【論文】首長と議会・議員の関係ー議会運営と政策力―


「ポピュリスト」首長の登場を背景に法規定が改正されました。また、議会基本条例による議会の活性化が図られています。議会や議員のあり方を見直し、民主主義を強化することが必要です。

はじめに

国において国会が重要な機関であるように、自治体において議会は重要な機関です。しかし、時に議会は不要だといった声も聞かれます。議員が多すぎるといった批判もあり、それを支持する一定数の住民もいます。確かに、国会改革と同様、自治体においても、議会改革が長期にわたって課題になっていますが、改革の方向は議会のあるべき姿を踏まえて考える必要があります。また、「地方分権改革」が進められてきましたが、議会の改革は国の政策としては進んでおらず、各自治体での取り組みが期待されます。さらに、近年、「ポピュリズム」の手法をとる橋下徹前大阪市長や河村たかし名古屋市長のような首長が登場し、選挙で選ばれたことを絶対視して、有権者から首長への白紙委任とする「選挙独裁」といった立場をとり、首長と議会・議員の関係も大きな関心事になっています。竹原信一前阿久根市長を含め、「ポピュリスト」首長の権限濫用を防止する地方自治法改正なども行われています。

以下では、紙幅の関係もあり、いちいち注を付けませんが、榊原秀訓『地方自治の危機と法──ポピュリズム・行政民間化・地方分権改革の脅威』(自治体研究社、2016年)と同様の視角から、片山善博『片山善博の自治体自立塾』(日本経済新聞出版社、2015年)などであげられている具体的事例にも触れながら、検討をしていきます。

首長と議会・議員

(1) 二元代表制

最近、自治体の統治構造を表現するために、「二元代表制」という用語が広く使われています。これは、憲法上、議会の議員と首長が自治体住民から直接公選で選任されることに主眼があります。したがって、自治体において議会を廃止するには、憲法改正が必要になります。それを別にしても、仮に議会がなければ、議会廃止を主張する竹原前阿久根市長のような首長はもっと暴走する危険が大きいと考えられます。

合議制の地方議会は、一般的に、住民の多様な意見を反映するとともに、審議過程で争点を明確にする「代表機能」に優れていると理解されています。通常、議会は、民主主義的価値に基づき、多様性を保障することを重視して、多数の議員を必要としています。2011年の地方自治法改正によって、条例で議員定数を定めることにされており、議員の定数は自治体が自由に決めることができますが、議員定数を少数に限定しようとする意見は、こういった民主主義的価値を重視しないものといえます。また、合議制機関である議会においては、「討議」も重要です。そこで、7人~8人の議員からなる委員会を複数設けて、十分な「討議」を行うことを保障する必要があります。

「二元代表制」に戻ると、この用語は、首長が革新であったいわゆる革新自治体において、首長を支持する議員が少数であったとき、首長が住民から意見を聞きつつ自らの政策を推進したことに対して、議会から「議会軽視」という批判を受けた際に、国政とは異なり、首長も議員と同じく住民から直接公選されるという正当性の強調のために使われ出したもののようです。しかし、住民の意見を聞くことは、内閣総理大臣を直接公選していない国政でも重要であり、自治体でも首長の暴走は認められませんから、「二元代表制」の理解の仕方や現実の運用には注意が必要ですし、議会と首長のみに焦点を当てるだけではなく、住民の役割にも注目しなければなりません。

(2) 首長優位と議会優位

議員(議会)と首長の関係を、緊張関係にあるものと考えた場合、両者の関係は横並びのものでしょうか、あるいはどちらか一方が優位でしょうか。従来から実態として首長優位の意見が出されてきています。確かに、独任制の首長と比較すると、議員は複数いて首長より人数は多いのですが、それぞれを支える職員数を考慮すると、首長の下にある職員が圧倒的に多数ということになります。政策的提案のほとんども首長から提出されています。 

問題は、実態だけではなく、法的にも同様に首長優位と考えることができるかです。たとえば、議会の議決事項は限定されているとして、首長優位論が展開されてきました。しかし、議会の議決事項は、いずれも重要事項ですし、さらに、一見限定されているようにみえますが、条例によって議決事項を拡大することも可能です。権限に加え、議会が多様な意見を反映しやすいことも独任制の首長にはない長所です。こういったことを考えると、首長優位ではなく、反対に、議会優位を語ることも可能であるように思われます。

