【論文】みんなで、「大阪市廃止構想」と呼ぼう!―維新の『組織されたポピュリズム』への対処―

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自治制度の改変を正確に理解するため、みんなで「大阪市廃止(大阪都)構想」と呼びましょう。大阪市の必要性、市の廃止による府の歳出の膨張も、知ってもらいたいと思います。他方で、維新のポピュリズム(扇動政治)は、組織的な強さに進化しました。

「大阪市廃止(大阪都)構想」─地方分権にも、民主主義国の常識にも反する府への一元化

「大阪都」は集権化と分権化を含む、地方自治制度の複雑な変更です。大阪市は完全に廃止されます。その税源と権限は2方向に移動するでしょう。都市計画、経済振興、大型施設のような市の重要な仕事は、住民と地域から遠い府に集権化されます。保健、福祉、基礎的教育などは、公選の市長と議会を持つ、特別区に委ねられるでしょう。それは住民に近くなりますが、市の強い行政機構が分割され、特別区は財源を府に依存し、議会定数が東京の特別区よりはるかに少ないなどの点に不安があります(文献8)。

日本でも他の民主主義国でも、大都市圏の制度は、中心の強い市と、広域自治体(州や県)の「二重システム」が常識です。「大阪都」に似た提案が出たとき、パリ、ベルリン、ロッテルダム市は存続を決めました。1943年、東京市は廃止に反対したけれども、太平洋戦争下の国家総動員のために東京府に吸収されてしまったのです。

深刻なデメリット

紙幅に限りがあるので、列挙だけします(詳しくは文献8)。

(1)大阪市の自治が消え、市民は重要問題を決められなくなる。府への権力集中も。

(2)パリ市、ミラノ市、デュッセルドルフ市などと同じく政策力と専門性を持つ強い大阪市が消え、府だけが、都市整備、産業振興などを担うので、大阪衰退のおそれも。

(3)府・市2つの大型施設があり利用者が多い「便利な二重行政」も廃止されかねない。

(4)東京と同じように多彩な名前の24区から、機械的な名前の4区に統合され、住民から遠くなる。

(5)市の分割によるスケールメリットの喪失、非効率(13㌻「大阪都の『経済効果』─府の歳出増を扱わない計算ミス」参照)、制度変更のコストで、税金のムダ使い、行政サービスの縮小が起こるおそれ。

(6)大阪市が地図から消える(もし堺市も参加すれば、「堺」は日本地図から完全に消える)。

維新が主張するメリットについて、ファクト・チェックを少し

(1)府市の対立、二重行政のムダは深刻?

これまで、府と大阪市は協力または市内・郊外を分担し、都市開発、公園、鉄道網の建設を進めました。地下鉄「なにわ筋線」などは意見が異なりましたが、維新の知事・市長のもとで解決されました。府と市のいわゆる「二重行政」はしばしば有用で、人口900万人の大都市圏のニーズに対応します。

(2)東京都と同じ制度にすれば、追いつける?

大阪市を府が吸収すればいったいどんな重要政策が可能になるか、具体的に説明されません。東京の整備は、東京都と、国の莫大な首都向け投資の「二重行政」の結果なのです。

(3)大阪が副首都になる?

「大阪都」の根拠法には、大阪が副首都になるとは書かれていません。逆に京都は、府・市協力で誘致し、文化庁の移転を得ました。

大阪都の「経済効果」─府の歳出増を扱わない計算ミス

大阪の野党議員や筆者が批判するように(文献7)、市委託による「嘉悦学園報告書」の、「大阪都」の効果(財政効率化と新たな投資)のシミュレーションは、重大な欠陥を含む可能性が高いです。この報告は大阪市と将来の特別区の歳出を比較して、年間1000億円の財政効率化を結論づけます。しかしながら、合理的なシミュレーションは、大阪市役所の重要政策を引き受けなければならない大阪府の予算膨張(年間2000億円以上)を直視するべきです(図1)。

図1 大阪都(大阪市廃止)による府の歳出の膨張
図1 大阪都(大阪市廃止)による府の歳出の膨張
出典:大阪市『大都市制度(特別区設置)協議会だより』(第1号)HTML版2018年8月31日

心からマスコミ記者と議員にお願いしたいのは、「報告書のどのページに、府の予算膨張が書かれているのか」について、明確な回答を市長に求めることです。

大阪市廃止という重要事項を、決して説明しない

2015年の住民投票用紙は、大阪市の廃止を書かず、有権者に「市を維持したまま4つの強い特別区を置く」と誤解させるものでした(文献8)。同様に、2019年の市長選の公報で、松井一郎氏は「改革を続けるためには、大阪都構想が必要です」とだけ書きました(文献1)。

