2025年7月の参議院選挙では、自民党〔16議席減で36議席〕・公明党〔6議席減で8議席〕の与党が大幅に議席を減らした一方で、参政党が「日本人ファースト」を掲げた「外国人政策」によって注目を集め、若年層を含む保守層の支持を獲得し、議席を大幅に増やしました〔13議席増→14議席〕。
参政党は、オーバーツーリズムや外国人増加による犯罪の懸念、外国人への生活保護の「優先支給」など、雑多な「外国人問題」をSNSや街頭演説を通じて大量に発信し、熱狂的な支持を集めました。NHKによるSNS投稿数の分析によれば、選挙中盤から終盤にかけて「外国人」に関する投稿が急増したとされています。これらの言説の多くは根拠不明または虚偽でしたが、参政党の発信により政府や他党の政策も影響を受けました。政府は出入国在留管理の適正化や社会保険料の未納防止に取り組む組織を内閣官房に設置し、自民党も入国管理の厳格化を政策提言に盛り込みました。
参政党の「日本人ファースト」は、ドイツ・フランス・イギリスにおいて右翼ポピュリスト政党が既成政党への不満の受け皿となり躍進した動きに倣ったものと見られます。イギリスでは2024年の総選挙で14年ぶりに労働党スターマー政権が誕生しましたが、2025年5月の1641議席が争われた地方議会選挙では、労働党と保守党がそれぞれ約67%の議席を失う大敗を喫しました。一方、移民受け入れの制限や不法移民のフランス送還を公約の上位に掲げたリフォームUKが改選議席の約4割の677議席を獲得する躍進を遂げ、7郡議会と2つの首長選挙でも勝利して地方政治の第一党となりました。自由民主党と緑の党も議席を370、79へと大きく増やしました。
参政党による「日本人ファースト」の発信は、公正で民主的な選挙の在り方との関係で、以下のような問題をはらんでいると考えられます。
第一に、参政党はリフォームUKの「移民制限」政策を、日本人が外国人に対して抱く不安・不満・不信といった感情全般に翻訳し、「日本人ファースト」による解消を提示することで、既成政党に不満を抱く保守的有権者の共感と支持を得たと考えられます。「日本人ファースト」が、日本人による外国人への差別的取り扱いを正当化する手段となっていることは明白です。
第二に、外国人問題の多くは虚偽または根拠不明の情報に基づいており、現実には外国人排斥が日本人自身の利益(労働力不足、社会保険負担の増大など)を損なう結果をもたらすにもかかわらず、街頭演説やSNSを通じて一方的かつ大量に発信されることで、排斥的な世論形成を助長したと考えられます。
第三に、このように有権者の反応や情報発信状況に影響されて形成される政策は、有権者の関心に迎合する傾向を強め、憲法の民主主義原理・平等原則・人権保障との適合性を軽視する危険性をはらんでいます。スターマー労働党政権も、リフォームUKの躍進に対抗して、厳格な移民制限や不法移民のフランス送還政策を発表しましたが、それは前保守党政権が計画し、英最高裁の違法とする判断などによって実行できなかったものに近い内容で、党内からも「右傾化」との批判が出ています。
対総人口外国人比率約3%の日本で、同14%超のイギリスと同様の排外主義的言説がなぜ急速に浸透したのか、深い分析が必要です。
