【論文】自治体を「戦争する国」づくりの下請けにするな自衛隊への名簿提供中止を求めて運動交流会


「戦争する国」づくりに不可欠の要素は、戦争の担い手です。戦争をしたい勢力にとって自衛隊員の確保は切実な課題ですが、近年いよいよ自衛隊の任務の危険度が増す中で、自衛隊への志願者は減少しています。

この下で国は地方自治体に対し、自衛隊員募集に関するさまざまな業務への協力要請を強めており、特に募集対象市民の住民基本台帳情報の提供を求める動きは顕著です。

そこで日本平和委員会はこの名簿提供問題に関し、5月22日に運動交流会をオンラインで開催しました。平和委員会は各地域組織が地元自治体の調査をしたり、名簿提供しないよう要請したりなどしていますが、交流会ではこの運動をさらに強め広げることを目指しました。

名簿提供の法的根拠はあいまい

交流会では名簿提供の経過と論点について、『平和新聞』(日本平和委員会発行)の有田崇浩編集長が基調報告しました。以下に要旨を紹介します。

自衛隊はこれまでも、住民基本台帳を管理する市区町村から、募集対象者の個人情報を「閲覧」等によって入手してきました。これを紙や電子媒体、宛名シール等で提供させる動きが急速に強まっています。提供する自治体は全国1741のうち2017年は36%程度でしたが、2021年には半数を超え、2022年は6割を超えました。特に政令指定都市(20市)は著しく、『平和新聞』の調べでは2019年は4市だったのが2022年には17市に急増しました。

国は名簿提供を求める法的根拠に自衛隊法等を挙げますが、根拠としては非常にあいまいです。住民基本台帳法には、住民票の写し以外個人情報の外部提供については定めがありません。 は、立法者意思を確認できる文献によれば、防衛大臣が自治体首長に対し、募集に対する一般の反応、応募者数の大体の見通し、応募年齢層の概数に関する報告や県勢資料などの提出を求めることを想定したものだ、と説明されています。

▲「地方自治体は自衛隊に名簿渡すな運動交流会」(オンライン開催)で報告をする有田編集長。

も名簿提供を行う根拠づけにはならず、そもそも「必要な報告又は資料の提出を求めることができる」と規定しているに過ぎません。

自衛隊は、自治体から入手した名簿は、対象者宛ての募集案内のダイレクトメールに使うとしています。しかし防衛省の内部資料によれば、郵便物によって募集があることを知った志願者は、全体の1%余に過ぎません。

背景に「安保3文書」

名簿提供など国による自治体に対する自衛隊員募集業務への強い協力要請の背景に、昨年末に閣議決定された「安保3文書」があることに目を向ける必要があります。国家安全保障戦略は、「防衛力の中核」と定義される自衛隊員の「人的基盤強化」を強調しています。国家防衛戦略も「募集能力の一層の強化」を明記し、防衛力整備計画は求められる自衛隊員の素養に触れたうえで「必要な自衛官及び事務官等を確保し、更に必要な制度の検討を行うなど、人的基盤の強化を強化していく」、そのために「地方公共団体及び関係機関等との連携を強化する」と明記しています。

自治体による名簿提供は、かつての徴兵制度と似ています。役場の兵事係は、徴兵検査の1年前から戸籍を確認し、20歳になる青年を抽出して名簿や必要書類を軍に提供していました。再び自治体を「戦争する国」づくりの下請け機関にさせてはなりません。

米国では戦争などを想定し、対象男性の「選抜徴兵」制への登録義務が存在します。自治体による自衛隊への名簿提供は、戦時に若者を動員する体制や徴兵制の土台となり得るもので、警戒が必要です。国による自治体への募集業務強要は、「軍事優先」に傾く国の政治の流れの中で起きていることに注意を払う必要があります。

鹿児島市では提供中止署名に2万超

運動交流会の後半は、自治体による自衛隊への名簿提供の中止を求める取り組みについて、北海道・旭川市、仙台市、神奈川県・海老名市、鹿児島市からそれぞれ報告していただきました。

その中で、昨年度まで閲覧にとどめていた措置を、今年度から紙媒体による提供へ変更した鹿児島市では、提供中止を求める市民運動が大きく広がりました。昨年10月の個人情報保護審議会に提供への変更が報告されたのを受け、県平和委員会などが呼びかけ団体となって提供中止を求める市長宛ての請願署名に取り組んだところ、自筆署名が1500人、ネット署名には2万人以上の賛同が寄せられました。

鹿児島市の運動を報告した園山えりさんは県平和委員会会員で市議です。昨年12月議会で市長が正式に表明し、担当者が除外申請を導入する方針だと述べた際、園山さんは「本来は同意した市民のみ情報提供すべきだ」とただしました。

市は2月から除外申請期間を2カ月設けました。これを周知するため、高校生や保護者などに幅広く呼びかけようとオリジナルのチラシを2万枚作成し、ネットでも広げました。締め切り以降も対応すると市に表明させ、結果的に対象者5700人のうち6月8日までに161人、3%弱が申請しています。5月28日には「若者の個人情報を守る会」を発足し、さらなる共同を広げています。

各地の報告からは、「自治体は名簿の閲覧も認めるべきではない」「自衛隊内で起きている人権侵害も広く知らせ、自衛隊員も基本的人権が守られるべきだという市民運動にしていきたい」などと語られました。

ねらいは全国民の情報把握

軍隊経験を持つ日本平和委員会の内藤功代表理事(弁護士)は交流会の最後に、防衛省・自衛隊の究極のねらいは若者の個人情報を毎年防衛省に提供させ、これによって全国民の情報をつかむことだと述べ、「徴兵制度の準備段階が始まっている」と警告しています。

若者の命を守る立場で、地方自治体とよく懇談し、共感と共同を広げる運動をさらに大きくすることが求められています。