太陽光発電所をめぐる環境問題と対策 ~問われる自治体のチェック能力~

長野県住民と自治研究所
傘木宏夫(NPO地域づくり工房 代表理事)


原子力や火力に極端に依存した電力エネルギー政策を転換する上で、再生可能エネルギーの普及が社会的に求められている。しかし、自然環境を利用するエネルギーであるからこそ、それを大規模かつ急速に普及させた場合は環境破壊をもたらす。大電力会社においては、夜間の電力を余らせているため、昼間しか発電しない太陽光は好都合であり、再生可能エネルギー全量固定価格買取制度(FIT)の中でも太陽光発電のみが大規模かつ急速に普及が進められている。そうした中、長野県内各地でも太陽光発電所をめぐるトラブルが起きており、環境影響への配慮不足に起因しているものが少なからず見られる。私も「自主簡易アセス」の取組みを通じて近隣住民のさまざまな不安の声に直面している。

1 土地利用のあり方に伴う問題

各地で起きている問題のほとんどは土地利用のあり方として適正であったかどうかに集約される。それだけに、計画の早い段階で規制や指導・要請を行うことができる市町村の役割は大きい。

太陽光発電は、効率性や維持管理の面から建物の屋上よりも、広い面積で野立式により事業化される傾向が強い。ある程度の面積を確保し、利益率を上げようとすると、地価の高い都会は不向きである。

一方、中山間地では、無為な農林行政を背景に、有効利用できていない土地が膨大にあり、そうした土地の所有者は自然エネルギーの供給地として利用 を望み、それに応える形でFIT利用を好機と見た投資が動いている。

開発地は、耕作不利地や南向き傾斜地、元レジャー用地(運動場、ゴルフ場、スキー場など)、牧草地などに見出される。しかも日照時間が長くて、寒冷(太陽光パネルの発電効率が高い)であることから、長野県や山梨県はその適地とされる。一方、こうした場所は、自然環境に恵まれ、景観がよいとともに、傾斜地などでは自然災害のリスクもある。

都市部近郊でも、国の推進策により、第一種住居専用地域での野立式太陽光発電設備は排除されていない。かつてニュータウンともてはやされた大都市郊外の住宅地は、少子高齢化と世代更新の難しさを背景に、遊休地が虫食い状に広がり、そうした場所での太陽光発電ニーズも少なからずある。

こうした開発行為は法令遵守の範囲内においては尊重されるべきである。そのため、土地を再生可能エネルギーで有効活用しようとする地主の気持ちを地元住民の多くは理解できる。しかし、景観のよさや農山村的ライフスタイルを選択して移住してきた人たちには相容れない。各地での反対運動の多くがこうした人たちにより担われていることが多い。

2 反射光に伴う問題

(1)太陽光パネルからの反射光の特徴

太陽光パネルの設置は、発電効率の上では南向きに20~30°の斜度を与えることが望ましいが、長野県のように積雪が見込まれる地域では斜度を高く(30~45°)して雪の自然落下を見込み、積雪の少ない地域では斜度を低く(10~20°)して景観上の違和感を緩和させようとする傾向がある。

パネルに斜度が与えられているために、反射光の及ぶ範囲はわかりにくく、誤解も生じやすい。以下に太陽光発電に伴う反射光の挙動の特徴を記す。

①反射の法則(図1)

鏡などの反射面に対して、入射角(反射面に垂直な直線と入射光との角度)と反射角(反射面に垂直な直線と反射光との角度)は同じ角度となる。また、光は均一な物質中では直進する。例えば、仰角60°の太陽光の入射角は30°となり(仰角十入射角=90°)、反射光は太陽の方位から180°の方向へ(すなわち直進)、水平面から60°の角度(反射角30°)をもって反射していく。

なお、説明を簡易化するために、以下で「反射角」とのみ記した場合は、反射光の水平面に対する角度を指すこととする。

②反射パターンA:北への反射(図2)

南向きに斜度を与えられているので、水平面に対する反射光の角度は、そのことを考慮する必要がある。仰角とパネル斜度の合計が90°未満の場合、反射光は仰角とパネルの斜度を合わせた角度となる。たとえば、仰角60°で南側から射し込む太陽光は、パネル斜度15°の場合、水平面に対して北側に75°の角度をもって反射する。

60°(仰角)+15°(パネル斜度)=75°(北向き水平面に反射角)

③反射パターンB:南への反射(図3)

 パネルの斜度が大きい場合は南側に反射する場合がある。たとえば、パネル斜度45°の場合(雪国では多い設置方法)、仰角60°で南側から射し込む太陽光は、斜度との合計が90°を超えて105°となるため、水平面に対して75°の角度をもって南側へ反射する。

180°-〔60°(仰角)+45°(斜度)〕=75°(南向き水平面に対する反射角)

④反射パターンC:南側の下方への反射(図4)

