【論文】「会計年度任用職員」導入による公務員制度の大転換

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自治体の非正規職員は、いまや公務の中心的担い手です。2年後に実施される「会計年度任用職員」制度は、自治体職員の働き方と仕事にどのような影響を与えていくのでしょうか。

はじめに

2017年、地方公務員法と地方自治法が改定され、2020年4月から自治体の非正規職員に「会計年度任用職員」が導入されることになりました。

今回の法改定の内容は、住民のいのちと暮らしを守り地方自治の担い手である地方公務員制度の大転換です。また、公務運営のあり方そのものをも、変質させる危険性を含んでいます。

各自治体では、総務省の「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」(以下「マニュアル」)に沿って、準備がすすめられています。そこで、会計年度任用職員の導入が、自治体労働者の働き方や公務にどのような影響を与えるのかという視点から考えてみました。

地方公務員法・地方自治法「改定」の背景

(1)増え続ける自治体非正規職員

自治体職員は、1994年の328万人をピークとして、定員「適正化」やアウトソーシングなどにより、23年連続で減り続けています。さらに市町村合併による組織機構再編でも削減がすすみました。

2006年から2016年までに、自治体正規職員は約26万人減少し274万人となっていますが、非正規職員は約21万人増え64万人となりました。正規職員が非正規職員に置き換えられている実態がうかがえます。

自治体の非正規職員は、一般事務はもとより、保育、給食調理、図書館職員、看護師・看護補助員、学童保育、ケースワーカー、消費生活相談などの職種に広がり、本格的・恒常的業務を担っています。保育では7割が臨時保育士という自治体もあります。しかし、給料は正規の3分の1から半分程度、任用期間は半年や一年の期限付きで繰り返し任用され何十年働いても昇給はなし、通勤手当など各種手当も不十分で、年休や各種休暇でも正規職員と差がつけられています。

(2)公務の担い手は

住民のいのちと暮らしや権利を守る自治体の業務は恒常的で専門性が要求され、臨時的で「非」常勤的な職員が担うことを想定していませんでした。

しかし、前述のように、全国の自治体で行政コスト削減のため非正規化がすすみ、任用根拠も更新方法(雇い止め期間など)も、まちまちとなっている実態が生まれました。

今回の法改定は、「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務運営」の原則が崩されている実態を追認し、固定化するものでもあります。ここには、非正規化をすすめてきた政府や地方自治体の責任には、いっさい触れられていません。それどころか、住民の暮らしに密着した仕事のほとんどを、非正規職員に担わせることを正当化するものとなっています。

会計年度任用職員制度の概要と問題点

(1)地方公務員法、地方自治法「改定」の概要

今回の法改定は、大きくは二つの柱からなっています。

一つは、非正規職員の任用根拠「適正化」と会計年度任用職員の新設、もう一つは期末手当支給など処遇改善関係です(改定ポイントは表を参照)。

表 地方公務員法・地方自治法改定のポイント
筆者作成
表 地方公務員法・地方自治法改定のポイント
筆者作成

(2)現在の臨時・非常勤職員はどうなる?

臨時・非常勤職員は大きく分けて「特別職非常勤(地方公務員法第3条3項3号)」、「臨時的任用職員(同法第22条)」、「一般職非常勤(同法第17条)」となっています。(この他に3年から5年で任用される任期付職員制度もあります。)

今回の法改定による「任用根拠の適正化」では、特別職非常勤は「学識・経験の必要」な職に厳格化し、臨時的任用職員は「常勤の欠員」への対応に厳格化するとしています。それ以外の臨時・非常勤職員は、原則として会計年度任用職員に移行するとしています(図)。

図 任用根拠の明確化・適正化筆者作成
図 任用根拠の明確化・適正化
筆者作成

制度導入に向けたスケジュールは、「マニュアル」では2017年度中の実態把握、任用適正化の検討、任用・勤務条件の検討などを経て、2019年春までに条例化することとしています。

しかし、会計年度任用職員の導入は地方公務員制度の大転換に関わる内容であり、自治体職員の「働き方」としても、また、住民のための公務運営の視点からも考えてみました。

①任用(採用)に関する問題

任用(採用)にあたっては、「競争試験または選考」によるとし、任用期間は4月1日から翌年3月31日までとなります。なお、再度の任用もあり得るとしていますが、その際にも「手続きなく『更新』されたり、長期にわたって継続して勤務できるといった誤解を招かないように」留意することとしています。(「マニュアル」)

「1会計年度内を超えない範囲」と任用期間を明確にしたことで、更新しないことにも根拠を与えるものとなっています。

②雇用中断(空白期間)の問題

現在、多くの自治体で臨時・非常勤職員の雇用更新にあたっては、雇用中断(空白期間)を設けています。短くて1日、長い場合は15日や1カ月の場合もあります。これは、連続して雇用していることで、退職手当や社会保険の適用となることを逃れる目的があります。また、年休付与についても、雇用中断を理由に繰り越しを認めていません。今回の法改定では、これらの雇用中断は「不適切」とされ「是正を図るべき」とされています。改定法の施行を待たずに、早急に現在の雇用中断をなくさせる取り組みが重要です。なお、学校給食調理員や学校図書館司書など、学期単位の任用による空白期間は、不適切とはいえないとしています。この点でも業務実態にあわせて、空白期間の廃止や縮小を求めることが重要です。

