【論文】地方独立行政法人による窓口業務の包括的処理の問題


窓口業務の民間委託には法的な限界があり、多くの自治体は慎重な対応をとっている。その状況下で新たに制度化された地方独法に委ねる選択肢の問題点を検討する。

法改正の経緯

地方独立行政法人(地方独法)に窓口業務を包括的に委ねようとする提案は、臨時・非常勤職員についての公務員制度改革とも関連し、また、窓口業務の民間委託の延長線上にある。具体的には、2015年12月に公表された『地方独立行政法人制度の改革に関する研究会報告書』と2016年3月に公表された『第31次地方制度調査会答申』において、地方独法に窓口業務を包括的に委ねる選択肢が提案され、その内容を立法化する地方自治法改正・地方独立行政法人法改正を経て、省令も制定されるに至っている。

窓口業務の民間委託の現状と問題点 広がらない民間委託

窓口業務に関しては、いわゆる市場化テストに関連して、民間委託が可能か検討されてきた。窓口業務を対象とすることを提案した東京都足立区の区民部長は、「極小の政府」を考えた場合、最後まで残るものを市場化テストの対象にしてしまえば他の分野は急速に進むという考えを示していた。しかし、本来意図された「一体の業務」を委ねることは認められず、審査や交付決定などの部分は自治体職員が行うべきとされ、それ以外の「事実上の行為」や「補助的業務」である「請求の受付」や「引渡し」を民間委託することが認められてきた。そして、民間委託可能な窓口業務の種類の拡大にもかかわらず、同様の制限が存在してきた。このように一連の事務を細切れにして、部分的に民間委託をすることになるが、それでも窓口業務の民間委託を推進することが政府方針となっており、たとえば『経済財政運営と改革の基本方針2017』(骨太方針2017)においても、「窓口業務の民間委託の全国展開を進める」とされている。

しかし、継続的にその推進が図られているにもかかわらず、必ずしも窓口業務の民間委託は広がりをみせていない。総務省の調査(「地方行政サービス改革の取組状況等に関する調査」)をみると、2017年4月1日現在の窓口業務の民間委託の実施状況は、全市区町村で19・2%となっており、指定都市・中核市以外の市で27・5%、町村で6・9%となっている。また、窓口業務については、郵便局の活用の観点から総務省情報通信審議会郵政政策部会郵便局活性化委員会でも検討されており、2018年2月14日の資料1─4みずほ総合研究所社会・公共アドバイザリー部「地方公共団体における民間委託の現状」が興味深い。窓口25業務について、大半の業務において民間委託の実施割合は20%以下にとどまっていること、民間委託の効果の第1位として、「定員削減・配置転換」が多いことが紹介されている。ただし、民間委託を実施している自治体ではその回答割合が他の検討状況と比較すると低いことも紹介されている。

窓口業務の民間委託の限界

先の『地方独立行政法人制度の改革に関する研究会報告書』資料11では、窓口業務の民間委託における課題として、足立区長あてに出された「公権力の行使に係る是正指導例」と「偽装請負の是正指導例」が紹介され、また、自治体へのアンケートによって民間委託の阻害要因として、「個人情報の取扱いに課題があるため」、「サービスの質の低下の恐れがあるため」、「制度上市区町村職員が行うこととされている事務であるため(もしくは、市区町村職員が行うこととされている事務との切り分けが困難であるため)」、「業務請負に出したいが、労働者派遣法(偽装請負等)との関係で躊躇する部分があるため」が上位を占めていることが明らかにされていた。また、先の2018年の資料でも課題として、「個人情報の取扱い」、「経費削減効果がない」、「業務の切り分けが困難」が上位3位を占め、「実施段階」では、「偽装請負対策」や「職員の経験喪失」が課題となっていることも紹介されている。

今回、窓口業務を地方独法に委ねるという法改正は、このように窓口業務を民間委託することにはかなりの困難があるという認識に基づいたものである。

地方独立行政法人の活用 地方独立行政法人が担当する事務事業

次に、窓口業務を包括的に委ねる地方独法(申請等関係事務処理法人)がどのようなものなのか、地方独立行政法人法2条1項の定義をみる。地方独法は、

①「住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地からその地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業」であって、

