【論文】「岡山県・総社市の文化共生事業の取り組み」


総社市多文化共生施策の背景

 総社市には、三菱自動車を中心とした自動車部品工場が集積した地域があり、1990(平成2)年の出入国管理及び難民認定法改正以降、南米系ニューカマーであるブラジル人、ペルー人をはじめとする多くの外国人労働者が雇用されました。外国人労働者の多くは非正規雇用等の不安定な就労状況にあり、2008(平成20)年秋のリーマン・ショックに端を発した経済危機により多大な影響を受け、その多くが解雇されました。市はこの事態を受け、同年12月に、日系ブラジル人等の就労支援を目的として、商工労政の担当部署に専用の相談窓口を設置しました。しかし、相談内容は就労問題だけに留まらず、住宅、医療、保険、教育など日常生活全般に関して多岐に及びました。

 このような状況の中、2009(平成21)年4月、外国人市民の生活全般に関わる自立支援を行う目的で人権・まちづくり課内に国際・交流推進係を新設しました。「国籍を越えた多文化共生のまちづくり」をキーワードに、多文化共生施策を市政の重要施策と位置づけ、係設置直後から「外国人市民との顔が見える関係づくり」を目指し、多文化共生推進員を配置し、きめ細やかな相談業務を通じて聞こえてくる外国人市民の声を反映した多文化共生事業を展開しています。

総社市の外国人の状況

 2023(令和5)年11月1日現在の外国人市民は、1755人であり、総人口6万9757人の2・5%を占めています(図)。国籍別では、ベトナム929人(52・9%)、ブラジル239人(13・6%)、中国142人(8・1%)が多く、総計33カ国の方が生活しています。2008(平成20)年の経済状況の悪化で外国人人口は減少しましたが、2015(平成27)年度以後は増加に転じ、東南アジア出身者の割合が増加しています。2022(令和4)~2023(令和5)年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により一時的に減少していますが、現在は再び増加に転じています。在留資格別では、技能実習657人(37・4%)、特定技能365人(20・8%)、永住者327人(18・6%)が多く、技能実習・特定技能は主にベトナム国籍、永住者は主にブラジル・中国国籍の方が多くを占めています。

総社市における外国人の推移(各年度4月1日現在)

総社市の多文化共生事業の取り組み

 本市の多文化共生事業の主なものについて、内容と、そのポイントとなる考え方、連携組織、支援者などについて説明します。

(1)外国人相談事業

 外国人市民が安心して生活できる環境を目指し、生活上の一般的な相談から子育てを始めとする行政手続きなどの相談に対応するため、ポルトガル語、スペイン語、英語、中国語、ベトナム語に精通した3人の多文化共生推進員を人権・まちづくり課に配置しています。相談内容は行政手続に関するものが最も多く、子どもの教育や税金、医療、ビザなど多岐にわたる相談が寄せられています。さまざまな相談に対応する3人を頼り、多数の外国人市民が窓口に訪れ、結果として市役所との距離が縮まり、顔が見える関係づくりが進んでいます。

また、受け身の姿勢で待つのではなく、市役所を身近な存在と認めてもらえるよう、欲している情報は何かを相談内容から分析し、市の広報紙から行事や健康・生活に関わる情報等を抜粋し、多言語翻訳版(ポルトガル語版・中国語版・ベトナム語版)とやさしい日本語版のニュースを発行し、市内で生活している外国人全世帯に配布しています。災害情報、新型コロナウイルス感染症関連情報などの緊急性の高い情報については、SNSを活用し、市民として必要な情報が届くよう工夫を凝らしています。

(2)コミュニティ交流事業

 2010(平成22)年、外国人市民から、地域社会の一員として自立し、互いに助け合い、交流活動を積極的に行いたいとの意見が出たことを受け、南米系外国人市民を中心とした「総社ブラジリアンコミュニティ」が設立されました。現在は、南米系以外の外国人を含めた「総社インターナショナルコミュニティ&桃太郎インターナショナルアソシエーション(以下SIC&MIA)」として活動しており、多くの外国人が加入しています。行政とSIC&MIAとの双方向の情報共有ができるなど日本人コミュニティと同様な仕組みが構築されており、本市の多文化共生事業において非常に大きな役割を担っています。