春分から秋分にかけては、日の出は真東より、日の入は真西より、それぞれ北側となる。この場合、太陽光が、真東または真西より北側にある間は、北 側から差し込み、南側に反射する。この場合、反射光は、水平面に対してパネルの斜度から仰角を引いた角度分が低くなって反射する。

たとえば、仰角20°で北側から斜度15°のパネルに差し込んだ場合は、水平面に対して10°低く、南側に反射する。

0° - 15° (斜度)十〔20°(仰角)-15°(斜度)〕=-10°(南向き水平面に対する反射角)

なお、パネルの斜度より低い仰角からの太陽光はパネルの裏面を照らす。

⑧パネルの東西に対する傾きの影響

パネルが、真南に対して東向きないし西向きに傾いて設置された場合は、傾いた分の方位からの太陽光は反射しない。たとえば、真南に対して西向きに15°傾いて設置された場合は、真東(90°)に対して+15°(方位105°)までの太陽光はパネルの表面に差し込まない。

(2)反射光の影響が想定されるケース

①北側の高い位置(反射パターンA)

冬期は南からの低く入る太陽光が北側の高い方向に反射する。そのため、設置場所の北側に高い建物がある場合は反射光が届く可能性がある。パネルの斜度が低い場合、影響の及ぶ範囲は広くなる。

②南側直近の高い位置(反射パターンB)

パネルの斜度が高い場合、夏季の正午前後の高い仰角で射し込む太陽光は、南側に近接して高い建物がある場合、その反射光が届く可能性がある。

③南東ないし南西の低い位置(反射パターンC)

春分から秋分にかけて、真東ないし真西より北側の位置から差し込む太陽光は、パネルの南西ないし南東の低い方向に反射する。そのため、建物の屋上 などにパネルがある場合、南東ないし南西側にある低い建物などに影響を与える可能性がある。

野立て式であっても、斜度が高い場合は、パネルの上部は高い位置となり、隣接する道路を通行する自動車の運転手の視野に反射光が入る可能性がある。その場合は、一瞬であっても、自動車運転にとっては危険であり、特段の配慮が必要となる。

図1 反射の法則
図1 反射の法則
図2 反射パターンA
図2 反射パターンA
図3 反射パターンB
図3 反射パターンB
図4 反射パターンC
図4 反射パターンC

3 熱環境への影響

(1)想定されるケース

太陽光パネルは太陽光が与えるエネルギーの一部(約15%)を吸収し化学反応により発電を行う。全量を吸収するわけではないので、パネルからの幅射や顕熱によりパネル周囲の熱環境に影響を与える(図5)。大最のパネル設置が周囲の環境に熱の影響を与える可能性は以下の3通りが考えられる。

①輻射熱

幅射熱は、反射光により照射された場所に熱が発生する場合である。その場所が室内であると室温を上昇させる可能性がある。

②顕熱

顕熱は、太陽からの日射により照射されたパネルの表面に熱が発生するものである。独立行政法人産業技術総合研究所が独立行政法人国立環境研究所などの協力により実施した東京23区を対象としたとしたシミュレーション調査によれば、太陽光パネルを大規模に導入した場合の気温への影響は0.1%以下であるとの結果が得られている(2002年度)。また、これの継続研究で行った日本橋街区の比較的閉鎖的な環境におけるシミュレーションによっても、日平均温度差は最大で0.03℃であったと報告されている(2004年度)。また、ビルの屋上緑化として芝、セダム、コケを施した場合と、太陽光パネルを設置した場合、そして何もしなかった場合の5ケースを比較した場合、太陽光パネルが最も顕熱が少ないことが報告されている(図6)。

③放熱

三つめは、パワーコンディショナー(通称:パワコン)からの放熱である。太陽光発電は直流で発電されるので、家庭での消費や送電には交流に変換する必要があり、その際に熱が生じる。

また、「ジー」といういわゆる「モスキート音」が発生する。いずれも発電している昼間のみの現象である。家庭用太陽光発電のパワコンを室内に設置すると、換気設備がないと、室内の温度を上昇させることがある。また、モスキート音が耳障りに感じる人が少なくない。パワコンを屋外に設置した場合は、比較的大きなビルの空調設備の放熱や稼働音がほとんど隙間なく隣接するビルや家屋に不快感をもたらすことがあるように、発電量が大きく、狭隘な場所に大量にパワコンが設置された場合にはこのような現象が起きる可能性がある

(2)実際の影響

①輻射熱は、反射光の室内への差し込みが無いようにパネルの位置や斜度を検討すれば、未然に被害は防ぐことができる。そうした事前配慮を怠って裁判になったのが姫路市内での係争事例で、マスコミ報道により全国的に知られるところとなり、誤解を含め、この問題への関心を高めるきっかけとなった。

