仙田:三層構造の理解も自治体によっててんでバラバラです。個別ケース会議などやっていない所があるんじゃないでしょうか。個別ケース会議なら守秘義務がかからないので、わかったこと、思ったことを情報交換して共有できるのではないでしょうか。

いまの国の財政支援では、前出の総合支援拠点の整備に際し市町村に若干の助成があるのみでそれ以外はほぼなんの保障もありません。児童相談所がその専門的な法的権限を伴う措置だけに機関として特化するには、市町村の抜本的充実が必要です。

小宮:心愛さんが亡くなったとき、同時に5件の緊急対応が必要な、いわば“Aランク”のケースを野田市は抱えていました。しんどいだろうと思います。児童相談所がたたかれてカネと人とモノをつけてきましたが、市町村要対協にもつけなければだめです。格も上げる必要があります。

〇在宅援助は措置に

(* 在宅援助:児童福祉施設や里親等に措置せず、通所なども含め、在宅のまま関係機関が連携して支援していくこと。)

小宮:子どもが虐待で死ぬのは在宅にしている時ですから、在宅援助は措置に格上げすべきです。原則として児童福祉法27条第1項第2号の「児童福祉司指導」に入れて、さらに司法関与もかませる。そうしないと第二の心愛さんが出てきます。在宅援助を措置にしてもらえば、地方交付税が使えます。在宅援助を担うのは市町村ですから、予算を寄こせと言えます。虐待対応のとりでは措置制度です。

浅井:よく分かります。在宅援助についても、訪問指導も含め基礎自治体で人材が当然必要になります。

畑井田:児童福祉へのコストのかけ方もわが国は諸外国に比べて低い。それが職員のモチベーションにも反映しています。

一時保護所をどう改善すべきか

〇一時保護所の在所期間の短縮を

浅井:一時保護所の改善で一番聞きたいのは、在所期間が平均約30日ということです。里親や児童福祉施設等の受け皿が少ないのは分かりますが、長くても2週間以内で次の方向を出せないのかと率直に思います。

畑井田:施設とのマッチングの問題がここ数年多くなっています。一時保護所でも不十分ながら学習体制はとっていますが、義務教育のお子さんが学校に行けない状況を容認しています。受け皿がストップしたり、里親のなり手がいない。そういうところの醸成が後手に回っている結果、子どもたちの教育を受ける権利に無理を強いているのが現状です。

法的には、2カ月を超える場合には措置で決定していますが、実際には施設が空かない、親御さんと連絡がとれない、同意がとれないというなかで児童福祉司も四苦八苦しながらやっています。

〇現場での工夫と改善

仙田:児童福祉司からいうと一時保護所に入れて、ほっとしているのではないでしょうか。野田市の例もキャパシティが限られているから、新しい子を受け入れるために、ちょっと不安だけど家に帰そうと入所の調整を実際にやっていたのでしょう。また、親が施設入所に同意しない場合には28条申請ができますが、全国の統計をみてみると少ないのです。家庭裁判所側のハードルが高く、事務的にクリアするのが大変です。

(* 28条申請:児童福祉法第28条の規定により保護者の意に反して児童を児童福祉施設に入所させるため家庭裁判所の承認を得ること。)

では、現場ではどんな工夫が必要かといえば、学校には行けないけれども家庭的養護として里親をあちこちの地域に増やす。ただ、里親の委託料が増えないと、いまのようなほぼボランティアでは限界があります。教育委員会と連携して教員を派遣しているところもあります。

あと根本的な問題でいえば、児童福祉施設の基準が時代遅れで、「児童養護施設に準ずる」といいますが全然違うものです。一時保護中の児童の環境は日々変わります。子どもの意見を尊重するなら、最低、すべての児童相談所への一時保護所併設です。全国の児童相談所数210カ所に対して、一時保護所の併設は136カ所です(2018年4月現在)。

小宮:まず一時保護所の量が足りません。そして第三者評価が導入されていますが、当事者の声を聞いていません。入っている子に取材をすると、評価がガタンと落ちます。

畑井田:携帯電話が使えないので友だちに連絡もとれないし、高校生はアルバイトにも行けません。

浅井:国連子どもの権利委員会の勧告で、一時保護所の期間が長すぎると繰り返し述べられています。これは国も受けて立たなければいけません。また、勉強は午前中だけで午後は遊びやスポーツでは、受験生もいますし旧態依然過ぎます。ここは子どもの権利の視点で問題提起が必要です。

