【論文】新型コロナ対策と自治体財政


政府の新型コロナ対策が不十分な中で、住民の健康と生活を守るために自治体の真価が問われています。自治体に求められる対策と財政課題とは何でしょうか。

自然災害としてのコロナ禍と政策のあり方

新型コロナ禍は自然災害の一種として捉えることができます。ただし、自然災害であっても、それに対する社会的備えや政策的対応如何によって被害が拡大することがあります。

今回の新型コロナ禍を災害として捉えれば、それに対する政策の枠組みは環境政策を参考に整理することができます。ここでは、宮本憲一氏の環境政策論を参考に、新型コロナ禍への政策の枠組みを以下のように整理してみましょう。

第一に、被害実態を総合的に把握することです。新型コロナによる被害は健康被害、社会経済的被害、社会的弱者への被害集中などを含め、総合的に捉えなければなりません。

第二に、被害の原因と責任の所在を明らかにすることです。新型コロナ禍は第一義的には新型コロナウイルスのパンデミックによる健康被害の拡大ですが、同時に、パンデミックが引き起こす社会経済的被害は社会的・政策的な要因が影響します。被害拡大の原因には、感染症のパンデミックという災害への備えの不備や、パンデミックに対する政策的対応の遅れや失敗を含むものと考えられます。こうした社会的・政策的原因を明らかにすることによって、被害拡大の責任の所在をも明らかにしなければなりません。

第三に、被害者へのケア・補償と生活・経営の維持・再建を行うことです。検査と早期の診断、治療とともに、感染拡大やそれに対する社会経済活動の抑制策に伴う経済的損失への補償や生活・経営への支援が求められます。特に、医療・福祉・教育・物流など社会経済活動に不可欠な従事者や機関への支援や社会的弱者への支援を重視しなければなりません。

第四に、感染拡大防止、収束のための規制や行政手段、公民協力などの展開です。社会的検査体制の確立にもとづき、感染集積地(エピセンター)を中心に膨大な検査による感染者の隔離・保護・治療および追跡により感染拡大防止を食い止め、押さえ込まねばなりません。その際、住民に身近な自治体の取り組みを重視しながら、予算措置と適切な行政手段を取ることが求められます。また、感染拡大を食い止めるには行政のみでなく、地域コミュニティや各機関、企業などの協力が必要です。

第五に、感染症パンデミック災害に対する備えや予防を重視することです。公衆衛生、医療提供体制を抜本的に再構築するとともに、グローバル化によるリスクを回避するために国内・地域内産業基盤などを強化する必要があります。

新型コロナ第一波と対策の問題点、教訓

新型コロナ感染拡大の第一波に対して、4月に緊急事態宣言が出され、休業要請、外出自粛など政策的に社会経済活動を抑制した結果、国内需要の大幅な縮小を起こすとともに、供給面でも影響が出ました。

政府による社会経済活動の抑制策が社会経済を大きく落ち込ませたのですから、それを埋めるだけの財政出動は不可欠であり、財政赤字をおそれて財政出動を抑制すれば、経済全体が衰退してしまいます。しかし、感染拡大が止まらず供給面での重大な縮小が主要な分野で起こるようなことがあれば、経済システムは破壊されます。第一波の重要な教訓は、一律の社会経済活動の抑制策とそれを埋めるための財政出動一辺倒ではなく、感染を徹底して封じ込める抜本対策が不可欠だということです。

感染拡大防止策が不十分なままで社会経済活動を戻すと、感染拡大防止も社会経済活動も両方とも失敗します。さらに、再び外出自粛と休業要請が行われるならば社会経済に破壊的作用を及ぼします。感染拡大の防止と社会経済活動維持を両立するよう抜本的に対策を再構築することが不可欠なのです。

