【論文】国保の都道府県単位化―愛知県内市町村の状況と課題―

  • 西村 秀一(にしむら ひでかず)
    愛知県社会保障推進協議会副議長

2018年10月22日

月刊『住民と自治』 2018年10月号 より


国保都道府県単位化が「激変緩和」でスタートしました。国民皆保険制度を下支えする国保制度を守るにはこれからが大変です。市町村での滑り出しの状況を見て、次に向けた課題を考えます。

2018年は、国民健康保険制度(以下、国保)の都道府県単位化が実施され、4月から順次国民健康保険証も、市町村名国民健康保険証から都道府県名国民健康保険証に移行します。1961年の国民皆保険制度発足以来初めての大改革となりました。

加えて、新たに、第7次地域保健医療計画(6年計画)、第7期介護保険支援事業計画(3年計画)、第3期医療費適正化対策(6年計画)がそれぞれ、都道府県単位でスタートする、医療・介護再編システム始動の年です。

いずれもが「持続可能な社会保障制度を目指して」のお題目で、新たな制度や計画が定められてきましたが、国の責任と財政支出を極力抑え、その分を都道府県と市町村に押し付けようとする動きとして見て取れます。

国保については、2018年1月に都道府県が各市町村の納付金と標準保険料を決定し、それを受けて各市町村では同年3月までに必要な条例改定を含め、保険料徴収方法などが決定されました。

現在は各市町村で本算定による保険料が算定され(=調定額が決定され)、被保険者への通知が行われています。愛知県では7月までにほとんどの市町村で通知を終えていますが、全市町村の状況を把握できるのは9月初旬となります。

ここではこれまでに把握した愛知県内の27市町村の状況を類型的に整理し、これからの国保の課題を考えてみます。

都道府県単位化の到達点の確認
─引き続き国の財政支援強化は必要─

国保制度の都道府県単位化の方針は、小泉内閣の医療保険制度抜本改革の1つで、2003年3月に決定した「政府基本方針」の「保険者の統合・再編」を出発点としています。民主党菅内閣のもとでの、「高齢者医療制度改革会議」報告(2010年12月)で、2018年度をめどに運営主体を都道府県に移すとしました。そして2015年の「医療保険制度改革関連法」成立でレールが敷かれました。

この15年間の経緯は、小泉内閣により社会保障改革が強行されるなかで、国保運営に負担と不安を感じる市町村と、国保に対する責任を都道府県に押し付けようとする政府、これに対して抵抗する都道府県という構図のなかで、着地点を探る「攻防」でした。

とくに2010年の「高齢者医療制度改革会議」では、全国知事会代表で会議のメンバーであった神田真秋愛知県知事(当時)は、「国の財政責任についての覚悟が見えない」「国保の構造的課題への対応策が議論されていない」と強く迫り、会議欠席戦術もとりました。

こうした攻防のなかで、2015年1700億円と2018年1700億円、合わせて3400億円の国からの「持参金」と、保険者は都道府県と市町村の両方という役割分担での運営で、都道府県単位化に踏み切ることとなりました。

国は市町村の一般財源繰り入れの解消を求めましたが、都道府県の納付金の試算では大幅な保険料引き上げが生じ、国は新たに「激変緩和」措置を講じ、また市町村の一般財源の繰り入れの「維持」を容認せざるを得なくなりました。しかし次年度以降を考えると、決して「軟着陸」とはいえません。

愛知県議会は2016年12月、「今後の医療費の伸びに耐えうる財政基盤の確立を図るとともに、国が責任をもって必要な財源を確保すること」を求める意見書を提出、さらに国の財政支援強化を求めています。

国保の「構造的問題」と県の市町村に配慮した2つの対応

(1)国保の持つ「構造的問題」の確認

都道府県単位化にあたって、愛知県国保運営協議会では、国保の持つ「構造的問題」が議論されましたが、確認しておきます。

ア 年齢構成が高く加入者一人当たりの医療費が高い-65歳から74歳の割合は、国保は全国で37・1%、それに比べ協会けんぽは6・1%、健保組合は2・9%です。

加えて加入者一人当たりの医療費は、協会けんぽ16・7万円、健保組合14・9万円ですが、国保は全国で33・3万円です。

イ 所得水準が低く保険料負担が重い-2014年度で見ると、年間所得200万円未満の割合は、国保は全国では78・8%、協会けんぽ15・1%、健保組合5・7%です。所得に対する保険料負担率は、国保は13・8%、協会けんぽは9・92%(愛知県)です。

