【】コロナ禍で浮き彫りとなった非正規労働者・シフト制労働の問題

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コロナ禍で浮き彫りとなった非正規労働者・シフト制労働の問題

コロナ禍は、非正規労働者などの社会的に弱い立場の方の雇用・生活に大きな被害をもたらしました。特に非正規労働の一類型である「シフト制労働」の問題を紹介します。

コロナ禍と非正規労働者

コロナ禍は多くの労働者の雇用や生活に被害を与え続けています。厚生労働省の調査によると、雇用調整の可能性のある事業所は延べ約13万7000カ所、解雇等見込み(既に解雇・雇止めされたものを含む)の労働者数は約13万1900名に及び、このうち非正規雇用の労働者数は約6万200名です(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」2022年4月28日現在)。

一方で、2008年以降のリーマンショックにおいては、約25万6000名の非正規労働者が雇止め等による人員削減の対象とされました。解雇・雇止めの人数で比較すると、コロナ禍ではリーマンショックよりも非正規労働者の雇用への影響が小さいようにも思えます。しかし、決してそのようなことはありません。むしろコロナ禍では過去にない形で非正規労働者の一類型である「シフト制労働者」について、極めて深刻な労働問題が発生しました。

シフト制労働者とは?

コロナ禍は特に飲食業・宿泊業の会社に大きな影響を与えましたが、これらの業種で働く労働者の多くはパート・アルバイトの形態のいわゆる非正規労働者です。そのため、コロナ禍では特にパート・アルバイトとして働く労働者にしわ寄せがいくことになりました。

私は、労働組合「首都圏青年ユニオン」(以下、青年ユニオン)とともに、青年ユニオン顧問弁護団(以下、顧問弁護団)の事務局長として、コロナ禍での非正規労働者の問題に取り組んできました。特に力を入れてきたのが、パート・アルバイトの形態で働く「シフト制労働者」の労働問題です。耳慣れない言葉かもしれませんが、典型例の一つとして、居酒屋で働く学生アルバイトを思い浮かべてください。労働契約書では、具体的に働く曜日や時間を明確な形では記載せず、一定期間ごとに「シフト表」などを作成して、学校の授業などとの調整をしながら、実際に働く日時を決定することが一般的です。このようにシフトによって働く日や時間が決まる労働者が「シフト制労働者」です。

厚生労働省が2022年1月に公表した通達は、シフト制を「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1カ月など。以下同様)ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態」と定義し、シフト制を内容とする労働契約に基づいて働く労働者を「シフト制労働者」と定義しています(「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」2022年1月7日付)。

コロナ禍でのシフト制労働者の問題

2020年4月以降、新型コロナウイルスの感染拡大及び緊急事態宣言の発令を受けて、青年ユニオンに多数のパート・アルバイトの方から労働相談・生活相談が寄せられるようになりました。

コロナ禍では、飲食業の企業を中心として、シフト制労働者のシフトを減らしたり、シフトを全く入れないという対応をして、労働者を「休業」させました。シフトを減らすことは「シフトカット」、シフトを全く入れないことは「ゼロシフト(シフトゼロ)」と呼ばれています。

企業がシフトカット・ゼロシフトなどの対応をして、会社の都合により労働者を休業させた場合、本来であれば、民法536条2項または労働基準法26条に基づき、労働者に対する休業補償をしなければなりません。

ところが、青年ユニオンが企業と交渉をする中で、シフト制であることを理由として、休業補償を拒む企業が後を絶ちませんでした。シフト制労働者は、休業補償がなければ無収入になってしまいます。このような「補償なし休業」の問題は、実はコロナ以前にもありましたが、コロナ禍では、2020年4月以降、大規模かつ一斉に表面化したのです。

