【論文】JR北海道の路線廃止と地域対応 ―鉄路は地域発展に不可欠―

  • 小田 清(こだ きよし)
    JR北海道研究会、北海学園大学名誉教授

2018年7月19日

月刊『住民と自治』 2018年7月号 より

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国鉄の分割・民営化から31年。見通しの誤りからJR北海道は経営危機に陥りました。その結果、鉄路の半分を経営分離しようとしています。JR北海道や道庁、国、地域住民の対応を紹介します。

経営危機と維持困難路線の発表

1987年4月に国鉄が6旅客1貨物会社に「分割・民営化」されてから31年が経過しました。7社のうち、JR九州・四国・北海道のJR3島会社は民営化の当初から赤字経営が想定されていました。このため、政府系の特殊法人「鉄道・運輸機構」は予想される赤字額の大きさに応じて経営安定基金を積み立て、その運用益で赤字を穴埋めするという手段を講じました。そして、経常利益1%を確保し、完全民営化を図るというものです。

3社のなかでも、とくにJR北海道(以下、JR北)は積雪寒冷地による多額の鉄路維持費の必要性と長大路線を抱えてのランニングコストの増大などで毎年500億円近くの赤字が想定されていました。このため、他の2社よりもかなり多額の6822億円もの安定基金を積み立てて、その運用利回り7・3%(運用益498億円)で赤字を解消しようとしました。この方策は、しばらくはバブル経済などによる好景気・高利回りもあって想定内の利率と運用益で推移し、赤字の穴埋めは順調でした。しかし、その後の長期的な景気停滞による低金利政策への転換は、基金運用益を急減させました。その結果、鉄道外の収入増では単年度の赤字額をカバーできなくなり(12㌻表)、JR北の累積赤字は拡大していきました。

表 JR北海道決算状況(億円)<br>注:JR北海道決算各年による。なお、鉄道外は筆者推計。
表 JR北海道決算状況(億円)
注:JR北海道決算各年による。なお、鉄道外は筆者推計。

2016年11月18日、JR北は累積赤字の拡大による経営危機を理由に、道内鉄路の半分近くに当たる10路線13区間を「JR単独では維持困難」として公表しました。そして、これら沿線の自治体に対し、「上下分離」や「バス転換」などについて協議したいとしました。その協議内容は、軌道・橋梁・トンネルなど(いわゆる「下」部分)の維持に対し、一部の費用負担を求めるものでした。そして、それができない場合には「廃線」あるいは「バス転換」を行いたいというものです。しかし、沿線自治体にとって、厳しい財政状況下での多額の費用負担は不可能に近い条件で、最初から「廃線」や「バス転換」に向けての協議ではないかと強い反発が起こりました。また、突然の「維持困難路線」発表に自治体や地域住民の不信感も強まり、JR北と地域との協議は進みませんでした。

公共交通に逆行するJR北海道

このような状況は、政府による国鉄分割・民営化の失敗といわざるをえません。元来、安定的な交通の確保は憲法に保障された国民の権利であり、政府が公的インフラ施設として整備しなければならないものです。公的な交通手段を「民間事業」(JR北の所有者は事実上政府であるが)にゆだねた結果、単なる企業の経営問題として扱われてしまったのです。

このような交通政策は間違っています。同じ交通施設でも道路や港湾、空港は公共事業として公的資金で建設がなされ維持されています。その施設を自家用車やバス、トラック、船舶、航空機などが利用していますが、建設費は負担していません。しかし、鉄道の場合は施設と運行車両が一体として運営されています。とくにJR北の場合、長大路線と積雪寒冷という本州にはない悪条件を抱えての運営で、赤字がかさむのは当然です。

鉄道は通学・通院・買い物・ビジネス活動・貨物輸送・観光など、日々の暮らしや仕事に直結しています。とくに北海道にとっては、日本の食料基地としての農水産物の輸送、国際的に人気が急拡大しているインバウンドにとって不可欠な移動手段です。さらに、北海道の鉄道は、明治期以降、石炭輸送を皮切りに、内陸部開拓に重要な役割を果たしてきました。そのことが持つ歴史的・文化的価値も重要で、これからの地域発展を考える上ではかけがえのない財産となります。