②「地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないもの」のうち、

③「民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものと地方公共団体が認めるもの」を効率的かつ効果的に行わせることを目的として、設立される法人である。

そして、対象業務の範囲は、同法21条で、試験研究、大学の設置管理等、地方公営企業法適用8事業(水道、工業用水道、軌道、自動車運送、鉄道、電気、ガス、病院)と政令で定める事業、社会福祉事業、政令で定める公共的な施設の設置管理と各々の附帯業務とされていた。つまり、財政・運用面から大規模施設が想定されており、スケールメリットを出すことが目指されていた。

総務省の調査(「地方独立行政法人の設立状況」)によれば、2018年4月1日現在で地方独法は合計で142あり、その内都道府県と指定都市で97を占め、また、対象業務としては、大学75と公営企業型55をあわせて130となっている。公営企業型の中身は病院なので、現在の地方独法は、ほぼ大学と病院ということになるが、「地独法は、そもそも汎用性のある制度」として考えられておらず、驚くべきことではない。

窓口業務は「立法当時は独立行政法人が行うことを想定していなかった事務」であることは疑いなく、このような現状を前提にすると、多くの市町村にとって地方独法は未知の存在であり、また、大学と病院以外には経験がないに等しい。

窓口業務と定型的な業務

地方独法の定義規定は先に紹介したものなので、窓口業務が自治体の規模にかかわらず必要な業務と考えられることから(いわゆる西尾私案の「事務配分特例方式」でも「窓口サービス等」の処理を委ねられている)、窓口業務を②に該当するものといえるのかが問題となる。総務省関係者の説明では、①に該当するものの、窓口業務が「定型的な業務」に限定されることから、②に該当するといった説明がなされている。

総務省関係者によれば、「定型的な業務」とは、「客観的、外形的に一定の手順で処理が可能なもの、内容について裁量性の判断の余地が小さいもの」とされる。そして、「個別具体の事案に応じた判断が必要とされている非定型的な事務については市町村長の指揮監督権の下で職員が引き続き処理することが適切」として、対象業務から除外していることが説明される。

しかし、業務としてのまとまりを考えたとき、従来の対象業務は一定の完結性を示していたということができると思われるが、窓口業務の場合には、そこで住民と直接接することによって、住民が置かれた状況を知る機会となるが、窓口業務のみを切り離して組織を断片化した場合には、その機会を失うことになるといった「アウトリーチ」の問題を発生させることが指摘されている。つまり、「個別の申請をきっかけにして、定型的な事務処理にはなじまない住民側のさまざまな事情を察知して、各部署の協力を得ながら対処しなければならないことが少なくない」からである。

また、「定型的な業務」は、「公権力の行使」と比べても、より明確性を欠く。法律の別表の規定では、そこに規定された事務(業務)であって「総務省令で定めるもの」が対象となっており、別表に掲げられた一部には非定型的なものが含まれ、そのようなものは申請等関係事務から除外するとされている。つまり、法律では、本来の対象業務以外も含むわけで、省令で説明通りの除外がなされているかが問題となる。省令はかなり詳細なもので、このことは、除外されているものが極めて限定されているのか、あるいは必ずしも極めて限定的なものとはいえないのであれば、業務を行う際に対象業務と対象外の業務を判別することが簡単ではないことを意味するように思われる。

自治体の関与の強化と「事務の代替執行」とのアナロジー

さらに、地方独法に対しては、目標・評価による業績管理のほか、設立者として、設立自治体には、報告・検査、違法行為などの是正命令を行うことが認められている。申請等関係事務の処理に関しては、これに加え、監督命令・停止命令、直接処理等の権限が認められ、自治体の関与が強化されている。

