【論文】どこを目指す、地方版人口ビジョンと総合戦略─各自治体の策定状況と検討内容、課題

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はじめに

政府は2014年12月に「まち・ひと・しごと創生法」に基づき人口減対策としての「長期ビジョン」と今後5カ年の政策目標・施策となる総合戦略を策定し、関連予算・支援措置を決定しました。これを受けて、各自治体は2015年度中に地方版人口ビジョンと総合戦略を策定します。政府の発表(2015年7月)によれば、先行交付金の上乗せ要件となる10月末までの策定(予定含む)は、都道府県で36団体(81%)、市区町村で773団体(44%)です。

策定に向けては、既存の総合計画との整合性や人材・ノウハウの確保、重要業績評価指標の設定、PDCAサイクルの導入、効果検証等が求められ、民間シンクタンクへの丸投げや地域間格差の拡大も懸念されています。そのため政府は、相談窓口の設定(コンシェルジェ制度)、人材支援、膨大なビッグデータの活用、細かな政策パッケージを示し、意図的な財政誘導も行って国の戦略・方針の徹底を図っています。

こうした中で、いま大事なことは、地域にしっかり根をおろし、住民、職員、議員、地元企業、研究者等の参加で地域挙げての計画、地域づくりを進めていくことです。政府はこうした自治体の自主的、自律的な取組を支援し、雇用や福祉、教育等で基盤整備を早急に行うべきです。全国市長会も今年5月、医療・教育はナショナルミニマムとして国が責任を持ち、子どもの医療費等は国が一律負担、無償化すべきと提言しています。

ここではこうした現況を踏まえ、業界紙や一般マスコミ、自治体広報等に掲載された記事・情報などから、各自治体での地方版人口ビジョン、総合戦略の策定状況と検討内容、課題をまとめてみました。ここで紹介するのはその一部ですが、今後の活動に活かしていただければ幸いです。

なお、この問題は総合計画や公共施設等総合管理計画、合併算定替廃止に伴う交付税減額等と連動しており、総合的に検討していくことが必要です。

地域住民生活緊急支援交付金を決定

政府は、今年1月に総額3.5兆円の経済対策を決定し、「地方創生」施策の目玉である地域住民生活緊急支援交付金(総額4200億円)を設けました。交付金には地域消費喚起生活支援型(2500億円)と地方創生先行型(1700億円)の2種類があり、前者は地元の商店街で使うプレミア商品券とふるさと名物商品券・旅行券の発行が基本です。

後者の地方創生先行型は、地方版総合戦略の策定、地域しごと支援や創業支援、小さな拠点づくりなどに助成されます。総合戦略策定費相当分では、1都道府県2000万円、1市町村1000万円を確保し、人口を基本としつつ小規模団体に割増、財政力指数、就業率、人口流出、少子化状況等に配慮して交付されます。

先行型交付金には、基礎交付分(1400億円)と上乗せ分(300億円)があり、国の方針に沿った運用が徹底されます。特に上乗せ分は政策誘導を伴う競争的な交付金であり、地域再生の趣旨にはそぐわず、基礎交付に一本化すべきです。なお、これらの交付金はメニュー選択型であり、その運用や使い勝手にも疑問が出されています。神野直彦氏(東京大学名誉教授)も「地域が自由に工夫できる実質が伴った交付金なら意味があるが、メニュー選択型ならミニ補助金化する恐れがある」と指摘しています。

なお、政府は8月に2016年度に創設する「地方創生」の新型交付金に関する「統一的方針」を決定しました。来年度予算の概算要求で各府省の裁量経費等から財源を捻出して1000億円を要求し、同額の地方負担と合わせ事業費ベースで200億円超としている。全国知事会は当初予算化等を評価する一方、昨年度補正予算での先行交付金を大幅に上回る額を求めてきたことから、規模への不満が出ています(自治日報2015/8/7-14)。この内容については別途検討が必要です。 

1.地方版人口ビジョンと総合戦略を策定した自治体

(1)京丹後市

同市は2015年3月、全国初の市版人口ビジョンと総合戦略を公表した。これは2014年に国の地域再生・地方創生の動向を念頭に策定された第2次総合計画の内容を活用し、産官学金労等からなる住民代表会議等の審議を経て策定したものです。焦点の2060年の市人口(現在58000人)は、国立人口問題研究所や国の長期ビジョンの推計値を大幅に上回る75000人に設定した。出生率を同市の最大経験値である2.32に早期に引き上げ、人口流出の歯止め、若年層・壮年層の社会的流入人口の増加、若い世代の就労・結婚・子育て等の生活環境の整備、健康長寿の推進と市外からの定住化の促進を図って実現する。総合戦略は2014年度版で、今後、住民代表等による戦略推進組織等を中心に、京都府の総合戦略づくりとも連携し、毎年度必要な見直しを行う。

この内容について、増田寛也氏は「客観的な根拠が示されていない」「いつまでも成長願望や人口増への淡い期待を持つのではなく、縮小社会への賢い対応の仕方を考え出すキッカケになることを願う」(自治日報2015/4/17)と述べている。同氏の指摘自体は概ね妥当と思えるが、実際には財政誘導も行って拙速な提出を強いているのは政府側であり、増田氏もその重要メンバーである。

(2)会津若松市

同市は2015年4月、市版人口ビジョンと総合戦略を策定した。人口ビジョンでは、現状の人口動態が今後も続いた場合、2035年には人口10万人を切り、2060年には6万5千人程度まで減少することが予測されている。高齢化率も42%に達し、現在の25%を大きく上回り、市全体としての活力を維持することが難しくなる。こうした現状分析結果を踏まえ、①合計特殊出生率を2040年までに2.2まで上昇させる、②2030年を目途に社会動態±0を目指す、③ICT技術や観光を核とした交流人口の増加を図る。

総合戦略では、同市にはICT専門大学である会津大学や再生可能エネルギー施設や医療機器製造業、植物工場などの産業が立地し、これらの産業はアナリティクスやICT技術との融合により更なる高度化が期待されるため、アナリティクス産業・ICT関連企業の集積を図っていく。なお、今年1月にはこれらを柱にした地域再生計画が国の認定を受けている。

各政策の主なKPIは次の通りである。

  • 柱1のアナリティクス産業・ICT関連企業の集積では、アナリティクス・セキユリテイ人材輩出数は年140人、ICT関連企業誘致数は15社(5年間累計)とする。
  • 柱2の歴史・文化観光や産業・教育観光による地域連携と交流促進では、観光客数を2014年度の290万人から400万人に、外国語対応観光案内所利用者を6千人から1万5千人に、産業観光客数は今年度以降年840人に、教育旅行学校数(県外)は5年間で475校から706校に増やす。
  • 柱3の既存産業・資源を利用した効率化・高付加価値化による仕事づくりでは、ICT活用型農業による新規雇用数110人(5年間累計)、ICTと農業の融合による農産物の向上3%増、認定農業者数20%増、介護理美容施術件数は500件にする。
  • 柱4の伝統とICTを融合させた人・企業が定着したくなるまちづくりでは、5年間で中心市街地歩行者通行量を5,8%増、市内路線バス利用者数を年間195万人から210万人に増やす。
  • 柱5の結婚・出産・子育て支援と教育環境の整備では、出生数は年973人(2014年度)を維持し、出会いコンシェルジェ事業で成婚数は年5組、デジタル未来アートの来場者数も2000人にする。

