【FOCUS】地方創生政策の論理と「地方創生2.0」の問題点

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これまでの一連の地方創生政策がどのように変化しながら進められてきたのかを跡づけながら、新たに打ち出された「地方創生2.0」の概要と問題点について論じます。


はじめに

厚生労働省が2025年6月4日に公表した人口動態統計(概数)によると、2024年の出生数は68万6061人、合計特殊出生率は1.15となり、いずれも統計開始以来、最少、最低となったことが翌日の新聞各紙にて大きく報道されました。地方創生政策が始まって10年の節目にあたる2024年6月には、デジタル田園都市国家構想実現会議にて「地方創生10年の取組と今後の推進方向」が公表されました。この報告書では、「地方創生の取組の成果と言えるものが一定数あると評価できる」とした一方で、「国全体で見たときに人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、[…]成果が挙がっているケースも、多くは移住者の増加による『社会増』にとどまっており、地域間での『人口の奪い合い』になっていると指摘されている」といった問題点が述べられています。

人口減少対策として、また人口減少の要因とされた東京一極集中の是正を掲げて始まった地方創生政策ですが、こうして当初の政策目標を果たせないまま、2024年10月に発足した石破政権では、「令和の日本列島改造」をうたう「地方創生2.0」が打ち出されることになります。同年12月24日に新しい地方経済・生活環境創生本部にて「地方創生2.0の『基本的な考え方』」が決定され、2025年6月13日には「地方創生2.0基本構想」(以下、基本構想)が閣議決定されます。

こうした状況を踏まえ、この小論では、これまでの一連の地方創生政策の政策論理とそれに関わる論点を振り返ると同時に、「地方創生2.0」の概要と問題点を論じていくことにします。

地方創生政策は何を目指そうとしてきたのか

周知の通り、地方創生政策は人口減少対策として始まりました。出生率が低い大都市圏に人口が吸い寄せられ、そのことで国全体の人口減少が進展するという「人口のブラックホール現象」というメカニズムを論じたいわゆる「増田レポート/地方消滅論」の認識を前提としており、東京一極集中の是正と人口減少対策が因果関係で結ばれる構図になっています。

2014年12月に策定された「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、「将来にわたって『活力ある日本社会』を維持」するためとして、2060年を視野に入れた「人口減少問題の克服」と「成長力の確保」が示されます。この二つの目標に対しては、「2060年に1億人程度の人口を確保」「国民の希望が実現した場合の出生率=1.8」「2050年代に実質GDP成長率1.5~2%程度維持」といった具体的な数字が示されています。そしてこの政策目標に向かって、バックキャスティング的に逆算し基本目標、重要業績評価指標(KPI)、主な施策と連なるツリー図が作成され、それぞれの階層における数値目標を設定、その検証が行われています。

四つの基本目標とは、図1の通りですが、基本目標①から③によって、地方に雇用を創出し、人口の社会増と自然増を実現するという循環と、地域活性化によってその循環を支えるという立て付けになっています。ただし、この政策と検証の体系は、具体的な施策のレベルに下りていくごとに数値目標が切り分けられていくために、それぞれの数値目標の実現が自己目的化した結果、そのことが最上位の目標の達成につながる必然性を失っていくという問題点をはらむものでした。

図1 地方創生 基本目標(第1期)

地方創生第1期から第2期への展開

一連の地方創生政策は、2015年度から2019年度までの5年間を第1期、2020年度から次の5年間を第2期と位置付けています。「第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』」では、第1期の検証の結果が示されていますが、この間のKPIの進捗状況の検証のうえ、基本目標①と④について「目標達成に向けて進捗している」とされる一方で、基本目標②と③は「各施策の進捗の効果が現時点では十分に発現するまでに至っていない」とされます。かいつまんで言えば、「しごと」と「まち」については成果が現れているが、「ひと」については十分でない、という総括となります。当初の目標からすれば、「ひと」、すなわち地方の社会増や自然増が上位目標であり、その点では4つの基本目標は並列のものではないはずです。

