【論文】明石市の障害者職員採用の取り組みから


兵庫県明石市では、明石市障害者差別解消条例の検討に伴い、本市の障害者職員の採用募集について大きな見直しを図り実施しています。その取り組みから見えてきた課題について報告いたします。

取り組みの経過

本市では、「障害者差別解消法」(2013年)の制定や「障害者雇用促進法」の改正(2013年)などを踏まえ、身体障害者を対象とする職員募集を、2013年度に初めて実施しました。その後、国の障害者差別解消法の施行(2016年4月1日)にあわせて、2015年5月から明石市障害者差別解消条例をつくるための検討会を設置し、同検討会において事務局から今後の障害者職員の採用に関する検討状況を報告しました。報告の趣旨は、本市で障害者差別解消の取り組みを進めていることを踏まえ、これまでの身体障害者だけに限定した障害者職員の採用の対象を見直す必要がある、ということでした。

検討会では、知的障害者と精神障害者の家族会の委員から見直しの趣旨は大変いいことだが、地方公務員法第16条に後見人などを付けている障害者は判断能力が低いとみなされ、公務員になれないという欠格事由があるため、それに該当する一定数の障害者はこれまでと同様に募集の対象から除外され門前払いになってしまうことは変わらないので、その点を何とか乗り越えてほしいという意見がありました。

どのように考えたか

こうした意見を踏まえ、地方公務員法第16条(別掲1参照)を検討するなかで着目したのは、この条項では「条例で定める場合を除くほか」と書かれていることから、これを素直に読めば、「成年被後見人又は被保佐人」であっても、条例で、所定の「競争試験若しくは選考」により地方公務員になることができると定めれば、法律違反とまでにはならないのではないか、という点でした。(明石市の条例は別掲2参照)

報道関係の一部からは「財産管理をできない人が本当に公務員の仕事ができるのか」という質問を受けることもありましたが、単純な入力作業や資料の作成・整理などであれば、こつこつと作業し正確にこなせる人もいるので、その人の障害の状態と適性に対する必要な合理的配慮によって求められている業務ができるかを判断すべきであり、財産管理ができないこととイコールではないことを説明しました。

別掲1
別掲1
別掲1
別掲2

新しい職員募集の結果から見えてきた課題

最初の取り組みとして、2015年11月に障害者および家族の全国団体宛てに次のような協力依頼の文書を泉房穂明石市長名で送付しました。その文面は次のとおりです。

「障がい者対象職員採用試験」の周知にかかる協力について(ご依頼)

「平素は、本市の市政推進に格別のご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。

本市では、障がい者の就労支援及び雇用促進等について、重要な課題と認識し、法定雇用率の順守はもとより、先導的な役割を担うべき地方自治体として、障がいの種別、程度等にかかわりなく、障がい者の自立と社会参加のさらなる促進を図るため、身体のみならず、知的・精神障がい者、発達障がい者並びに難病患者など、できる限り門戸を広げた形で採用試験を実施し、障がい者の意欲・能力・適性を活かした、積極的な雇用に努めていく考えです。

つきましては、本市の職員採用試験の周知を広く行うため、各方面に情報提供させていただいておりますので、可能な範囲で、周知にかかるご協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。」

このような周知・協力の依頼による全国募集(2名の採用)の結果、93人の応募者(2次試験で10人に絞られる)があり、初めての取り組みとして大きな関心と期待を引き起こすものとなりました。また、募集案内では、試験や面接などにおいて障害に応じた配慮が必要な場合には、申込者に所定の書類に記載してもらい事前に人事課と相談しながら準備を進めました。さらに第一次面接では、知的・精神・発達障害の家族会の役員さんにも面接官になっていただくなどの協力を得ることができました。

2013年に実施した身体障害者限定の職員募集と2015年に実施の同募集を比較した結果については22ページの表をご参照ください。

表 明石市の障害者を対象とする職員採用試験の実施状況(概要)
表 明石市の障害者を対象とする職員採用試験の実施状況(概要)
出典:明石市職員室担当課資料に筆者一部追記

2015度実施の障害者職員募集では、障害種別を限定しない全国でも初めての取り組みであったことから、とくに知的障害・発達障害などがある人を対象にした試験および採用方法などについて改善の必要性があったと思われます。