(3)那須塩原市

同市は2015年3月に市版総合戦略を策定した。これは昨年3月に策定した定住促進計画(3カ年)をベースにして改定したものである。合計特殊出生率を1,47(2013年)から1,60(2020年)、1,8(2030年)程度までに引き上げるとして、主な重点施策に約20の数値目標を掲げた。

総合戦略では、子育て環境の整備や学校教育の充実を重点施策に挙げ、妊娠・出産支援や子供の健康対策、待機児童ゼロの達成、小中一貫教育の計画導入、英語教育の推進、不登校児童への自立支援などを盛り込んだ。また、短期目標では5年間で市内の転入者数が転出者数を上回る目標を設定、改定前の定住促進計画同様、10年後も人口規模11万7千人を維持し、生産年齢人口(15~64歳)比率60%の維持を目指すとしている。

(4)青森県

県は2015年8月に人口ビジョンと総合戦略を策定した。同県は1983年以降人口減少が続き、国立人口問題研究所の推計によれば2040年には93万人(現在132万人)に減少し、老年人口比率も41%になる。そのため人口ビジョンでは、極端な少子化・高齢化と人口減少に歯止めをかけ、持続可能な人口構造へ徐々に転換していくという視点で、2100年までの長期シミュレーションを実施し、2080年には人口約80万人で安定し、老年人口比率も改善していくとした。

自然減対策では、結婚・妊娠・出産・子育ての希望実現、若い世代が安心して働き、子どもを産み育てられる環境づくり、健康長寿県の実現に取り組んでいく。社会減対策では、県内定着や移住促進に向け、魅力あるしごとづくりを重視し、同県の強みを生かした戦略的な企業誘致、創業・起業の促進等で雇用の創出に取り組む。また、若者の地元定着や県外流出人材が県内に戻って活躍できる環境づくり「人材の地産地活」等に取り組む。

なお、具体的、独自の数値目標は示していない。知事は人口減対策で出生率の数値目標を掲げることは「センシティブな問題で、ためらいがある」、また「集落が崩壊すると本当に駄目、集落を経済的、社会保障的、文化的に強化し、守っていくことを進めている」「数字に強くこだわり、数字のために何かをやるのではなく、農村集落を守りながら、青森県として守られる方向に政策を持っていきたい」と述べている。

(5)高知県

県は2015年3月、2015年度版総合戦略を決定した。同県の人口は1956年の88万人をピークに減少が続き、現在は73万人である。1990年に県では初めて死亡数が出生数を上回る自然減となった。社会減は今も続いているが、以前ほど多くはなく、自然減の影響の方が大きい。

総合戦略では、①地産外商により安定した雇用を創出する、②新しい人の流れをつくる、③若い世代の結婚・妊娠・出産・子育ての希望をかなえる、女性の活躍の場を拡大する、④コンパクトな中心部と小さな拠点との連携により人々の暮らしを守るという、4つの目標を掲げている。早い時期にできたのは「産業振興計画など土台があったため」であり、これにより市町村に県の戦略を踏まえた総合戦略の策定を促すとしている。今後、県は少子化対策の意識調査、就職地や進学地の希望調査を行い、より具体的な人口の将来展望を示す。今年7~8月頃に総合戦略を改訂し、人口ビジョンをより詳細に盛り込む(自治日報2015/4/3)。

(6)和歌山県

県は2015年6月、県版人口ビジョンと総合戦略を公表した。同県の人口は1985年(約108万人)以降減少し、2015年現在、約96万人で65歳以上人口は27%超となっている。自然増減では、1995年を境に死亡数が出生数を上回り、自然減の状態が続いているが、合計特殊出生率は回復傾向にある(2005年1.32→2014年1.55)。社会増減は一貫して減の状態で、県外に進学先や就職先を求める若年層の大都市圏への転出が顕著である。

このままでは、①2040年に約70万人、2060年には約50万人まで激減する、②2060年には65歳以上人口が42%まで増え、高齢者1人を概ね現役世代1人で支える人口形態になる。あるべき将来人口では、「高齢者1人を現役世代2人で支える人口形態」を達成するため、2060年に人口70万人を確保する。そのため、産業政策やインフラ整備等で働く場を増やし、暮らしやすさや企業の存在をアピールし、転入者を増やし、社会減を抑制する。また、今以上に子育て環境を良くすることで出生率を高め、自然減を減らす。合計特殊出生率(2014年1.55)を2019年に1.80、2030年には2.07まで上昇させる。 

総合戦略では、目標1の「 安定した雇用を創出する」では、 県内で就職を希望する人をすべて受け入れるとして5年間で4000人の雇用の場を確保する。柱は県内企業の成長力強化、たくましい農林水産業の創出、観光振興である。目標2の「新しい人の流れを創造する」では、暮らしやすさに磨きをかけ、転出者と同程度の転入者を呼び込むとして、直近5カ年の転出超過累計数を今後5か年で半減させる。目標3の「少子化をくい止める」では、合計特殊出生率を2030年までに2.07に上昇させる。柱は出会い・結婚の支援、妊娠・出産・子育て支援である。目標4の「安全・安心な暮らしを実現する」では、災害対策、医療・福祉の充実、良好な生活環境を維持するとして、津波による犠牲者ゼロとそれを目指すための必要な対策を概ね10年で完成させる、がん年齢調整死亡率を25%減少させる、健康寿命の延伸、環境由来・食品由来の健康被害ゼロ、消費者被害、犯罪、交通事故のないまちづくりを推進する。目標5の「時代に合った地域をつくる」では、秩序ある都市の形成と生活拠点を中心とした生活圏を形成するとして、拠点都市相互を高速道路ネットワークで結ぶ、日常の生活サービスが享受できる拠点及び交通インフラの整備、まちなか居住・都市機能の誘導を推進する都市再開発等の推進、地域を支える活動者を倍増させる。

(7)徳島県

県は2015年7月、県版人口ビジョンと総合戦略を策定した。人口ビジョンでは、現在約76万人の人口を2060年には国立人口問題研究所の推計(約42万人)を上回る60~65万人を確保するとした。合計特殊出生率を2025年に1,80、2030年以降は2,07に上昇させ、転入・転出者数を2020時点で均衡、2030年以降は転入者が毎年3000人超過すれば約65万人になるとの展望を示した。