こうして人口減少対策という最上位の目標から、個別の政策課題が切り分けられるなかで、2020年度からの第2期では、改めて「長期ビジョン」が策定されます。目指すべき将来の方向は、第1期の「将来にわたって『活力ある日本社会』を維持する」から、「将来にわたって『活力ある地域社会』の実現」へと変更されました(傍点筆者、以下同様)。「『東京一極集中』の是正」は変わらずに掲げられていますが、第1期にて「人口減少に歯止めをかけ」るとした表現が、第2期では「人口減少を和らげる」「人口減少に適応した地域をつくる」といった形にトーンダウンしています。また「目指すべき将来像」として、「将来にわたって『活力ある地域社会』の実現」が加わったことで、第1期の政策目標として掲げられていた国全体としての人口や経済成長といった帰着点は分散します。四つの基本目標の骨格は維持しつつも、図2の通り修正が加えられます。

図2 地方創生 基本目標(第2期)

なお全体を収斂しゅうれんしたKPIは、「結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向かっていると考える人の割合」と「地方と東京圏との転入・転出を均衡」となっているほか、基本目標の相互連関としては、これまで「『しごと』起点」としてきたアプローチに加え、「地域の特性に応じて、『ひと』起点、『まち』起点という多様なアプローチを柔軟に行」うとされています。こうして、体系と検証の構造があいまいになっていくにも関わらず、第1期から既に経済政策へと偏重してきたといえる地方創生政策において、第2期ではさらに「稼ぐ」ことが強調されるようになります。

そんな中、第2期はコロナ禍に入り、テレワークやデジタル化の推進などの新たな課題を取り込みながら、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の一環として、デジタル田園都市国家構想へと衣替えしていくことになります。デジタル田園都市国家構想は、地方創生政策の政策目標を引き継ぎながら、そこにデジタル化を組み込んでいくという形になっています。AI・デジタル技術の活用は、「地方創生2.0」に引き継がれていきます。

「地方創生2.0」へ

「地方創生2.0」の政策文書によると、2015年からの一連の地方創生政策を「地方創生1.0」としています。「地方創生1.0」の始まりと同じく、「地方創生2.0」に先立つ2024年4月には「新増田レポート」が公表されます。これは「一言でいえば10年前の『消滅可能性都市』リストを、国立社会保障・人口問題研究所の『日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)』をもとに、人口の自然増減、社会増減という要素を加味して、10年ずらして計算し直したもの」(岡田2024)と指摘されるものですが、同年6月の「地方創生10年の取組と今後の推進方向」の公表を経て、「地方創生2.0」へとつながっていきます。

目指す姿として、「人口減少が進む中にあっても、我が国の成長力を維持していくためには、都市も地方も、そして性別や世代を問わず、楽しく、安心・安全に暮らせる持続可能な社会を創っていく必要がある」として、「『強い』経済」「『豊かな』生活環境」「『新しい日本・楽しい日本』」の3つの柱が示されます。

「地方創生2.0」と「1.0」との大きな違いは、「1.0」では、「人口減少を押しとどめる」とされていたものが、「人口減少が進む中にあっても経済成長、地域社会を維持すると転換したことにあります。こうして人口減少対策として始まった地方創生政策は、「2.0」へとアップデートを重ねる中で、人口減少に歯止めをかけることも東京一極集中の是正も実現の見通しが立たず、その現実に押し込まれる形で方針転換を余儀なくされていきます。東京一極集中の是正は一貫して掲げられているものの、国全体の人口や経済対策の視点は後景に退き、他方で地方が「稼ぐこと」「マネジメントすること」「選ばれること」が強調されるようになっていきます。

次に「地方創生2.0」をめぐる論点・問題点について、いくつかのキーワードから考えてみたいと思います。

「若者・女性にも選ばれる地方」とは何を意味するのか

ここで論じたいのは、「基本構想」において、「若者や女性にも選ばれる地方」をつくる、そして「稼げる」地方経済をつくるという内容が繰り返し強調されている点についてです。ここでの問題点の第一は、人口減少が進展するという現実を受け止めることへと大きく方針を転換し、そして「人口の奪い合い」への反省が述べられているにも関わらず、「選ばれる地方」をつくることを骨格としているという点との整合性についてです。「東京」に対する「地方」という理解を前提として、東京一極集中が進展する構造を乗り越えることを目指しているという前提を理解したとしても、その「地方」も一様ではありません。むしろ「稼ぐ」ことが強調されることと併せて、自治体間競争が必然化する構図となっているといえるのではないでしょうか。