国保加入者は、発足当初の農林水産業および自営業者主体から、今日では無職者(主に年金生活者)の割合が高くなっています。2015年で前者が13・0%で後者が37・0%。退職後に75歳からの後期高齢者医療制度に移行するまでの間、国民のほとんどが通過点として加入するものとなっています。

(2)高い保険料は国庫負担削減によるもの

国保には、被用者保険にある事業主負担がありません。そこで1966年以降国庫負担を医療費総額の45%(40%+調整交付金5%)まで拡充しました。

1984年の医療保険改革で、国保国庫負担率を総医療費の45%から保険給付費の50%(総医療費の37・5%)へ引き下げられました。

その後老人保健制度への拠出金見直しなどの財源を国庫負担に戻すことなどがなく、2000年ごろには国庫負担はわずか総医療費の20%程度となっています。

2008年後期高齢者医療制度発足で30%台に戻り、都道府県調整交付金の改善などを経て、2015年の保険者支援制度拡充(1700億円)によって37%近くまで戻りました。

「高い保険料」は、国庫負担削減によるもので、今回の若干の支援ではなお復元には至らず、しかも定額負担で今後の医療費の伸びに対応できるものではありません。

(3)県の市町村に配慮した2つの対応

愛知県は県国保運営協議会への、被保険者代表の公募枠を設けている、数少ない県のひとつです。また市町村との関係でも、比較的民主的な対応がなされています。

「国保運営方針」や「国保事業費納付金等の算定」で、これまでの市町村連携会議や国保運営協議会での議論も踏まえ、市町村の独自性を尊重した方針を2つ持っています。

1つは、国が方向として示している保険料水準の統一について、「当面は保険料水準の統一は困難」とし、「納付金の算定においては市町村ごとの医療費水準を全て反映する」、「市町村ごとの標準保険料については、当分の間、現在の医療費水準を反映する設定を原則とする」としていることです。

2015年度の県内市町村の一人当たり医療給付費には1・7倍の格差があり、保険料水準の統一をめざせば、医療費水準の低い市町村の保険料負担が大きく増加する問題が生じるとしています。医療給付費の格差の多くの部分は、地域の医療供給体制の状況によって生じており、県の判断は賢明といえます。

また県が提示する標準保険料は、保険料は市町村が独自に決めるもの、参考程度のものとしています。算定方式は、所得割・均等割・平等割の3方式としましたが、これも市町村へ押し付けるものでないとしています。

2つは、「赤字解消・削減に向けた取組の方向性」で、「一般会計繰入金(法定外)のうち、決算補填等目的の額については、保険料(税)の急激な変化がないように配慮しつつ解消に努める」としました。

そして「目標年次設定の考え方」では、保険料の収納不足による赤字は5年以内の解消・削減をめざすとしましたが、この対象はわずか3自治体のみでした。

しかも「決算補填等目的の額(保険者の政策によるもの)」は、「赤字市町村の政策的判断等の背景や実情等を踏まえ、計画的な解消・削減ができるよう、県と赤字市町村が個別に協議する」と期限を明記しませんでした。

「保険者の政策によるもの」には「保険料の負担緩和を図るため」として、県内では54市町村中35の自治体が独自の施策を講じており、市町村に配慮した対応です。

県民のパブリックコメントへの回答のなかでも、県は一般会計の法定外繰り入れについて、衆院厚労委員会で「市町村が判断すること、制度によって禁止することはできない」との答弁のあることに触れています。

国の「激変緩和」措置の不足分を市町村の「分かち合い」で賄う

愛知県の納付金の本算定では、2018年度拡充財政支援約1700億円のうち約1600億円分を見込み(愛知県分125億円)、これに「激変緩和」措置として愛知県分で14億円が上積みされました(残りの100億円は市町村へ努力支援として交付)。

