自治体の公共事業のあり方を問う〜西尾市方式PFIの考察〜

東海自治体問題研究所
市川京之助(西尾市職員組合)


1.はじめに

西尾(にしお)市方式PFIは、西尾市の公共施設の解体、建設、運営及び維持管理について一括して民間委託するものであり、全国初の大規模な公共事業です。

市民、建設業界、及び西尾市職員組合は、西尾市方式PFIへの反対運動を起こしましたが、2016年6月27日に契約が議決され、事業が進められようとしています。

この事業は、自治体が建設業者に直接発注する従来型の建設手法ではなく、民間業者が建設した公共施設を自治体が「買い取る」という手法により、公共事業のあり方そのものに変化をもたらす手法です。

市民団体の「西尾市のPFI問題を考える会」と西尾市職員組合は、引き続き共同して西尾市方式PFIの問題解決に取り組みます。

2.経緯

愛知県の南に位置する西尾市は、2011年度に一色(いっしき)町、吉良(きら)町、幡豆(はず)町と合併し、人口約17万人の自治体となりました。

旧自治体の施設が重複することから、2011年度に西尾市公共施設再配置基本計画が策定され、2014年3月策定の西尾市公共施設再配置実施計画に基づき、2016年6月27日に西尾市方式PFIの契約案が西尾市議会で可決されました。

採決は、賛成15、反対11、棄権1であり、大きく議会が割れる結果となりました。

この間、市民団体の「西尾市のPFI問題を考える会」と西尾市職員組合は共同して市民運動を行っており、5月22日の「西尾市方式PFIの白紙撤回を求める集会」では400人を超える参加があり、集会後に市民デモが行われました。議決結果が割れたことは、市民団体が市民及び議員にビラ等で粘り強く働きかけた結果であり、市民の大型公共事業への関心を広く寄せることができました。

3.西尾市方式PFIとは何か

(1)従来型のPFI

PFIはイギリス発祥でプライベート・ファイナンス・イニシアティブ(Private Finance Initiative)の略です。したがって、民間資金の活用による金融のメリットが前提です。契約相手となる特別目的会社はSPC(Special Purpose Company)と呼ばれます。

従来型のSPCは、建設業であるゼネコンやプラントメーカーが主体であり、単独の公共施設の建設・維持管理等を行う事例が多く見られます。

自治体とSPCとの契約は、例えば次のBOTと呼ばれるパターンの契約をします。

BOTとは、B(Built)=施設の建設、O(Operate)=施設の維持管理、T(Transfer)=自治体への譲渡、という順に事業を行うものです。他のパターンもありますが、ここでは省略します。

内閣府がPFI方式を進めている理由は、金融機関、国及び自治体に次のようなメリットがあるとしているからです。

金融機関はSPCに投資をして、SPCは証券を発行することができます。債権の負担は自治体となり、金融機関は安定した債権を取得することができます。国は、銀行の投資によるGDPの増加を見込めます。自治体は、民間の競争によって建設及び維持管理のコストを削減でき、各年度の財政支出の平準化ができるというものです。

(2)西尾市方式のPFI

西尾市の公共施設のみを対象とします。14施設を解体して5施設に集約するほか、12施設の改修、7施設の運営、168施設の維持管理などを一括してペーパーカンパニーであるSPCに包括委託をします。SPCの(株)エリアプラン西尾は2016年5月20日に法人登記されたばかりの企業です。

運営及び維持管理の契約期間は最長30年間であり、総額は約214億円(税込み)です。

SPCの要件は、愛知県内の企業で構成されていることです。また、全国初のサービスプロバイダー方式と市は呼んでいます。事業者公募前の説明会では建設業を除くとしていましたが、公募で決定したSPCは建設業が含まれています。今までに類がない多数の施設を対象としながら公募期間が約3ヶ月と短く、応募者が1社のみであったため、競争がありませんでした。

(H27.12企画提案書の提出、H28.1倭先交涉権者の决定、H28.2基本協定、H28.5仮契約、H28.6西尾市議会で事業契約案の可決)

発注方法は、西尾市が定めた要求水準書に基づく性能発注であり、詳細な仕様は定めません。発注者は要求水準書に基づく内容及びサービス水準を遵守すれば足り、建設材料を含めた具体的な手法等については、民間業者の自由裁量となります。

4.西尾市方式PFIの問題点

(1)事業のキャッシュフロー等が住民に秘密のまま抽速に進められている

市民が事業の積算根拠等の情報公開請求をしても黒塗りで示されるなど、西尾市が主張する財政支出の削減根拠が不明です。

また、SPCの企画提案書は、著作権を理由に市議会にも明らかにされず、情報公開でも不開示であり、市民や市議会に十分な情報が提供されていません。

議会での審議が十分にされておらず、契約承認手続きに瑕疵があるのではないかと思われます。

西尾市の予算は2016年度一般会計で526億円です。総額で200億円規模の事業を進めるにあたっては、住民にもっと情報を開示すべきです。

(2)市の業務要求水準書よりも業者提案が優先する契約となっている

本来の目的は、効率的・効果的な公共施設の統廃合であるはずです。しかし、業者提案には、温水プール、フィットネスクラブ、10階建ての市営住宅など、市民感覚から外れたものが含まれています。契約前はスケートボードパークも提案されていましたが、市民運動により先送りとなりました。