また、シフト制については、企業にとって極めて都合のよい形で運用されているという実態(労働者側からみると、極めて不利・不安定な形で運用されている実態)があります。コロナ禍では、シフト制労働者に対する解雇や雇止めをせず、「シフトを入れない」という扱いをする事態が多発しました。実態として、シフト制労働者は、解雇・雇止めされたのと同じ状況に置かれるにもかかわらず、休業補償を受け取ることもできず、また雇用保険を使うこともできません。シフト制労働が企業にとって極めて都合のよい運用を許してしまうことがコロナ禍で浮き彫りとなりました。なお、冒頭で述べたリーマンショックと比べてコロナ禍で非正規労働者の解雇・雇止めが少ない理由は、シフトカットやゼロシフトにより雇止め・解雇を回避したことが大きな原因であると考えています。

シフト制労働者については、誤解されることが少なくありません。かつて、シフト制労働者は、男性の正社員に養われる「主婦パート」「学生アルバイト」であり「家計補助的な労働」だと考えられてきました。この考え方によると、シフト制労働者の収入は、お小遣い程度のもので、世帯収入に占める割合は小さく、シフトカット等により収入が減少したとしても、生活に大きな影響を与えるわけではないということになります。しかし、この考えは現在では通用しません。コロナ禍では、「補償なし休業」が横行した結果、退学を検討する大学生や生活困難に陥る女性パート・アルバイトが大量に現れました。1990年代後半以降、非正規労働者の増加や正社員の賃金低下が進むとともに、アルバイトやパートの収入で家計を支える非正規労働者(世帯)が増え続けました。そのため、現在では、シフト制労働者の収入によって家計を支える世帯は少なくないという状況になっています。従来の「家計補助的な労働」という考えのままだと、必要な救済や対策を見誤ってしまうため注意が必要です。

なお、コロナ以前の2019年時点の調査では、約2165万人の非正規労働者のうち、女性の非正規労働者は約68%にあたる約1475万人でした(総務省統計局、2020年労働力調査)。シフト制労働者の多くは女性であると考えられます。コロナ禍での「女性の貧困」が大きな社会問題となっていますが、その原因の一つは、シフト制労働にあると考えています。

首都圏青年ユニオン・顧問弁護団の取り組み

青年ユニオンは、シフト制労働の問題について、多数の企業との交渉に取り組みつつ、雇用調整助成金や休業支援金・給付金などの公的な休業補償制度の改正や拡充のために取り組み、成果を上げてきました。2021年1月には青年ユニオンの組合員らが当時の菅首相と直接対話をする場をもち、休業支援金・給付金の制度の改善を要求し、しかもその後直ちに要求が実現しました。

一方で、青年ユニオンは、企業による休業補償の未払いの横行、労働基準監督署(労基署)の対応の問題など、現状の法制度や行政機関の運用上の問題にも直面してきました。そこで、青年ユニオンと顧問弁護団は、シフト制労働の問題を広く社会に発信し、立法的な救済を含む根本的な解決を図るために、2021年5月、「シフト制労働黒書」(以下、「黒書」)を作成・公表しました。「黒書」では、コロナ禍でのシフト制労働の法的問題を、①「補償なし休業」(特にシフトが確定していない時期の問題)、②正社員と非正規社員との休業補償における格差、③制裁(嫌がらせ)としてのシフトカット、④シフト制労働者の雇用保険からの排除、の4点に整理しています。

いずれも深刻な問題ですが、ここでは前述の①「補償なし休業」の問題についてもう少し詳しく説明します。

この問題は、法律的な観点からみると、労働基準法26条に関する厚生労働省の解釈とそれに従った労働基準監督署・労働局の対応の問題、そして、これに便乗する企業の休業補償の不払いの問題に整理することができます(これとは別に民法536条2項に基づく休業補償の問題がありますが、ここでは割愛させて頂きます)。

厚生労働省は、シフトが確定していない期間について、そもそも法的に「休業」と評価することができず、一般的に労働基準法26条に基づく休業補償の支払い義務があると評価することは困難という解釈をとっています。要するに、シフトが決まっていなかった期間については、休業補償をしなくても法律違反ではないという解釈をとっているということです。