大阪市行政の文書も、多くの維新の候補者も、同じ説明回避をすることは、注目に値します。もし一般の公務員やセールスマンが重要事項説明を省いたなら、強く非難されるでしょう。住民投票時の世論調査(「日本経済新聞」2015年4月30日)を見ると、賛成の人の多くが「大阪都」の中身を検討しなかったようです。

「組織されたポピュリズム(扇動政治)」─2019年の大阪・地方選で維新が3勝1敗になった作戦とは

2019年4月、大阪の4つの主要選挙のうち、府知事、大阪市長、府議会の過半数を、維新が獲得しました。大阪市長選の得票率は、野党候補42%に対して、維新候補は58%でした。また、大阪市議会で、維新は過半数に達しなかったものの、定数83のうち40を得ました。

選挙での勝利は、必ずしもその政策の正しさを保証しませんが、明確な原因を持ちます。維新という政党の3つのユニークな特徴が、その選挙の強さを支えています。

①大胆な変化と人々の「敵」の排除を約束する強い、そして攻撃的なリーダー。②普通の人々の欲望、憎悪に働きかける、単純かつ繰り返されるアピール。③維新の議員と支援者がリーダーの政策を議論、批判しないこと。政治学、社会学で、しばしば①②は海外を含む「ポピュリズム(扇動政治)」の定義に使われます(文献8)が、③の要素は、維新のポピュリズムでとくに顕著です。

これら3つの要因は互いに支え合います。党のリーダーは攻撃的で、メンバーは従順です。党は右寄りの政策(文献2)を進めつつ、それを隠して、リベラルな有権者を引き付けるために若干のサービスを宣伝できます。党は、その内部でも、同時に外部の世論に対しても、批判的な学者やマスコミ人をSNS等で威嚇し、説明も議論もなしに、大阪市の廃止や強権措置を進められます。アピールの洪水が、少なくとも大阪で莫大な票を集めるゆえに、維新の議員は党に当選を依存し、代わりに議論を避けるのでしょう。

以前は、リーダーである橋下徹氏の雄弁と攻撃が、維新の強さの源泉とみなされていました。しかし今回、維新は宣伝の内容と伝達技術の両面で、あらゆる努力をしました(文献5、6、9)。他の政党が学ぶべき作戦もあります。宣伝内容は、4つの訴え(文献1)から巧みに構成されています。①府と市の「二重行政」の欠点や対立の誇張、②他の自治体でも見られる子ども向け補助金、③人件費(公務員、市長、議員)の削減。②③を、維新は「身を切る改革」として結合しアピールします。しかし人件費削減が公共サービスとデモクラシーの質を下げるなら、失敗でしょう。そして最後に、④大阪の経済成長。実は、全国の総生産に占める大阪のシェアは、10年前維新が批判した状況のまま横ばいです(文献3)。また一定の活性化には、維新以前の大阪市役所が準備した再開発、文化施設等の都市整備が、大きく貢献しています。けれども野党候補は、大阪市消滅の危険を十分アピールできませんでした(文献1)。

このように選択的な選挙宣伝だったので、大阪市廃止それ自体は有権者に承認されなかったとも解釈できます。住民投票の結果は、異なる可能性があります。

維新の宣伝活動、選挙運動もまた組織的でした。豊富な議員および議員志望者は、厳格なノルマのもと統制され、機械のような完ぺきな団体です。維新政治塾から、元気そうな、しばしば政治的経歴や支持組織を持たない候補者がリクルートされました。自営業の候補は、選挙運動に資金と知人友人を投入します。ビラ、ポスターの大量宣伝(6㌻写真参照)は、とくに新聞を読まない人たちに影響を与えたに違いありません。

自民党安倍政権の「一強」を支える維新

さまざまな「顔」を持つ、維新という政党は以上の戦術で、保守右派と同時にリベラルの有権者から集票します。改憲、権威主義(言論攻撃、労組攻撃、ナショナリズム)および新自由主義(小さな政府、民営化)の理念を推進すると同時に、この政党の権威的な面に気が付かないか無関心な穏健・リベラルな有権者を喜ばせるために行政サービスを提供します。維新は全国平均で10%の票(比例代表)を得ますが、それは、はるかに深刻な移民問題を攻撃できるヨーロッパの右派ポピュリズムに匹敵するレベルなのです。

2019年の参院選のあと、世論調査の政党支持率で維新は5%に上がりました。リベラルな立憲民主党は10%、自民党は30%以上です。このような第1党、第2党の格差は先進国では珍しい。ただ、選挙では多くの無党派層が、リベラルに投票することもありますが。リベラルの弱さの原因は、地方議員の不足、政党の分立と中道左派の協力の限界(参院選では野党協力が一定の成果を収めました)です。加えて、ただでさえ少ないリベラル層の有権者の一部が、維新の「改革」アピールに惹かれてしまうのです(文献8)。

