関連死を防ぐためにできること─とくに地域・自治体の課題

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2026年に防災庁が設置されることになりました。設置検討にあたって招集された防災庁設置準備アドバイザー会議の報告書の内容と、今年3月に長野県諏訪市で行われたイタリア式避難所設営訓練を紹介し、日本での避難所開設と運営について考えます。


はじめに

このたび、石破茂内閣総理大臣の肝いりで2026(令和8)年に防災庁設置が決まりました。また災害後の避難生活を改善して災害関連死をなくしたいという石破総理の思いのもとで、防災庁設置準備アドバイザー会議が開催され防災庁設置に係る報告書がまとめられました。私はこのアドバイザー会議に出席し報告書策定に関わることができました。そこで今後国がどのように南海トラフ巨大地震を含めた災害対策をしていくか、現時点のものですが見えてきました。今回はそれを踏まえて自治体がどのようにすれば良いのかについて考えたいと思います。

一方、イタリアの災害対応が日本に比べて格段に速く、良いことが周知されつつあります。国も今年5月に坂井まなぶ防災担当大臣がイタリアを訪問して市民保護庁などにヒアリングしており、その仕組みを本格的に調査し始めました。また2025年3月に民間ベンチャー企業と長野県伊那いな市、同諏訪すわ市がイタリア式の避難所設営訓練の試みを初めて行いました。これは被災地外の民間企業と支援自治体が被災地外から災害支援物資を搬送して避難所設営と運営を行うというものです。これについても説明し、自治体の役割について考えたいと思います。

防災庁設置準備アドバイザー会議

報告書からわかること

防災庁設置準備アドバイザー会議で検討された「防災庁設置準備報告書」では防災庁の役割として防災の基本政策・国家戦略の立案、徹底した事前防災の司令塔、災害発生時から復旧復興までの災害対応の司令塔、そして災害対応のワンストップ窓口になることを約束しています。またあらゆる事態を想定してデジタル技術を活用した先読みの防災を掲げています。そのための主な取り組み事項として①迅速な被災者支援の実現、②デジタル技術の徹底活用(防災DX)、③行動変容に向けた防災教育・普及活動の三つを柱としています。

まず迅速な被災者支援実現のためには特記すべきことですが、を踏まえた避難生活の抜本的改善、避難所運営等に係る訓練実施・標準化、専門性を有する民間企業、災害支援NPO/NGOとの連携を挙げています。なお内閣府防災庁設置アドバイザー会議ではボランティアという言葉はなるべくやめようということになりました。日本ではボランティアというと無償提供と思われてしまうことがあるためです。欧米では、ボランティアとは「志願する」という意味であって無償提供の意味はありません。今後の大規模災害では公的な災害支援のみでは絶対数が不足するため、民間ボランティアの協力が不可欠になります。その際に無償提供では支援の志があってもできないことがあることから、公的予算で賄うことで民間支援者を大幅に増やすことが急務だからです。

