【論文】新型コロナ禍と女性

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新型コロナウイルスの感染拡大で、社会的・経済的に弱い立場の人がさらに苦しくなっています。ここでは、コロナ禍で女性が直面している問題から、ジェンダー不平等で成り立つ社会を問います。

コロナで顕在化したジェンダー問題

新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの社会のジェンダー問題をあらためて浮き彫りにし、そしてより深刻にしました。

コロナによる休業や不景気により、収入減や失業を最も余儀なくされたのは非正規雇用で働く人たちでしたが、非正規雇用比率は女性のほうが高いため(総務省2019年度「労働力調査(詳細集計)」では、男性22・8%、女性55・7%)、女性の貧困を深刻化させることになりました。とくに、女性のひとり親世帯では非正規雇用の仕事で生計を立てている人が多く(厚生労働省2016年度「全国ひとり親世帯等調査」では、母子世帯の母で就労している者は81・8%、そのうち「パート・アルバイト等」の非正規雇用が43・8%)、シングル・マザーの生活が大きな打撃を受けました。支援団体「NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ」が2020年4月に行った調査によると、児童扶養手当を受給している女性で「収入減」という回答は約6割にものぼったといいます。

生活の変化によるストレスや不安の高まり、外出制限で夫婦が共に家庭で過ごす時間の増加といったことが要因となり、ドメスティック・バイオレンス(DV)が深刻化することも指摘されました。DVの被害者の多くは女性です。内閣府男女共同参画局によれば、国が設置するDV相談窓口への2020年の相談件数は前年より増加しており、とくに5月、6月はそれぞれ前年同月の1・6倍に増加したとのことです。また、学校の一斉休校で家庭に返された子どもの世話をするために、多くの親が仕事を休むなど家事・子どもの世話に忙しくなったのですが、その影響をもろに受けたのは女性でした。

いずれも、「男は仕事、女は家庭」といった固定的性別役割や男性優位が、私たちの社会に今なお深く根付いていることに由来する問題です。

ジェンダー不平等を生む社会構造

ジェンダー平等や男女共同参画に向けた意識改革が重要だ、ということは間違いないでしょう。ただ、国や自治体などが行っている意識調査の結果を見ると、固定的性別役割や男性優位を支持する人は近年減少しています。2019年度の内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」では、固定的性別役割に反対と答えた割合は6割と多数派になっています。にもかかわらず今回女性の生きづらさが顕在化したという事実は、人びとの考え方さえ変わればよいというのではなく、もっと構造的な問題があることを示唆します。つまり、私たちの社会がジェンダー不平等を前提に成り立っているために、いくら頭では「平等であるべき」と思っていても、それを実行しようとすると不適応を起こしたり挫折したりしてしまうような構造があるのです。

その構造について、フェミニストたちはずいぶん前から議論していました。問題の構造とは、近代資本主義と近代家族にあります。近代以降の私たちの社会は、生産手段をもつ資本家が、賃金を払うことで労働者の労働力を確保し、その労働者の労働が生み出す剰余価値を自らの利潤としてそれを投資に充てることで自らのさらなる成長・発展をはかっていくことを絶え間なく続けていくという、資本主義のシステムで成り立っています。そこで重要なのは、労働を通して利潤となる価値を生み出してくれる労働者の安定的確保です。

ただし、労働者といっても人間です。ごはんも食べないといけないですし、精神的にも安定できないと労働を続けられません。そこで、労働者が明日もがんばって労働できるようにかれらのリフレッシュを専門的に担う部門が必要とされます。労働者の疲れを癒やし、健康と労働意欲を維持するため、愛情とやすらぎ、元気、パワーを与える「ケア」の役割を担当する部門です。その部門が「家族」とされるのです。

そして、家族にはもう1つ大事な機能が割り当てられます。それは、次世代の労働力の育成です。労働者は人間である以上、年をとり寿命があります。労働力の安定的な確保のためには、次世代の労働力となる人間が産み育てられる必要があります。こうして家族は、労働力の再生産を通して資本主義のシステムの維持・存続に貢献する近代家族と位置づけられます。

