【論文】会計年度任用職員制度開始前後にあった、ある役場でのこと

  • 匿名
    (※本稿は、自治体当局との厳しい力関係に配慮し、筆者を守るためにあえて匿名での掲載を了解いたしました。)
  • 2021年12月23日
  • 月刊『住民と自治』 2021年12月号 より

会計年度任用職員制度は処遇改善が本旨でしたが、必ずしもそのように機能していない実態があります。現場では何が起きているのか、その実態を紹介します。

はじめに

会計年度任用職員制度が始まり、はや1年半以上が過ぎました。皆様の自治体では、予算編成や、年明けや年度末の業務に向けて、せわしない日々を送っていることと思います。

私は、ある自治体の役場の職員で職員組合の役員を務めていますが、正職員のみならず非正規雇用の会計年度任用職員の方から、苦情や相談を受けることがあります。今回は、私の役場での非正規労働者にまつわるお話をしたいと思います。

会計年度任用職員制度導入に向け

私の所属する自治体職場は、近隣の市町村と比べても、非正規率が高いといわれていました。マイナンバーなどの新規事業があったとしても、当局は正職員を増やすようなことはせず、非正規労働者を雇用しています。

私たちの組合は、会計年度任用職員制度が始まる前から、現場が混乱することが予想されるため、早期に会計年度任用職員制度を確定し、現に働いている方々に、十分に時間を取って説明するよう当局に求めてきました。しかしながら、当局は周りの市町村の動向の様子見で、結局明らかになったのは2019年の10月頃でした。

当時、非正規雇用の職員として働いていた方から「組合に相談したい」と申し出がありました。内容としては、「次年度から会計年度任用職員制度に切り替わるが、引き続き働きたい場合は時給が下がるから困る」というものです。

その方たちの雇われている職種区分を廃止し、最低賃金ギリギリの時給単価で、会計年度任用職員制度をスタートさせようとしていたのです。会計年度任用職員には、特別給が支給されます。そのことで当局は人件費の増を危惧し、相談者たちが働いている職種区分ごとの時給をなくそうとしたのです。

組合としては、当局にしっかり該当者に説明することを求めました。また、可能な限り影響を少なくするよう対策を求めました。時給が実質的に下がってしまうことについては、不満はあるものの、特別給も含めて年間の賃金を比べたところ、大きな差が生じないことを確認できたことから、当人たちは納得し、会計年度任用職員として引き続き、働き続けてくれました。また、組合の要望も一部聞き入れてくれて、初年度のみですが、相談者のクラスの身分を会計年度任用職員の中に残してくれたことも当人たちが納得してくれた一因と思います。しかしながら、非正規雇用の制度切り替えに乗じた改悪であることに変わりはありません。

新型コロナウイルス感染症対策

多くの自治体がコロナ禍に振り回されました。それは、正職員のみならず、会計年度任用職員も同じでした。2020年4月頃は、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、正職員は病気休暇、会計年度任用職員は無給による休暇の対応でした。現在は、両者とも事故欠勤による有給の特別休暇となっています。

当時は、会計年度任用職員が、もし罹患してしまった場合、無給の休暇を余儀なくされ、賃金を直撃してしまいました。会計年度任用職員の中には、その賃金だけで生活を送っている方もいます。そうすると、罹患した場合、黙って出勤することも考えられます。もちろん、そんな方はいないと思いますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する上では、制度として欠陥があると言わざるを得ません。こういったところでも、正職員と非正規雇用の職員との格差が生じ、待遇の改善が必要でした。当局は、当初国の指針によるものという説明でした。とてもではないですが、コロナ対策という観点では非正規雇用の方々の待遇を、国自ら軽んじている姿勢が垣間見えたわけです。

正職員との待遇の違い

先にも述べましたが、正職員と会計年度任用職員とは休暇制度で有給や無給の区別があります。いま、民間企業においても、正規雇用と非正規雇用の差が問題になり、場合によっては裁判沙汰になっています。

例えば、私の自治体では、会計年度任用職員が妊娠し出産した場合の休暇は無給となります。また、休暇中は代替の職員をあてがうことはありません。そのため、出産した子どもが保育園に入園できるまで、現場の体制が苦しいままとなります。そうなると、当人は在籍しづらくなり、本人から退職をするという選択をしてしまうことになりかねません。

また、過去には非正規雇用の職員は、一日か半日のみの休暇が認められており、時間単位の有給休暇が認められていませんでした。そのため、例えば子どもが急に熱を出し中途半端な時間で帰る場合、働いた時間と有給休暇の時間を重複して休暇を申請するか、退勤時間から契約上の勤務時間までの時間を欠勤とするかを選択することになっていました。なお、現在は時間単位の休暇が認められています。

職場の配置換え

正職員の採用を抑えてきたことから、職場によっては、正職員よりも知識や経験があり、新人に教育できるほどの非正規雇用の職員がいます。当局は、そのような会計年度任用職員に別の部署での勤務を命じました。これまで、ずっと同じ部署で働いていた者に、十分な説明等を実施しなかったため、当人たちは困惑しました。また、会計年度任用職員で働いている人の中には、子どもを迎えに行く時間が必要だったりすることで、新しい配属職場の勤務条件が合わず、退職せざるを得ない方もいました。働く人への配慮が全くなされていない行為です。結局、その職場では、新しい会計年度任用職員を雇用するための事務が発生し、現場も疲弊してしまいました。

最後に

今回の会計年度任用職員導入は、非正規雇用の方々の待遇改善が本旨だったはずです。しかしながら、これまで述べたとおり、少なくとも私の自治体では全ての面で待遇改善が達成できたとはとても言い難い状況です。今や、正職員のみでは業務を回すことが出来ない状態です。しかしながら、その雇用は、臨時的雇用ではなく、正職員よりも勤務時間数が短く、かつそれが常勤化した雇用状態となっており、十分な労働力を確保できていません。

各自治体の財源も限りがあることから、会計年度任用職員を増やすということも難しい現状が出てきています。さらに、その人数を減らすということも今後多くの自治体で発生してくると思います。そういったことのないように、我々は何をしなければならないのか、それぞれの職場で闘うことも重要ですが、国民一人一人の公務労働に対する考え方を変えることなど、大きな視点での運動が必要と考えています。

  • 匿名
    (※本稿は、自治体当局との厳しい力関係に配慮し、筆者を守るためにあえて匿名での掲載を了解いたしました。)