【論文】会計年度任用職員制度の実際と矛盾-公民館での経験から

  • 匿名
    (※本稿は、自治体当局との厳しい力関係に配慮し、筆者を守るためにあえて匿名での掲載を了解いたしました。)
  • 2023年6月17日
  • 月刊『住民と自治』 2023年4月号 より

はじめに

私は2020年4月から2022年3月まで、東京都某市にある公民館のフルタイム会計年度任用職員として勤務しました。ここではフルタイム会計年度任用職員の働きづらさについて私の体験談を交えながら制度と現場での矛盾について明らかにします。

現場で大切にされない会計年度任用職員?

私が2年間仕事をしていたなかで、会計年度任用職員と正規職員の間に見えない壁があり、対等な身分として見られず、ヒエラルキー(階層構造)の最下層として見られていると感じることが多かったです。その中実際起きた実例を紹介します。

私は公民館事業として、自身の自治体の財政を読み解く力を身に付け主体的に行動できる市民を養成することを目的に財政分析講座を実施しました。講座の最終回に自治体の財政課長に向けて講座参加者がわがまちの財政に関する質問をする機会を設けました。市民がする質問の中には市政運営を厳しく非難するものありました。その中で財政課長の回答の一部に「市の財政についてよく調べられています。今回講座を担当した職員はわが市の職員ではありませんので、全部は信用しないようお願いいたします」という発言がありました。この発言に私は驚きました。なぜなら事前に質問する内容については打ち合わせをする中ですり合わせを行っていました。また財政分析に使用したものは、財政課で用意した資料、ホームページ上で公表している決算資料などを使用していました。このデータを否定するということは、市民を騙していたと認めるとも捉えられる回答だったからです。

しかし財政課長はこれだけでは終わらず、講座終了後に私に直接指導するのではなく、上司である公民館分館長(係長)を呼び、私への監督の不届きを指導し帰っていきました。管理職たるものが会計年度任用職員の立場を考えない発言や、存在を無視する行為を行っており、管理職<正職員<会計年度任用職員という組織風土になっていたのです。

次に知っておいて欲しいことに、会計年度任用職員に与える権限を一緒くたにすることで働きづらくなる場合があることです。会計年度任用職員は①事務補助系職員、②教育系職員の二つの職種に分けられます。2020年度は、会計年度任用職員の自治体内で与えられる権限は広く、職員の仕事用のメールアドレスの取得や公用車も使用できました。しかし2021年度からセキュリティ対策が強化されたこともあり、メールアドレスの取得や公用車の使用もできなくなりました。

事務系職員の場合、業務に支障をきたすことはありませんが、教育系職員にとっては、死活問題でした。私に与えられた職務として①公民館の施設運営の事務補助、②公民館利用者などの相談業務、③公民館事業の企画・運営の3つがありました。①と②について業務上支障はありませんが、③の公民館事業の企画については死活問題でした。講師とのやり取りは対面や電話での対応もありますが、遠方の講師もいるためメールでのやり取りが主流です。それが急に会計年度任用職員を一緒くたに考え運用したことで、突然講師とのやり取りができなくなりました。これに伴って職務が軽減されることはありませんでした。メールなどのやり取りをする場合、自身のプライベートアドレスでやり取りするなど労働規則に違反と捉えられてもおかしくない働き方を余儀なくされました。

また市役所の場合、事業を企画した際、自治体独自の起案システムを通して企画の了承をとることが必要なのですが、会計年度任用職員には起案システムに入る権限をセキュリティ対策の問題もあり取得することができませんでした。なので正職員の方の手の空いた時を見計らって事業を起案していただいていました。

このように私は与えられた職務を全うしようと志高く働き始めましたが、会計年度任用職員を全て一緒くたに捉えられていたこともあり、事業を企画しても自身の力で企画書の立案すらすることができず、正職員の力を借りないと職務を全うすることができなかったのです。事業を展開しても市役所内での会計年度任用職員の位置づけは低く、職員の心無い発言で傷つくこともあるなど会計年度任用職員を大切にしない労働環境でした。

制度からみた会計年度任用職員の矛盾

仕事のモチベーションにつながる会計年度任用職員の待遇面についてお話しします。表を見てください。

表 某市の正職員と会計年度任用職員の待遇の違い(2021年度まで)