総合戦略では、5年間で4000人の雇用創出、2025年に希望出生率(1,80)の実現、徳島版地方創生特区を10区にするなどの基本目標を掲げた。実現に向けては移住者数850人、6次産業化事業数350件、年間宿泊者数310万人など主要128項目の重要業績評価指標を設定した。

地方創生特区は2016年度に創設し、市町村の課題解決を県の規制緩和、県税の減免措置、財政支援等のパッケージで支援する。この他、2地域居住者促進のため、地方と都市の学校移動を容易にし双方で教育を受けられる「デュアルスクール」のモデル化、「移住コンシェルジェ」の配置、クリエイティブ関連企業の集積、もうかる農林水産業、徳島大学との連携による「アグリサイエンスゾーン」の構築、第3子以降の保育料無料化制度の創設、企業の本社機能移転補助の拡充、政府関係機関の誘致などを盛り込んだ。県は今後、年次目標を明示したアクションプランを策定する。(自治日報2015/6/12、7/24)

2.現在、検討中の自治体

(1)仙北市

市は定住、人口減少対策に本格的に取り組むため、定住対策推進室を新設した。市長は「地域の特色からすれば、国際交流や世界規模の観光を展開する」など、独自の戦略づくりに意欲を示している。同市は2015年3月に地方創生特区の指定を受けた。医療分野の規制緩和をテコに温泉を使った医療ツーリズムを拡大する。外国人医師が地方の診療所でも研修医として働けるよう政府が規制緩和をする。医師不足の地方で外国語が話せる医師を確保しやすくして内外からの観光客を呼び寄せるとしている(日経新聞2015/3/19)。

(2)宇都宮市

市は2015年2月、暮らしに必要な機能を集約した拠点を結ぶネットワーク型コンパクトシティを実現するとして、今後のまちづくり計画の指針となる形成ビジョンを策定した。都市拠点、地域拠点、産業拠点、観光拠点を形成し、それらを結ぶ交通ネットワークを構築することが重要と指摘し、次世代型の路面電車(LRT)の導入や公共交通同士での乗り継ぎ利便性の向上、大規模公有地の利活用推進等を提起した。市長は「市民のライフスタイルや居住選択の意思を尊重しつつ、このビジョンを一層推進することで、市内すべての地域の維持・発展を目指していく」と述べた。

市は6月に人口減少対策検討懇談会を開催し、自然増・社会増部会で議論した。その中で、企業誘致やI・Uターン促進の必要性等が提起された。今後、意見やアンケートを基に8月中に人口ビジョンと総合戦略の素案をまとめ、パブリックコメントを経て10月に策定する。

(3)杉並区

区は南伊豆町と共同で2017年度に区民が入所できる特養ホームを同町に整備する。都道府県の枠を超え自治体が連携し特養ホームをつくるのは初めて。同区は待機高齢者を減らせる他、南伊豆町は雇用創出が期待できる。都市部で急増する待機高齢者を減らすために都市と地方が手を結ぶモデルケースとなる。杉並区と南伊豆町、静岡県は2014年12月に基本合意し、今年3月に覚書を締結した。町有地に整備する特養ホームは100人程度、要介護度等の条件が同じなら杉並区と南伊豆町の住民が優先して入所できる。建設や運営は区と町が公募する社会福祉法人が担当する。

杉並区の田中区長は「地価が安い所で施設を造り、中身に資金をかけた方が入所者にとってよい面もある」と話す。南伊豆町は高齢化が進み、主力の観光産業は低迷している。特養ホームができれば、入所した区民の家族が訪れたりする他、「70~80人の新規雇用も期待できる」(静岡県)。

入所者の医療費は入所前の自治体が負担する特例制度があるが、75歳以上になると施設がある自治体に公費負担が移るため、静岡県などの負担が増す懸念があった。厚生労働省は前の自治体が負担し続けるように制度の見直しを検討する。(日本経済新聞2014/12/11)

(4)日野町

同町の総合戦略策定に向けた基本方針は、①第5次総合計画の進捗管理・評価の延長線上で対応する。②総合計画上の位置付けは、計画期間中の情勢変化に対応して計画を遂行のための戦略「自律の町づくり計画」に相当し、名称を「日野町くらし安心ひと創り総合戦略」とする。③総合計画等策定委員会の所掌事項として進捗管理する。④総合計画懇話会から評価に基づく提言を受ける。⑤策定にかかる作業及び意見聴取の庁内組織として、「日野町くらし安心ひと創りプロジェクト委員会」を設置すると位置付けられている。

総合戦略では、国事例の4項目と総合計画の趣旨との整合性を図る。4項目に関係する総合計画

の施策を紐付け・具体化し、現行施策の充実強化、取組の進んでいない施策等を補強する。具体的には、①安定した雇用を創出する⇒まちのたからで雇用を創る。②新しい人の流れを作る、出会いと発見で人の流れを作る。③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をみんなで支えてかなえる。④時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに地域と地域を連携するとしている。

人口ビジョンは、①第5次総合計画は人口減少を前提として策定した経緯から人口維持、増加のイメージを持っていない。総合計画懇話会で人口減少の現実をふまえて適正人口について議論する。②国の目指す人口1億人程度(2060年)に合せる方向とすれば1万8~9千人になる。③転出入者、地元高校生に対してアンケートを実施する。

日野町くらし安心ひと創りプロジェクト委員会は、①若い人たちが意見を反映する機会が少なく、25年後を目指した戦略であることから主に40歳以下の職員で構成する、②将来のまちづくりはもとより、自分たちの仕事・職場のあり方に関わること、各自の仕事を総合的とらまえる機会として取り組む、③主任クラスを戦略4項目にかかる分科会の取りまとめ役として置く、④必要に応じて若い住民の意見を聴く機会を持つ。

今後の課題では、①産官学金労言との関係(総合計画懇話会で産官学とは構築済)、金融機関とは地元企業・事業者ニーズを把握している強みを活用し施策に反映させる、②KPIの設定と検証組織への金労言の参加、③連携中枢都市圏、定住自立圏との関係、④多様な地域づくり、結婚・出産・子育て支援など多くの事例が公表され、条件不利地域が地道にコツコツ築きあげてきたことが地域間競争に巻き込まれる懸念がる、④顔の見える関係による他者に真似できないことの強みへの確信、日野のたからの掘起しと再認識により誇りとまちづくりへの確信を更に高める、⑤上記のための情報発信・共有などが挙げられている。なお、同町の総合戦略と人口ビジョンは2015年12月までに策定する予定である。(2015年5月研究所自治体政策セミナーでの日野町報告を要約)

