【論文】すすむ公立保育所民営化と公の役割


公立保育所民営化の実情と幼保連携型認定こども園の促進政策、コロナ禍での自治体の公的責任のあり方の事例を紹介しつつ公的責任の拡大の必要性を述べます。

公立保育所の民営化の現状と促進の要因

待機児ゼロは小泉政権(2001年発足)以来の課題であり、保育所の増設は待機児童解消のかなめです。保育所は、2000年の2万2278カ所から2019年に2万3551カ所へと約10年間で1273カ所増えています。そのなかで公立保育所は、2000年1万2723カ所から2019年8332カ所と4391カ所の大幅な減となっています。一方、私立保育所は、2000年9472カ所から2019年1万5219カ所と急激な増加となっています。保育所総数に占める割合は、2000年では公立57・1%、私立は42・5%だったのが、2019年では公立35・4%、私立64・6%です。公立保育所の急激な変化がみてとれます。公立保育所の減少は、「民営化」と公立保育所・公立幼稚園の廃止・統合によるものと「認定こども園」化も要因となっています。近年は、人口減少が公立の保育施設の廃止・統合の要因となっています。私立保育所の増加分の中には公立保育所の民営化の結果も含まれています(厚生労働省は、毎年度の民営化の統計をとっていません)。

民営化がすすんできたのは、小泉政権による「民間活力活用論」「保育所設置運営の規制緩和」などがあります。民営化に直接影響を与えたものは「公立保育所運営費の国庫負担の廃止と一般財源化」「公立保育施設の整備費の国庫補助金の一般財源化」があり、いずれも自治体財政を圧迫し民営化をすすめる作用をしました。私立保育所は運営費については国庫補助金(公定価格)により公費で負担する仕組みが継続し自治体財政への影響は軽微です。自治体は、総務省から「定員管理計画」の策定と実施を要請されたことで保育士を削減するために民営化をすすめるようになりました。「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太方針2015)では、「公的サービスの産業化(多様な行政事務の外部委託、包括的民間委託等の推進)」も民営化をすすめる要因となりました。特に骨太方針2015によれば、民営化は公的サービスを産業化するための手段と位置づけられ、保育を産業として育成することとなりました。

民営化と認定こども園

公立幼稚園の定員割れの対策を含めて幼稚園と保育所を廃止・統合して幼保連携型認定こども園に再編する自治体が多くなっています。幼保連携型認定こども園は、子ども・子育て支援新制度(以下、新制度)により設置・運営しています。幼保連携型認定こども園は、2015年1943園から2019年5276園へ2・7倍になっています。公私別でみると公立743園、私立4533園で、私立が85・9%です。幼保連携型認定こども園は、これからも増加する傾向を示しています。内閣府の子ども子育て本部の資料(2019年9月27日)によると同年4月1日時点で「認定こども園へ移行した施設の内訳は、幼稚園382カ所、認可保育所716カ所、その他の保育施設17カ所、認定こども園として新規開園したものが62カ所」です。既存の保育所・幼稚園から幼保連携型認定こども園に移行する傾向が強まるのではないでしょうか。

幼保連携型認定こども園への移行で特徴的なのは施設の大規模化と再配置です。大規模化では大阪府泉佐野市では公立の保育所と幼稚園を統合して三つの幼保連携型認定こども園に再編しました。その結果、1施設に障がい児20~25人が入所し保育を受けることになり、子ども一人一人へのていねいな対応が難しくなったといわれています。保護者にとっても身近にあった保育所や幼稚園が遠くになり、子育て支援の利便性が低下するとともに、子育て支援のカバーする範囲が拡大し手厚い支援ができにくくなっています。保育者にとっても、幼稚園教諭と保育士はそれぞれの保育文化が異なるため保育の協働がむずかしいという声も聞こえてきます。

幼保連携型が促進される理由は何でしょうか。一つは、総務省による「人口ビジョン」の策定と公共施設の再編です。「人口ビジョン」ではどの自治体も人口が減少します。それに応じて公共施設が必要かどうか判断しなければならなくなります。例えば、幼稚園でも保育所でも児童人口はこれから縮小していくわけですから、現在の施設を維持していく必要があるかどうか検討しなければならなくなります。そこで幼稚園と保育所の統合が浮上します。公共保育施設は、多くは1960年後半から70年代に建設され老朽化しています。これまで補修したりしてきましたが限界で、老朽化対策をするより、幼保連携型認定こども園を建設して配置する方策を選択する傾向が生まれています。総務省の「公共施設等総合管理計画」が幼保連携型認定こども園への道筋を付けました。