本算定結果は、県全体で保険料収納必要額(「激変緩和」措置後)2071億円、一人当たり納付金額13万1551円、2016年度決算比較101・11%の伸び率です。

納付金での「激変緩和」措置は、増加率上限を医療給付費等自然増(2016年度~2018年度103・94%、単年度=対前年度比101・95%)の範囲に抑えることとしました。激変緩和の対象は54市町村のなかで31自治体(57%)が該当しました。激変緩和前は対2016年度伸び率が最高の自治体は147・10%の伸びですが、103・94%(対前年度比101・95%)に抑えられました。

しかし、「激変緩和」措置への直接的な国庫負担は14億円で、これでは上限を抑える財源は約8億円不足(筆者推計)し、その分は納付金の伸び率の低い市町村からの「分かち合い」で賄うとしました。

一番低い89・59%(激変緩和措置前)となる自治体は89・84%(同措置後)と、0・25%が「分かち合い」に拠出することとなります。これら23自治体は、医療給付費が低いにかかわらず負担が重くなり、「平準化」に近づきます。国庫負担の手当てだけで「激変緩和」措置を賄えなければ、「軟着陸」とはいえません。

次年度以降の「激変緩和」は、2018年度から投入される1700億円のうち300億円程度を、追加激変緩和のための「暫定措置」として都道府県に基金を設け、これを原資として対応する、その期間は6年間としています。これも国が手を引く手法としか思えません。

「だれもが払える保険料に」は、市町村での実際の対応が課題

(1)県内市町村の実際の対応の特徴 保険料水準維持でも法定外繰り入れは必要

2018年度から市町村は、納付金から公費分を差し引いた県への納付額=標準保険料総額分と、保険事業など市町村の給付分を合わせて、市町村独自の被保険者への保険料賦課額を決定する、新たな国保財政確保を行うこととなりました。

愛知県の場合、算定3方式(所得割・均等割・平等割)にもとづく標準保険料はあくまでも参考で、市町村が資産割を入れた4方式や、所得割・均等割の2方式で対応することもかまわないとしています。また一般会計からの法定外繰り入れも、拒むものではないと独自性を尊重しています。

こうした県の方針を受けた2018年度の市町村の実際の対応の特徴を、2017年度との比較で見ます。愛知県には54市町村ありますが、2018年7月末現在で筆者の手元で判明している27自治体の範囲で傾向を探るにとどまることを了承ください(表参照)。

表 2018年度の愛知県27市町村に見る国保の法定外繰り入れと保険料の状況(対2017年度比)
表 2018年度の愛知県27市町村に見る国保の法定外繰り入れと保険料の状況(対2017年度比)
出典:愛知県国保交流集会での西田静雄氏の報告資料などをもとに、筆者作成。

1人当たり平均保険料は、12自治体が引き上げ、10自治体で引き下げました(5自治体は未定)。また9自治体が一般会計からの法定外繰り入れを増やし、12自治体で引き下げました(3自治体は同額)。法定外繰り入れのない自治体は3自治体ですが、これは2017年度もなく2018年度で廃止したものではありません。

碧南市、尾張旭市、東郷町では、一般会計の繰り入れを増やして保険料を引き下げています。碧南市では繰り入れを1万57円増やして、保険料を4815円減らしています。

また長久手市、小牧市、犬山市は繰入額を増やしていますが、保険料は引き上げています。長久手市は1万2241円増やし、27自治体のなかで一番多い3万1308円の繰入額となっていますが、保険料は2・2%の引き上げです。

逆に繰入額を減らした安城市、蒲郡市、稲沢市、清須市、北名古屋市では、保険料が引き上げられています。とくにこれまで県内で最高の繰り入れを行ってきた清須市は、3万8477円から2万6481円へ1万1996円減額し、保険料を5・1%引き上げました。また安城市でも繰入額を5151円減らし保険料を4・7%引き上げました。