②顕熱と⑨放熱はよほど大規模な発電所でなければ発生しえない問題であり、事前配慮で未然防止が可能である。

4 その他の影響

(1)電波障害・電磁波障害

太陽光発電システムから発生する磁界には、パネルからパワコンまでの直流電流による直流磁界(静磁界)と、パワコンからの交流電流による交流磁界とがある。静磁界はパネル全体の規模(総出力)には依存せず、交流磁界は出力に比例して大きくなる。

実証実験によれば、ともに0.2㍍離れた位置の計測で、静磁界は8.33㍃テスラ(最大出力65㍗)、交流磁界は7.49㍃テスラ(最大出力30㌗)で、どちらも距離が離れるほど磁界の強さは小さくなる。国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)「磁界ばく露の制限に関するガイドライン」によると、一般公衆における参考レベルは、静磁界400㍉テスラ、交流磁界(50㌹)200 ㍃テスラ としている。多くの場合、そのような影響は発生することは少ない。

図5 太陽光パネルの熱収支イメージ
図5 太陽光パネルの熱収支イメージ
図6 屋上での整備パターン別顕熱比較
図6 屋上での整備パターン別顕熱比較

また、たとえば1㍋㍗の規模の太陽光発電所であると、近隣50㍍程度の周囲にAMラジオ聴取に雑音が入る障害が生じることがあることが知られている。

その原因はパワーコンディショナーにあるが、近年はそうした苦情に対応して電波障害の発生が生じないように配慮した設備が使われつつある。基本的にはパワコンの設置場所を住宅地からなるべく遠ざけることが望ましい。

(2)工事の影響

太陽光発電所に限らず、あらゆる開発行為に伴う問題ではあるが、工事時間中の工事車両の運行や工事用重機等の使用に伴い、騒音や振動などの問題を生じさせる可能性がある。

とりわけ、太陽光パネルの架台を設置する作業では甲高い音が発生し、苦情になることがある。またパネルを並べるために、地面の整地や掘削が伴う場合は、重機の騒音や大気汚染の恐れがある。「再生可能エネルギーだからいいじゃないか」と自治会の会合で同意したものの、実際に工事が始まったら騒音や振動で驚いてしまい、あわてて対策を事業者に申し入れたという事例もある。

(3)維持管理と廃棄に関する問題

工法が不適切であったり、管理が悪かったりすると、周辺環境に悪影響を与える可能性がある。

突風によりパネルが壊れ、周囲に散乱した事例(群馬県伊勢崎市)の調査報告によると、パネルが架台にねじ止めされておらず、金具でひっかける工法をとっていた。単なるずさん工事であるが、こういう事例があるため、「太陽光パネルは強風に弱く、怖い」という印象を与えている。

傾斜地や休耕田などで豪雨による土砂流出の経験があるところでは、通常30年に1度の豪雨を想定して貯水槽などの整備を行っているが、私が自主簡易アセスで関わっている事例では、近年の極端な豪雨を踏まえて、100年に1度の計算で対策を講じるように助言し、実際そのようになっている。

他に、発電所の設置・管理会社が倒産し維持されなくなることや、20年の全量買取制度が終わった後のパネルの廃棄処分やその後の土地利用に関する心配を寄せる声も少なくない。

5 自治体における対策

関係省庁や業界団体ではガイドライン等を策定しているが、開発行為に具体的な影響力を持つものではない。また、環境影響評価法では太陽光発電事業を対象としていない。長野県では、2015年10月より環境影響評価条例の対象としているが、対象面積が30㌶(林地では20㌶)以上と大きく、実施案件は少ない。

そうした中、市町村の果たす役割は大きい。各地でのトラブル等を踏まえて、近年になって条例や要綱などで許可制や届出制により規制や誘導を図る施策がとられている。長野県環境部環境エネルギー課の調査(2016年1月末)によれば、16市30町村で61件の条例や要綱等が策定されている(2015年5月末47件)。

一方、未策定ないし検討中は2市(塩尻市・中野市)と27町村(木曽や下伊那などの山間地の町村に多くみられる)となっている。

基本的には、土地の有効利用を図りたいという事業者の権利は尊重されるべきであるが、環境や防災など地域への影響に対する配慮についての説明責任が事業者には求められる。市町村としては、事業者に対して、住民への説明機会を設けるように促しつつ、事業計画に対して地域の視点から的確なチェックを入れることが求められる。

表:長野県内市町村での取り組み状況(2016年1月末現在)出所:長野県環境エネルギー課「太陽光発電を適正に推進するための市長村対応マニュアル」(2016年11月)
表:長野県内市町村での取り組み状況(2016年1月末現在)
出所:長野県環境エネルギー課「太陽光発電を適正に推進するための市長村対応マニュアル」(2016年11月)

6 自主簡易アセス支援サイト

NPO地域づくり工房では、2015年4月より「自主簡易アセス支援サイト」を公開し、本会が事業者の委託により実施した簡易アセスの事例を詳しく紹介している。また、「太陽光反射光シミュレーション」などの無料ソフトを公開している。地域での取組みの参考にしていただければ幸いです。(かさぎひろお)