生活保護基準改定を違法とした史上初の判断
2025年6月27日午後3時、最高裁判所第三小法廷(宇賀克也裁判長)は、生活保護基準引き下げ処分を違法として取り消す判決を言い渡しました。生活保護基準の改定を違法とした最高裁判決は史上初であり、歴史に残る画期的な判断でした。
私たちは、この裁判を「いのちのとりで裁判」と呼んでいます。生活保護法は憲法25条の具体化であり、生存権を保障する「いのちのとりで」です。2013年、生活保護バッシングが吹き荒れるなか、自民党政権の下で生活保護基準が引き下げられました。私たちの裁判は、1000人を超える全国の保護利用者が、この引き下げ処分の取り消しを求め提訴したものです。
最高裁判決までに言い渡された下級審判決43(地裁31、高裁12)は、原告側の27勝16敗(地裁20勝11敗、高裁7勝5敗)でした。行政訴訟の原告側勝訴は1割にも満たないと言われており、6割を超す勝率は、かつてないほど高いものになっています。
最高裁判決の内容
最高裁小法廷では5人の裁判官がいるのですが、その全員が一致してデフレ調整の違法を認め、生活扶助基準引き下げ処分の取り消しを命じました。まさに歴史的かつ画期的判断でした。ここでは簡単にポイントを紹介します。
判断枠組み
生活扶助基準を改定するにあたり、厚生労働大臣は「専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権」を有しており、その判断に「上記見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に、生活保護法3条、8条2項に違反して違法」となります。
その裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、その過程につき「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべき」との判断枠組みを示しました。
「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無」が問われ、専門家からの意見の聴取等が必要とされるのは、生活保護法8条2項によって要保護者の必要な事情を考慮する義務が課されているからです。単に専門家による審議等を経ればよいのではなく、専門家による審議等であっても保護利用者の必要な事情という事実を判断する際に過誤や欠落があってはならないからです。
デフレ調整の違法性
国側のこれまでの関連意見具申や報告書等における指摘を踏まえ、物価変動率は勘案することができる一つの指標であるとしても、デフレ調整に当たって「物価変動率のみを直接の指標として用いることについて、基準部会等による審議検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない」ことから、本件改定が生活保護法3条、8条2項に違反し違法であるとしました。
ゆがみ調整と国家賠償について
「2分の1処理を含むゆがみ調整に係る厚生労働大臣の判断に、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるということはできない」とし、違法性を認めませんでした。
また、国家賠償については、「厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とデフレ調整に係る判断をしたと認め得るような事情があったとまでは認められず」、国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとしました。
また、厚生労働大臣が、本件改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことについて、統計等との客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいいがたいと判断しました。厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とデフレ調整に係る判断をしたと認めるような事情があったとまでは認められず、国家賠償法上の違法はないとしました。
個別意見
本判決には、宇賀克也裁判長の反対意見と林道晴裁判官の補足意見があります。特に、宇賀裁判長の反対意見は、ゆがみ調整の2分の1処理を違法とし、国家賠償請求を認容すべきとする点では、多数意見と見解を異にする意見でした。
最高裁判決後の課題と展望
最高裁判決当日から、私たちは、厚生労働省に対し、①全生活保護利用者に対する真摯な謝罪、②2013年改定前基準との差額保護費の遡及支給、③関連する諸制度への影響調査と被害回復、④検証委員会の設置や生活保障法の制定等による再発防止策の策定を求めています。
しかし、厚生労働省は、一切の謝罪を行わず、実質的協議を行わない不誠実な対応を続けています。厚生労働省職員は「適切に対応する」と繰り返す一方、7月1日、閣議後の大臣会見で原告、弁護団の頭越しに専門家の審議に委ねる方針を発表しました。原告側は、直ちに当該方針の撤回を求める抗議声明、続いて判決後1カ月には基本合意による早期全面解決を求める声明を発し、厚生労働省の対応に修正を求めるべく動いています。
8月に入り、国は、社会保障審議会生活保護基準部会のなかに、最高裁判決への対応に関する専門部会を設置することを決め、8月13日に第1回を開催しました。今後、この専門部会がどのような内容を審議し、展開するのかについて、私たちは注視しています。いまだ厚生労働大臣が原告に対して謝罪を行わない状況です。最高裁判決の内容を矮小化して、原告に差額保護費の遡及支給をしないどころか、さらなる生活保護基準の引き下げを行うのではないかと警戒しています。
長きにわたる裁判のため、すでに232名の原告がいのちを落としており、一刻も早い解決が求められています。私たちは今回の最高裁判決を高く掲げ、希望をもって全面解決のため運動を進めていきます。引き続きご支援ください。
【注】
- 1 詳しくは、生活保護基準引下げにNO!全国争訟ネット(いのちのとりで裁判全国弁護団)「いのちのとりで裁判・最高裁第三小法廷判決の読み方~被害回復策の策定や今後の基準改定に活かすために~」(2025年7月7日)をご覧ください。(最終閲覧日:2025年7月20日 https://inochinotoride.org/whatsnew/250706_saikosaiyomikata)
