滋賀県下の廃棄物問題

滋賀自治体問題研究所
畑 明郎(滋賀環境問題研究所)


1.はじめに

本稿では、滋賀県下でわたしが係わった栗東市RD産廃不法投棄事件、大津市北部の残土・産廃処分場問題、高島市放射性木くず不法投棄事件など、滋賀県下で多発する廃棄物問題を紹介し、その解決策を考える。

2.栗東市RD産廃不法投棄事件

1979年に㈱アール・ディエンジニアリング(以下、RDと略)が、栗東町(現・栗東市)で産廃処理の操業を始めた。当初は、野焼きを行い、やがて廃材焼却炉が入り、その後、安定型産廃処分場の埋め立て許可を取った。その土地は当時の栗東町長のもので、その娘婿がRD社長だった。RDは事業を拡張し、周辺土地を買収し、産廃処分場と住宅団地は狭い道路をはさんで、隣接することになり、周辺住民は悪臭、騒音、ばいじんなどに悩まされた。

最終的な埋め立て許可容量は、1994年の24万立方メートルだったが、県が違法埋め立て分を追認し、42万立方メートルとした。しかし、2007年の県調査では72万立方メートルに達していることが判明した。1999年には硫化水素ガスの噴出事故が発生。元従業員の証言により、廃プラスチック、コンクリート片、ガラス・陶磁器およびゴムの安定4品目だけが埋め立てを許可されていないにもかかわらず、医療廃棄物、廃油、汚泥、廃塗料、ドラム缶、電池、金属、焼却灰、アスベストなど、管理型産廃処分場に入れなければならない有害廃棄物を大量に埋め立てていたことが判明した。

2001年には、住民の反対運動により、処分場内に建設したガス化溶融炉を試運転も

できずに解体した。また、住民の要求に基づき、県や市の処分場周辺の地下水汚染調査により、日本一高濃度のダイオキシンや水銀の汚染、鉛、ヒ素、ホウ素、フッ素、カドミウムなどの汚染が明らかになった。そして、約3キロメートル下流の栗東市水道水源井戸からヒ素が検出され、農業用井戸から油分やダイオキシンが検出された。

2005年には、処分場内の一部掘削調査で廃油の入ったドラム缶が105本と、廃塗料の入った69個の一斗缶が掘り出され、2007年にも140本のドラム缶が掘り出された。2008年に県は、対策案としてA:全量撤去案、B:全周遮水壁+覆土、C:バリア井戸+覆土の3案を提案したが、住民の要求するA案は莫大な費用を要するとし、B案を採用したが、住民の同意を得られなかった。

最終的に、2006年に破産手続きに入ったRD社に代わり、県は処分場跡地を県有地化し、2010年から地下水汚染を防ぐ対策を行政代執行で始めた。埋立土約72万立方メートルのうち、有害廃棄物が混じる区域の約20万立方メートルを掘削し、有害物や汚染土など約8万立方メートルを搬出する。工事は2020年度までかかり、総費用は約80億円で、産廃特措法対象とされ、県が55%、国が45%を負担することになった。

3.大津市北部の残土・産廃処分場問題

大津市北部の伊香立地区、旧志賀町の和邇(わに)地区、栗原地区には、産業廃棄物処分場、残土捨場、ごみ焼却施設、一般廃棄物処分場などが、10ヵ所以上集中する。これ以外にも閉鎖された産業廃棄物処分場が約10ヵ所ある。

伊香(いか)立(だち)地区には、汚染土壌や建設廃棄物を処理する山崎砂利商店(採石場)、大津市北部清掃センター、旧大津市北部一般廃棄物処分場、上龍(かみりゅう)華(げ)町(ちょう)の残土捨場、下龍(しもりゅう)華(げ)町(ちょう)の残土捨場、南庄町の残土捨場などがある。和邇地区には、山崎砂利商店が所有する和邇北浜産廃処分場、湖西道路和邇インター付近の残土投棄などがあり、新大津市北部一般廃棄物処分場計画や山崎砂利商店による残土処分場計画がある。栗原地区には、2001年に滋賀県が大規模な産廃処理施設を計画したが、地元住民の強い反対で2007年に中止された。

これらの中で特に問題になっているのは、上龍華町の残土捨場と南庄町の残土捨場である。前者は、関西有数の大規模な比叡山延暦寺大霊園に隣接し、京都の産廃業者が約50mもの高さの残土の山を積み上げ、大雨時に土砂が流出する事故があり、公害調停で大津市が流出防止工事を行っている。

写真1 比叡山延暦寺大霊園横の残土の山

出所:2015.11.4畑撮影。

後者は、地元の建設業者が農地の嵩上げと称して、残土を搬入し、残土の山からの排水に鉛、ヒ素、シアン、フッ素などが環境基準を超えて検出され、汚染土壌の搬入が疑われた。大津市土砂条例に基づく措置命令で業者が汚染土壌を封じ込める工事を行っているが、汚染水が河川に流出するなど未解決である。

