【論文】広域連携


2040構想研究会に由来するバックキャスティング的発想の自治体への浸透、広域連携になりすました「圏域」的発想に基づく枠組みの法制度化、合併を射程においた三大都市圏の市町村の広域連携の推進が図られています。

「圏域」という用語の消失

第32次地方制度調査会(以下、調査会)への諮問事項のひとつとして「圏域における地方公共団体の協力関係」があります。

「圏域」とは、自治体戦略2040構想研究会(以下、2040構想研究会)の第2次報告(2018年7月)において提示された用語で、都市機能が集積している自治体とそれに隣接する自治体が生活実態にあわせて形成する地域のことを指します。2040構想研究会は、「生活実態等と一致した圏域を、各府省の施策(アプリケーション)の機能が最大限発揮できるプラットフォームとするためには、合意形成を容易にする観点から、圏域の実体性を確立し、顕在化させ、中心都市のマネジメント力を高める必要がある」との問題意識に基づいて、「圏域単位で行政を進める法律上の枠組み」を設けることを提案しました。上記の諮問事項は、この提案を受けたものです。

中心都市が圏域マネジメントとして圏域単位で行政を進める法律上の枠組みは、「平成の大合併」のように周辺の町村を衰退させることになるのではないかという懸念から、町村を中心とした地方関係団体の委員は調査会の審議に当初から反対の意志を表明していました。

このような事情から、調査会は、「圏域」に対する警戒を解くべく、「2040年頃から逆算し顕在化する地方行政の諸課題とその対応方策についての中間報告」(2019年7月31日)(以下、中間報告)では「圏域」という用語の使用を抑制し、それに代えて提示した新たな「地方公共団体の協力関係」は、これまでの広域連携の枠の延長にとどまるかのような考え方を示しました。

ところが、調査会の発足と同時に総務省自治行政局が設置した「基礎自治体による行政基盤の構築に関する研究会」は、中心都市の市長を会長とし、地方議会議員、有識者をも構成員とする「圏域運営協議会」方式を圏域の調整方法として検討を進めていました。

そこで、調査会の事務局(総務省)が「圏域運営協議会」なる枠組みをどのような装いで調査会に提案し、それを受けた調査会がどのようなオブラートに包んで最終答申に落とし込むのかが注目されていました。

結論からいうと、「圏域運営協議会」は審議の対象とされず、最終答申である「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」(2020年6月26日)(以下、答申)では「圏域」、「圏域マネジメント」といった用語はいっさい使われていません。したがって、調査会の審議は、外見上は、「圏域」の法制化には至らなかったということになります。しかし、調査会は、中間報告で示した「地域の未来予測」を市町村間の連携のための基礎的なツールとして位置づけたうえで、比較的抵抗感の小さい「広域連携」の下で、実質的に「圏域」の形成を進め、圏域の中心都市のマネジメント力を高めることを目的とした提案、さらには市町村合併をも射程においた提案をしています。

以下、「名を捨てて実を取る」こととした答申の内容を見てみましょう。

「地域の未来予測」によるバックキャスティング

「圏域」、「圏域マネジメント」を推進する立場からすると、資源制約が厳しくなる2040年頃の日本の状況に照らせば、個々の市町村が単独でフルセットの行政サービスを提供することはできず、その水準を維持するためには「圏域」を形成せざるをえないにもかかわらず、市町村、とくに小規模の町村が「圏域」の形成に抵抗するのは、そうした状況を理解していないところに問題がある、ということになります。そこで、答申は、「地域の未来像についての議論」が重要であると提言しています。

この「地域の未来像」は、「具体的にどのような資源制約が見込まれるのかについて、各市町村がその行政需要や経営資源に関する長期的な変化の見通しの客観的なデータを基にして『地域の未来予測』として整理」したものを根拠に、「それぞれの市町村において、首長、議会、住民に加え、コミュニティ組織、NPO、企業等の地域社会を支える様々な主体がともに、資源制約の下で何が可能なのか、どのような未来を実現したいのか議論を重ね」、共有していくビジョンです。また、「地域の未来予測」は、「住民の日常生活の範囲が市町村の区域を越えて広がっている地域や、市町村間の広域連携を視野に入れている地域においては整理を共同で行うことも有用」だとされています(答申5ページ)。

