続・暴走する大阪万博―その先に見るIR・カジノの悪夢
 第1回 大阪IRカジノの住民訴訟が問うもの

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はじめに

大阪湾に浮かぶ人工島「夢洲ゆめしま」で開催されている「大阪・関西万博(以下、万博)」と一体として進められているのが、万博会場に隣接する同じ夢洲の土地を舞台にした大阪IRカジノ計画です。このカジノ計画についてはカジノ業者を優遇する違法な施策が自治体(大阪府・市)によって繰り広げられています。そのため、現在3つの市民グループから計6つの住民訴訟が提起され、大阪地方裁判所で審理が行われています。私は、この内、①大阪市有地である夢洲の土地49万平方メートルが適正価格を大幅に下回る格安賃料で賃貸することを差し止める住民訴訟と、②大阪IRカジノ計画を強引に進めてきた松井一郎前大阪市長や違法な鑑定を行った不動産鑑定業者などに対して適正な賃料との差額=累計1044億円の損害賠償を求める住民訴訟の弁護団員として、その概要を報告します。

「奇跡の一致」は「官製の鑑定談合」を示すもの

大阪市は、不動産鑑定業者に適正賃料の鑑定を依頼し、その鑑定結果に従って賃料額を決めたのだから、カジノ業者への賃料額は適正であると主張しています。2019年の鑑定では不動産鑑定業者の4社中3社が全く同じ賃料額(月額428円/平方メートル)を鑑定価格とし、2021年の鑑定では3社中2社が全く同じ賃料額(同じ月額428円/平方メートル)を鑑定価格としています。賃料算定の前提となる土地価格についても、各社は全国各地の取引事例を「独自に比較検討」して土地価格を算定したはずですが、その土地価格の算定結果は12万円/平方メートルとぴったり同一の金額でした(図1)。朝日新聞は、これらの鑑定結果の一致を「奇跡の一致」と報道しました。住民訴訟に先立つ住民監査請求においても大阪市の監査委員からは、「(鑑定業者間の)意思の連絡等なしにこれらが一致したというのは不自然な印象を受けることは否定できない」と指摘しています。それでも大阪市は、鑑定結果はたまたま結果的に一致したに過ぎない、と弁明していたのです。

図1 不動産鑑定の不自然な一致(2019年)

出典:住民訴訟弁護団作成

ところが、私たちの住民訴訟の提起(2023年4月)後に、大阪市の担当職員と鑑定業者担当者との間でやりとりされたメールが情報公開によって明らかになりました(当初は存在しないとして不開示にしていたメールが、後に存在しているとして大阪市から開示されました)。情報公開の結果、ある大手鑑定業者(日本不動産研究所)が「参考価格」として土地価格を「12万円/平方メートル」(3社のその後の鑑定結果と同一の価格)と記載したメールが、そのまま、大阪市から他の不動産鑑定業者にメールされていることがわかりました。

それ以外にも、鑑定の方法について、その大手鑑定業者の鑑定の方法を、大阪市が間に入って、他の業者に伝わる(=伝える)ようにしていたことが判明したのです。ある不動産鑑定業者は、当初はカジノ用地の最寄り駅を、夢洲内に開業する夢洲新駅であるとして鑑定すると大阪市に報告していたのに、大阪市から、別の大手鑑定業者は最寄り駅を夢洲新駅とはしないというメールを受けとった後の鑑定書においては、最寄り駅を夢洲新駅ではなく、他の鑑定業者と同じく、隣の人工島である咲洲さきしまにあるコスモスクエア駅を最寄り駅として鑑定したという事実も明らかとなりました(図2)。夢洲新駅は、万博及びその後に開業予定のIRカジノの多数の入場者のために新設された駅です。夢洲新駅がカジノ用地の目の前にあるのに、これを無視して海を隔てた別の咲洲にあるコスモスクエア駅(直線距離にして3.5キロメートルも離れている駅)を「最寄り駅」として鑑定しているのです。このような不自然で異常な鑑定方法を、全ての鑑定業者が行っているのです。このような鑑定方法では、鑑定といいながら実際には適正価格を大きく下回る格安の賃料結果となってしまうことは容易に理解できます。鑑定結果の一致は、「奇跡の一致」ではなく、大阪市が仲介しての不動産鑑定業者間での意図的で違法な鑑定によるものであること=「官製による鑑定談合」とも言うべきものであること、をこれらの事実が示しているといえるでしょう。

