【論文】災害時における外国人対応

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災害時に外国人が直面する課題や自治体等による支援において配慮が必要な点を整理するとともに、支援の担い手としての側面から今後求められる対応について考えます。

はじめに

災害時対応は、早くたくさん物資を運び、同じ数だけ均等に配ることを旨とすることが多く、どうしても多様性への配慮が欠けがちになります。情報や支援が届かない、誤解や偏見に基づく差別に遭う、経済的にも精神的にも困窮するといった、災害時に外国人が日本人とは異なる困難に直面するのは、スピードとボリュームが最優先される災害時対応の文化がもたらす「少数者への配慮」の欠如が背景にあります。

コロナ禍にある今日の状況もまた多様性への配慮を欠いていて、脆弱な立場にある人により強くしわ寄せが行く状況となっています。外国人がコロナ禍で直面している状況も、災害時と同じ傾向が見られます。まだ出口が見えないコロナ禍において、そして今後も発生する災害時において、外国人が取り残されることのないよう目を凝らしていく必要があります。

本稿では主に阪神・淡路大震災以降の災害における外国人の被災状況と、外国人を対象とした防災の取り組みの様子について全体像を俯瞰するとともに、コロナ禍における課題との共通点も整理しながら、これから求められる配慮や必要な施策について整理します。また外国人を「支援の対象」としてとらえるだけでなく、「支援の担い手」としての側面についても触れ、誰も取り残されない災害時対応をめざして必要な取り組みについて考えます。

災害時に必要なのは「情報」より「安心感」

災害時に最初に求められることは、命を守る行動を取ることです。技術の進歩で台風の進路や大雨の予想の確度も上がり、地震でも揺れが来る前に速報が届く時代となりました。しかしこれらの情報がどのような意味を持つのかを知らなければ、適切な行動を取ることができません。阪神・淡路大震災以降、あらかじめ翻訳された情報を配信したり、「やさしい日本語」で外国人にも避難を呼びかけたりする試みが進展してきました。何が起きているかわからない、どう行動すればいいのかわからない外国人にとって、情報を手に入れることはとても重要です。

*やさしい日本語:普通の日本語よりも簡単で、外国人にもわかりやすい日本語。阪神・淡路大震災をきっかけに、外国人が災害発生時に適切な行動をとれるように考え出された。平時における外国人への情報提供手段としても研究され、さまざまな分野で取り組みが広がっている。

しかし、日本人向けに用意された情報をそのまま翻訳したとしても、外国人が適切な行動を取ることができない場合もあります。例えばブラジルやオーストラリアなどでは地震が起きることはほとんどなく、日本に来て初めて地震を経験するという人も少なくありません。また、地形が急峻な地域が多い日本では短時間の大雨でも大きな被害が起きるということを知らず、雨が多い国から来た人のなかには避難指示が出ても危機感がなく避難しない人もいます。外国人への災害情報の提供では、国や地域による災害の種類や規模の違い、国土や気候の違いも考慮した上で適切な行動を促す必要があります。

外国人住民を対象に、いま暮らしている地域でどのような災害が想定されているのか、また災害が発生したときにどのような行動を取ればよいのかを知る機会を提供することと、自治体やNPO、自治会などで外国人も参加する防災訓練を行ったり、ハザードマップを使った勉強会を開いたりして地域で暮らす外国人の様子を知ることで、相互に「知識のストック」を増やしておきましょう。

大規模な災害では半年近くにわたって、避難生活が続くことも珍しくありません。海外での災害対応では屋外にテントを張って被災者を収容することが多いのですが、日本では体育館に雑魚寝する避難所運営が一般的です。多くの人で混雑する避難所に、言葉や文化が異なる外国人が入っていくことだけでも勇気のいることです。また避難所での外国人のふるまいが日本人の目からは奇異に映ることもあり、「日本人に殴られた」「出て行けと言われた」など、過去の災害では毎回といってよいほど外国人が避難所で排除される事例が発生しています。実際に避難所で外国人避難者や日本人の避難所運営者に話を聴いてみると、「物資をたくさん持っていった」とか「大声で話していて耳障りだ」といった些細な出来事が引き金となっていることがわかります。

こうした事例は、避難所のルールをあらかじめ翻訳して掲示する、定期的に通訳が巡回してコミュニケーションを支援する、といったことで未然に防ぐこともできます。普段から顔の見える関係を築いていくことで解決できることでもあります(写真1)。近年の災害では、自治体などがいち早くホームページに多言語化した情報を掲載したり、SNSを通じて直接外国人に発信したりするようになりました。しかし、情報の多言語化は「手段」であって「目的」ではありません。避難生活を送る周囲の日本人とのコミュニケーションも意識し、被災地全体の安心感の醸成をめざした双方向性の高い支援や、普段からの多文化共生の地域づくりを進めていく必要があります。

▶写真1 熊本地震での多言語情報提供の様子。(2016年7月・筆者撮影)