表の左が週5日のフルタイムで勤務する大学新卒者の待遇面、右が会計年度任用職員(公民館職員)の待遇について示しています。まず給与面を見ると新卒者は手当込みで約21万円、会計年度任用職員は約17万円です。新卒者は自治体条例で定められた給与表に基づいて毎年昇給しますが、私が働いた自治体では会計年度任用職員の昇給制度はなく、近隣自治体の実情に応じて月収が変化するというものでした。また正規職員は、家賃補助などの手当てが手厚く支給されますが、会計年度任用職員の手当は通勤手当のみでした。

業務によっては定時で帰ることができない場合もあります。正規職員の場合、残業代が支払われます。会計年度任用職員は定時を過ぎた場合、残業代は出ませんでした。その代わり代休を取得することができます。しかし私の勤務先は正規職員2名と会計年度任用職員1名の3名の少人数であること、正職員以上に公民館企画事業を担当していたこともあり休みを取ることが難しい環境でした。

会計年度任用職員制度への移行は、従前の嘱託職員制度では「報酬と費用弁償(通勤費相当額等)」しか支払われないことや正規公務員には普通にあった育児休暇や、産前産後休暇が無い、ボーナスも無いという自治体が多く存在したことから、自治体の統一的な取り扱いを定め、今後の制度的な基盤を構築することにより、各地方公共団体における臨時・非常勤職員制度の適切な運用を確保しようという非正規公務員の処遇改善をねらいとして行われました。

総務省が定める「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」には、会計年度任用制度の運用に関する基準などが整理されています。その中で会計年度任用職員の昇給について「勤続による職業能力の向上に応じて行おうとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同様に勤続により職業能力が向上した有期雇用労働者又はパートタイム労働者に、勤続による職業能力の向上に応じた部分につき、同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による職業能力の向上に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない」と示されていますが、実際は会計年度任用職員の昇給はなされていません。

時間外手当についても同マニュアルでも「時間外勤務手当については、正規の勤務時間を超えて勤務することを命じた場合(週休日を含む)には、その超えた勤務時間に対して、労働基準法第37条の規定に基づく基準を下回らない額を適切に支給する必要があります」と明記され、会計年度任用職員にも時間外勤務手当が支給されることが望ましいとされていますが、二年間の勤務で一度も支払われることはありませんでした。

おわりに

自治体の非正規職員の処遇改善をねらいとして、国は会計年度任用職員制度を導入しましたが、あくまでマニュアルや法律の改定などソフト面を整えたのみで自治体の独自の判断で会計年度任用職員制度が進められています。本当に非正規職員の処遇を改善するのであれば、自治体内で非正規職員の声を受け止め、都度改善していくことも重要ですが、それだけではなく市民や議員などが外部から会計年度任用職員の働きづらさなどを監視し、自治体へ改善を促すといった内外のチェック機能をうまく機能させることが重要だと感じます。とくに市民の代表である議員は、会計年度任用職員の働き方などに興味を持ち見守っていただく必要があります。私の自治体では、一度も議員が会計年度任用職員の働いている現場に視察に来ることはなく、現場を理解せず議会質問をすることで、会計年度任用職員が働きづらくなるようなことがありました。

会計年度任用職員は市民が良く利用する住民票関係、図書館、公民館、体育館などの窓口で一生懸命働いてくれています。その会計年度任用職員はその働きづらさややるせなさを語る場もありません。それが積み重なることで市民対応の質に影響を及ぼしていくことになります。ある自治体では、市民窓口の会計年度任用職員の働きづらさなどが広まったため、公募しても人数が集まらず業務を民間委託した事例も出てきています。このように住民福祉サービスに影響を及ぼし始めています。議員は、住民を代表する者として、地域のことや住民福祉の向上等に努めることが大きな責務のはずです。自治体内では、会計年度任用職員制度を独自の解釈で援用しており、官製ワークプアを助長する施策となる可能性があります。唯一それを止めたり、改善できる力が議員にはあるのです。自治体業務不全に陥らないためにも議員には、会計年度任用職員の働き方を常に監視し見守ってほしく思います。

まずはいきなり会計年度任用職員の処遇改善を進めるのではなく、会計年度任用職員がどのような思いで勤務に当たっているのか心を開いて対話することから始めてみてください。会計年度任用職員は、職場に関する悩みを相談できず孤立して一人で戦っていることが多いと思います。対話する中で、処遇を改善していくうえでの優先順位も分かりますし、劣等感を抱いて働いている職員の心的ストレスの軽減にもつながります。少しでも会計年度任用職員が働きやすくなる労働環境が実現することを祈っています。


【引用文献】
  • 匿名
    (※本稿は、自治体当局との厳しい力関係に配慮し、筆者を守るためにあえて匿名での掲載を了解いたしました。)