加えて、自治体が別の法人格を有する地方独法に窓口業務を委託することから、申請関係事務にあたって、「自治体の長その他の執行機関の名において処理されること」(首長などの名による処理)が必要となる。そのため、「事務の代替執行」とのアナロジーが必要になり、申請等関係事務処理法人は、自治体の申請等関係事務を処理するに当たっては、

①首長等の名による処理ができることし、

②申請等関係事務を処理する場合、申請等関係事務処理法人を自治体など、その役員・職員を自治体の職員とみなして法令の規定が適用されるものとし、

③①により首長等の名により処理した申請等関係事務は、首長等が処理したものとしての効力を有するとする。このことによって、自治体等を対象に行政不服審査法や行政事件訴訟法による行政救済の手続を行うことができると説明される。

つまり、地方独法と自治体という異なる存在を、法的に同じ存在とみなすことによって対応する。

類型の新しさと特定地方独立行政法人

申請等関係事務処理法人は、従来の地方独法とはかなり異なる業務を担当するため、制度設計も異なっている。つまり、申請等関係事務処理法人は単年度での目標管理を行うことから、中期目標などに関する規定は適用されない。国の類型でいうと、中期目標管理法人や国立研究開発法人とは異なり、行政執行法人と同様のものと考えられる。他方で、地方独法の当初の意図にもかかわり、「毎年度の目標設定により、段階を追って経費削減などのリストラを推進すること」が危惧されている。

行政執行法人と同様とすると、その役職員は国家公務員の身分を有することから、地方独立行政法人法2条2項が定める特定地方独法として設置されるかも注目される。法では、「業務の停滞」が「住民の生活、地域社会若しくは地域経済の安定に直接かつ著しい支障を及ぼすため、又はその業務運営における中立性及び公正性を特に確保する必要がある」ため、役職員に地方公務員の身分を与える必要があるものが特定地方独法として設置される。

総務省関係者は、役職員が地方公務員の身分を有さない一般地方独法の選択も可能とする。まず、地方独法に自治体の窓口業務を包括的に委ねることが可能であることについて、地方独法が「特別行政主体」と位置づけられ、

①定型的な業務の実施、

②業務実施段階での自治体の関与、

③法的効果の自治体への帰属と自治体が対象とする事後救済(最終的な責任主体は自治体)をあわせ措置することをあげる。そして、これは役職員の身分が公務員か否かを問わず、「業務の停滞」に関しては、新たな監督規定を設け、自治体による直接執行を義務づけている結果、業務が停滞する場面は限定され、また、窓口業務は定型的なものに限定され、業務の処理に当たって裁量的判断の余地は小さいという理由をあげる。

しかし、業務の定型性や非裁量性は「業務の停滞」と直接つながるものではなく、また、自治体による直接執行を規定すれば、「業務の停滞」の心配はないとする説明は、従来の説明とは異なっている。従来、その妥当性に疑問はあるものの、「業務の停滞」を争議行為の禁止などの厳しい服務が適用される公務員身分と結びつけていた。結局、行政執行法人と同様のものとしつつ、公務員身分に関しては参照しない対応となっている。

申請等関係事務処理法人の共同設置

最後に、小規模自治体においては、申請等関係事務処理法人を単独ではなく、共同設置する提案がなされている。複数の自治体が申請等関係事務処理法人を共同設置する場合、自治体間連携と同様の問題が存在する。すでに、自治体間連携に関して、事務を委ねた自治体の意向が反映されるのか、つまり団体自治が尊重されるかが関心事となっていたが、窓口業務は定型的な業務として自治体間の相違を無視できるならば別であるが、そうでなければ、同様の問題が存在する。また、事務を委ねた自治体の議会による統制の確保も重要である。さらに、議会事務局の共同設置と同様に、窓口業務も忙しい時期が自治体間で重複するという限界もある。

申請等関係事務処理法人活用のメリット?