こうしてさまざまな主体において共有された「目指す未来像」を実現するため、調査会は「限られた経営資源の中でとるべき方策の優先順位をどのようにつけていくのか、技術を活かした対応、組織や地域の枠を越えた連携等により資源制約を乗り越えることができるか、市町村が、地域の置かれた状況に応じて自ら判断し、長期的な視点で必要な対応を選択していくこと、また、様々な政策や計画に具体的に反映させていくことが求められる」と提言しています(答申5ページ)。

2040構想研究会の報告は、将来のあるべき姿から逆算する形で、その実現のために現在取り組むべき事柄を検討するといったバックキャスティングの手法に基づいています。調査会は、市町村も、同じ手法をとれば、2040年頃の危機的状況について共通の認識に至るであろうし、そうなれば、市町村の区域を越えて整理された「地域の未来予測」に基づいて描かれた「地域の未来像」を実現するためには、「圏域」の形成に足を踏み出さざるをえなくなるであろう、といった「未来予測」に依拠していると思われます。

しかし、2040構想研究会のバックキャスティングや調査会の「地域の未来予測」が前提とする資源制約は、主には急速な人口減少問題に起因するものですが、そうした制約による危機を克服した未来像は、「人口減少が阻止または緩和された社会」に求められるべきであって、決して急速に人口が減少した社会そのものに求められるべきではありません。荒木泰臣全国町村会会長による次の指摘は正当なものといってよいでしょう。

「高齢者の雇用促進、若者等各世代の働き方を支える社会保障とGDP、労働生産性向上の視点などを抜きに、不確実性のある将来を2040年の人口問題を中心に矮小化して、それを地方自治制度の中の新たな圏域行政など、幾つかの手段だけで解決策を見出そうとするのは、初めから無理があるように思います。その意味では、認識共有の大前提が違っており、このことは地制調の始まった当初から申し上げていたつもりであります。」

定住自立圏・連携中枢都市圏の「法制度」化

「圏域」の形成の筋道が十分に見いだせない中、調査会は、すでに中心都市が核となって周辺市町村と連携をしている定住自立圏や連携中枢都市圏に、圏域マネジメントの確立に向けた活路を見いだしています。

調査会は、定住自立圏や連携中枢都市圏については「相当程度進捗した状況にある」と認めつつも、「広域的な産業政策、観光振興、災害対策など、比較的連携しやすい取組から実績が積み上げられているが、今後は、施設・インフラ等の資源や専門人材の共同活用による住民の生活機能の確保、広域的なまちづくりなど、合意形成が容易ではない課題にも積極的に対応し、取組の内容を深化させていくことが必要である」と、評価しています。すなわち、「連携のプラットフォーム」としていまひとつ期待に応えきれていないということでしょう。

そこで、連携をより深化させていくために、調査会は、「連携計画作成市町村」という用語で中心都市をオブラートに包んだうえで、「連携計画作成市町村が連携計画を作成する際の合意形成過程のルール化」、「連携計画の進捗管理を行う際の他の市町村の適切な関与等により、他の市町村の十分な参画を担保する仕組み」を法制度として設けること、さらに「関係市町村の区域全体の共や私の担い手が参画する場において連携計画が検討されるようにし、加えて、連携計画に盛り込むべき取組について共や私の担い手からの提案を可能にする仕組み」も同様に法制度として設けることを提言しています(答申17ページ)。

じつは、定住自立圏や連携中枢都市圏については、現在、要綱(定住自立圏構想推進要綱、連携中枢都市圏構想推進要綱)において、中心都市が、定住自立圏共生ビジョンまたは連携中枢都市圏ビジョンといった連携計画を単独で作成し、連携する周辺の各市町村とは当該市町村に関連する部分について個別に協議することとされています。また、中心都市は、ビジョンの策定または変更に当たって関係者の意見を幅広く反映させるために、圏域共生ビジョン懇談会または連携中枢都市圏ビジョン懇談会を設置することとされており、これらの懇談会の構成員には、産業、大学・研究機関、金融機関、医療、福祉、教育、地域公共交通等の代表者、地域コミュニティ活動・NPO活動の関係者等も含まれるのが望ましいとされています。

答申における法制度化の提案は、定住自立圏や連携中枢都市圏に関する要綱上の仕組みを、核となる都市がある場合の広域連携を対象にした、より一般的な法律上の仕組みに格上げするとともに、ビジョン懇談会に相当する「関係市町村の区域全体の『共』や『私』の担い手が参画する場」の構成員に提案権を認めようとするものだといえます。