ところで、家族で労働力の再生産といっても、結局それを実践するのは人間です。近代家族は、成人が夫と妻しかいない核家族モデルにならうので、それらの成人が担うことになります。ただし、合理化・効率化を追求して分業・専門化が起こり、夫と妻は、(生産)労働者として賃金を稼ぐ者と、労働者をケアし労働力の再生産に携わる者に分かれます。これが性別役割分担を形づくります。

つまり、資本主義という生産様式がつくる社会のシステムは、固定的性別役割に依存して成り立つものだったのです。では、そこで男女不平等が起こるのはなぜでしょうか。これは、ケアの最終責任を家族(の中の成人女性)に負わせるものであるからにほかなりません。妻=母の役割は、現役労働者(=夫)と次世代の労働者(=子ども)のケアですが、彼女のケアを担当する者は決められていません。私たちの社会では、ケアは専ら家族の役割としてきました。

問題は、ケアを受ける者はそのケアのおかげで元気になっていくのに、ケアを与える者は他者へのケアに力を注ぐために自分自身の力が弱まっていくことです。そしてその際に、だれかからケアされる保証がほとんどないのです。これが女性の置かれた立場です。確かに賃金を稼ぐ労働者も資本家に搾取されている立場ですが、かれらは労働の対価として賃金も得ているし、自分をケアしてくれる家族もあります。一見、性別役割分担は対等であるようですが、女性の脆弱さに注目すれば男女不平等であることが明らかです。近年では、夫も妻も賃金労働に携わっているという家族が多くなりましたが、ケアの責任は相変わらず女性に重くのしかかっています。

女性どうしの助け合いネットワーク

このように近代資本主義と近代家族は、女性が行うケアに依存することで成り立っており、それが女性を脆弱にしてきました。そして、コロナ禍のようにストレスフルでケアの需要が最も高まる非常時は、ケアする女性をますます弱らせるのです。冒頭で取り上げた、コロナ禍の女性問題は、私たちの社会構造が生み出しているものなのです。

しかし、それでも女性たちは懸命に生き延びてきました。その生き残り戦略の一つが、女性どうしのインフォーマルなネットワークです。

日々家事や子育てに追われ弱ってしまっても、彼女たちがケアの最終責任者である以上、彼女たちをケアする人は確保されていません。そのため、彼女たちは、同じ立場にある者どうしで集まり、日常のストレスを発散させたり苦労を分かち合ったりして互いを元気づけました。それは、たとえば急な用事で子どもの送迎ができないときに代行してもらうなど、ある程度互助的な機能ももちました。また、子どもの学校の制服はどこで買うのが安いかなど、彼女たちが家族のケアの役割を担ううえで役立つ情報源にもなっていました。女性たちはこうして、脆弱さを補い生き延びる工夫をしてきたのです。

もちろん、ジェンダー不平等の問題は、こうした女性たちの自助だけでは解決できません。先述の通り、構造的な問題なので、彼女たちだけでなく社会全体で取り組まないと解決しないのです。とはいえ、インフォーマルなネットワークの存在が、彼女たちのエンパワーメント(力づけ)につながっていることも強調しておくべきでしょう。

コロナで女性の脆弱さがあらわになった

したがって、新型コロナウイルスの感染拡大で、人と集まって話をすることが自由にできなくなったことは、女性たちにとってかなりの痛手になったことが推測されます。

筆者が所属する大学の研究チームは、市民生活への新型コロナウイルスの影響を調べるために、2020年9月に島根県松江市の有権者を対象に市民意識調査を行いました(無作為抽出、有効回答467件、44・9%)。昨年9月というのは、4~5月の緊急事態宣言、7~8月の「第2波」を経た時期です。島根県では新型コロナウイルス感染症の拡大はずっと抑えられていたのですが、調査では、それでもコロナは人びとの生活に影響していることが示されました。