(3) 専決処分、議会招集などの地方自治法改正

阿久根市において、竹原前市長は、対立していた議会を招集せず、副市長の任命同意を含め、議会に代わり専決処分を乱発しました。注目されるのは、それに対して一自治体における例外とするのではなく、地方自治法という一般法の改正が行われたことです。つまり、権限濫用がより一般化する危険性が認識されたように考えられます。具体的には、議長が臨時会を招集することができることにしたり、安易な専決処分利用を制限したりするために、副市長などの任命同意に専決処分を用いることはできず、承認議案否決の場合に、必要な措置を講ずるなどと法が改正されています。

このような法改正にもかかわらず大阪府・大阪市の首長によって、大阪都構想をめぐる議会招集拒否や協定書不承認後の「専決処分」権限行使への言及などがなされています。これは、権限濫用の一般化という意味で予想が的中したともいえます。しかし、権限濫用を問題視するメッセージをポピュリスト首長は無視しており、法改正だけでは抑止効果を期待できないことになります。

議会基本条例

(1) 議会基本条例の制定状況とその内容

二元代表制によって議会と首長は緊張関係にあると考えた場合、議会改革提案として最も注目を集めていると思われるものは、議会基本条例に基づく議会改革です。「自治体議会改革フォーラム」の調査によれば、2015年9月18日までに701条例が制定済みで(内訳は、道府県30条例、政令市15条例、特別区2条例、市415条例、町村239条例)、議会改革の大きなトレンドになっていることがわかります。

議会基本条例の主な内容などを確認すると、①情報公開、②議会の説明責任、③住民参加(参考人・公聴会活用、請願陳情における市民の提案説明、議会報告会、意見交換会など)、④議員間の自由討議、⑤議員と首長との間の討議(一問一答、首長などの反問(逆質問))、⑥政策情報の提示、⑦議決事項の拡大、⑧議決責任、⑨補佐機構の充実、⑩研修、⑪通年議会などになります。これは、議会と首長という機関の対抗に注目する「機関対立主義」あるいは「機関競争主義」の考えに基づくものであり、議員と首長との間に加え、議員間、議員と住民との間の「討議」を活性化しようとするものといえます。

もっとも、多くの自治体において議会基本条例が制定されるにつれて、本来の理念とは異なり、たとえば、大阪府の議会基本条例のように、内容が希薄化することもあります。河村市長との対抗の必要上、議会基本条例を制定した名古屋市のように、河村市長をトップとする減税日本の力が落ちてくると、議会基本条例の運用すら危うい状況になっています。他方で、議会基本条例にそって真面目に議会活性化を図ろうとした自治体では、必ずしも期待通りの成果が出ずに、その運用のあり方を模索しているところもあります。

(2) 議会・議員のモデルと議会基本条例

議会や議員の理念モデルとして、従来から、議員が専門職的なものであることを前提に「政策形成モデル」と、議員が名誉職的なものであることを前提に「行政統制(監視)モデル」の二つが存在します。前者は都市部の大規模自治体を、後者は非都市部の小規模自治体を念頭に置いたものと考えられます。ただし、名誉職的な議員の典型とされたイギリスにおいても、既に議員報酬無償ということではなく(「ボランティア割引」といった考えはあります)、わが国の町村議会議員の意識としても「ボランティアと同じでよいとは思わない」という考えが圧倒的多数になっています。

議会の役割として、「政策形成」と「行政統制」を完全に分離することはできませんし、いずれを重視しようが、議員自ら専門的な知識・経験を得るよう努力し、また、住民などからのサポートを得ないと、いずれの役割についても十分に果たすことができないように思われます。特に、議会基本条例を制定し、首長との「討議」、議員間での「討議」、住民との「討議」を意味あるものにしようとすると、かなり積極的な議員の活動が必要になってくるはずです。