要綱では、すでに「圏域」、「圏域マネジメント」といった用語が普通に用いられていることを見逃してはならないでしょう。

提案は、「圏域」またはそれにつながる法律上の枠組みを指向するものといってよいでしょう。「トロイの木馬」はすでに準備されていたのです。

広域連携への財政措置

ところで、調査会は、広域連携の法制度化とは別に、「今後、定住自立圏・連携中枢都市圏のほか、様々な市町村間の広域連携によって特に地域において必要な生活機能を確保していくことが必要であることを踏まえ、(中略)関係市町村に発生する需要に応じ、適切な財政措置を講じる必要がある」とも提言しています(答申15~16ページ)。前述の法制度化については、「その是非を含めて、関係者と十分な意見調整を図りつつ検討がなされる必要がある」との留保が付されているので、じつはめどが立たない状況にあります。この提言は、法制度化が頓挫することをも見据えた調査会が「からめ手」から「圏域」の形成を推進するために敷いた伏線と見てよいでしょう。

三大都市圏の広域連携と市町村合併

調査会は、定住自立圏や連携中枢都市圏とは異なり、核となる都市がなく、規模・能力が同程度の市町村が複数存在するような地域においても、市町村間で広域連携の取り組みが見られる場合には、やはり共同で「地域の未来予測」を整理すること、連携のプラットフォームとして協議組織を設けることなどが重要であること、そして、市町村の求めに応じて、都道府県が、利害調整を含め、合意形成について中心的な役割を果たしている事例があることを指摘しています。

この指摘に続いて、調査会は、「三大都市圏の市町村においては、『地域の未来予測』の整理がとりわけ重要であり、これを踏まえ、地域の実情に応じた相互補完的、双務的な役割分担に基づく広域連携の取組を自ら積極的に進める必要がある」こと、「国においては、先進事例の収集を重点的に実施し、取組の横展開を促進することが重要である」ことを提言しています(答申18ページ)。つまり、この指摘は、主要には、三大都市圏の市町村間の広域連携の推進を意図しているわけです。

三大都市圏の市町村に注目する理由として、調査会は、「2040年頃にかけて生じる変化・課題は、75歳以上人口の急速な増加など、とりわけ今後三大都市圏において顕著に現れることが見込まれ、その際、人と人とのつながりが希薄である三大都市圏では、対人サービスにおいて市町村に期待される役割は大きい」という点に求めています。

しかし、三大都市圏の市町村に対する調査会の注目は、広域連携にとどまりません。2019年10月31日に内閣総理大臣に提出した「市町村合併についての今後の対応方策に関する答申」でもやはり「高齢化が顕著に進行する」地域として三大都市圏への言及がありますが、調査会は、「地域の枠を越えた基礎自治体による行政サービスの提供体制」の手法として、「市町村間の広域連携」、「都道府県による補完」と並んで、「自主的な市町村合併」を挙げ、「今後、急速に人口減少と高齢化が進行することが見込まれる中にあって、地域によっては、行財政基盤を中長期的に維持していくための手法として検討することも考えられる」としています。三大都市圏の市町村に選択を求めているわけです。

行政の「冗長性」の確保こそが必要

答申の「結び」には、「2040年頃にかけて我が国が直面する課題」、「新型コロナウイルス感染症への対応」を、「単なる変化やリスクと捉えるのではなく、社会システムを、災害等のリスクに備えた柔軟性や冗長性を確保しつつ、2040年頃にかけて生じる資源制約等に的確に対応できるようデザインし直す好機と捉える視点が重要である」との記述があります。

「冗長性」とは、予備装置を普段から配置、運用することでコンピューターやシステムに障害が発生した場合に備えることをいいます。答申で提案されている「地方行政のデジタル化」にちなんで、社会システムに生ずる障害への対応についてその用語を充てたのでしょう。

ところで、新型コロナウイルス禍の下で保健所が十分に役割を発揮できない状況は、効率性、経済性を優先した保健所の廃止・統合によって、都道府県、指定都市等の保健衛生サービスから冗長性が失われたことに起因しています。もし、調査会が、行政サービスの拠点を縮減することになる、役割分担に基づく広域連携や市町村合併が、各種行政サービス提供の冗長性を奪うことにはならないと考えているのであれば、それこそ、「冗長な結び」の謗りを免れないでしょう。

【注】

本多 滝夫
  • 本多 滝夫(ほんだ たきお)
  • 龍谷大学法学部教授

1958年愛知県生まれ。専門は行政法学。主な著書に、共編著『辺野古訴訟と法治主義―行政法学からの検証』(日本評論社、2016年)、共編著『地方自治法と住民 判例と政策』(法律文化社、2020年)など。