写真2 伊香立南庄町の残土捨場

出所:2015.6.27畑撮影。

このように大津市北部は、京阪神の廃棄物処理センター化しており、一日に10トンダンプカーが千台以上走行し、地元住民にとっては、極めて憂慮すべき状態になっている。

大津市による大津地区への汚染土壌・産廃搬入量調査結果によると、現在の年間搬入量は40万トン以上と推定される。建設残土も含めた搬入量は年間最大202万トン(産廃67万トン、土砂135万トン)、大型ダンプカー23.8万台と推定された。

現在、伊香立地区の下流に当たる真野北部土地改良区、和邇地区の住民を中心とする「しがの里山や川を美しくする会」などがこの問題解決に当たっている。私も住民の相談に応じて、弁護士らと協力しながら現地調査や講演活動を積極的に行っている。

4.高島市放射性木くず不法投棄事件

2013年3~4月に近江八幡市の建設業者が、高島市安曇川町の琵琶湖畔の鴨川河口とその周辺に放射能汚染された木くずを不法投棄した。鴨川河川敷の河川管理用通路に木くず約310立方メートルを敷き詰め、その先の河口付近に木くず1立方メートルを詰めた土嚢77袋(=約77立方メートル)が放置されていた。

福島県本宮市の製材所から排出された放射能で汚染された木くず(8,000ベクレル/キログラムを超える指定廃棄物)が、高島市に不法投棄された事件の経緯を紹介する。

首謀者の田中良拓は、東大卒の元キャリア官僚でコンサルタント会社をつくり、知人のいる東京電力と福島の製材会社の木くず処理契約を仲介し、約4億円の処理費用を東京電力から得て、保管・運搬費用などで約3億円を使ったものの、約1億円の利益を得た。しかし、放射性木くずを処理できず、全国各地へ持ち込んだり、不法投棄したのである。

つまり、2014年3月に山梨県富士河口湖町で放射性木くず36立方メートルが発見され、4月にも山梨県笛吹市で放射性木くず70立方メートルが発見され、6月には千葉県市原市で放射性木くずが堆肥化されていたことが判明した。鹿児島県の堆肥業者に持ち込み、金額面で折り合わず、九州で購入した土地に放置したことも明らかになっており、全国各地にも隠れた木くず持ち込みが考えられる。

滋賀県の含水木くずの放射能測定では、最高3,900ベクレル/キログラムだったが、市民研究所の乾燥木くずの放射能測定によると、12,000ベクレル/キログラムと、指定廃棄物基準の8,000ベクレル/キログラムを超えた。

わたしたち市民と科学者は、2014年1月に首謀者らを刑事告発し、滋賀県も3月に刑事告発した。そして、9月に首謀者が逮捕、11月に起訴され、12月に有罪判決が下りた。裁判の過程で、滋賀県が首謀者に約2000万円の費用で、2014年1~2月に木くず撤去と北関東への搬出をさせ、関東地方内に分散して野ざらしにされたことが明らかになった。

判決後、木くずの搬出先を明らかにするために石田紀郎は、刑事確定訴訟記録閲覧請求したが、2015年3月5日に大津地検検察官は閲覧一部不許可処分をした。そこで、3月12日に準抗告の申立てを大津地裁にしたところ、7月6日に搬出先の都道府県名と市町村名の部分の閲覧を認める決定が出された。しかし、7月13日に大津地検はこの決定を不服として最高裁に特別抗告した。8月18日には、滋賀県情報公開審査会も搬出自治体名の公表を答申した。これを受けて滋賀県は、9月16日に搬出先の群馬県前橋市を公表した。公表された前橋市は、9月17日に産廃処理施設で適正に処理されたと発表した。12月14日に最高裁は、大津地裁決定を一部取り消し、搬出先市町村と業者名の閲覧を禁止する判決を出した。

2016年2月5日に大津地検で最高裁判決に基づく『犯罪捜査報告書』の一部閲覧が許された。その結果、福島県の放射性木くず約5,000トンが、滋賀県、鹿児島県、山梨県、千葉県、栃木県、茨城県の6県に搬出され、大半が「野ざらし・山積み」されていることが判明した。とくに、栃木県には、半分以上の約3,000トンが搬出されていた。『犯罪捜査報告書』は2014年5~7月に作成されたものであり、撤去された滋賀県以外の5県の木くずの現状は不明であり、5県が早急に木くずの在りかを調査し、対応を検討する必要がある。

5.おわりに

以上のように、滋賀県下の廃棄物問題に対して、住民、科学者、弁護士らが協力して、腰の重い行政を動かして、問題解決に当たっている。問題解決に成功した事例に学びながら、未解決の問題に今後も取り組んでいきたい。