その後、2017年度にもあらためて職員募集を行った際には、「2015年度実施」の結果を踏まえて見直しを行い、3点の変更(①「2015年度」の応募人数などを踏まえて、2段階の選考とするため2次試験を実施する、②他の採用試験と同様に、正規職員と任期付職員の試験内容を区別する、③採用内定後に、配属を決定する上での参考とするため、適性検査を実施する)を実施し改善に取り組んでいますが、引き続き知的障害・発達障害などがある人を対象にした試験および採用方法などについては課題になっています。

今後の課題としては、以下のことが挙げられます。

  • ア 障害種別ごとに、採用時(試験、面接など)と採用後の具体的な業務内容に関する合理的配慮に関する対応を一体的な課題として考え、採用後には、障害者職員の意向に関する聞き取りを丁寧に行い、同職員が所属する部署の職員の必要なサポートができる体制づくりを進めること
  • イ 上記のサポートを職場の具体的な合理的配慮に関連する仕事の切り出しなどにおいて適切に行うために、本市における差別を解消するための障害者配慮条例により設置された関係相談窓口(福祉総務課障害者施策担当、基幹相談支援センター、発達支援センター、障害福祉課)との情報共有と対応のあり方について協議ができる庁内のフォローアップの仕組みを位置づけていくこと
  • ウ 障害のある人の就労と生活をサポートする相談支援事業所やハローワーク明石などの就労支援機関の協力を得て、積極的に障害者雇用に取り組み好事例の実績を蓄積している企業の視察などを実施し、市の障害者雇用の取り組みに生かしていくことなどです。

改正障害者雇用促進法の活用が必要

障害者差別解消法第13条では、「事業主による措置に関する特例」として「行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)の定めるところによる。」と定められています。つまり障害者差別解消法では、雇用における差別の禁止は障害者雇用促進法で対応することとされており、障害者雇用促進法に差別禁止を盛り込んだ法改正が障害者差別解消法と同時に制定・施行されています。

改正障害者雇用促進法では、差別解消法と同様に、二つの差別(障害を理由とする不当な差別的取扱いと合理的配慮が過重な負担なく提供できるにもかかわらずしないこと)を定めており、具体例はおおむね次のようになります。

【障害があることだけを理由にして、不当な差別的取扱いを行うこと】

●募集・採用時

身体障害、知的障害、精神障害、車いすや補助犬の利用、人工呼吸器の使用などを理由として採用を拒否すること

●採用後

  • ・賃金を引き下げること、低い賃金を設定すること、昇給をさせないこと
  • ・研修、現場実習をうけさせないこと
  • ・食堂や休憩室の利用を認めないなど

【合理的配慮の不提供】

●募集、試験、採用の配慮

  • ・募集内容について、音声等で提供することや問合せ先のFAX、メールアドレスを明示すること(聴覚障害)
  • ・採用試験の点字や音声などによる実施、面接時に就労支援機関の職員などの同席を認めること(視覚障害、聴覚障害、知的障害、発達障害、精神障害など)

●採用後の配慮

  • ・机や作業台の高さを調整することや移動の支障となる物を通路に置かない(車いす使用)
  • ・出退勤時刻、休暇・休憩に関して、通院・体調に配慮すること(難病、内部障害)
  • ・できるだけ静かな場所で休憩できるようにすること(精神障害)
  • ・本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと(知的障害)
  • ・絵図などを活用した業務マニュアルを作成し、業務指示は内容を明確にし、作業手順を分かりやすくすること(知的障害、発達障害)
  • ・職場の会議で、必要な場合には手話通訳者・要約筆記者を配置・派遣する(ろう者、難聴・中途失聴者)など

これらのような改正障害者雇用促進法の内容をよく理解し使いこなしていくことが、「人にやさしいまちづくり」をかかげる本市の課題であり、民間事業主への率先垂範の役割を積極的に果たしていくようになることが求められています。

障害のある人が働きやすい職場は、だれにとっても働きがいのある職場です。そうなっていくことを目指していきたいと思います。

金 政玉

1998年障害者インターナショナル(DPI)日本会議障害者権利擁護センター所長。2010年内閣府障がい者制度改革推進会議担当室の政策企画調査官。2014年から現職。