防災庁設置準備アドバイザー会議
報告書の避難生活に関わる内容

次に防災庁設置準備アドバイザー会議報告書に記載してある避難所・避難生活の改善に係る文言を見ていきたいと思います。まず第一章「防災庁の必要性」の中に、「熊本地震や能登半島地震の教訓を踏まえ、被災者が健康危機や生活困難、社会的孤立に陥ることなく避難生活を送り、関連死につながることがないよう(…)被災地のニーズを踏まえた「モレ・ムラ」のない被災地・被災者支援の実現が必要である」(太字は筆者。以下同)という文言があります。これはこれまでの災害で何度も見られた避難所格差や地域格差をなくして災害関連死を予防していくということです。第二章「防災庁の基本理念と果たすべき役割」の中の「防災庁における行動原則」に「人命・人権最優先」「現場目線・被災者目線の徹底」「あらゆる関係者をつなぐ」「経験・教訓を継承し、未来へ備える」とあり、人命救助と同列に生き残った人々の避難生活における人権尊重が初めて明記されました。これは画期的なことです。したがって今後の避難所においては準備不足による床の上の雑魚寝、冷たい食事が連続しプライバシーもないような避難所は許されないことになります。そして第三章「防災庁が今後取り組むべき防災政策の方向性と具体的な施策」の「防災に関する基本政策・国家戦略の立案」において、「発災時から復旧・復興までの円滑な災害対応のための事前準備の推進」の中で「迅速な被災者支援の実現に向けた体制構築と事前準備」として「保健・医療・福祉関係者や被災者支援に関する専門性を有するNPO/NGOやボランティア等との連携体制の構築、災害支援物資等の標準化検討、避難所運営等に係る業務の標準化・訓練実施、スフィア基準(「人道憲章と人道対応に関する最低基準」)等を踏まえた備蓄・設備の強化など、避難所生活環境の抜本的改善、要配慮者に係る避難支援等の体制強化、速やかな住まいの確保に向け、被災者支援のための事前準備を推進する」とあります。すなわち今後は避難所で被災者の人権を守るためにスフィア基準を踏まえた避難所を運営するための準備をするということが明記されたことになります。これも画期的なことです。そのために災害支援物資を標準化して避難所運営を標準化することが明記され、さらにそのための備蓄の必要性も明記されました。また災害支援NPO/NGOと平時から連携していく体制を構築することも明記されました。「発災時から復旧・復興までの円滑な災害対応の統括」における「初動体制の構築」において「災害対応の司令塔として、政府の災害対策本部の運営等により、関係機関が連携した迅速な被害状況把握、職員派遣など被災自治体への応援、人命救助と発災直後からの被災者支援、インフラ・ライフラインの応急復旧など、的確な災害応急対策の実施のための地方自治体、関係府省庁等の連携による初動体制を構築する」とあります。この中で発災直後からの被災者支援が明記されたことは特記すべきです。なぜなら迅速な避難所環境整備は発災直後からできるだけ速やかに支援活動をする必要があるからです。これまで我々は幾多の災害で幾度となく、地方自治体の災害対策本部に発災後すぐに避難所環境改善を申し入れましたが、「人命救助で対応ができない」などと言われて二の次になっている印象でした。しかし今後は欧米と同様に人命救助と並行して被災者支援を行っていくことが当たり前になることが期待されます。そして最後の第四章の「防災庁に求められる組織体制の在り方」の「十分な体制等の確保」において「平時から各府省庁、地方自治体、関連団体、企業等と調整・協働ができる十分な人員体制と、関係機関による防災対策を抜本的に推進する」とあり、平時から災害支援NPO/NGOや災害時に協力してもらえる企業と密にコンタクトを取ることを約束しています。また「南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模災害を念頭に、自治体等地域の実情に応じた防災体制の支援強化や防災庁の業務継続性の観点等も踏まえ、省庁横断で、都道府県を越え、地域の経済圏等における産官学民あらゆる関係者の総力を結集した災害対応を実現するための体制を構築することが必要である」としています。これは都道府県や市町村を越えた支援を実現するために平時から災害支援NPO/NGOや企業、地方自治体と密に連絡を取り合う人員体制をとるということです。さらに南海トラフ地震や首都直下地震では自治体関係者、警察、消防、自衛隊だけでは被災者支援は不可能で、産官学民一体となって災害対応をしないとできないことを示しています。この報告書では冒頭に「南海トラフ地震や首都直下地震、富士山噴火のように、超広域かつ複数の都市・地域社会が同時多発的に被災する国難級の大規模災害の発生が差し迫っている。(…)この100年で我が国が経験した災害とは次元の異なる事態であり、従来の延長線上での対応では、到底、太刀打ちできるものではない。/このような国難級の大規模災害においても、最善の対応を行うためには、従来の制度や前提にとらわれず(…)産官学民が連携して、被害を劇的に低減させる抜本的な防災戦略・戦術の再構築が必要である」としています。これは南海トラフ地震や首都直下地震など広域で国難級の災害では現時点で何が起きるかわからないことを正直に表わしており、あらゆる想定を行って日本国民全体で立ち向かっていかないとできないことを表明しています。

自治体に求められるもの

以上のことから、今後自治体に求められることは、第一に人命救助と同じレベルで発災直後から被災者支援活動を開始すること、第二に被災者の人権を尊重した避難生活確保を目指すこと、具体的にはスフィア基準を遵守じゅんしゅできる避難生活の準備をすること、第三に平時から災害支援NPO/NGO、民間企業、大学などと密にコンタクトを取り災害対応についての情報共有を行うこと、さらに市町村や都道府県を越えた支援ができるようにしておくこと、第四に平時に避難所開設訓練を災害支援NPO/NGOや地域住民および周辺自治体ならびに同じ経済圏の自治体などと一緒に年間を通して実施することです。