政府のコロナ対策と補正予算

第一波に対して政府の対策と予算措置は遅れました。第一次補正予算は4月30日に成立しました。その規模は25・7兆円であり、そのうち「緊急支援フェーズ」が定額給付金12・9兆円、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(以下、地方創生臨時交付金)1兆円など21・3兆円、「V字回復フェーズ」がGo Toキャンペーン1・7兆円など2・8兆円、予備費が1・5兆円となっています。

第二次補正予算は6月12日に成立しましたが、その規模は31・9兆円です。そのうち予備費が10兆円、資金繰り対応が11・6兆円となっており、残る10・2兆円が純粋に「真水」に相当します。10・2兆円の内訳は雇用調整助成金の拡充等4500億円、家賃支援給付金2兆円、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援金の拡大など医療提供体制等の強化3兆円、地方創生臨時交付金2兆円、持続化交付金の強化1・9兆円などとなっています。

東京オリンピック・パラリンピックへの考慮や財政規律論、あるいは検査抑制論などの影響から検査・医療提供体制の確立の方針と財政措置は不十分かつ遅れが目立ちました。

第一次補正予算の不十分な点は一定程度第二次補正予算でカバーされましたが、以下の点で課題が残っています。第一に、検査と隔離・保護および医療提供体制に対する予算措置はいまだ不十分です。また、医療提供体制の維持・拡充には新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金がありますが、自治体からは、事業メニューや補助対象が限定的で補助基準上限が定められており、地方単独事業に使えないなど、地域の実情に合った柔軟な運用が困難であるという不満が出ています。また、医療機関の経営支援(新型コロナ患者受け入れ病院以外の医療機関を含む)が不可欠ですが、医療機関の減収補てんに踏み出せていません。

第二に、一律休業要請、外出等の自粛要請が社会経済活動に甚大なダメージになったこととともに、休業要請に対する補償の不在、および経済的なダメージを受けた社会経済部門に対する経済支援の不十分性、遅れがさらに被害を深刻化させたことです。

第三に、地方創生臨時交付金の位置づけの問題です。地方創生臨時交付金は第一次補正予算で導入され、都道府県と市町村に交付され、単独事業(8490億円、10/10補助)と補助事業の地方負担分(1510億円)からなります。ソフト事業を対象とし、それに付随するハード事業も対象となります。各自治体への交付限度額は、人口(人口規模を考慮した補正含む)、感染状況等、および財政力によって算定されます。人口当たりの交付限度額は人口が少なく財政力の低い県に傾斜配分されることになります。そのため、コロナ対策の財政需要があっても財政力指数が高い自治体はきわめて低い交付限度額になっています(人口当たり交付限度額は東京都が最も少ない)。

地方創生臨時交付金(二次補正)は総額2兆円がすべて地方単独事業分(都道府県・市町村対象)であり、「事業継続、雇用維持対応」(1兆円程度)と「新しい生活様式対応」(1兆円程度)に分けて、限度額が算定されます。「新しい生活様式」対応であればハード事業だけでも対象になります。第一次交付分と同様、コロナ対策の財政需要があっても財政力指数が高い自治体はきわめて低い交付限度額になっています。

そのため、人口当たり交付限度額が最も少ない東京都は財政力による調整をはずすよう要望しています。また、基金造成などによる年度間流用は一部のみ認められており、自治体からは、これらを幅広く認めてほしいという要望が出されています。

新型コロナ対策が地方創生の目的に沿ったものだとすれば、何でもありになってしまいます。政府の事例集にもそのことが反映されています。

自治体の独自対策と財源確保策

政府の対策と予算措置が大幅に遅れたなかで、自治体や地域において独自の取り組みと予算措置が行われました。自治体独自のPCRセンターやドライブスルー型のPCR検査が広がるとともに、多くの都道府県で休業要請に応えた事業者への協力金が独自に導入されました。

政府の補正予算が不十分な中で、自治体は機動的に対応する必要があります。緊急の補正予算対応では、財政調整基金や減債基金(任意積立分)を取り崩すのは当然です。特定目的基金を議会の承認のもとで用途変更し、活用することも検討すべきです。