労働基準監督署や労働局もこの解釈を前提とするため、例えば、労働基準監督署の窓口において、シフト制労働者が休業補償について相談をしても、シフトが決まっていなかったのであれば何もできませんと対応を拒否されてしまいます。また、企業側も同様の解釈に基づく主張をすることが多く、おそらくは労働基準監督署から指導・勧告を受けるリスクがないことを承知のうえで、休業補償の支払いを拒むことが少なくありません。

しかし、このような解釈がまかり通ってよいはずがありません。シフト制であっても、労働契約書や労働条件通知書等で契約上の労働日や労働時間を特定することが可能な場合があります。また、書面がない場合でも、過去の勤務実績から労働日・労働時間の特定が可能なケースがたくさんあります。

シフトが確定していない期間についても、多くの場合、労働契約書や就労実態から労働日・労働時間を特定することが可能ですから、休業補償の支払義務を認めるべきです。また、そもそもシフトが確定しなかったのは企業側の都合ですから、それによって休業補償の支払義務が否定されるのは極めて不合理です。

このように①「補償なし休業」の問題だけをみても、たくさんの問題があり、現在の法令の下でのシフト制労働者の救済には限界があると言わざるを得ません。「黒書」では、こうした現状を踏まえ、根本的な解決を実現するべく、労働基準法等の法改正を提言しています。なお、前記①~④の各問題や法改正の提言の詳細については、首都圏青年ユニオンのホームページに掲載した「黒書」をご参照ください。

https://www.seinen-u.org/blank-16の「シフト制労働黒書」をクリックください)

顧問弁護団の取り組みとシフト制労働対策弁護団の結成

「黒書」の作成・公表とともに、顧問弁護団は、シフト制労働者の訴訟にも取り組んでいます。その一つが、株式会社フジオフードシステムを被告とする事件です。この事件は、大手飲食チェーンである同社が運営するカフェにおいて勤務するアルバイト(青年ユニオン組合員)が、未払休業補償の支払い等を求めて、横浜地方裁判所に提訴したものです。2021年7月に提訴し、現在も係争中です。

また、顧問弁護団では、法改正に向けた活動をさらに一歩進めています。2022年4月、顧問弁護団に所属する弁護士の有志で、シフト制労働の問題に特化した「シフト制労働対策弁護団」を結成しました。シフト制労働対策弁護団では、シフト制労働者の相談活動を行うとともに、「黒書」で提言した法改正などを実現するために、厚生労働省への要請やより具体的な法改正の提言を実施する予定です。

最後に~抜本的な法改正の必要性~

政府はコロナ禍での労働者救済策として、雇用調整助成金制度の適用範囲を拡大し、休業支援金・給付金制度を創設しました。これらの制度により、シフト制労働者を含む労働者に対して、一定の救済が行われたことは事実です。しかし、本来はシフト制労働者を雇用する企業が直接休業補償を行うべきです。そのためには休業補償を明確に企業に義務づける法改正が必要になります。

ところが、政府は、法改正を検討することなく放置し、内閣官房が設置した「新しい資本主義実現会議」が発表した「緊急提言」において、シフト制労働を推奨しています(「緊急提言~未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて~」2021年11月8日付)。

シフト制を推奨するのであれば、まずは法改正により、コロナ禍で浮き彫りとなったシフト制労働の問題を改善すべきです。シフト制労働者の問題を改善することは、非正規労働の問題の解決につながる大きな一歩となります。

青年ユニオン、顧問弁護団、シフト制労働対策弁護団では、今後、法改正に向けてさらに取り組みを進める所存です。

川口 智也

2016年12月弁護士登録(東京法律事務所)。主に労働者・労働組合側の労働事件に取り組む。首都圏青年ユニオン顧問弁護団事務局長、シフト制労働対策弁護団代表。

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