(5)京都市

市は2015年3月に中間案を報告、全局・全区で議論し、総合戦略を2015年度前半に策定する。行政主導でなく市民や地域、企業、大学等が強い危機感を共有し、人口減少問題に本気になってもらうこと、すべての主体が行動を起こし、行政が総合的に支援・コーディネートし、相互に連携・協力しながらそれぞれの持てる力を最大限発揮できるようにしていくことが重要と指摘した。

施策例では、子育て・若年層の住宅支援や健康寿命の延伸を目指す市民ぐるみの健康づくり・介護予防の推進、移住相談員「都ぐらしコンシェルジェ」の設置など京都への移住支援「住むなら都」事業、京都ソーシャル・イノベーションセンターの設置とソーシャルビジネス企業への支援等を掲げた。文化庁・観光庁移転誘致の具体的検討と誘致構想の策定、日本のこころを受け継ぐ人材育成基金の創設、北部山間地域の活性化や農家民宿の支援等も盛り込んでいる。市長は「地方創生は市民の希望の実現だ」と強調している。

2015年4月、市長が市民や地域団体、NPO、企業等から地方創生に関する主体的な取組提案を募集すると発表、提案内容は「京都創生・お宝バンク」に登録する。内容は人口減少社会の克服、東京一極集中の是正等に関する取組で、具体的には若い世代の出会いの機会を増やす、地域で子育てを支える、京都への移住・定住を促進することなど。提案は、実現に向けて市職員や外部有識者で構成するコーディネーターが知恵を絞り、支援策や助成制度等を見つけ、関係部署や窓口の照会、他団体とのマッチング等を行う(自治日報2015/4/3-24)。

(6)倉敷市

市は2015年6月に市版人口ビジョンと総合戦略の骨子案を提示した。今後、有識者会議やパブリックコメントを通じて最終案を固め、9月議会に示す。市の人口は自然増の状態が続き、2004年以降はリーマン・ショック時を除いて転入超過となっている。人口ビジョンでは、人口(2014年48万人)は2019年の48万人をピークに減少に転ずると分析し、自然増と社会増に加え、地域連携の推進という3つの視点から施策を推進する。

総合戦略では、①豊かな農産物や全国有数規模のコンビナートなど市の強みを最大限に生かす、②世代を超えて暮らしたいと言われる取組を柱に設定した。施策展開の方針では、働く場づくり、ひとを呼び込む、結婚・出産・子育ての希望をかなえる、安全な暮らしを守り地域を繋ぐ、を基本として、それぞれの数値目標を掲げる(2015/5/1自治日報)。なお、同市は連携中枢都市として2014年度に県内6市3町との「新たな広域連携モデル構築事業」の委託団体となっている。

(7)松江市

市は2015年7月に第2回総合戦略推進会議を開催し、市版人口ビジョンと総合戦略の要旨を提示した。人口ビジョンでは、①合計特殊出生率を過去の実績(全国平均より0,15高い)を踏まえ、国の見通し数値にそれを加算して2030年に1,95、2040年に2,22とする、②2016~2060年の社会増については年平均270人とするとの推計値に基づき、2060年に約18万人(2010年21万人)を確保するとした。総合戦略では、子育てや教育に要する費用負担の軽減など少子化対策の強化、子育て支援・環境の充実、仕事と子育てを両立できる職場づくり、地域資源を活用した「もうかる産業、仕事づくり」、雇用の場の確保、人や企業に選んでもらえる「まち」をつくるとしている。人口ビジョンと総合戦略は8月に素案を決定し、10月を目途に策定する。なお、同市は経済産業省の「暮らしやすさ」日本一になっている。

(8)北九州市

市長は2015年2月、公害を克服した経験を持つ同市が「環境技術の供与等でアジア諸都市とフレンドリーな関係を築き上げている」と述べ、今後はアジアの環境関連の人材育成で地方創生を図る考えを強調した。有識者会議では「人口が減少しても豊かな社会を作り上げるという視点が必要、働いていない女性に働いてもらうなど構造転換も必要」「市内の都心部に未利用地が少ない、それを活性化していくためには税金を安くするなどの差別化が必要」「高齢者を取り込んだサービス業をいかに構築していくかが大事」などの意見が出た。

これを受けて、市は4月に総合戦略の骨子素案を公表した。「新しいひとの流れ」「若い世代の希望」など5分野の政策パッケージで構成、女性や若者の定着に向けて各分野で「日本トップクラスと評価されている子育て環境の一層の充実」といった基本方向を示し、第3子以降の保育料・保育所入所の優遇という施策の具体例も挙げている。また、市の弱みとして首都圏や福岡市への人材流出が指摘されており、施策例の中には地元企業のインターシップの抜本的拡充や留学生の地元就職支援を盛り込み、かつ北九州に住んで福岡圏に通勤・通学するライフスタイル支援の検討など新たな視点も取り入れた。市は今後、有識者会議や市議会などの意見を踏まえて、7月中に数値目標も示した総合戦略案を公表する予定である(自治日報2015/5/15他)。 

(9)岩手県

県は2014年9月に人口減少対策で中間報告をまとめ、早急に取り組むでき課題として、出生率低迷と若年層の人口流出・還流促進対策などを挙げた。県の人口は1997年以降減り続け、特に若年女性の減少により出生率が低迷している。また、社会減が18歳の進学・就職期と22歳前後の就職期に顕著になっている。県は子育てを社会全体で支えていくための仕組みづくりや、魅力ある企業を育てて若者の就職につなげる施策の検討などを進めていくと述べている。

県は2014年11月に国に対して以下の提言・要望をまとめた。「全般的な事項」では、使途の自由度の高い交付金等の創設、地方重視の経済財政政策の実施、東日本大震災津波からの復旧・復興事業を応用した取組、「個別事項の自然減対策」では、地域少子化対策強化交付金の恒久化、乳幼児医療費助成の全国一律化、妊産婦ケア体制の整備、男性が家事・育児に参加しやすい働き方への転換、子育てしやすい働き方の促進、育児休暇後のキャリアアップ、「社会減対策」では、高等教育機関の地方分散、地方大学への支援、企業の本社機能の移転、地方自治体が行う企業誘致制度への支援、創業支援、国際交流人口の拡大、速達性の高い道路ネットワーク整備・利用促進の支援などである。

(10)秋田県

県は2014年12月、全国最速で進む人口減少の対策をまとめ、県議会に提示した。県の人口は103万人(2014年10月)で、昨年の人口減少率は1,18で全国最大だった。県は人口減の要因について、①産業規模が小さく新規学卒者の雇用の場を作れなかったこと、②全国に比べ賃金など雇用条件に格差があること、③第3子以降の出生割合が他県と比べて低いことなどを挙げた。

対策の方向性では、①社会減への歯止め、②少子化対策、③持続可能な地域づくりの3つを柱に据え、若者へのきめ細かな起業ノウハウの提供、大都市の高齢者が健康なうちに移り住み、必要な医療・介護サービスが受けられる地域共同体「CCRC」の導入、全国トップクラスの子どもの学力など秋田の優位な点を生かして様々な世代の県外からの移住・定住の促進等に取り組むとした。

