社会保障の充実に向けて


コロナ禍によって表面化した保健・医療・社会福祉をめぐる諸課題が、以前よりも深刻化するのではと懸念しています。

保健所をはじめとする公衆衛生や地域医療の供給体制を縮減させてきたことにより、コロナ禍において保健・医療提供体制のひっ迫が生じました。病床の不足だけでなく、医療や介護現場などでは、人員不足が常態化していることが明らかとなりました。

いずれも、1980年代から継続する、公的医療費抑制策を起因とするものです。コロナ禍で表面化した課題解決を図るには、公的医療費抑制策の転換を進める必要があります。

ところが、従来の政策を継続するだけでなく、むしろデジタル化を新たな手段として、改革を加速させようという政策動向が見られます。政府はコロナ禍を援用し、デジタル化による地方統制の強化と構造改革を進めて、医療をはじめとする社会保障の市場化、産業化を進展させる好機ととらえています。

財界の要請に呼応した政策展開が一気に進められ、医療分野においては保険証の廃止とマイナンバーカードへの一本化など、マイナンバー法関連で法律の改正案が上程され審議中です(本稿の執筆段階において)。デジタル化を装いながら、医療保障の内容の変更を図るものです。

デジタル化の主眼は、地域住民の情報を利活用したい企業のための基盤整備に置かれています。私たちのメリットや個人情報の安全性は後景にあると考えるのが妥当です。

さらにデジタル化は、医療供給体制だけでなく公的医療保険を通じて展開され、保険者である自治体に対する地方統制の強化、被保険者である地域住民の管理強化、そして医療機関に対する管理強化の新たな手段です。政府による管理強化ではなく、自治体、地域住民、医療機関等が医療保障の充実に向けた共同の歩みを進める必要があります。

いま必要なことは公的医療費抑制策の転換です。医療をはじめとする供給体制の維持・拡充はもちろんのこと、保健・医療・社会福祉の現場で奮闘する職員への社会的評価を高める施策、具体的には給与水準の大幅な引き上げを中心に、職員が働き続けることができる職場への転換が必要です。常態化している人員不足の解決を図る施策の展開が急務です。

保健・医療・社会福祉の現場で働く人々の給与水準は人権保障の尺度でもあります。人権保障という観点からも、公的医療費抑制策の転換を図り、対人ケア労働に従事する人々が働き続けることができる職場を構築していく必要があると考えています。

長友 薫輝
  • 長友 薫輝(ながとも まさてる)
  • 佛教大学准教授

1975年宮崎県生まれ。自治体問題研究所理事、日本医療総合研究所理事、日本医療福祉政策学会副会長などを務めている。