「好事例の普遍化」について

にも関わらず第二に、「基本構想」では、「好事例の普遍化」という視点が導入されており、キーワードの一つとなっています。確かに地域住民が主体となった内発的で持続的な地域政策・地域づくりへの志向は、いまや幅広い合意が得られるところであり、これに類する取り組み事例は多数あります。一連の地方創生がこれらの「好事例」を後押ししたのであれば、その点は評価できるところもありますが、留意が必要なのはそれらの「普遍化を進める」とはどういうことなのか、どう進めるのか、という点です。

これに該当する記述として、「基本構想」では「肝要なのは、先進的な取組の成果を、そのまま他地域に模倣・移植するという『コピー』の考え方ではなく、それぞれの地域の特性や資源、課題に応じて柔軟に取り入れる『ローカライズ』の発想である。[…]まず好事例を知る機会、そしてそれを学ぶことのできる環境づくりが不可欠である」とされています。他の取り組みから応用できる知見を学ぶこと、この点について異論はありません。例えば導入から15年以上が経過した地域おこし協力隊制度は、各地で試行錯誤が重ねられ、経験者のネットワーク化も進む中で、受け入れやサポート体制の進化が図られ、地方・農山村にてその人なりのライフスタイルの実現に寄与しうるものであったということができます。

ただし、本当に好事例が「普遍化」していくとすれば、「選ばれる地方」という競争主義とどのように両立するのでしょうか。

誰が地方創生を担うのか

「基本構想」では、14の「10年後に目指す姿」を定量的に提示していますが、今回は「選ばれる地方」という論点に即して、「関係人口の創出」について取り上げます。関係人口については、「実人数1000万人、延べ人数1億人」という数値目標が示されます。確かに関係人口は、定住人口とは違い、複数の地域・自治体と関わりを持つことができるため、「人口の奪い合い」への対案のようにも思えます。しかしながら、そもそも関係人口の創出は地域内外の人びとがともに地域を作っていくための一つの手段であり、関係の質が問われるはずです。これを数値化することでそれが目的化してしまうことが懸念されることに加えて、関わりを持つことができる地域・自治体にも限りがあります。従って数値目標を掲げることは、「定住」と「関係」の違いだけで結局は「人口の奪い合い」が繰り返されることになりはしないでしょうか。

そして結局、誰がこの「地方創生2.0」を担うのか、「基本構想」では、「国」「地方公共団体」に加えて、「企業、教育機関、金融機関など、地域を担うそれぞれの主体は、[…]付加価値を高め続け、様々な人に選ばれ続ける存在、『稼ぎ』続けることのできる存在となることが重要」とされています。

図3 地方創生2.0の基本構想の基本姿勢・視点と政策の5本柱

まとめると、「地方創生2.0」は、論理としては、国全体としての人口減少を前提としながら、「選ばれる地方」を謳うこと、さらに「選ばれる」ことを謳いながら、好事例の「普遍化」を謳うという矛盾を重ね、さらに地方・地域はもっぱら「選ばれる」対象としての把握が貫かれている、ということになります。

おわりに

そもそも「平成の大合併」以来、国の政策として進められながら地域・自治体が自主的・主体的に行うものとされた地域政策の矛盾が成立する要因として、国による財政誘導があげられます。地方自治体の財政的自立の在り方については、四半世紀前に「未完の分権改革」とされた当時からの課題といえますが、「普遍化」が求められるのは、まさに制度としての財源保障であるはずです(関2025を参照)。加えて、「豊かな」地域社会とは、「選ばれる」といった代替可能な対象に矮小わいしょう化されるようなものではなく、そこに暮らす人びとにとってかけがえのない固有の関係と居場所として成り立つもののはずです。この点については、さらに探究を深めつつ、別の機会に論じていくことにいたします。

【注】

  • 1 「地方創生1.0」までの展開と人口動態の分析、人びとが自らが暮らす地域を選択する際の社会的背景については宮下(2023、2024)にて詳しく論じています。

【参考文献】

宮下 聖史

立命館大学大学院社会研究科博士後期課程修了、博士(社会学)。専門は社会学、地方自治論、コミュニティ論、ライフコース研究。著書に『協働する地域』(共著、晃洋書房)、『ポストコロナも地域自治—豊かな地域社会とは何かー』(共著、東京法令亜出版)。

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