西尾市方式PFIは仕様を問わない性能発注であることから、業務要求水準書には性能を定め、仕様については詳細に定めていません。契約金額が先に決まっているため、公共施設にとって重要な安全性及び耐震性などは業者と綿密な協議が必要です。

しかし、契約書にはヴァリアントビッド(代替提案)と呼ばれる項目があり、事業者提案が業務要求水準書に優先する内容の記述があります。市が合意した場合は、想定していた金額よりも増額の費用となる可能性があります。

(3)法令違反のおそれがある

※自治労連弁護団への相談をふまえて記述しています。

①建設業法違反のおそれ

建設業法では、建設業を営もうとする者は建設業の許可を受けなければならないと定め(法3条)、一括下請けの禁止を定めています(法22条1項、2項)。ただし、「あらかじめ発注者の書面による承諾を得たとき」はこの規程は適用除外になりますが(法22条3項)、この除外規定は公共工事全般について適用されません(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律14条)。したがって、SPCが一括して建設の下請けをさせることは禁止されていることになります。

一般的なPFIでは、内閣府の「契約に関するガイドライン(2-2-5)」により、SPCが構成企業の建設会社に建設工事を委託又は請負させる事例があります。この場合でも、内閣府「PFI制度関係資料(9項)」によると、SPCは建設業務の受注者として建設業法の規制を受けるとされています。西尾市方式PFIでは、サービスプロバイダー方式と名付け、SPCは構成企業外の開発企業に建設を発注し、新設施設の「買い取り」を行うことから、建設ではないとしています。しかし、実態としては建設の下請けであることから、建設業法違反のおそれがあります。

②PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)違反のおそれ

PFI法で対象とするPF1の特定事業は「公共施設等の整備等に関する事業であって、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することにより効率的かつ効果的に実施されるものをいう」とされています。公共施設等の整備等とは「公共施設等の建設、製造、改修、維持管理若しくは運営又はこれらに関する企画をいい、国民に対するサービスの提供を含む」(法2条2項)と定められています。PFIの対象となる特定事業に「買い取り」は含まれていません。したがって、PFI法にも違反するおそれがあります。

③中小企業基本法及び官公需法(官公需についての中小企業の受注に関する法律)違反のおそれ

中小企業基本法では「中小企業者の受注の機会の増大はその他の必要な施策を講ずる」(法23条)とし、これを受け、官公需法4条2項により定める中小企業者に関する国等の契約の基本方針では「分離・分割発注の推進」を掲げています。

地方自治体もこのような施策を「策定し及び実施する責務」(中小企業基本法6条)があり、「国の施策に準じて、中小企業者の受注の機会を確保するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない」(官公需法8条)と定められています。

西尾市方式PFIでは、160を超える施設の建設・整備・運営・維持管理の業務を一括して一者に発注します。このような発注方式は中小企業者の受注機会を著しく奪うものであり、特定の民間事業者に利益を与えることに等しいため、中小企業基本法及び官公需法に反していると考えられます。

5.今後の動きについて

法令違反のおそれがあり、市民に不誠実な事業をすすめた場合は、住民監査請求及び住民訴訟を招きます。

住民監査請求(地方自治法第242条)とは、自治体が住民に損害を与えたことなどについて、監査委員に住民が監査を求める請求です。請求してから60日以内に回答があります。仮に自治体の行為が適法であり、住民への損害がないという回答であった場合、住民訴訟(地方自治法第243条)を起こすことができます。

住民訴訟では、自治体の行為が適法か違法であるどうかについて裁判所で争うことになります。住民訴訟は住民監査請求前置主義であり、住民訴訟を行うためには住民監査請求を先に行うことが前提です。

したがって、住民が自治体の違法性を指摘するのであれば、住民訴訟を踏まえ、住民監査請求で違法性を整理しておくことが必要になります。西尾市の職員は法令遵守(じゅんしゅ)が前提であり、最上位の計画である西尾市総合計画に基づき施策を進める立場にあります。したがって、法令に違反する可能性がある施策については十分に精査し、また施策自体もどのような根拠に基づき進めているのかを説明する責任があります。

西尾市職員組合は、すでに議会で採決された契約についても違法性が認められるのであれば、解決すべき問題だと考えています。西尾市方式PFIにより公共施設を「買い取る」ことができるのであれば、建設業法が骨抜きとされ、事業者への規制が緩和されることになります。直接契約の相手が専門性のない業者であれば、専門性をもった委託先への費用が上乗せされ、直接委託よりも経費が増加すると考えられます。また、市内の建設業者への直接発注ができなくなり、専門業者の取りまとめを行った一部の事業者に対して優先権を与える仕組みにも捉えられます。

このような仕組みが全国に波及すると、建設業の許可を持たないコンサルタント業者等が大型公共事業を受注することになります。建設業法の発注者を保護する規定が形骸化してしまうことから、サービスプロバイダー方式の手法は自治体の公共施設の発注方法そのものを変化させてしまうことになり、慎重な対応が必要です。

公共施設建設等の契約相手の資金計画、契約内容及び法令遵守について、自治体は市民に対して十分に説明できることが求められます。

<参考>

●西尾市ホームページPFI事業

●西尾市のPFI問題を考える会ブログ

●Facebook公開グループ西尾市pfiを見直そう! 検索