活用できる基金に限界がある場合には、既存事業を減額補正し、予算の組み換えで対応することが考えられます。さらに大型建設事業など不要不急の事業の中止・先送りによって必要な一般財源を確保すべきです。

財政に余裕がない自治体にとって、地方創生臨時交付金は貴重な財源となっています。補正予算を組む際、国の補助金による事業とともに、地方創生臨時交付金の範囲で休業協力金など独自施策の予算組みを行う傾向もみられます。

緊急事態宣言を受けた都道府県の予算措置をみると、企業・事業主への休業要請に伴う協力金をおおむね地方創生臨時交付金(一次分)(図1)の配分額の範囲で行っているところが多い状況です。なお、東京都と大阪府は地方創生臨時交付金(一次分)を大きく上回る協力金の予算を確保しました。しかし、東京都や大阪府でも第二波に対しては休業への協力金の財源が不足しています。

図1 人口10万人当たり都道府県の休業協力金予算規模と地方創生臨時交付金限度額(一次分)
図1 人口10万人当たり都道府県の休業協力金予算規模と地方創生臨時交付金限度額(一次分)
出典:『東京新聞』2020年5月2日付および内閣府地方創生推進事務局資料から作成

2019年度の都道府県決算を見込みベースでみると、財政調整基金は東京都9345億円、大阪府1562億円、愛知県954億円など基金額が大きい都府県と、京都府のように基金額がわずかしかない府県も存在します。2020年度補正予算における財政調整基金の取り崩しは、東京都8540億円、大阪府781億円、愛知県107億円などです(当初予算での取り崩しを除く)。一方、ほとんど基金取り崩しを計上していない県もあります。都道府県別の財政調整基金残高の減少率をみると都道府県により大きな差異がみられます(図2)。

図2 都道府県別財政調整基金残高減少率
図2 都道府県別財政調整基金残高減少率
出典:『朝日新聞』2020年7月12日付から作成

当初予算の減額補正によって財源を確保する事例としては神奈川県、静岡県、福岡県、北海道などがあります。9月補正以降、多くの自治体が減額補正を検討するものとみられます。

6月以降の感染の再拡大への対応や秋以降への備え、対策において、住民生活と地域経済の守り手としての自治体の真価が問われています。しかし、財源に限りがあることから、

自治体は検査体制や感染者の隔離・保護、職員体制の強化などに十分な予算措置がとられていません。また、医療機関の損失補てんに踏み出せていません。

さらに懸念されるのが地方税収減や徴収猶予の影響です。地方税の減収分については減収補てん債でまかなうことができますが、地方消費税が減収補填債の対象に入っていない問題があります。徴収猶予債については償還期限が1年間ではコロナの影響が長期化するなかでは不十分だといえます。

政府の対策と財政政策の課題

緊急事態宣言解除以降、感染者が再拡大し、無症状者による感染拡大により感染集積地(エピセンター)が東京に形成され、そこから全国に広がりました。感染集積地(エピセンター)を封じ込めるには無症状者を含め検査を抜本的に拡大(感染集積地の全員検査、病院・高齢者施設・エッセンシャルワーカーの全員検査など)するとともに隔離・医療体制の整備が喫緊に必要となっています。

児玉龍彦氏(東京大学先端科学技術研究センター名誉教授)の提案とそれにもとづく東京都世田谷区の取り組みに学び、感染集積地(エピセンター)は全員検査、その周辺地域は世田谷モデル(行政検査等の拡充、エッセンシャルワーカーへの定期的検査など)の実施、未感染集積地は検診を活用して抗体検査・抗原検査・PCR検査の併用、といったそれぞれの地域に即した対策が求められます。そのための政府の方針確立と予算措置、法整備とともに、地域に即した対策を進めるための自治体の役割が重要となります。