性別による違いに注目すると、「自分や家族が新型コロナウイルスに感染するのではないかと不安だ」「人の多い場所への外出は控えている」「心身ともに疲れている」「人と積極的に関われず、さみしい」のそれぞれについて、調査時点での意識を尋ねた結果は、いずれも女性のほうが肯定する回答が目立ちました。図1~4は、それぞれの回答選択肢「非常にそう思う」を5点、「ややそう思う」を4点、「どちらとも言えない」を3点、「あまりそう思わない」を2点、「まったくそう思わない」を1点として、性別・年齢層別に平均点を計算し、それを図示したものです(年齢層の区分は、回答者全体を4分できるところで行っています)。

傾向として、女性、とくに高齢層よりも若・中年層の女性が、疲労感やさみしさを訴えています。家族のケアの責任を負う女性の、人とつながることでカバーしていた脆弱さが、コロナによって暴かれてしまったといってよいでしょう。

図1 性別・年齢層別「自分や家族が新型コロナに感染するのではないか不安」平均点
図2 性別・年齢層別「人の多い場所への外出は控えている」平均点
図3 性別・年齢層別「心身ともに疲れている」平均点
図4 性別・年齢層別「人と積極的に関われず、さみしい」平均点

女性リーダーの強み

ところで、海外に目を向けると、コロナ禍では女性の政治リーダーの存在感が際立っていたようにも思います。それぞれの政策が成功しているかどうかについてはさておき、ここで注目したいのは、彼女たちが発した国民に対するメッセージです。国民に寄り添う位置から発せられ、互いの共感を呼び起こし、さまざまな自由の制限に自発的に協力することを説得的に訴えるものが目を引きました。

たとえば、ドイツのメルケル首相は昨年3月、「新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちはどれほど脆弱なのか、どれほど他人の思いやりある行動に依存しているかということが明らかになった。それは、みんなで力を合わせて行動すれば自分自身を守り、そして互いに力を与えることができることでもある」と説き、互いの協力を呼びかけました。

同じ頃、ニュージーランドのアーダーン首相も国民に対し、「だれもが行動を制限されたくないことはよく分かっている。不安な気持ちだということも分かる」と共感を示し、それでもみんなで力を合わせてこの危機を乗り越えなくてはならないと訴えました。そして、一人ひとりが他者に対する思いやりをもってほしいと呼びかけました。

もっとも日本の首相も、会見で国民への共感を示していなかったわけではありません。安倍首相(当時)も、春の選抜高校野球の中止で悔しい思いをしている選手や、学校の一斉休校で卒業式も開かれなかった生徒や保護者に対して申し訳ない気持ちを示しました。しかし、安倍首相においては、政府は今これを実施していますので安心して任せてください、というメッセージのほうが目立っていました。政治家も含めみんな一緒にがんばろう、という連帯に向けたメッセージではありませんでした。

最も弱い立場に置かれてきた女性たちは、自らの脆弱さを克服するために、インフォーマルなつながりで育んだ共感と連帯で互いを元気づけてきました。そうしたことと、これらの女性リーダーのメッセージは無縁ではないように思われます。

女性に対する支援

コロナ禍では女性への経済的支援やDV対策の充実は急務です。しかし、自治体にはそれだけでなく、なぜコロナ禍で女性が生きづらくなるのかを問い、コロナ対策というよりはジェンダー不平等の解決と女性のエンパワーメントのための政策を目指してもらいたいのです。そのためには、福祉を家族任せ(女性任せ)にしないこと、また、弱い者が生き延びるために必要とした共感と支え合いのための連帯を、地域で常設化・制度化し安定させることが重要です。地域で女性たちが互いに支え合う仲間と出会ったり、「井戸端会議」をしたりする機会や場の増加が求められます。

これを書いている今、コロナ危機と絡んで「生理の貧困」が話題となっており、女性に生理用品を配布する自治体も出てきています。それは果たして、問題の解決になるのでしょうか。どうか、アベノマスクのように数個配布して終わり、となりませんように。

片岡 佳美
  • 片岡 佳美(かたおか よしみ)
  • 島根大学教授

博士(社会学)。専門は家族社会学。主な著作に『子どもが教えてくれた世界』(世界思想社、2018年)、『家族実践の社会学』(共訳、北大路書房、2017年)。

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