図2 「夢洲」と隣の「咲洲」の位置関係を示す図

出典:大阪市ホームページから

カジノ用地の鑑定であるはずなのに「カジノ事業を考慮外」

大阪IRカジノは、初期投資額が約1兆800億円、開業3年目期の年間売上高は約5200億円(この内カジノ事業からの収益は約4200億円:80%程度)、当期純利益は約750億円、カジノ施設の来訪者数は年間約1610万人を見込むという超巨大な営利事業です。「日本有数の規模となる総客室数約2375~2760室」の「VIP向け最高級ホテル」を含む3つのホテルが入る高層建物が建設される計画となっています。(図3

図3 大阪IRカジノの完成イメージ

出典:大阪府市の区域整備計画概要から

そして、本件の不動産鑑定は、夢洲の市有地をこのカジノ事業用地として賃貸するための適正価格を求める賃料鑑定です。そうであるのに、大阪市から鑑定依頼を受けた全ての不動産鑑定業者は一致して、「カジノ事業を考慮外」という条件をえて設定しています。いずれの鑑定も、イオンモールやアウトレットモールなどの大規模複合商業施設として土地を使用することを前提として、本件の賃料鑑定をしているのです。

上記の大手不動産鑑定業者は、49万平方メートルの土地のうち、わずか3万5000平方メートルの土地(全体の7%)に2階の商業施設建物を建てることを想定して、その収益性から、土地価格12万円/平方メートルという算定が適正である、と説明しています。この想定では、建物敷地の残りの土地45万5000平方メートル(93%)は、平面駐車場(およそ1万8000台分の駐車場)が延々と続くということになります。しかし、このような想定は現実の適正な土地利用を全く無視するものです。たとえば、この大手不動産鑑定業者が想定する商業施設の店舗面積とほぼ同等の商業施設が静岡県にある「御殿場プレミアム・アウトレットモール」です。この「御殿場プレミアム」は、日本最大のアウトレットモールですが、富士山の裾野の山間部にあり、ほとんどの集客は自動車利用と想定されます。しかし、その駐車場は7000台に過ぎません。夢洲新駅での集客が大きな割合を占める本件土地利用として、1万8000台もの平面駐車場を確保する必要は全くありません。本来は、カジノ施設やホテルなどが入る複数の高層建物群とその附帯設備を想定して、適正な賃料を算定すべきです。不動産鑑定は、その土地の最大の利用方法(最有効使用)を想定して算定すべきものとされています。しかし、鑑定の対象となる土地の7%のみを商業施設敷地として利用することを想定して、その収益性に基づいて賃料算定をしたというのでは、土地の最有効使用とはいえません。そのような想定と同じ額の鑑定賃料は、適正価格とかけ離れた格安の賃料であることを、逆に証明しているといえるでしょう。

おわりに

住民訴訟の審理の中では、大阪市が依頼した夢洲の別の土地(IRカジノ用地に隣接する関西電力変電所用地)の不動産鑑定では土地価格は約33万円/平方メートルが適正との鑑定結果がでている事実も指摘しています。本件の賃料算定の前提としての12万円/平方メートルという土地価格の算定がいかに異常な格安賃料であるかは、この点からも分かります。

このようなカジノという営利目的の業者に対する異常な厚遇は、自治体が取るべき姿勢とは真逆のものです。本来は、行政の内部手続や、議会によって抑止されるべきですが、残念ながら大阪維新の会が首長及び議会過半数を握る現大阪市政では、その抑止機能が全く働いていません。それを住民運動と一緒になって、住民(市民)の直接参加で差し止めようとするものが私たちの住民訴訟です。この住民訴訟は逆に、現大阪市政の問題点とその深刻さを、カジノ問題を通じて問うという面があると思います。

多くのみなさんの関心と支援をお願いする次第です。

長野 真一郎

大阪IRカジノの差止を求める格安賃料住民訴訟弁護団代表

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