この視点から解釈するなら、2015年の大阪住民投票での「民主派」の勝利は、(そもそも大阪が招いた)日本のデモクラシーの危機を減らしました。当時、保守右派の安倍首相が絶頂にあったとき、同盟する維新のリーダーが「大阪都」否決によって辞任したわけです。

維新のダークサイド・ニュース集

維新の政治家による多くの事件、問題発言等が、民主党政権、あるいは安倍自民党と比べてさえ、忘れ去られる様子は驚くべきで、奇妙です。バランスの良い認識のためには、新聞検索等による、維新のダークサイドのリストが有用で、少しだけ作ってみました(2015年までの記録は、文献4)。

■2019年6月25日、毎日新聞(大阪本社版)

松井一郎大阪市長(日本維新の会代表)は24日、大阪府と大阪市の共同設置部署「副首都推進局」の職員が市議らと記者の個別取材の内容を無断で録音していたことについて、「問題ないと思う。議員がどういう話をしているか役所として把握したいというのは当たり前だ」との認識を示した。

市役所で記者団の取材に答えた。21日に府庁で開かれた大阪都構想の制度案を議論する法定協議会終了後、自民党の市議と府議に廊下で毎日新聞の記者が個別取材していた際、職員が内容を無断で録音していた。記者の注意を受け、副首都推進局は2017年から同様の行為を続けていたことを認め、「今後は行わない」と謝罪した。

■2019年7月3日、朝日新聞

大阪城公園で、公園運営を民間企業が担うようになった2015年度以降、約1200本の樹木が伐採されていたことがわかった。無料の遊具エリアがあるのに、すぐそばに樹木を伐採して民間運営の有料の遊び場が設けられた場所もあり、「商業化が行き過ぎている」と市民から不満の声も出ている。

■2019年8月7日、8日、朝日新聞

大阪府の吉村洋文知事は7日の定例記者会見で、企画展「表現の不自由展・その後」が(テロ予告などで─筆者追記)中止となった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の実行委員会会長を務める愛知県の大村秀章知事について「辞職相当だと思う」と述べた。…吉村氏は会見で、少女像(従軍慰安婦像─同上)などの展示について「反日プロパガンダ」だと指摘。「愛知県がこの表現行為をしているととられても仕方ない」と述べ、公共イベントでの展示は問題だとの認識を示した。…(これに対して─筆者追記)大村氏は「はっきり言って哀れだ」と批判。そのうえで「憲法21条の表現の自由についてまったく理解していないのではないか。公権力を持っている人がこの内容はよくて、この内容はだめだとずっと言っている。(吉村知事が常任役員を務めている)日本維新の会は表現の自由はどうでもいいと思っているのではないか」と疑問を呈した。

みんなで、「大阪市廃止構想」と呼ぼう

「大阪都」に対処するベストの、そして不可欠な方法の一つはその名前を変えることです。それによって、そのイメージと人々の認識を変えることです。「大阪都」は公式の法律用語ではなく、かつ不正確です。大阪は副首都の地位を獲得せず、また「府」のままです。皆にこの「大阪都」の基本、つまり「大阪市の廃止」を知らせるために、広く上記の名前を使いましょう。そして中立的ニュースを保証するためメディアにそれを採用するように要請するべきです。

もう一つの重要な方法は、維新の政治家の成功した運営から学び、民主的なそして穏健保守の政治家、市民団体のキャンペーンを結び付けるために、活動のセンターとスローガンを確立することです。右派ポピュリズムから民主主義を守ることは、各国で重要課題になっています(文献10)。

【おもな参考文献】

  • 1 大阪市選挙管理委員会『大阪市長選挙選挙公報』2019年、ウェブサイト
  • 2 レミ・スコシマロ(神田順子訳)『地図で見る日本ハンドブック』原書房、2018年
  • 3 内閣府『平成27年度県民経済計算について』2018年、ウェブサイト
  • 4 藤井聡・村上弘・森裕之編『大都市自治を問う大阪・橋下市政の検証』学芸出版社、2015年
  • 5 「毎日新聞」2019年5月3日付「強い維新、裏に『市場調査』/『二重行政』『民営化』…響く言葉分析/大阪で連戦連勝」
  • 6 松本創「『守る』だけでは勝てない時代─『維新政治』から見えるもの─」『市政研究』2019年夏季
  • 7 村上弘「『大阪都』=大阪市廃止・特別区設置の経済効果」『立命館法学』2018年4号
  • 8 村上弘『新版日本政治ガイドブック』法律文化社、2018年、4章、7章、8章
  • 9 吉富有治『緊急検証 大阪市がなくなる』140B、2019年
  • 10 ヤシャ・モンク(吉田徹訳)『民主主義を救え!』岩波書店、2019年

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