人口が減った地域の集落移転や県内に複数の拠点都市を設ける構想などを研究し、地域社会の維持・活性化に繋げることを検討する(朝日新聞2014/12/11他)。県は今年1月に地方創生本部を設置し、10月を目途に総合戦略を策定する。

(11)群馬県

県は2014年12月に人口減少対策に関する緊急提言をまとめ、国に提出した。「地方で暮らし始めたくなる施策」では、首都圏業務等機能の地方分散促進、二地域居住者や交流人口の増加促進、高齢者の移住促進制度、若者をはじめとした雇用創出の仕組みづくり、「地方に住み続けたくなる施策」では、地方における拠点づくり支援、世界遺産等を活用した観光振興・地域活性化、次世代産業の創出や中小企業の競争力強化による地域経済の活性化、農林業の活性化に向けた総合的支援、「道の駅」を核とした地域拠点の形成、地方の暮らしの利便性向上に向けた地域公共交通の確保維持などである。「地方で家族を増やしたくなる施策」では、若者が将来設計を描ける「働き方」の改革、結婚・子育て世帯への経済的支援の強化、安心して出産・子育てできる医療体制の確保、多子世帯及び三世代同居・近居の支援、「地方創生を効果的に推進するための施策」では、地方創生に係る財政支援措置の創設・拡充、地方創生に向けた地方分権改革の着実な推進、人口減少対策に対する国民のコンセンサスの形成、施策効果を検証・分析するための基礎情報の提供などである。

県は、人口ビジョン、総合戦略は人口減少対策を土台に据えて次期総合計画の策定と一体的に進める。また、それを実効性のあるものにするため、市町村や各種団体等と連携を深め、幅広く意見を聴きながら「オール群馬体制」で取り組むと述べている。

(12)茨城県

県は2015年6月の創生会議で、「現在、県内44 市町村が戦略策定に取り組んでおり,市町村と施策の方向性を摺り合わせながら10月頃を目標に総合戦略を策定する。県の総合計画の策定作業と重複しており、地方創生の観点に立った施策をできるだけ反映させていきたい」と述べた。

知事は「本県は平地が多く、可住地面積から見ると日本で4番目である。東京、首都圏に近く一部首都圏と言ってもいい。インフラ整備面でも高速道路や港湾、空港、鉄道など大分形が整い、北関東、埼玉も含めた地域の活力を維持していく上で重要になっている」「本県も2010年に297万人だった人口が2040年には242万人に減少すると推計されている。特に県北地域は減少率が高く、そういう地域をどうするのか。これからの課題である」と述べている。

有識者会議の蓮見座長は「団塊の世代が高齢者となり,老年人口割合と年少人口の割合が逆転している。子どもの数を減らさず、増加する高齢者への対応をどうするかが大きな課題。高度経済成長と東京への一極集中を背景として,大都市の生活はバラ色で田舎はボロボロといった間違った認識ができてしまった。茨城のよさを親も含めて認識できるような教育が必要である。茨城の強みは豊かさであり,弱みは危機感のなさである。県民所得も上位であり,第一次、第二次産業が強い一方で、サービス産業などの第三次産業が弱く,それが茨城の特徴を作っている」と指摘した。

なお、県は婚活に積極的に乗り出し、2006年に「いばらき出会いサポートセンター」を設立、少子化対策で重要な婚活を、お見合い、サポーター(無償の仲人)、パーティーの3つのチャンネルで応援し、1,316組の婚活に繋げたと強調している(地方創生全国大会2014/12/5)。

(13)東京都

都は2014年9月、今後10年間の施策目標を盛り込んだ新たな長期ビジョン案を公表した。2020年の東京五輪等を見据えて外国人観光客の受け入れ環境の整備を進め、2024年に1800万人に増やす目標を提示した。また、五輪に向けて交通アクセスを改善する。また、2015年6月には2040年代の東京のあるべき姿を検討する「東京のグランドデザイン検討委員会」を開催し、ハード分野に加えてソフト分野の課題も検討し、2017年に策定する予定である。

少子高齢化対策では、保育所の開設補助や出産などを機に辞めた保育士の復職支援を通じ、2017年度末までに待機児童ゼロを実現する。2025年には都民の4人に1人は高齢者になるのに対応し、特別養護老人ホームの定員を最大で現在の約1,5倍の6万人に拡大するとした。

(14)神奈川県

県は2015年6月に第1回地方創生推進会議を開催し、県版の人口ビジョン、総合戦略の骨格を提示した。人口ビジョンでは、7月の会議に①人口の変化が地域の将来に与える影響の分析・考察、②将来展望に必要な調査・分析結果を示して議論し、それらの意見を踏まえて、次々回以降に③目指すべき将来の方向、④人口の将来展望を事務局から提示するとした。総合戦略では、4つの基本目標とその論点例、神奈川らしい取組例を示した。

既に人口減少が始まっている横須賀・三浦地域の活性化に向けては、今年4月に同地域の魅力アップに繋がる事業を大学から募集している。書類による予備審査、公開プレゼンテーションを行い、明確な成果目標や実現可能性、独創性などの観点から6月までに採択事業を決める。県が求める提案内容は、観光振興、交流拡大、定住促進、創業支援、販路拡大、少子化対策などである。

(15)静岡県

県は2015年6月、県版の人口ビジョンと総合戦略の素案を策定し、県議会に示した。基本的視点では、本格的な人口減少局面を迎え、どのような地域を創るのかという明確な意志を持ち、人口減少社会を切り開く先駆けとなる静岡を「創造」するという発想を持って実践することが重要と述べ、①人口減少の抑制戦略では、社会が安定する静止人口状態の緩やかな実現に向けて、「生んでよし」「育ててよし」「老いてよし」の地域を目指す人口の自然減対策、静岡県に人の流れを呼び込む社会減対策を官民一体となって推進する、②人口減少社会への適応戦略では、人口が減っても快適で安全な生活が保証されるシステムの構築、静岡の特性を活かした魅力の最大化を図ることにより、人口の自然減と社会減に歯止めを掛けていくとした。

この内容について、静岡新聞は社説(2015/7/1)で次のように述べている。人口ビジョンでは、2060年時点の県人口を300万人程度と想定した。今年6月現在の人口は約368万人、専門機関の推計では2060年に238万人に減ると見通されるが、「オール静岡の取り組みで未来を変える」と威勢がいい。総合戦略は「命を守り、日本一安全・安心な県土を築く」ことを柱にし、その下に雇用創出、移住・定住の促進、子育て支援の充実、地域社会活性化などを置くとの構成になっている。雇用も転入も、結婚・出産・子育ても、強くしなやかな県土あればこそという。ただ、これで「60年に300万人」を実現するには、相当緻密で高度な独自性ある政策が求められそうだ。