小宮:東京都の一時保護所の人権侵害を、第三者評価データを開示請求して朝日新聞の大久保真紀さんがすっぱ抜きました。子どもの権利条約や児童憲章はもちろん、2016年の改正児童福祉法第1条からみても、これは法律違反です。

(* 改正児童福祉法第1条:全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。)

仙田:1年10カ月、一時保護所の指導員をしました。自分の周りの大人や親に信頼感を失っている子どもたちに、この人たちは信頼できるんだと思ってもらうのです。それだけの援助をしようと思うと、京都府の体制では1日に5人も保護できません。そこに正規職員の保育士、指導員、所長がいて、調理員さんもいます。オムライスをつくる時には一人ひとり大きさが違い、ケチャップでメッセージが書いてある。この子の誕生日には何をしてあげようかと、みんな考えながらやっていました。だから、退所する時になると「ここに居たい」と泣かれました。

小宮:一時保護所が必要か不必要かでいうと、要はシェルターですから機能としてそれは必要です。現行法制では、一時保護所という、措置前の非措置児童で、行政処分のさなかにいる子どもたちなのです。

畑井田:待機児童ですね。

小宮:そこにはいい加減なんらかのメスをいれなければいけません。

浅井:私の案は、児童相談所改革がまずあって、具体的な提案をすれば、一定期間シェルター施設的に主要な児童養護施設に付置するというやり方もなくはないでしょう。そこから児童養護施設に移す。在宅に移す子についてはそれまでの期間どこで保障するかです。その前提は、児童相談所改革です。

児童相談所の抜本的改革をめざして

〇養護と虐待に特化を

畑井田:児童相談所の権限強化が必要です。施設入所になかなかうんと言わない親御さんもいますから、行政の権限の裏付けがないと現場のモチベーションもあがりません。

仙田:児童虐待防止法ができて、虐待の占める位置がどんどん大きくなり、職員を増やしても対応しきれなくなってきています。社会保障審議会の「新たな子ども家庭福祉のあり方に関する専門委員会」で検討されポシャってしまいましたが、子どもの権利侵害について、通告に基づいて独自に調査、緊急保護、行政への命令ができる強力な権限を持つ行政委員会を全国的に作ったらどうでしょうか。

小宮:あと、児童相談所に付与しなければならないセクションとしては、入ってくる虐待通告の「トリアージ」部門です。パッパッと判断できるプロ集団が絶対に必要です。

(* トリアージ:事故や災害現場で、患者の治療や救急搬送等の優先順位をつけること。)

それを前提にした上で、今は所内での任務分担になっていますが、相談のための「ガイダンスセンター」と虐待対応の「プロテクションセンター」は分けた方がいいです。ガイダンスで子育て支援などに使えるリソースと裁判所、警察とワンチームがパッとつくれるようなプロテクションに分けないと、人がもちません。

浅井:そうですね、養護問題と虐待問題に特化した児童相談所のあり方をもっと打ち出さないと変わらないと思います。障がい児やその保育の問題は市町村単位で対応していく。地域の障がい者関係の専門機関が担えることはけっこうあります。最近の統計で児童相談所の45万~46万の相談件数のなかで、養護問題は37%、障がい問題42%。育成11%、後は非行問題1%です。そういう観点で仕組みを変えないと児童相談所の改革はできません。

〇「児童福祉司」制度の資格の制度化を

小宮:虐待対応の「プロテクションセンター」は人事異動してはダメです。裁判所と警察を合わせて司法というなら、司法と同格のセンターという枠組みにしないといけません。

浅井:そうですね。それと、児童福祉司の養成課程がありません。児童福祉司、児童心理司という虐待の課題に特化した専門家の養成に踏み出す必要があります。

仙田:資格については、私は懐疑的です。『児童福祉司研修テキスト』を買ってみましたが、中身が薄っぺらい。ケースワークは個人の力量だけじゃない部分があります。一人の経験は限られていますが、いろんな経験をしてきた人がワンチームを構成し、児童相談所の水準を守ってきたのです。ただ、大学における教育を否定するわけではないし、養成課程のなかで児童福祉論、虐待論をきっちりとやって欲しい。そのなかから心のある人が児童相談所に採用されたらすばらしい。