前述しましたが愛知県は、2018年度納付金の増加上限率を101・95%としましたが、保険料を引き上げた12自治体のうち10自治体は、上限を超えています。

なかでも武豊町は、11・5%の保険料の引き上げとなっていますが、法定外繰り入れを行っていません。説明としては2016年度からはマイナス6・1%となるとしていますが、2017年度からは9049円もの引き上げで問題です。

2018年度の県内市町村の対応を見ましたが、いずれにしても6年間の激変緩和措置期間においても、市町村の一般財源繰り入れが十分行われない限り、保険料の引き上げを抑えることができないことは明白です。

また県が標準保険料の算定方式から資産割を外しましたが、2018年で資産割を廃止したのは9自治体で、27自治体のうち17自治体は資産割がなくなりました。資産割存続の自治体も全自治体で料率を引き下げています。その分はほとんどの市町村で、所得割と均等割の引き上げとなっています。

(2)国保改善の課題─主戦場は市町村
せめて協会けんぽ並みの負担に

国保は国民皆医療保険制度を下支えする制度であり、これから漏れる人が出ることは、皆保険の崩壊につながります。したがって、国・都道府県・市町村の取り組みによって、「だれもが保険証を持つ」「だれもが払える保険料」にすることが基本です。

第1は、所得に対する保険料負担の割合を、せめて協会けんぽ並みの負担に引き下げること。そのため国庫負担の医療給付費に対する負担を定率で引き上げることを、県も市町村も一層強く要求することです。

それが実現しない段階では、都道府県や市町村での一般会計の独自繰り入れで、国保料を引き下げることが、県や国への負担を求めるうえでも必要です。

長久手市は、標準保険料率まで5年間で段階的に引き上げる方向を、国保運営協議会で示しました。その引き上げ率も、2018年度2・2%、2019年度10・8%、2020年度10・0%、2021年度9・3%、2022年度8・2%と、実に1・47倍の引き上げを打ち出しています。

また日進市も国保運営協議会で、10年程度で標準保険料に到達するよう計画的に進めるとし、法定外繰入金は、健全な財政運営のために計画的な削減が求められている、これにより2700万円の保険税増収ができ、法定外繰り入れの削減ができるとしています。こうした方向ではなく、法定外繰り入れを続け保険料引き上げを抑制することが必要です。

名古屋市は、「現行保険料水準を維持し、医療費の自然増による増減はあっても、制度変更による保険料の値上げをしないこととし、各種の保険料軽減や減免制度は継続する」「一般会計からの繰り入れも継続する」としています。大幅な保険料引き下げに至りませんでしたが、少なくともこの立場が必要です。

第2は、国保は「相互扶助」でなく「社会保障」であるとの立場を貫き、国保の構造的問題から生じている、膨大な滞納問題などへの対応を間違えないことです。

①資格証明書発行の廃止、短期保険証の発行の改善、②保険料および一部負担金減免制度の改善などに、県と市町村が協力して組むことです。とくに「子どもの保険料均等割」に対する減免を設けさせることが大切です。

県内では一宮市で18歳未満の均等割30%減免制度がありましたが、2018年度から新たに、大府市で18歳年度末までの均等割を1人目20%、2人目50%減免、田原市で未就学児の均等割30%減免が実施されました。

収納率が競われ、名古屋市では保険料の差し押さえが、2006年度は24件でしたが2016年度には4409件に、2017年度は5878件と急激に増えています。人権侵害が行われていないか、調査も必要です。

愛知県社会保障推進協議会では、2018年10月下旬に県内53市町村へ、11月に名古屋市と愛知県へキャラバン要請行動で、とくに国保問題を重点課題とし、一般財源の繰り入れを続け、高い国保保険料の引き下げを要請します。地域からの運動が、国保都道府県単位化のスタート1年目の時点で、国保改善への道につながることを願うものです。

2018年10月22日

月刊『住民と自治』 2018年10月号 より

  • 西村 秀一
    西村 秀一(にしむら ひでかず)
    愛知県社会保障推進協議会副議長

    1946年生まれ。日本福祉大学卒業。元愛知県保険医協会事務局長。東海自治体問題研究所理事。2017年3月から愛知県国民健康保険運営協議会被保険者(公募)委員。

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