財政に関しては、以下の点が求められます。①国と地方の大幅な税収減のなかで、新型コロナウイルス感染症対策に係る財政需要の増加、職員体制強化も含め、自治体が安定した財政運営が行われるよう、地方一般財源総額の確保、拡充を行うこと。②医療機関への減収補てんを含む経営支援。③PCR検査の抜本的拡充のための予算措置を講じること。④休業要請を行う場合の国による補償金の制度化と財源保障。⑤新型コロナウイルス感染症緊急包括支援金の柔軟運用、対象拡大および増額。⑥地方創生臨時交付金の年度間流用、柔軟運用、配分基準の見直しおよび増額・制度継続。⑦災害対策基本法等の改正により、コロナ禍を自然災害として位置づけ、災害対応の財政措置を適用すること(特別交付税、交付税措置のある地方債発行など)。⑧コロナによる雇用・経営危機に対して雇用・地域経済を支えるため、消費税を含む税の納税免除・延納、雇用調整助成金、家賃補助、持続化給付金などを継続すること。

また、不況・財政赤字拡大期にこそ消費税減税とセットで法人税率の引き上げ、所得税の累進課税強化等によるビルトインスタビライザー機能、再分配機能の強化を図る必要があります。

第二波、第三波における自治体の対策と財政運営の課題

第二波への対応として、自治体は新型コロナウイルス感染症緊急包括支援金や地方創生臨時交付金など国の財政措置を活用し、感染拡大に歯止めをかけるとともに、住民の命と雇用・生活を守り、地域の社会経済活動を支えなければなりません。しかし、地方創生臨時交付金を奇貨として、緊急に求められる施策ではなく、新型コロナとは関係なく進めたい事業に充てることにならないかという懸念があります。政府の事例集にはスーパーシティ、ワーケーション、マイナポイント活用促進など、新型コロナ対策として緊急に行うべき事業であるか疑問のある事業も多いのです。

地方創生臨時交付金のなかでも、特に「新しい生活様式」枠はいわば何でもありの制度であるため、優先すべき事業に関する自治体の姿勢が問われます。地方創生臨時交付金では新型コロナ感染症対応の非常勤職員を採用するなど人的体制の強化にも使えることから、自治体の責任を果たすための人的体制の強化に活用することはきわめて重要でしょう。

また、職員体制の整備、強化、医療機関への財政支援、地域経済対策、雇用対策などの課題に対して国の財政措置が不十分な場合に、自治体独自の財源確保が求められます。そのためには、9月以降の補正予算でいかに既存事業を見直し、減額補正することで独自事業の財源を確保できるかが鍵になります。コロナ禍のなかで、これまでの自治体行財政のあり方を見直し、優先すべき必要な事業の積み上げと既存事業の見直しを総合的に進めるプロセスの確立が喫緊の課題となります。

本稿の脱稿後、8月28日、安倍首相の辞任表明とともに、コロナ対策の新たな方針が示されました。検査体制の抜本的な拡充や保健所の体制強化が盛り込まれたことは一歩前進ですが、実効性が担保されるかは不明です。また、行政検査以外の社会的検査については全額自己負担・自己責任での実施を前提にしたままです。感染症法の運用見直しによる入院の重症者への重点化と「指定感染症2類相当」の見直しについては、感染症の拡大につながりかねないことから自治体から不安の声があがっています。

【注】

【参考文献】

平岡 和久
  • 平岡 和久(ひらおか かずひさ)
  • 立命館大学政策科学部教授

1960年広島県生まれ。専門は財政学・地方財政論。著書に『人口減少と危機のなかの地方行財政―自治拡充型福祉国家を求めて』(自治体研究社、2020年)、共著『都道府県出先機関の実証研究:自治体間連携と都道府県機能の分析』(法律文化社、2018年)、共著『「自治体戦略2040構想」と地方自治』(自治体研究社、2019年)など。