③フルタイムとパートタイムの格差

会計年度任用職員にはフルタイムとパートタイムが規定されていまが、ここにも大きな格差が持ち込まれています。フルタイムには退職手当が支給できますが、パートタイムには支給できず、特殊勤務手当も支給できないとされています。自治体によっては、現在でも一定の要件を満たす短時間の臨時職員に、退職手当や特殊勤務手当が支給されている場合もあり、会計年度任用職員への移行により、切り下げされることがないよう注意が必要です。

また、1週間当たりの勤務時間が常勤職員より短い場合は、パートタイム会計年度任用職員とされ、現在の多くの臨時・非常勤職員が「パートタイム会計年度任用職員」にされてしまう危険性もあり、実際に7時間パートの臨時職員には不安も広がっています。

④一般職化について

会計年度任用職員は、一般職地方公務員とされることにより、地方公務員法で規定された公務上の義務・規律、人事評価が適用されます。上司の命令に従う義務、信用失墜行為の禁止、守秘義務、職務専念義務や政治的行為の制限などがあります。また、フルタイム会計年度任用職員には、兼業禁止が適用されます。

労働条件面で正規職員との格差を残したまま、義務や規律、処罰だけは正規職員並みということは問題です。会計年度任用という弱い立場の職員へ過度な命令服従を強要し、規律や義務の遵守だけをことさらに強調することは、ものをいえない職員や職場環境につながるのではないでしょうか。

⑤財源問題

給料水準の考え方は、「マニュアル」では「類似職務の級の初号給、職務の内容や責任、必要となる知識、技術及び職務経験等の要素を考慮し」となっています。また、再度の任用にあたっては、「常勤職員の初任給決定基準や昇給の制度との均衡を考慮することが適当」(「マニュアル」Q&A)としています。しかし、一方では「それまでの職務経験すべてを考慮する必要はない」として、事務補助職員については、正規職員の初任給基準額を上限目安としています。

「マニュアル」では「同一労働同一賃金ガイドライン案を踏まえ」としていますが、正規・非正規の差は厳然と残され固定化されます。期末手当や退職手当(フルタイムのみ)については「支給できる」とされており、自治体が財政難を理由に支給しないことも考えられます。

さらに、「マニュアル」では、任用根拠の明確化・適正化のなかで、「ICTの活用や民間委託の推進等により(中略)現に存在する職を漫然と存続するのではなく、それぞれの必要性を十分吟味したうえで適正な人員配置に努める」よう求めています。今回の会計年度任用職員の導入が、自治体業務のアウトソーシング拡大と、それによる臨時・非常勤職員の削減につながる懸念があります。すでに、新潟市では財政赤字を理由に2018年度予算で、約1200もの事業見直しとともに、120名もの臨時・非常勤職員を削減するとしました。

「官製ワーキングプア」をなくし住民の暮らしを守る公務のために

今回の常勤と非常勤の概念によれば、常勤の職は「本格的業務」であり「典型的には、組織の管理・運営自体に関する業務や、財産の差押え、許認可といった権力的業務などが想定される」(総務省の「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会」報告)としています。

つまり、住民の暮らしやいのちに直接関わる現場の業務の大半が、会計年度任用職員に置き換え可能となります。新潟市当局は「公立保育園が多く市財政を圧迫している」として、2018年度中に公立保育園の統廃合・民営化計画を立てるとしています。現在、公立保育園では7割が臨時保育士であり、クラス担任業務など正規と変わらない保育を担っています。まさに、「会計年度任用職員」導入をテコに、非正規も正規も減らし地域の宝である公立保育園つぶしが狙われています。

継続性・専門性・地域性が求められる自治体職員の働き方が大きく変わろうとしています。

自治労連が1995年に発表した「自治体労働者の権利宣言(案)」は、すべての自治体労働者の権利保障こそ住民生活と地方自治擁護の道であり、「職務命令に対し(中略)自治体労働者と住民の基本的人権を侵害するおそれがあるとき、これを拒否する権利を有する」とうたっています。正規職員は権力的業務中心、住民との接点は不安定雇用の会計年度任用職員という自治体職場は、この権利宣言とは相いれません。

「官製ワーキングプア」の解消とともに、自治体の仕事を住民本位に守り発展させるため、まずは多くの非正規職員へこの問題を知らせ要求を組織するとともに、非正規職員が担う仕事の実態と置かれた現状を住民にも訴え、地域から住民の暮らしや権利を守る共同の運動を作り出すことが大切だと考えます。


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坂井 雅博

1957年生まれ。1981年新潟市水道局入局。34年間、新潟市水道労組で役員として活動しながら、新潟公務公共一般にも参加。2013年から現職。