一方で、日本人コミュニティとの融合は大きな課題でした。当時、市民レベルでは外国人市民の受入れに前向きでない意見がありました。そのような中、SIC&MIAと連携していこうと立ちあがってくれたのが、市内のコミュニティ組織の集合体である「総社市コミュニティ地域づくり協議会」でした。これが一つの起点となり、本市の多文化共生は大きく前に進むことになりました。この両組織の協働企画により、年に1度、日本人と外国人との交流イベント「そうじゃインターナショナルフェスタ」を開催しています。いまでは約2000人の方が各国の料理や伝統舞踊を楽しめるフェスタとなり、本市を代表する国際交流イベントに成長しました。

(3)日本語教育事業

 2012(平成24)年度から、文化庁の「「生活者としての外国人」のための日本語教育事業」を受託(2019(令和元)年度からは市の財源で運営)し、毎週日曜日に日本語教室を開講しています。開講のきっかけは、外国人市民から日本語を勉強したいという声が寄せられ、それに応えるものでした。教室では、市職員(他課)によるごみの分別講習や交通安全講習、防災訓練への参加、病院での受診体験や消防署の施設見学、書道や盆踊りなどの文化体験学習などを行っており、単に日本語を学ぶ場だけではなく、日本での生活を円滑に行うために必要な日本語の習得やコミュニケーション能力の向上、地域住民同士でつながる場を提供していることが特徴といえます。また、並行して日本語学習サポーター育成研修も実施しており、専門家から実践を通じて知識を学びながら外国人支援に関する基礎的知識も習得しています。本事業の実施にあたっては、コーディネーター(岡山大学准教授)の役割が大きく、プログラムの企画・立案や、行政と日本語教授者(有資格の日本語教師)、運営委員との調整を行っていただいており、本市の日本語教室の特色となっています。

(4)外国人防災リーダー養成事業

 災害等の緊急時に、外国人市民が「支援される側」ではなく「支援する側」として、特に外国人市民と行政のつなぎ役として活動してもらうため、2013(平成25)年度から「外国人防災リーダー養成研修」を実施しています。本事業を始めたのは、本市が、東日本大震災をはじめとする大規模災害に対する支援活動を国内外問わず行ってきたこと、また外国人市民が2010(平成22)年度から市主催の防災訓練に参加をしてきたことにより支援する側として活動したいと意識に変化が生じたことが背景にあります。研修では、普通救命講習、避難所模擬研修のほか、本市で起きた過去の災害や、南海トラフ地震などの今後予想される災害について学ぶとともに、今後の活動に関するワークショップも実施しています。2014(平成26)年度からは、市主催の防災訓練で、土のう作りの講師をするなど「支援する側」として活動しています。

2018(平成30)年の西日本豪雨災害では、外国人市民も多く被災していることから、外国人被災者相談コールセンターを開設し、住んでいる自治体を問わず、罹災証明や各種支援金の申請手続きなどの相談に対応しました。また、自主的に被災者のために、被災住居の土砂・がれきなどの撤去ボランティアにも参加しました。防災リーダー一人ひとりが責任を持ち、自らの意思で動いたことは、リーダー養成を実施してきたひとつの成果であったと思います。

おわりに

 本市が多文化共生事業を進めることができているのは、「組織内連携と民間組織を含む外部連携」「コミュニティ組織の設立と市民理解」の2つが大きな要因だったと思います。もちろん、先進地を参考に改善・工夫をすべきことや課題は多くあります。例えば、「総社市多文化共生事業の取り組み(2)コミュニティ交流事業」に記述したとおり、組織レベルの交流はできていますが、個人レベルの交流はどうか、まちなかで挨拶をしたり、世間話をしたりという関係は限定的な状況です。単に言葉の壁の問題とも思えません。お互いの母語の挨拶を学んだり、お互いの文化や習慣の違いを理解しあうなど、個人レベルや地域レベルで交流ができないか、その可能性を検討しています。

 2023(令和5)年、国立社会保障・人口問題研究所により発表された日本の将来推計人口によると、今後、日本人人口が減少する一方、在留外国人は、2020(令和2)年の275万人(外国人の総人口に占める割合は2.・2%)から2070(令和52)年には939万人(同10・8%)に増加すると推計されています。また、技能実習制度及び特定技能制度の見直し、特定技能2号の対象追加など、今後、確実に外国人市民は増加し、家族帯同、定住化など生活の態様も変化することが予想されます。

 人口減少時代を迎えた日本において、個人や地域レベルで交流が進むことで、自治会等が抱えている課題である担い手不足の解消や地域コミュニティの活性化などに繋がることにも期待しています。外国人・日本人関係なく同じ市民として、道で会えば挨拶を交わし、自治会等の行事に参加し、総社のまちづくりに参加する、そんな多文化共生のまちづくりを目指していきたいです。

渡邉 康広