JR北海道・道・国・自治体の対応

公共交通の要としての鉄道の廃止は、地域の一層の過疎化を促し、ひいては北海道経済全体の地盤沈下をもたらすことが懸念されます。鉄道線路はひとたび廃止されれば復活はほぼ不可能で、その存廃については時間をかけて慎重に議論されるべきです。しかし、JR北「廃線問題」に対する高橋はるみ知事・道庁、国の対応は「鉄路の危機はJR北の経営問題である」として、どちらかというと「バス転換」を承認するような態度に終始してきました。これまでの動きを、JR北を含めて簡単にまとめると以下のようになります。

JR北=このままでは「運行不可能な事態も生じかねない」とし、バス転換など路線の大幅見直しを沿線自治体と話し合いたいとしてきました。そのための「地域協議会」を早急に設置したいとしていましたが、沿線自治体や住民の反発は強く、協議会は一部を除いてそれほど設置されませんでした。また、唯一の株主である政府に対しては積極的に支援を求めず、自助努力(廃線・バス転換)で解決するとしています。国に対するこのような消極的姿勢には批判が強まり、2017年末には政府に支援を要請すると方針転換しています。地域協議会については、2018年に入り、道庁の強力な働きかけもあり、沿線自治体の多くで設置されてきています。ただし、その協議会は閉鎖的な会議で、一般住民の参加は一切ないに等しく、JR北との間で何が話し合われているのかは不明です。

知事・道庁=この問題はJR自身に責任があるとの認識で、その解決はJRと沿線自治体まかせでした。したがって、問題解決への当事者意識は希薄で、資金を提供する用意もないという消極的態度も一貫していました。しかし、沿線自治体・住民、北海道市長会、北海道町村会などは知事が先頭に立って問題解決にあたるべきとの声を強めていました。このため、知事は2017年12月末に石井啓一国交相と面会し、さまざまな支援策を要請したり、自治体などへの資金提供も考えたいなど、若干前向きになってきたかに思われました。しかし、JR北の鉄路の全線維持については困難との姿勢は崩しておらず、逆に2018年に入り、沿線自治体に対しては「地域協議会」の設置を積極的に働きかけています。いわば、「バス転換」への結論を急がせているかのように見えます。

▲ⒸJR北海道 JR日高線清畠・豊郷間─高波で破壊された線路─(すぐ右側が海岸線)
©JR北海道 JR日高線清畠・豊郷間─高波で破壊された線路─(すぐ右側が海岸線)

国・国交省=JR北の経営危機については一貫して「民間経営の問題」であるとしてきました。また、鉄路の維持は沿線自治体が費用を負担する「上下分離方式」などが考えられるとしてきました。しかし、JR北問題は北海道だけの問題ではなく、JR四国も同じような課題を抱え、まさに国民生活に直結する問題として徐々に政治問題化してきました。このことを反映して、2017年末の知事との面談になったと思われますが、そこで何が話し合われたのかの詳細は不明です。記者会見では、2018年の夏ごろまでには一定の方向性を出すとしていますので、何らかの約束がなされたのではないかと考えられます。

沿線自治体=突然の維持困難路線の公表とバス転換、地元負担をめぐり、不信感や反発が広がりました。そのようななか、高波と台風被害で不通が続く日高線(写真)の沿線自治体に対し、JR北の社長は一方的に「バス転換」を要請しました。沿線7町長は「日高線が全道の廃止トップランナーになるわけにはいかない」とし、一致した行動をとることになります。そして、自然災害を被った鉄路に対しては、早急に「公共事業」として復旧工事の予算措置を行う必要があるとの主張を強め、道庁や国交省へ公共事業としての災害復旧・路線復活を訴えたのです。この動きは全道の沿線自治体に大きな影響を与えました。すなわち、JR北問題は知事が指導力を発揮して政府や国交省に解決を要請するべきとの声を強めたのです。しかし、このことは知事主導での「地域協議会」の設置をも促しました。そして、沿線自治体の多くは「バス転換」を含めてJRとの話し合いに入ることになりました。

