「人と文化が交わるまちづくり」~写真文化首都ひがしかわの創造~

(NPO)北海道地域・自治体問題研究所
増田 善之(東川町立東川日本語学校事務局長)


1 「写真の町」東川町

北海道上川郡東川町は、北海道のほぼ中央に位置する人口およそ8000人の小さな町です。

道北の中核市であり北海道第二の都市である旭川市に隣接し、国内最大の国立公園である大雪山国立公園をはじめ主峰にして北海道最高峰である旭岳(2291メートル)など、雄大な自然に恵まれています。また、全国でも珍しい、全家庭が地下水で生活する上水道のない町であります。

基幹産業は農業で、水稲栽培が中心となっています。平野部に広がる水田から望む大雪山の景観が美しく、四季折々の美しい自然や景観を目当てに年間100万人以上の観光客が訪れます。また旭川家具の産地としても知られ、多くの生産拠点やアトリエが構えられるなど木工・クラフト業も盛んとなっています。

2 独自のまちづくり

東川町は、1985年に「写真の町」を宣言し、『写真映りのよい町』の創造を掲げ、まちづくりに取り組んでいます。全国高等学校写真選手権大会「写真甲子園」をはじめとして事業の取り組みは国内外にネットワークを形成し、本町の財産となっています。2014年には、これまで30年にわたり蓄積してきた「写真文化」や地域の力を踏まえ、当町を写真文化の首都として地方から発信する「写真文化首都宣言」を行い、国が推進する多極分散型社会の実現に向け、過疎でも、過密でもなく適度に「疎」のある、「適疎」なまちづくりを目指しています。

人口は1950年のピーク時には1万0000人程度であった人口が、1990年代には6000人代まで減少しましたが、地理的な利点や自然環境のよさ、子育て環境の整備などユニークな取り組みを進めた結果、2014年に念願の8000人に回復し、北海道内でも元気のある町として評価されています。

主な取り組みとしては、写真の町の取り組みのほか、建築協定を活用し景観に配慮した魅力ある宅地の造成、ふるさと納税を「寄付」ではなく「投資」と位置づけ、町の「株主」となってもらう「ひがしかわ株主制度」、特区申請による全国に先駆けての幼稚園と保育所の一元化、町内で生まれた子どもに「君の居場所はここにあるよ」との意味を込めた「君の椅子」の贈呈、思い出が形に残る「新・婚姻届」、「新・出生届」などがあります。また、写真の町の取り組みで培われたネットワークを活かした国際交流も盛んであり、写真を通じた世界各国との交流はもちろん、自治体間の交流としてカナダのキャンモア町およびラトビア共和国のルーイエナ町とそれぞれ姉妹都市提携を、大韓民国の寧越郡とは文化交流協定を結んでいて、各町とは訪問団や高校生の相互派遣、文化やスポーツでの交流を行なっています。2015年には日本語教育事業として全国初となる町立日本語学校を開設し、アジア圏を中心に多くの外国人が本町に滞在し、中期的な定住人口の拡大と地域経済の活性化につながっています。

3 本町の総合戦略と今後の取り組み

本町の総合戦略である「写真文化首都東川町まち・ひと・しごと・創生総合戦略」は2015年10月に策定しました。人口ビジョンにおける将来人口目標は、2015年における現状値8034人対し、2020年で8067人、2060年で7893人としています。総合戦略では、今まで取り組んできた写真の町の取り組みやネットワーク、美しい自然や地下水での生活を背景に、芸術に限らず東川町で生まれる全ての「コト」や「モノ」を文化として広範にとらえ、写真や家具デザイン、大雪山、スポーツなど本町に蓄積された特徴的で魅力ある文化を多様な交流に結びつけ、ヒトとモノ、文化同士が交わる「田園ハブ機能」(図1)作り出すことにより、「写真文化首都」を創造し、地方創生を目指しています。

図1
図1

「文化」を核に、本町に向かうさまざまなヒトの流れを創出しそれらを結び交流させることで、新たな需要や地域内消費を高め、さらなる「しごと」の創造や経済の活性化を図ることができると捉えています。逆に、各地域に戻るヒトの流れを活かし、町の魅力を伝播させるだけではなく、地場産品の消費拡大やさらなる町へのヒトの流れを生み出すことが好循環の形成につながると考えています。特に日本語教育事業は、ヒトの流れを作る重要な役割を担っており、「写真の町」により構築されたネットワークと併せて多国籍な文化によって外国人を呼び込むとともに、国内外に向けた強力な情報発信ネットワークを有することが当町の強みとなるものだと感じています。

今後は、「適疎(適当な疎)、適循(適切な好循環)、適行(適正な行財政)」の3つの適に配意し、写真文化を核とした「写真文化首都づくり」を目指し地方創生の実現を図っていきます。地方創生においては人口の確保が大きな課題となっています。様々な努力による人口増加は、本町がいち早く人口減少に取り組み対等してきた町であることを物語っており、従来の取り組みを基礎に引き続き本町に蓄積された文化を核とした人口確保のため核機能(キー機能)の充実を目指し、定住している住民が安心して暮らし続けることができる環境づくり(「縦循環(ダム機能)」)と国内外からのヒトの流れ(「横循環(ハブ機能)」)の調和により、8000人以上の人口の持続に努めていきたいと考えています。

増田 善之
増田 善之(ますだ よしゆき)