【論文】改正地方自治法のポイントと問題点

  • 大田 直史(おおた なおふみ)
    龍谷大学政策学部教授

2017年10月15日

月刊『住民と自治』 2017年11月号 より

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長等の賠償責任限定を可能とする一方、議会による債権放棄は制限しない地方自治法改正と定型的窓口関連業務を地方独立行政法人の業務とする地方独立行政法人法の改正が行われた。

総務省が、2017年3月10日、第193回国会(常会)に提出した「地方自治法等の一部を改正する法律案」は、第31次地方制度調査会の「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」(2016年3月16日)(以下、「31答申」という)にのっとって「地方公共団体等における適正な事務処理等の確保並びに組織及び運営の合理化を図る」ことを理由とするものであった。

今回の地方自治法等改正は、ひとつには自治体の財務に関する適正な管理・執行のための諸制度の整備と、もうひとつは地方独立行政法人の業務への申請等関係業務の追加という大きく2つを内容とするものであった。2017年6月2日参議院で、自民、公明、維新などの賛成、民進および共産などの反対で可決され、同9日公布された。法改正のすべての点に触れることはできないが、その経緯と主なポイントおよび問題点をみることとする。

地方自治法の改正

(1)改正の経緯

31答申は、人口減少社会に的確に対応する「ガバナンスのあり方」として、「長、監査委員等、議会、住民」の4者が、「役割分担の方向性を共有しながら、それぞれが有する強みを活かして事務の適正性を確保することが重要」との基本的な考え方の下、それぞれの役割にかかわる改革の方向性を示した。このような改革が提案されるに至る背景を少しさかのぼってみておく。

ガバナンスの手段のひとつである住民訴訟は、ある最高裁判決によれば、「地方自治の本旨に基づく住民参政の一環」として、住民に対し財務会計上の違法な行為又は怠る事実の「予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もつて地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とする」もので、「住民が自らの手により違法の防止又は是正をはかることができる点に、制度の本来の意義がある」とされ(最判昭和53・3・30民集32巻2号485頁)、長等の職員に対して損害賠償を求めることを市長等に対して義務付ける4号請求を中心に使われてきた。

ところが、1990年代末から住民訴訟制度の根幹を揺るがす動きがあった。それは、市長等に対して損害賠償を求める4号請求が提起されると、議会が問題となっている自治体の損害賠償請求権等を放棄し、長等の責任を実質的に免れさせるというものであった。住民が長等の行為の適法性を争う訴訟を提起した後または請求認容判決確定後に自治体の賠償請求権が放棄、消滅させられると訴訟は意味のないものとなり、住民訴訟制度の趣旨が損なわれる危険性があった。議会による債権放棄の適法性が争われた事件で、最高裁は、債権放棄の適否の実体的判断は議会の裁量権に委ねられており、放棄の判断に一応の合理性が認められれば適法とした(最判平成24・4・20民集66巻6号2853頁等)。4号請求では、長等職員個人に対して求められる賠償金額が極めて高額に上ることがあり首長の権限行使を萎縮させる問題が指摘され(元市長に26億円の賠償支払を命じた判決等がある。最判平成17・9・15判例集未登載)、2002年の住民訴訟制度改革もこのことをひとつの理由としていた。最高裁判決は、債権放棄について過大・過剰な個人賠償責任に対する議会なりの対応として理解を示した。

このような最高裁の判決を受けて、31答申は、長自身による内部統制を整備して違法・不適正な公金支出が行われることを防止し、監査委員による監査を専門的に強化し、軽過失による賠償の見直し等住民訴訟による過酷な個人賠償責任の問題に対処しながら、住民訴訟を「骨抜き」にする議会の債権放棄にも歯止めをかける、という財務にかかる事務の適正化を図る諸制度を組み合わせ、4者の役割分担によるガバナンスのトータルな仕組みで効果をあげる方向を提言した。

(2)法改正の要点と問題点

以上の31答申を踏まえた地方自治法の主要な改正点の要点と問題点は、次のとおり。

①「内部統制体制」の導入

──会社法等で民間企業について「内部統制体制」が導入されているがこれを自治体にも導入することとした。

31答申は、「内部統制体制」とは、「地方公共団体における事務が適切に実施され、住民の福祉の増進を図ることを基本とする組織目的が達成されるよう、事務を執行する主体である長自らが、行政サービスの提供等の事務上のリスクを評価及びコントロールし、事務の適正な執行を確保する体制」としており、その整備の意義として、「①マネジメントの強化、②事務の適正性の確保が促されること、③監査委員の監査の重点化・質の強化・実効性の確保の促進、④議会や住民による監視のための必要な判断材料の提供等」を挙げていた。