議会の運営と政策形成

(1) 議会の会期

地方自治法第102条第2項は、「定例会は、毎年、条例で定める回数」招集することを定めていますが、近年の法改正(第102条の2)により、通年議会(通年の会期)を導入することが明文で認められました。法改正を受けて条例で通年の会期制を導入した議会も出てきていますが、その前から通年制を導入する議会もありました。導入した通年議会を2年で廃止した長崎県議会のような例もあります。

通年議会の導入は、首長の専決処分を防止することにもつながります。また、用語の印象から、1年中会議を行っているようにもみえますが、法改正前に通年制を導入した議会の経験では、本会議に大きな変化はないものの、委員会の活動期間は増加し、政策形成に関連して参考人招致の増加や公聴会開催などの実績が報告されています。このように議会の会期は、議会と首長や住民との関係にも変化を招くことになると考えられるので、従来のままでよいか考える必要があります。

(2) 議会における質問の不当な限定と過剰な権限行使

次に、議員の質問や権限行使をみてみます。たとえば、議会における首長に対する議員の質問は、自治体行政の問題点や争点を明らかにする活動として重要なものです。極端に質問時間を短くする議会の対応などには問題があり、議員の質問権はきちんと保障されなければなりません。

また、質問の対象を不当に限定する例があります。京丹後市議会における事件をみてみましょう(京都民報2015年7月5日付4面)。一般質問で、議員が同市の米軍レーダー基地が有事の際には標的になる危険性があり、安保関連法案に対する市長の認識を質しました。この質問後、議長が議事に割って入り、防衛や外交などに関する事項は地方議会では質問できないとして、市の事務の範囲内での質問を求め、市長は答弁に立ちませんでした。翌日にも、同様のことが起こっています。しかし、一般的に、議長は、質問の制限には慎重であるべきです。防衛や外交は国の役割で、自治体は口を出すなということを、国ではなく、地方議会の議長が述べるのは深刻なことです。防衛や外交に関しても、国の政策が自治体の事務権限にまったく影響を与えないことは、まれでしょう。安保関連法制の場合、違憲の疑いも濃く、自治体として対応に苦慮する可能性もあり、京丹後市の場合、米軍のレーダー基地もあり、他の自治体とは異なる状況でした。現在、対象の限定が正当化されるとしても、かなり狭い範囲にとどまるはずです。

もっとも、議会の過剰な権限行使も認められません。鎌倉市では、首長と労働組合の交渉により、激変緩和措置を含めて職員の賃金カットを行うことになったのですが、議会が激変緩和措置を削除した条例を議決しました。再議に付されたものの、結局、職員の三分の一の職員が緩和無しに賃下げとなっています。議会は、消極的すぎるのも良くありませんが、他方で、代表機関だからといって何でもできるわけではなく、とりわけ権利制限のために権限を行使するときには慎重な態度が求められます。

(3) 「討議」の重要性と住民に開かれた議会

議会基本条例の箇所でみたように、議会において「討議」は重要です。それは、議決という「結論」だけではなく、その「過程」も重要であることを意味します。仮にある時点で少数意見であっても、その理由を明らかにしておけば、後にそれが合理的で多数へと変わり、他の自治体においては多数になることも考えられます。結論のみならず、その検討過程や理由もオープンにしなければなりません。

また、単に住民に公開し、知ってもらうということだけではなく、住民の意見を反映するという意味で、議会が住民に開かれることが必要です。委員会の公開、WEB上の情報提供の充実、さらには、議会によるパブリック・コメントなどの参加制度、議会報告会や住民などとの懇談会など、議会は住民に開かれたものでなければなりません。議会から住民への一方通行の「報告」では、住民の関心を呼び難いことから、名称はともかく、相互の意見交換・懇談へと議会のスタンスが変化していくことも少なくありません。

議会基本条例においても、議論の重点が「議会と住民の関係強化」にシフトし、議会改革の焦点が、議会への住民参加を目指す取り組みへと移行する傾向や、「広報広聴委員会」を基点とし、住民参加の企画から得た政策情報や住民意見・提言を各議会委員会で調整し、結果を住民にフィードバックしていく「政策サイクル」を採用する「『会津若松モデル』の拡大」が指摘されていました。