イタリア式の避難所とは

2025年3月20・21日に諏訪市でイタリア式避難所設営訓練が日本で初めて行われました。イタリア式避難所設営とは、被災地の外から災害支援者が災害支援物資の資機材を全て持ち込んでTKB(トイレ・キッチン・ベッド)の揃った避難所を48時間以内に設営し運営することです。訓練の想定は諏訪市で早朝に地震が発生し、伊那市が災害支援の民間ベンチャー企業に依頼して伊那市にユニット化して備蓄してある災害支援機材を運び、電源を含めて完全自立可能な避難所を設営するというものでした。そして、実働部隊は、諏訪市からは給水車担当一人のみで、他は災害支援ベンチャー企業(シェルターワン)関係者3人、民間企業の職能ボランティアが37人と市民ボランティア30人という構成でした。すなわち自治体職員に頼らない避難所設営訓練でもありました。まず災害支援ベンチャー企業が伊那市の備蓄倉庫からトラックで諏訪市の訓練会場に支援物資の資機材を搬送し、そこで物資を下ろしてテント、トイレ、風呂・シャワー、キッチン、食堂用の大型テント、支援本部用のテントなどが次々と作られました。これらの作業は災害支援ベンチャー企業とボランティアで行われました。今回準備できた被災者用テントは硬質プラスチック製ドームテントでしたが、それにこだわるものではありません。テントの中にはダンボールベッドに布団、シーツ、枕が準備されました(写真1)。発電機、分電盤、貯水槽と浄水装置などが準備されて避難所内のインフラは確保され、ランドリーも設置されました(写真2)。今回のキッチンはキッチンカーとし、温かく美味しい食事が提供されました(写真3)。特記すべきは準備されたトイレがウォシュレット付きだったことです(写真4)。おそらく世界中でウォシュレット付きの災害用トイレは日本しかありません。そして午前11時に最初の支援物資が届き、午後5時にはほぼTKBが揃った避難所が完成しました(写真5)。このように準備さえできれば、日本でもイタリアのように48時間以内にTKBが揃った避難所を設営し運営することが可能です。

写真1:テントと内部のベッド(段ボールベッド)(著者提供)

写真2:発電機とランドリー(著者提供)

写真3:キッチンカーとそこで調理された温かい食事(著者提供)

写真4:コンテナトイレの外観と内部のウォシュレット付き便器(著者提供)

写真5:およそ5時間で完成した避難所外観(著者提供)

そして今回の訓練で問題点が明らかにもなりました。それは備蓄倉庫から資機材を運び出す際に一部人手を使ったことで時間がかかったこと、訓練会場で荷下ろしする際も同じでした。イタリアでは支援物資はユニット化され、全てフォークリフトですぐ運べるように箱詰めされ備蓄倉庫内にありました。今後は災害支援物資をフォークリフトで運び出せるようにしておかないと迅速な搬送及び荷下ろしができないことが判明しました。このように実地で具体的な訓練を行うことで問題点、改善点が確認され、より良い支援・準備方法がわかっていくものと考えられました。したがって防災庁設置準備報告書にもあったように平時に標準化された避難所設営訓練を行うことは重要です。またこのように被災地外から支援者が災害支援物資を搬送して避難所を設営するためには、災害支援民間企業とNPO/NGO及びボランティ等と協働することが重要で、その際に民間企業とNPO/NGO及びボランティア等を自治体が信用して任せることが重要です。そのためには平時から災害支援を表明している民間企業、NPO/NGO及びボランティア等と密にコンタクトして信用関係を作っておく必要があります。

おわりに

以上のように防災庁設置による国主導の避難所・避難生活の抜本的改善の仕組みと、民間企業とNPO/NGO及びボランティアなどが主体の避難所設営・運営体制により、イタリアのような迅速な人権尊重された避難所設営と運営が可能であることが示されました。自治体及び自治体関係者は広くこの状況を住民と情報共有し、防災庁と密に連携し、差し迫っている国難級の災害にも備えていくことが必要と思われます。

榛沢 和彦

1989年新潟大学医学部卒。2018年より現職。専門は心臓血管外科。避難所・避難生活学会常任理事、内閣府防災庁設置準備アドバイザー。

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