今回の素案を概観すれば、これまで進めてきた「内陸のフロンティア」(新東名高速道を中心とした内陸部の発展、沿岸部の再整備、蓄積した防災対策の強化)の取組に、地方創生の政府オーダーをミックスさせたようなもので、目新しさはない。何より、防災と地域経済戦略をどう関連させると地方創生の解が得られるのかが分からない。…静岡県は道府県別の人口移動報告で全国ワースト2位の転出超過となるなど危機感を起点に動いている。その危機感の程度が問題である。地方創生は新たな地域間競争に他ならない。危機感の大小で成果に差がつく。静岡県はどの程度の危機感をもっているのか。現状で「60年に300万人」はスローガンにすぎないと言わざるをえない。

(16)岐阜県

県は2015年2月、地方創生県民会議に県版人口ビジョン、総合戦略の暫定案を提示した。2100年に人口130万人を維持する政策を県内各地域の状況に応じて展開するとして、県内42市町村をダム機能都市型、愛知県通勤圏型、自己完結型など5類型に分類し、合計特殊出生率も現在の1,48を2030年までに1,8に上昇させるなどの各指標や企業誘致、移住促進策等を盛り込んだ。社会減対策では、各地域のダム機能を強化し、自治体間連携を促進するとの方針を示した。

具体的施策と施策ごとの重要業績指標(KPI)では、①結婚相談事業など非婚化・晩婚化対策(婚活サポーター登録者数240人)、②不妊治療への助成(出生率2030年に1,8)、③高齢者所有住宅を子育て世帯向けに活用する住み替え支援(子育て世帯における誘導居住面積水準達成率を2020年に65%)、④首都圏に総合移住相談窓口を設置(年間移住者数1000人)、⑤補助制度拡充や優遇税制など企業立地支援強化(5年間の平均企業立地件数36件)などを掲げている。今後、基本目標の成果指標を設定し、3月中に内容を固め、2015年度中に決定する。

2014年度の県外からの移住者は前年度比で31%増の782人、30~40代が56%、20代以下が29%であり、移住ニーズが高い名古屋市周辺での相談会等が奏功した。新たに移住・定住の支援制度を創設した大垣市、大野町、川辺町への移住者の増加が目立った(自治日報2015/2/20、5/22)

(17)長野県

県は2015年6月、県版総合戦略の施策構築に向けた現状と課題を公表した。その要旨は、①みんなで支える子育て安心戦略(子供を産み育てる人への一貫支援、信州ならではの魅力ある子育て環境づくり)、②未来を担う人材定着戦略(多様な人材の定着、イノベーションを誘発する企業・研究人材の誘致、知の集積と教育の充実)、③経済自立戦略(貢献と自立の経済構造への転換、経済の自立的発展を支える担い手の確保)、④確かな暮らし実現戦略(確かな暮らしを支える地域構造の構築、信州に根付くつながりの継承、地域の絆に立脚する「しあわせ健康県」の実現)となっている。これを踏まえて、県は8月に「人口定着・確かな暮らし実現総合戦略」骨子(案)を提示した。

同県では、各企業・団体と互いの強みや専門性を生かして地方創生を進めるため、八十二銀行、長野銀行、長野県信用金庫協会加盟金庫、長野県信用組合と連携協定を締結している。

(18)石川県

県は、2014年8月に人口減対策検討チームを発足させた。同県の人口は2005年に戦後初めて減少に転じ、能登地域9市町の総人口は1990年からの20年間で約5万5千人も減少している。これまで能登地方の人口減少分は加賀地方で取り戻し、増加傾向が続いていたが、2005年度からは県全体で人口減少となっている。流出の大部分は20代を中心とした若年層である。

2015年6月の有識者会議では、3月に延伸開業した北陸新幹線について「他にない優位性を手に入れた」として、新幹線の活用策、企業誘致、就職による人口流出防止のための愛郷心教育、地域資源の活用等の意見が出た。総合戦略の先行実施課題では、①北陸新幹線金沢開業効果の最大化と県内各地各分野への波及、②多様な人材を惹きつける魅力ある雇用の場の創出(本社機能の立地促進、新産業創出、農林水産業の活性化等)、③学生のUターン・県内就職と移住定住の促進、④子育て環境の更なる質の向上、出生率の向上など自然減対策、⑤高齢化社会への対応が提起された。

(19)京都府

府は2014年11月に地方創生関係で重点要望を発表した。内容は、①少子化対策では、第3子以降の幼児教育・保育料の無償化、②東京への一極集中是正策では、地方への移住希望者を支援するワンストップ型の移住・地域居住促進センターの新設、③地域経済対策では、人材育成を目的とした「地域しごと創生交付金」の創設などである。府は2015年1月、府版人口ビジョンと地域創生戦略の骨子をまとめた。基本的な視点では、上記の重点施策への対応を掲げ、市町村等と連携し、京都府ならではの地域創生の取組を進めるとした。6月には京都府と京都市、府内9大学は、地方創生の担い手を育成するため、府内の大学生を対象にした新資格制度「地域公共政策士」を開始すると発表した。異なる職業の垣根を越え、地域の公共的な活動や政策形成に関し、主導的にコーディネートできる能力を持つ人材を認証する仕組みである。

(20)奈良県

県は2014年8月に地方創生本部を設置し、下記の5つの分野で積極的に取り組みを進め、同県独自の地方創生を目指す。具体的には、1)少子化・女性分野では、①結婚・子育てをみんなで支える社会づくり、②起業等就労支援を通じた女性の社会参画の促進、2)産業・しごと・観光・農林分野では、①リーディング分野、チャレンジ分野の産業の創出・育成、②新卒者から離職者まで切れ目のないマッチング支援の充実、③外国人観光客交流館の開設、④なら食と農の魅力創造国際大学校の開校、3)国土強靭化・まちづくり・景観彩りでは、①市町村との協働によるまちづくりの推進、②多様な再生可能エネルギーの普及拡大、③植栽景観の向上による地域の魅力づくり、4)健康長寿・地域医療・障害者では、①地域医療・介護連携情報ICTの導入検討、②障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例の推進、5)文化・スポーツ・教育分野では、①文化・芸術への参加機会の充実、②総合教育会議における教育の方向性の検討などである。

また、県はこの間、「市町村一まちづくり構想推進事業」の実施など公共施設や公有地の利活用と地域資源を活かした具体的なまちづくりを進め、これに前向きなやる気・アイデアのある市町村をより積極的に支援するため、奈良モデルの延長とし「県と市町村とのまちづくりに関する連携協定」の締結を推進している。その背景には「急激な人口減少と高齢化が進む中で地域性を活かした賑わいのある住みよい街づくりを進めるためには、「地域創生」の核となる駅や病院、寺社、公園などの中心拠点に都市機能を集積し、低未利用地を活用するなどの再整備が不可欠との認識がある。県には県管理施設の改修や県有地の活用などの県事業と市町村の街づくりを一体的に検討することで、効率的な街づくりが期待できる」としている。(自治日報2015/1/2-9)