「鉄道の再生と地域の発展をめざす全道連絡会」の結成

JR北が維持困難路線を発表して以降、北海道における鉄路再生・存続のための地域運動は徐々に広がりを見せてきました。すなわち、見直し対象の沿線自治体・住民を中心に各地で「鉄路を守る会」(以下、守る会)がつくられ、存続のための集会なども開かれました。

この動きに合わせるように、2017年5月にJR北問題の核心はどこにあるのか、北海道の鉄路再生の方法は何かを研究しながら、鉄路再生・存続運動を側面から支援しようということで「JR北海道研究会」が発足しました。メンバーは、1987年の分割・民営化以前から、北海道において国鉄研究や分割・民営化問題を扱ってきた研究者などで、筆者も「鉄道と地域経済」という観点から研究会に参加しています。

研究会では、旧国鉄の分割・民営化からJR3島会社に交付された経営安定基金の性格や問題点、JR北が抱える地域特有の問題などを議論してきました。同時に、「守る会」からも地域の実情や「地域協議会」についての批判的な報告もいただきながら問題点を煮詰めてきました。各地の「守る会」からは、協議会が住民参加なしの秘密会に近い形で開催され、一般住民の声が届かないという批判が相次ぎました。逆に、JR北や道・国は、沿線自治体や住民がオール北海道で連携しないうちに、自治体ごとに孤立・分散化させて速やかに結論を得たいとの思惑で「協議会」を進めているようだとの感想も寄せられました。

鉄路は沿線自治体の住民のみが利用するわけではなく、国民全体が利用する公共施設です。したがって、この問題はオール北海道で対応する必要があるとの結論に至り、「JR北海道研究会」の呼びかけで、2017年8月26日に「北海道の鉄道の再生と地域の発展をめざす全道連絡会」設立準備会、10月28日に同設立総会を行いました。この会には主旨に賛同する全道の「守る会」に参加している市民・住民、各種団体、議員、首長などが参加しています。

会の名称に「存続」ではなく「再生」を入れたのは、これまでの枠組みを継承しての存続では、鉄路を半減したとしても同じことが再び繰り返され、さらに鉄路が縮小される恐れがあるからです。これまでの「車両・駅舎・鉄路・橋梁など」一体型の経営ではなく、国の責任を前提とした新しい「制度」での鉄路(公共交通)を再生・存続させるという意味が込められています。

2016年3月26日、北海道新幹線(新青森~新函館北斗)が開業しましたが、開業前から相当の赤字が予想されていました。それが現実になりました。2016度における北海道新幹線の収支は54億円の赤字でした。翌2017年度には開業効果も薄れて20%の旅客減となり、収益はさらに低下しました。その結果、赤字額は103億円へと倍増しました。新幹線の赤字は今後も増え続けそうです。見方を変えれば、新幹線の赤字を「維持困難鉄路の半減」でカバーしようとしているかのようです。地域住民の「日常的な足の確保」を考えるならば、これでは本末転倒で、鉄路半減を認めるわけにはいきません。

現在、鉄路を再生する運動は全道規模で各地・各団体と連携しながら「50万人署名」が進められています。この署名は「鉄路再生は国の責任で行う」ように知事が国に働きかけることを要請するもので、同時に北海道議会への請願書提出、国会議員への働きかけも予定しています。北海道の鉄路再生運動はこれからが正念場です。

なお、この署名活動の詳細は http://revive-railway.net でお確かめください。

2018年7月19日

月刊『住民と自治』 2018年7月号 より

  • 小田 清
    小田 清(こだ きよし)
    JR北海道研究会、北海学園大学名誉教授

    1947年北海道生まれ。北海道地域・自治体問題研究所理事長。北海道を中心に原発・核廃棄物問題や持続可能な地域づくりについて研究。2017年からは北の鉄路の再生・存続運動に関わる。

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