このように、議会を住民に開くことは、議会が独自の政策形成や行政統制という役割を効果的に行うために必要です。住民や団体から、執行機関が有していない、あるいは議会には示されていない知識・経験・問題関心を得ることになります。また、議会活動の活性化のためには、議会事務局における職員の数や質、専門家の協力(専門的知見の活用)といった議会のサポートを充実させていくことも重要です。

(4) 議決事項の拡大と修正権限の活用

機関委任事務の廃止や、政省令基準を条例事項にする義務付け・枠付けの見直しによって、条例事項が拡大しました。他方で、計画に関する法定の議決の義務付けの見直しがなされました。地方自治法第96条第2項は、法定の議決事項に加えて、議会が条例で議決事項を追加することを認めていることから、基本計画に議会の議決を要するかについて自治体が自主的に決定できることになりました。実際に、多数の議会が、当該自治体にとって重要と考えられる基本計画について議決を求める条例を制定しています。

提案としては、自治体のなかには憲法記念日前後の憲法擁護の集会に対する「後援」を見直すものが出てきたことから、この権限を活用し、「後援の承認」を議決事項にするものもあります。これは、「質問中心の議会運営」から議員による「議案提案中心の議会運営」への転換を求める考えが背景にあります。個々の議員の質問自体は、重要な役割を果たしていますが、問題によっては、それにとどまらず、議会が組織・機関として取り組むこと、議員が議案を提案して討議することが良いものもあると思われます。

一般の住民や専門家にとっても、重要政策については、議会が組織・機関として取り組み、それに関する報告書の作成・公表をすれば、わかりやすく、争点明確化機能のより一層の強化につながります。

さらに、いままでよりも広い範囲で議決事項を考える場合、それは、単にイエス・ノーの二者択一の対象を拡大するということを意味しません。わざわざ議会の議決事項にした以上、その対象について内容を吟味し、必要に応じて対案を考えたり、修正を行ったりすることが求められます。

予算については、「減額」だけではなく、「増額」の議決も認められています。もっとも、地方自治法第97条第2項ただし書きは、首長の予算提出権限を侵害できないとしています。問題は、予算提出権限の侵害の基準が明確ではないことです。しかし、法が原則として増額議決を認めている以上、必要に応じて修正が考えられるべきでしょう。

これとの関係で興味深いのは、所沢市における小中学校へのエアコン設置です。市長がエアコン設置を認めず、議会の決議や請願採択にもかかわらず、市長が意見を変えないことから住民投票がなされ、全国的に注目されました。住民投票自体は積極的に評価できるものの、個人的にはそこまでしないとエアコン設置できないのかなどとも感じました。この件については、議会は予算案を修正すべきであったという意見も出されています。最終的に、予算成立にもかかわらず、首長が執行しないことも考えられます。名古屋市においても、朝鮮学校への補助金支出について、河村市長が予算の一部を執行しないとしています。それでも、住民投票前に議会にできることはもう少しあったといえそうです。

おわりに

かつて、片山善博氏は、執行機関の職員に答弁まで用意してもらい、それを読みあげるだけの議員からなる議会を評して、「八百長と学芸会」と表現しました(もっとも必ずしも過去形の問題ではありません)。もともと法的には、議会の運営については、議会の自由に委ねられていることが少なくなく、近年の法改正でも、一般的に自由は拡大しています。「八百長と学芸会」に近い運営は基礎から見直して、個々の議員の行動だけではなく、議会という組織・機関の運営について、自由な枠組みのなかで、自覚的に責任をもって特定の選択を行う必要があります。

二元代表制において、首長との緊張関係をもちつつ、議会が多様な意見を反映し、住民との結び付きを強めつつ、公開の「討議」によって、組織・機関としての活動を活性化し、民主主義を強化することこそが、「ポピュリズム」や「選挙独裁」に対抗する手段にもなり得ます。住民には、必ずしも合理性のない議会のあり方を漫然と続ける議員や議会の尻を叩き、活性化の試みを後押しすることが期待されます。

榊原 秀訓

1959年静岡県生まれ。1982年名古屋大学法学部卒業、1987年名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。近著に『地方自治の危機と法』自治体研究社2016年。