申請等関係事務処理法人活用の根拠として、総務省関係者からは、自治体の人的資源の不足を補うほか、事務のノウハウの蓄積、職員の専門性の確保、柔軟な人事運営といった特徴を生かすことで、窓口関連業務における効率性、コスト削減、混雑緩和、待ち時間の短縮といった効果が期待できると説明されている。しかし、これらは短期的で部分的な民間委託と比較したときのメリットも含み、自治体が自ら担当したほうが確保しやすいものも少なくないように思われる。

また、費用面でのメリットがあげられることもあるが、それが人件費の安さであれば、「地方公務員の給与と引き受けた側の従事者の給与の差」にすぎず、「効率化」とはいい難い。民間委託の場合にも先にみたように「経費削減効果がない」と考えられ、申請等関係事務処理法人への委託の場合、民間委託以上に「給与や手当なども公務員制度に準じている」ならば、効率化の可能性はより低く、経費削減のためには非常勤職員を多用しなければならず、そのこと自体は望ましくはないとしても、「非常勤職員を使うのであれば、直営で実施したほう」が問題は生じない。他方で、総務省関係者が述べるように申請等関係事務処理法人へ包括的に委ねることにより費用削減を生み出すのであれば、窓口業務にも民間委託等の業務改善を実施している自治体の経費水準を地方交付税の基準財政需要額の算定に反映する「トップランナー方式」が採用されることによって、多くの自治体がその活用を事実上強制されることになる懸念もある。

現在でも依然として窓口業務の民間委託が推進されている。しかし、その問題点や困難性が繰り返し指摘されており、今回の法改正は、窓口業務の民間委託の延長線上にあるものとはいえ、まさに民間委託の限界を明示的に示したことにこそ意義がある。

むしろ、自治体に必須の窓口業務は、自治体が自ら責任をもって担当するほうがメリットが大きいと考えられる。

【注】

  • 1 総務省関係者の説明として、長岡丈道・前田茂人・野路允「地方独立行政法人法の一部改正について(一)」地方自治838号(2017年)46㌻以下から同845号(2018年)30㌻以下までの8回連載の解説、その他、塩川徳也・細川敬太・陸川諭「2017年地方自治法等改正の具体的内容」『自治実務セミナー』663号(2017年)7㌻~11㌻参照。国会審議を含め、議論状況に関しては、其田茂樹「地方自治法等の一部を改正する法律(平成29年法律第54号)─地方独立行政法人法改正部分に焦点を当てて─」『自治総研』470号(2017年)63㌻~87㌻が詳しい。
  • 12 榊原秀訓「市場化テストと自治体」三橋良士明・榊原秀訓編著『行政民間化の公共性分析』(日本評論社、2006年)257㌻~258㌻。
  • 13 榊原秀訓「行政サービスのアウトソーシングとインソーシング」同『地方自治の危機と法』(自治体研究社、2016年)163㌻~164㌻も参照。
  • 14 自治体アウトソーシング研究会編著『Q&A自治体アウトソーシング(改訂第2版)』(自治体研究社、2005年)66㌻。
  • 15 豊島明子「地方独立行政法人制度と地方自治」三橋・榊原・前掲注(2)241㌻~2242㌻。
  • 16 村上博「第31次地制調答申と地方独立行政法人」自治労連・地方自治問題研究機構『研究と報告』110号(2016年)参照。
  • 17 福島功「地方独立行政法人への窓口業務委託解禁は自治体にどんな影響を及ぼすか」『季刊自治と分権』68号(2017年)92㌻。
  • 18 自治体間連携にかかわって、榊原秀訓「地方分権論と自治体間連携」岡田知弘・榊原秀訓・永山利和編著『地方消滅論・地方創設政策を問う』(自治体研究社、2015年)47㌻~48㌻参照。
  • 19 武藤博己「行政サービスを外部化する場合の課題」『都市とガバナンス』27号(2017年)43㌻。
  • 110 武藤博己「地方独立行政法人の業務への窓口関連業務等の追加」『地方議会人』48巻3号(2017年)25㌻~26㌻、28㌻参照。
榊原 秀訓

1959年静岡県生まれ。1982年名古屋大学法学部卒業、1987年名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。近著に『地方自治の危機と法』自治体研究社2016年。