制度から漏れる外国人

同じ災害で同じ被害を受けたとしても、外国人の場合、在留資格の種類や有無、国籍によって支援が受けられない場合があります。例えば、災害で死亡した人の遺族に支払われる「災害弔慰金」は住民であることが要件とされており、在留資格がない場合は支払いの対象になりません。阪神・淡路大震災では174人の外国人が死亡しましたが、このうち少なくとも3人が弔慰金の対象から外されました。また阪神・淡路大震災では、健康保険に加入していない事例で高額な医療費が全額自己負担となり、病院から着の身着のままで退院させられたケースもありました。当時は日本で暮らす外国人の6人に1人は非正規滞在で、警察への通報を恐れて避難所に行けない外国人も少なくありませんでした。

近年は永住者資格を取得し、ローンを組んで車や家を所有する外国人も多くなりました。日本での生活も安定しているように見えますが、災害で所有する財産が被災したり経営する会社が倒産したりする場合の補償や行政からの支援についての情報が届かず、不利益を被るような事例もあります。永住者資格を持つ人が増えているにもかかわらず、自治体が提供する外国人向けの情報はゴミの出し方や保険の加入方法など来日間もない人向けのものがほとんどです。永住する人が増えるなか、固定資産税の納め方や遺産相続の手続きといった情報も提供する必要があります。災害で被害が出た家屋を再建するための二重ローンへの支援や、損害保険申請のための注意点、水没した自動車の廃車手続きなども多言語に翻訳したり、税の減免や事業者向けの補助金制度の説明会などでも通訳を手配したりするなど、外国人が被災者支援の制度から漏れることのないよう配慮が必要です(写真2)。

▶写真2 関東・東北豪雨で被災した茨城県常総市での相談会の様子。(2015年9月・筆者撮影)

コロナ対応でも政府からさまざまな支援策が打ち出されていますが、とくに事業者向けの施策などで「外国人は一時的な滞在者だから関係ない」と勝手な判断をせず、外国人にも丁寧な情報提供や相談支援を行うことが必要です。また、失業などの事情で有効な在留資格を失い、帰国もできない外国人住民も少なからずおられます。こうした方々にも必要な支援を届けることや、これから本格化するワクチン接種から漏れないための工夫も必要です。厚生労働省も2021年3月に都道府県の衛生主管部局に向けて事務連絡を出し、接種の実施主体である市町村の区域内に居住していることが明らかな場合は予防接種が受けられるよう「特段の配慮」をお願いしています。自然災害や感染症は国籍や在留資格に関係なく、すべての人に災いをもたらします。その後の支援で取り残されることのないよう、目を凝らし、配慮を徹底したいところです。

担い手としての外国人

ここまでは「支援の対象」としての外国人への配慮について書いてきましたが、最後に「支援の担い手」としての外国人という視点から、課題や今後の可能性について触れておきます。

全国の自治体でコンビニや外食チェーンの事業者と協定を結び、災害時に徒歩で帰宅する人のために、水やトイレの提供を受けたり、避難所や交通の情報を尋ねたりすることができる「災害時帰宅支援ステーション」の取り組みを行っています(写真3)。東京や大阪などでは、そうした店舗で働く人の多くは外国人です。また自治体は、介護事業所などを、災害時に医療的なケアや介護が必要な高齢者などを収容する「福祉避難所」に指定しています。こうした介護の職場にもたくさんの外国人が働いています。訪日外国人が利用するホテルや飲食店でも、外国人従業員が利用客の対応に従事しています。災害時に避難を誘導したり、被災者のケアにあたる側にも外国人がたくさん存在していることも認識し、支援の担い手としての外国人に必要な情報や研修機会の提供が必要です。

▶写真3 災害時帰宅支援ステーションのステッカー。(関西広域連合のウェブサイトから転載)

農業や建設業などでも多くの外国人が「技能実習生」として活躍しています。人手不足が深刻な地域では、若い世代は外国人しかいないという声も聞きます。災害時に外国人が高齢の日本人を救出した、避難所で役割を引き受け運営に参加した、家屋の泥かきや農地の片付けのボランティアで活躍した、という事例は枚挙にいとまがありません。

今後も高齢化が加速する日本において、地域での助け合いを基本とするこれまで通りの災害時対応が機能し続けるとは思えません。地域のさまざまな産業が外国人の力を借りてようやく維持できている状況を直視し、外国人とともに安全・安心な地域づくりを進めていくことが求められています。

【注】

厚生労働省健康局健康課予防接種室 事務連絡「入管法等の規定により本邦に在留することができる外国人以外の在留外国人に対する新型コロナウイルス感染症に係る予防接種について」(2021年3月31日)https://www.mhlw.go.jp/content/000763148.pdf

田村 太郎
  • 田村 太郎(たむら たろう)
  • 一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事

兵庫県伊丹市出身。阪神・淡路大震災で被災した外国人への支援活動を機に「多文化共生センター」を設立。自治体国際化協会参事等を経て、2007年から現職。東日本大震災や熊本地震などでも被災地支援に携わる。

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