(21)山口県

知事は2014年11月に東京一極集中を是正する16の重点政策を発表した。具体の内容は、企業や国の研究機関、大学の地方移転を進め、地方で学び、働く選択を後押しする政策が必要であるとして、東京圏から地方に移転する企業に対する法人税減税や移転費補助、地方国立大学の入学料・授業料の引き下げ、地方の大学入学と就職で返還が免除される奨学金制度の創設などを進める。

県は2015年1月に創出本部を設置し、6月に県版人口ビジョン、総合戦略の中間報告(案)を公表し、10月を目途に策定する予定である。中間報告(案)では、目指すべき将来の方向として、①若者層の県外流出の縮減と県内回帰の実現、②若い世代の結婚や子育て要望の実現、③人口減少・高齢化社会でも持続可能な効率的な社会システムの構築等が提起された。具体的な数値目標の設定はこれからである。県内市町側からは、雇用創出や少子化対策、若者の定住対策、交流人口の拡大等による人口減少歯止め策の重要性、県の総合戦略に対しては「包括的なものでなく、それぞれの地域の実情をみて、特性を生かせるようなものにしていただきたい」との要望が出されている。

(22)熊本県

県は2015年8月、県版人口ビジョンと総合戦略の素案を公表した。新産業による雇用創出などで人口流出を抑制するとともに、結婚や出産、子育てでの希望を実現できる環境を整備する。2014年の県内人口は179万人であり、国立人口問題研究所は2060年に117万人に減ると推計したが、県は144万人に維持することを目標に掲げた。人口ビジョンでは、人口減が労働力不足や地域経済規模の縮小などを招くとして対策の必要性を強調し、2014年で1,64の合計特殊出生率を2030年に2,0、2040年2,1に引き上げ、60年時点の人口減少を推計より26万人抑制するとした。

総合戦略は、県政運営の基本方針として策定済みの4カ年戦略をベースに立案、最終目標では社会減を半減、出生数を微減にとどめ、県民幸福量の増大を図るとした。具体的な施策では、①1次産業の支援強化や自然共生型の新ビジネスの創出、②阿蘇くまもと空港の拠点性を高める「大空港構想」の推進、③新たな海外マーケットの開拓、④地域の医療介護提供体制の整備、⑤移住・定住の促進、⑥市町村間の広域連携の支援、⑦幹線道路網の整備を挙げ、各施策には数値目標を盛り込んだ。県は県民からの意見公募も始め、10月中に決定する(「熊本のニュース」2015/8/6)。

なお、県は市町村の総合戦略の策定を支援するため、県職員19人を県版コンシェルジェとして任命し、「県と市町村は目指すべき方向性や認識を共有し、一体となって地方創生に取り組むことが重要」と強調した。また、熊本市と政策連携会議を開催し、熊本市を人口減少に歯止めをかける「県全体のダム」と位置付け、県市の密接な連携の強化を確認している。

3.「小さくても輝く自治体フォーラムの会」が調査結果を発表

フォーラムの会の地方創生総合戦略づくりに関するアンケートは、2015年5/25~7/5に同会の会員(自治体担当者)を対象にして郵送及びメールで実施された。回収数は44、回収率は70%(44/63)である。詳しくは「住民と自治」誌2015年9月号の平岡・中島報告を参照されたい。

(1)地方版総合戦略の策定期間(今年度中)

①十分である15,9% ②やや短い52,3% ③短すぎる31,8%

(2)地方創生先行型交付金の予算配分~地方創生戦略づくり

①ゼロ・空白4,5% ②300万円以下13,6% ③301~600万円20,5% ④601~900万円29,5% ⑤901万円以上31,8% 

(3)人口ビジョンと総合戦略の策定時期など

  • <人口ビジョン> ①10月まで61,4% ②11~12月15,9% ③1~3月18,2%
  • <総合戦略> ①10月まで43,2% ②11~12月15,9% ③1~3月36,4%
  • <人口ビジョンと総合計画等との整合性>①こだわらない40,9% ②整合性をとる50,0% ③その他9,1%

(4)地方創生総合戦略の内容~取り組む事業

  • ○公共施設等総合管理計画
    ①策定済み2,3% ②検討中56,8% ③予定ない38,6% ④未定2,3%
  • ○小中学校の統廃合 ①実施済み9,1% ②検討中 6,8% ③予定ない81,8% ④未定2,3%
  • ○小さな拠点づくり
    ①実施済み11,4% ②検討中43,2% ③予定ない43,2% ④未定2,3%

4.地方版人口ビジョン・総合戦略の策定支援業務の委託

策定支援業務の委託は全国の自治体に広がっている。この策定費相当分は、地方創生先行交付金の基礎交付分の中で、都道府県は1団体2000万円、市町村は1団体1000万円が確保されている。

具体例では、天理市は同市の人口ビジョンの策定、総合戦略の策定、策定体制の運営支援業務を委託し(委託期限は2016年3月まで)、委託上限額は1100万円としている。公募型プロポーザルの中で最終的に日本IBMが最優秀提案者に選ばれた。

ネット上に掲載された自治体を見ても、利根町(1000万円)、竹富町(1000万円)、新居浜市(975万円)、伊予市(950万円)、吉岡町(910万円)、浦安市(900万円)、小平市(897万円)、広陵町(850万円)、人吉市(800万円)、日向市(780万円)、鎌倉市(756万円)などがある。

斑鳩町(奈良県)のように、人口ビジョン・総合戦略策定支援に加え、第4次総合計画の策定等業務も一緒に委託している自治体もある。

フォーラムの会の調査でも、人口ビジョンは、全て委託が34%、一部委託が46%、予定なしが20%、総合戦略は、全て委託が23%、一部委託が50%、予定なしが27%で、かなりの割合になる。

5.プレミア商品券等の発行を巡る自治体の動き

プレミア商品券・宿泊券発行の動きは全国に急速に広がっており、全自治体の97%が発行する予定である。これらは地域消費喚起生活支援型交付金の9割を占めている。販売に当たってはどこも窓口に買い手が殺到し、途中で打ち切った自治体もある。また、これらの商品券、宿泊券が転売される事例も出ており、対策に苦慮している。