浅井:私は、大学の養成課程でないといけないと思います。実習とか、できれば大学院までいかないと。イギリスのテキストの邦訳が法律文化社から出ていますが、この仕事は「他人と協力する喜びを感じる人かどうかが大事だ」と書いてあります。そういう養成の仕組みをつくらなくてはいけません。

(* イギリスのテキスト:ウェンディ・スティントン・ロジャース他編著、福知栄子他訳『児童虐待への挑戦』法律文化社、1993年)

小宮:私は資格化はあまり賛成しません。親たちが子どもを保護されることに同意していくプロセスをあるケースで丁寧に取材しましたが、多くの親たちは、児童福祉司の、資格とか専門的知識とかでなく、いうなれば専門的人格に直面して、結果的に尊敬をもってあきらめ、信頼してお任せするのです。そのソーシャルワークは大学の授業だけで身につくわけがありません。そういう人が児童福祉司であってほしい。

浅井:大学ではかなり現場へ実習に行きます。あくまでも資格はある程度の基礎をつくるということで大事です。

仙田:資格化については2年後に結論をえる方向でいま議論がされていますが、実践のなかで現場で必要かどうか、必要ならどんなスキルか合意形成をしていく必要があります。

〇介入機能と支援機能の分離について

浅井:いま国が提案している児童相談所における介入機能と支援機能の分離についてはいかがですか。2015年の厚生労働省調査によれば、継続してワンチームでやっているのが64%、「緊急介入」と「その後の支援」で担当を分けているのが21%。事例によっては担当を分けているのが15%です。

畑井田:スムーズになるのならある部分は賛成です。しかし情報開示、共有とか、親御さん支援のやり方、審議をどこに入れるかなど、細かいところをつめる必要があります。ただ組織が2つ増えただけで、バラバラの仕事をやっていたら子どもは守れません。

仙田:ちょっと疑問があります。先ほどこの担当者だから信頼がおけて施設入所にも合意したというお話しがありました。しかし、分離すると、前の人はこうしてくれたのに…、という感じになる場合もあるのではないでしょうか。

小宮:私はとりあえずガイダンスとプロテクションは分けたほうがいいと思います。分けた方が使える社会的資源やお金、予算は必ずあります。

浅井:意見もいろいろありますね。

仙田:児童相談所の役割は、「児童相談所運営指針」には「子どもに関する家庭その他からの相談に応じ」と書いてあります。だけど、陥りやすいあやまちは保護者に都合よく相談にのってしまうことです。野田市のケースもそうではないでしょうか。2016年に児童福祉法第1条が変わったことに対応すれば、変えなければなりません。

畑井田:主体者はお子さんですからね。

小宮:支援計画にしても、子どもの計画なんて薄っぺらです。子どもを説得し理解してもらいながら計画をたてるのはえらく手間がかかります。それをやっていません。

畑井田:立脚点が子どもにないから一時保護所に1年子どもがいても誰も罰せられることがないのです。一時保護所が本来、戦争孤児を預かることから始まったのであれば、まさにいま、子どもたちが大変な状況にあるのは同じじゃないかと思います。

仙田:先ほど、専門的行政機関が要るのではないかと話しましたが、児童相談所の不作為を訴えるところがないのです。

小宮:子ども本人と周辺あるいは市町村が児童相談所の不作為を訴えるシステムを絶対につくらないといけませんね。年に何回かの児童福祉審議会だけでは不十分です。

浅井:今日は貴重なご意見をありがとうございました。いま本気の運動と研究活動をどう創るのか、一人ひとりに問われています。

(2020年2月8日、東京・神田にて)

浅井 春夫
  • 浅井 春夫(あさい はるお)
  • 立教大学名誉教授

立教大学コミュニティ福祉学部教員。専門は児童福祉論、セクソロジー。著書:『戦争をする国・しない国』『脱「子どもの貧困」への処方箋』(新日本出版社)など。

小宮 純一
  • 小宮 純一(こみや じゅんいち)
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仙田 富久
  • 仙田 富久(せんだ とみひさ)
  • スクールソーシャルワーカー
畑井田 泰司
  • 畑井田 泰司(はたいだ やすし)
  • 横浜市南部児童相談所