改正法では、都道府県知事と政令指定都市の市長について、事務の「管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、及びこれに基づき必要な体制を整備しなければならない」と義務づけ、その他の市町村長については努力義務とした(150条1項および2項)。この方針を策定した長は、毎会計年度、1回以上評価報告書を作成し(同4項)、監査委員の監査に付し(同5項)、議会に提出する(同6項)こととされた。

内部統制の体制が整備、運用されることで、違法・不適切な事務の管理・執行は一定予防されることになると考えられる。

②監査の充実

──31答申は、監査委員等については、長による内部統制を踏まえた監査を行うことで、リスクの高い分野の監査を集中して行うなど、専門性の高い部分に重点化した監査が可能となるとして、①統一的な監査基準を地方公共団体において定めたり、監査を受けた者の説明責任を果たさせたりする仕組みを設ける、②監査の独立性および専門性を高める措置、③監査への適正な財源配分を確保する措置を提言した。

改正法では、監査委員が監査等を行うに当たっては、監査基準に従うこととし(198条の3)、監査基準は、各地方公共団体の監査委員が定め、公表しなければならないとしたが、監査基準の策定・変更について、総務大臣が指針を示し必要な助言を実施するとした(198条の4)。そのほか、勧告制度の創設(199条11項等)、議選監査委員の選任の義務付けの緩和(196条)、監査専門委員の創設(200条の2)、条例により包括外部監査を実施する地方公共団体の実施頻度の緩和などが図られた。

監査基準について総務大臣が指針を示し、助言を実施するという規定は、統一的基準を「地方分権の観点から、国が定めるのではなく」自治体が共同して定めるとしていた31答申の提言に反し、自治体の自主性を損なうと批判されている。議選委員選出義務の緩和は、監査委員と議会の役割分担の純化を趣旨とするが、監査の中立性、公平性の確保という観点から各自治体において議選委員の存廃を判断する必要がある。

③住民訴訟関連諸制度の改革

──31答申は、「見直しの方向性」として「長や職員の損害賠償責任については、長や職員への萎縮効果を低減させるため、軽過失の場合における損害賠償責任の長や職員個人への追及のあり方を見直し」ながら、同時に、「不適正な事務処理の抑止効果を維持するため、裁判所により財務会計行為の違法性や注意義務違反の有無が確認されるための工夫や、4号訴訟の対象となる損害賠償請求権の訴訟係属中の放棄を禁止することが必要」としていた。

改正法は、住民監査請求があったときは、監査委員がその請求の要旨を議会と長に通知するとし(242条3項)、議会は住民監査請求後に「当該請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償又は不当利得返還の請求権その他の権利の放棄に関する議決をしようとするときは、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない」(同条10項)とした。また、自治体は、条例で、長や職員等の自治体に対する損害賠償責任について、その「職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、普通地方公共団体の長等が賠償の責任を負う額から、普通地方公共団体の長等の職責その他の事情を考慮して政令で定める基準を参酌して、政令で定める額以上で当該条例で定める額を控除して得た額について」免れさせる旨を定めることを可能にした(条例で定める場合の免責に関する参酌基準及び責任の下限額は国が設定)(243条の2)。

改正法では、長等の個人の賠償責任については、単なる過失(軽過失)の場合について、免責するのではなく、自治体が、会社法における会社役員の賠償責任の限定の規定にならった要件の下に、条例で定める額を軽減できることとした。政令の下限はあるが、自治体ごとに条例により不適正な事務処理の抑止と長等の適切な権限行使のバランスを考慮した軽減額の設定が必要となる。しかし、改正法は、31答申が「訴訟継続中の債権放棄を禁止することが必要」としたことに対応する内容を定めなかった。訴訟継続中の放棄を禁止することや軽過失の場合に賠償額の軽減措置を定めたことに対応して重大な過失や故意がある場合には放棄を禁止するなどの制限が加えられるべきであった。