具体的な動きでは、プレミア商品券については、横浜市は額面1万2千円の商品券を1万円(規模100億円、国交付金23億円)で、川崎市も額面1冊1万2千円の商品券を1万円(規模33億円、交付金6億円)で発行した。また、プレミア宿泊券は、鳥取県が4月に県内宿泊施設で利用できる額面1万円の宿泊券を5千円で、宮崎県は5月に額面5千円の宿泊券を2500円で、京都府も府北部の指定宿泊施設限定で額面1万4千円の宿泊券を1万円で発行した。京都府や神奈川県のように、地域経済が落ち込んでいる地域応援型にする事例も見られるが、消費税増税等で冷え込んだ地域の消費喚起に繋がるのか、疑問の声も上がっている。単年度対応であり、経済効果は限定的、一過的、一時的との見方が強い。

6.新たな広域連携の設置を目指す自治体

(1)京都府内

京都北部の京丹後、宮津、舞鶴、綾部、福知山5市と伊根、与謝野2町は、2015年4月、各市町の連携と協力により魅力ある都市圏形成を進めるため、京都府北部地域連携都市圏形成推進宣言書に署名した。中核的都市への集約でなく、人口10万未満の市町相互間で中核市並みの都市機能等を備える生活・経済圏を形成し、圏域全体を活性化させる。先行事例として取組を進め、国に提案していく。趣意書では、人口減少等に人口10万未満の市町が立ち向かうのは課題が多いが、北部地域には高度な医療や多様な教育が受けられる病院群や高校群、産業や工業団地群、観光資源など都市部に見劣りしない都市機能が存在すると指摘している。(自治日報2015/5/1-8)

(2)兵庫県内

同県では、姫路市と周辺7市(相生、加古川、赤穂、高砂、加西、宍栗、たつの)と8町(稲美、播磨、市川、福崎、神河、太子、上郡、作用)は、2015年4月に連携中枢都市圏形成に向けて連携協約を締結した。協約では産学金官民一体で経済戦略の策定や高度な医療サービスの提供、スポーツ・文化芸術振興など23の取組を定めた。

加西市・加東市は2015年3月、定住自立圏の形成に向けて中心都市宣言を行った。この場合は2つの市を1つとみなす複眼型、近隣の西脇市、多可町の3市1町で形成する。多可町長は地方創生では、ヘルスツーリズムと結びつけた観光開発やアロマセラピーによる認知症予防などの施策を具体化させると述べている。

(3)岡山県内

倉敷市と周辺6市(新見、高梁、総社、井原、朝口、笠岡)と3町(早島、矢掛、里庄)は、2015年3月27日に連携協約を締結した。高梁川流域自治体7市3町は、気候や風土、主要産業においても多種多様であり、こうした市町が連携することで、圏域の特色を最大限活かし、地域の総合力をもって人口減少・少子高齢化社会に対応し、圏域全体の経済成長を目指すと述べている。

(4)広島県内(一部岡山県、山口県も含む)

福山市と近隣5市(尾道、三原、府中、笠岡、井原)・2町(世羅、神石高原)は、2015年3月に連携協約を締結し、福山市は「びんご圏域ビジョン」を策定した。2015~2019年度までの5年計画で、産業振興や広域観光の推進、都市機能の充実や住民協働の地域振興など7つの基本方針を掲げた。雇用対策では、福山市の東京事務所を活用したUIJターンの推進やインターシップ等の就労支援策の調査、就職情報の発信などを行う。また、高度医療サービスの提供を目指し、福山市は市民病院の救命救急センターやがん医療などの充実、圏域内の医療機関との連携強化、医師・看護婦の確保対策を図る。

広島市は、近隣10市(呉、竹原、三原、大竹、東広島、廿日市、安芸高田、江田島、岩国、櫻井)・6町(府中、海田、熊野、坂、安芸太田、北広島)との連携による経済活性化と200万人超都市圏の形成に向けて地方創生に取り組む。連携中枢都市圏の形成は、2016年度からの取組開始を目指し、2016年2月議会で連携中枢都市宣言を行い、3月に連携協約と人口ビジョンを策定する予定である。

(5)宮崎県内

宮崎市と国富町、綾町は2015年3月に連携協約を締結した。宮崎市は2014年12月に全国に先駆けて連携中枢都市を宣言、4月に圏域ビジョンを策定した。人口減少の中で「『共創』の考え方を基本に周辺の自治体、産業界、大学や金融機関など多様な主体と連携して、雇用の場の創出、地域や企業ニーズに合った人材の育成、地域資源を生かした交流人口の拡大など、定住や移住に向けた取組を促進し、人口減少が食い止められるよう、圏域の経済の活性化や公共サービスの確保を図っていく」と述べ、地域経済の活性化や生活機能向上に向けた拠点づくりを進めている。

(6)愛知県内

豊橋市など8市町村は2015年1月末に「東三河広域連合」を設立した。3月末に広域連合議会を開催し、予算、広域計画を決定し、4月から各事業を開始する。共同事務は介護保険の他、税等の滞納整理、社会福祉法人関係、消費生活相談などで、これ以外にも産業振興など新たな連携事業や児童相談所などを念頭に権限移譲の調査研究を行う。豊橋市長は「地方創生のモデルケースとして全国から注目される存在になれるよう頑張りたい」と抱負を述べた。(自治日報2015/2/6)

●政府が2015年度の新たな広域促進事業の委託団体を決定(6月)
  • ○連携中枢都市圏(新規) 12件 八戸市、山形市、郡山市、新潟市、金沢市、岐阜市、静岡市、岡山市、松山市、久留米市、長崎市、大分市
  • ○連携中枢都市圏(継続) 3件  盛岡市、倉敷市、福山市
  • ○連携中枢都市圏(近隣市町村) 2件 滝沢市、佐用町
  • ○都道府県(市区町村連携) 6件 千葉県、長野県、静岡県、奈良県、宮崎県、鹿児島県
  • ○三大都市圏 5件 千葉市、国分寺市、茅ケ崎市、京都市、神戸市

7.地方創生案件と議会との関係

このことについて、江藤俊昭氏(山梨学院大学大学院教授)は、この時期、まさに地域経営の軸として、総合計画、地方版総合戦略、公共施設等総合管理計画を総体的、体系的に策定していくことが必要であり、そのためには「公開と討議」の場である議会で討議を行い、議決することが必要となると指摘している。広島県では、地方人口ビジョンは議会の議決に、地方版総合戦略は分野別計画と位置付け議会への報告義務として扱い、兵庫県では「地域創生条例」を定め、地域創生戦略の根拠を明確にするとともに、それを議決事件と規定しているという(自治日報2015/7/31)。

フォーラムの会の調査でも、地方創生案件と議会の関係(複数回答)では、議決案件とする6,8%、特別委員会を設置する4,5%、所管する委員会で集中審議する4,5%、全員協議会で説明・意見交換する72,7%となっている。「地方創生」でも議会の役割は重要である。

  • 2015年10月1日
  • より
角田 英昭

1944年生まれ。1967年に神奈川県庁入庁。退職後、自治労連・地方自治問題研究機構、自治体問題研究所で調査研究活動等に従事。

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