大阪府は、公立保育所と幼稚園を集約して幼保連携型認定こども園にするなら、公共施設事業債を活用すると充当率90%で交付税の算入50%より有利だと、市町村に発信しています(大阪府相談室「認定こども園整備に活用できる地方債について」)。集約化・複合化については「既存の同種の公共施設を統合するなど、既存施設の延床面積の合計が減少」していることが条件です。集約化以前の保育所A900平方メートル+保育所B1700平方メートル+幼稚園C900平方メートル=3500平方メートル→2500平方メートルにすればOKです。財政的に苦しい自治体には手を出したくなる方策が示されています。これも幼保連携型認定こども園の促進に影響を与えます。このような政策が実行されると、市民の生活に密着していた公共保育施設(公立保育所・幼稚園・認定こども園)がなくなったり、中身が変わったりして市民の子育てにマイナスの影響をもたらします。

認定こども園でも民営化の動き

大阪府堺市は、2017年にすべての公立保育所(当時18カ所)を幼保連携型認定こども園に移行しました。堺市の「市立幼保連携型認定こども園の民営化について」(令和2年4月)によると、2019年4月に「百舌鳥こども園と、近接する教育委員会所管の認定こども園、百舌鳥幼稚園及びこども園保育所を統合」し、幼保連携型認定こども園として民営化しました。堺市は、公立幼保連携型認定こども園については条件が整い次第、順次民営化を進める方針です。交野市でも2017年に「交野市立認定こども園民営化方針」を策定し民営化を進めています。堺市・交野市のように、公立保育所・幼稚園を廃止・統合し幼保連携型認定こども園としたうえで民営化をする方式が広がることが危惧されます。

子ども・子育て支援事業計画と民営化

新制度が2015年4月から実施され5年(第一期)が経過します。2021年4月から第二期となります。国・自治体は、第二期に向けて「ニーズ調査」を実施し事業計画の策定に取り組んでいます。事業計画は、保育需要に対応する供給体制がポイントです。事業計画は、国・自治体で設置している「子ども・子育て会議」で検討されます。事業計画に公立保育所の民営化による供給の拡大や保育所と幼稚園の廃止・統合による幼保連携型認定こども園が盛り込まれる可能性があります。事業計画が民営化や統廃合計画となることが想定されます。事業計画は、新型コロナを想定していません。新型コロナの影響で保育需要も高まると予想されます。再度、ニーズ調査を実施し、新型コロナの影響が反映した事業計画を新たに策定することで待機児童解消につながります。

新制度の関連では、幼児教育・保育の無償化が民営化に及ぼす影響を考慮しておく必要があります。無償化は、2019年10月から実施されました。費用は、最初の6カ月分は国が負担します。負担割合は私立保育所・幼稚園・認定こども園等は国2分の1、都道府県・市町村それぞれ4分の1です。公立は市町村が全額負担です。公立より私立が自治体負担が低いことを民営化の理由にすることでしょう。国は、公立の負担分については負担増の分は地方交付税措置をとるので負担増にはならないと説明していることから、民営化の理由にさせない取り組みが必要です。

コロナ禍と保育の公的責任

新型コロナウイルス感染症では、緊急事態宣言が出されたとき保育所・幼稚園・認定こども園で対応が異なりました。保育所では原則、開所して保育を実施することとしました。幼稚園は学校の休校措置にならって休園となりました。認定こども園は、1号認定(教育を必要とする子ども)は幼稚園にならい家庭保育、新2号(1号で預かり保育を受けている子ども)、2・3号(保育を必要とする子ども)は保育をすることになりました。その根拠は児童福祉法24条1項の「保育を必要とする場合…保育所において保育しなければならない」にあります。幼稚園・認定こども園等は、児童福祉法24条2項が適用され直接契約の施設です。施設・事業で保育が異なるのではなく、どんなときでも必要な保育を受けられるよう自治体の責任で体制を確立する必要があります。児童福祉法24条1項は、通常・非常事態を問わず適用されることから新型コロナでは1・2・3号の子どもは「保育を必要とする」要件を備えているから児童福祉法24条1項を適用して保育を確保すべきです。

緊急事態宣言の発令で、休園措置をとった私立認定こども園や新型コロナが発生し休所措置をとった私立保育所もありました。自治体によっては、公立保育所で代替措置をとったり、公的な施設を整備し保育士を派遣して保育を継続する措置をとった例もありました。ある自治体では新型コロナについて公立保育所をモデルに対応マニュアルを作成し、私立保育所にも適用しました。公立保育所は、緊急事態の対応で力を発揮しました。

一方で企業主導型保育事業は、自治体の関与が及ばないことから、新型コロナ対策ではブラックボックスとなってしまいました。自治体は、企業主導型保育事業所の施設数や利用児童数など基礎的事項を把握できていません。保育保障のためには企業主導型保育事業は見直すべきです。

新型コロナは終わりが見えません。コロナ禍では、通常の状態を想定した民営化や幼保統合およびそれらの事業計画の実施をストップし、非常事態を織り込んだ計画等を検討すべきです。検討の視点として、コロナ禍で公立保育所の果たしている役割を正確に把握し評価して政策に反映すべきです。公立保育所の廃止・統合・民営化はストップすべきです。

杉山 隆一

大阪保育研究所から、鳥取大学地域学部をへて、佛教大学社会福祉学部で教員を務め定年退職。分野は保育制度。近年は社会的養護を対象としている。