改正法では、訴訟継続中でも、監査委員の意見を聴くことを要件として債権放棄は可能とされたが、監査委員の意見が議会の放棄議決をどれだけ制御しうるかは疑問である。

地方独立行政法人法の改正

(1)改正の経緯

内閣の「骨太方針2015」は、「公共サービス分野を『成長の新たなエンジン』に育てる」として「公的サービスの産業化」を打ち出し、自治体の窓口業務について「専門性は高いが定型的な業務について、官民が協力して、大胆に適正な外部委託を拡大する」との方針を示していた。しかし、2014年から戸籍事務を民間企業に委託していた東京都足立区は、届出の受付とコンピュータへの入力だけでなく受理まで行わせたことが戸籍法に違反するとの指摘を東京法務局から受け、また東京労働局からは偽装請負に該当するとの指摘を受ける問題が発生したため一部を直営に戻さざるをえなかった。

一方、総務省に「地方独立行政法人制度の改革に関する研究会」が2015年に設置され、2014年に国の独立行政法人通則法の一部改正が行われ、政策実施機能や業務の質と効率を向上させる制度改正を踏まえた対応、自治体からの要望への対応、足立区で生じた問題への対応も含めて人口減少問題に的確に対応する地方独立行政法人のあり方を内容とする報告書を2015年に公表した。そこでは、地方独立行政法人が「公権力の行使を含む窓口関連業務等を実施する主体として適切と考える」として、「公権力の行使に係る事務を含め、包括的に地方独立行政法人に業務を行わせることとし、業務の権限を市町村(長)に残しつつ、当該市町村長の名において地方独立行政法人が業務を行うこととすることが適当である」と述べていた。

31答申は、これらを受けて「窓口業務のように、一部に審査や交付決定等の公権力の行使が含まれる場合には、一連の事務の一括した民間委託等、効果的な委託が困難である」。そこで「市町村による強い関与」を担保しながら、「市町村が直接執行する必要は必ずしもなく、効率的かつ効果的な行政サービスの提供が可能となる場合には、公権力の行使にわたるものを含めた包括的な業務について外部資源を活用して処理できるようにすることが必要」であるとして、「地方独立行政法人の活用」を提言していた。また、地方独立行政法人を自治体が共同で活用すること、たとえば、広域連携が可能な地域では、連携中枢都市などが設立した地方独立行政法人に、近隣市町村が特定の事務を処理させる方法も選択肢の一つとしていた。

(2)法改正の要点と問題点

地方独立行政法人法改正の要点とその問題点は以下のとおりである。

地方独立行政法人の業務への窓口関連業務等を追加──地方独立行政法人の業務に「申請等関係事務の処理」(戸籍関係の証明書の交付、埋葬、火葬又は改葬の許可、身体障害者手帳の交付等に関する24の事務。いわゆる窓口関連業務)を追加した(21条5号)。

窓口業務を公権力の行使にあたる行為も含めて外部委託するために地方独立行政法人を活用し、人件費を中心とする事務処理コストの効率化を図るねらいがある。

地方独立行政法人の制度は、民間企業への委託や指定管理者制度の場合よりも自治体による関与は強いといえる。しかし、戸籍、住民票交付、社会保険関連の申請等の窓口業務の「定型的」な部分のみとはいえそれらを自治体とは別の法人職員が担当することで、住民が窓口を訪れたことを契機としてその抱えている問題に他部局との連携した取り組みで総合的に対応する可能性を失わせることになる。また、民間企業ではなく地方独立行政法人の職員が窓口業務を担当するとしても足立区で指摘された偽装請負の問題が生じえて、自治体職員が法人職員に対して直接に職務について指揮命令することはできないため効率的な事務処理が阻害されうる。当該業務に関するノウハウについても法人職員と自治体職員との間では共有、継承が十分に行われないおそれがある。さらに、この地方独立行政法人が複数の自治体で共同設置されることになれば、窓口業務とそれ以外の事務とがまったく分断され、自治体の一体的な行政を妨げてしまう危険性がある。

地方独立行政法人は「地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のない」業務を「効率的かつ効果的に」行わせるために設立される(地方独立行政法人法2条1項)。自治体がこれを設立して窓口業務を委ねる判断をするには、その業務がこの要件を満たすことに加えて右のような問題点に優越する住民にとっての利益があることが説明されなければならない。

2017年10月15日

月刊『住民と自治』 2017年11月号 より

  • 大田 直史
    大田 直史(おおた なおふみ)
    龍谷大学政策学部教授

    主な編著書に、「イギリス地方戦略協働組織と地方協定」岡村周一・人見剛編著『世界の公私協働―制度と理論』日本評論社。「自然災害に対する法制度―東日本大震災に対する行政の対応と法令」森英樹・白藤博行・愛敬浩二編著『3・11と憲法』日本評論社。

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