【論文】第24回全国小さくても輝く自治体フォーラムin南牧村報告


「自治体戦略2040構想」と「移住・定住・定着」
宮下聖史
(立命館大学共通教育推進機構講師)

日本一高齢化の進んだ村に120人余りを集めた今回の「フォーラム」の概要を報告します。

■一日目─記念講演

2019年10月4日(金)~5日(土)、群馬県南牧村において、「第24回全国小さくても輝く自治体フォーラムin南牧村」が開催されました。まずは、今回の南牧村フォーラムを含めて毎年の開催に尽力していただいております関係各位に深く感謝申し上げます。

さて、今回の会場となった南牧村は、群馬県の西南端に位置し、人口1803人、世帯数992戸(2019年10月末)、高齢化率は日本一高く約60%に上ります。いわゆる「地方消滅論」では、全国で最も消滅の可能性が高いことが示されたようですが、これを逆手にとって、「幸齢者日本一の村」を目指して各種の取り組みが進められています。

一日目の全体会は、長谷川最定・南牧村村長と全国小さくても輝く自治体フォーラムの会会長である藤澤直広・滋賀県日野町長のご挨拶に続き、専修大学の白藤博行先生による記念講演「小さな自治体のしなやかな自治は、『自治体戦略2040構想』の自治破壊に負けない」と、群馬県川場村のむらづくりや群馬県内の移住者を中心としたリレートークが行われました。

記念講演では、「自治体戦略2040構想」の特徴とその背景にある政策論理に関わる諸問題についてお話をいただきました。周知の通り、本フォーラムは、市町村合併の嵐が吹き荒れるなかでこれに抗い、連携する運動として16年の歴史をもっています。「平成の大合併」によって市町村の数は半数近くに減りましたが、合併が進んだ地域、進まなかった地域のあり方は多様であり、これを補うように、「定住自立圏」や「連携中枢都市圏」が重ねられてきました。そのような積み重ねのうえに総務省の「自治体戦略2040構想研究会」が2018年4月と7月、「人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか」というサブタイトルの報告書を取りまとめ、第32次地方制度調査会で審議されています。

白藤先生の講演のポイントは、第1に、日本国憲法における地方自治の意義、第2に圏域マネジメントと機能的自治、第3に「スマート自治体」、第4に「全体最適」と「個別(部分)最適」のあり方、です。

概要を整理すると、民主化の手立てとして日本国憲法において地方自治が保障されたこと、地方自治の本旨によれば自治体の個性が尊重されるべきであり、20年前の地方分権改革によって機関委任事務が廃止され、ようやく分権から自治へというところで「個別最適」を否定する「全体最適」という「自治体戦略」が打ち出されたこと、これは地方自治つぶしであり、自治体行政の標準化・共通化を謳う「スマート自治体」は「自前主義」を放棄せよという内容であるという指摘がありました。圏域マネジメントと二層制の柔軟化については、圏域の範囲がはっきりしないこと、そしてこれは市町村合併による「区域の合併」から「機能の合併」へと軸足を移したものであること、憲法には二層制についての記述はないので、道州制も300市構想も地方自治法の改正で可能になってしまうことなどの問題点が示されました。最後に、私たちはAIを活用しながらしなやかに生きていかなければならない、そのために「個別最適」に奉仕する地方自治、小さな自治体の大きな自治が必要であるという提起がされました。

このように白藤先生のご講演からは、いくつかの重要なキーワードが示されました。聞かせていただいたなかでは上記の「自治体戦略2040構想」が、「区域」の合併から「機能」の合併をもくろむものであるという点が最も印象に残りました。また、「全体最適」と「個別(部分)最適」という用語は、改革派のオピニオンリーダーや経営マネジメント論者の間で使用されるようになった一種のトレンドワードのようです。いったんその言葉を受け止めたうえで、私見では、ここでいう「全体」と「個別」は相互に関連するものとして捉え、そのダイナミズムに着目することで生産的な議論が可能になるものと考えています。例をあげると、一般に大都市部よりも地方・農山村の方が出生率は高く、こうしたメカニズムを把握しながら、地方のポテンシャルを再評価するといった視点の必要性などです。

■一日目─リレートーク

記念講演のあとは茨城大学の牧山正男先生のコーディネートによるリレートークが行われました。

群馬県川場村の外山京太郎村長、群馬県に移住した4名の方々、そしてフォーラムの会会長の藤澤町長の6名が登壇しました。牧山先生からは、南牧村の第2期総合戦略の策定に関連して、移住・定住のプロセスづくりとしての「関係人口」等についての報告があり、これを受けて登壇者の皆さんからそれぞれの立場、経験からの報告、発言がありました。

当日の配布資料に掲載された内容からかいつまんで紹介すると、「田園理想郷」を掲げる川場村からは「農業プラス観光」、「都市交流事業」、「田園プラザ事業」、「木材コンビナート事業」、「新拠点構想」について、また南牧村移住者の五十嵐亮さんからは、「目的持参型移住について」、「片品村地域おこし協力隊」OGの中村茉由さんからは、移住・定住に加えて「定着」の視点を加えることが提起されました。中村さんからは、この「定着」を実現させるための「村ガールプロジェクト」という、20代~30代の女性が自分らしく幸せな暮らしをつくるための移住に関わるアクションプランの実施(「上毛新聞」2019年11月9日参照)についての提案もありました。これに即して各地の地域おこし協力隊の受け入れや定住状況についての紹介がありました。

ライフスタイルが多様化したこんにちでは、私たちは自らのライフスタイルを自覚的に作り上げていくことが求められます。その意味で「目的持参型移住」という捉え方は興味深く、「村ガールプロジェクト」の提案も合わせて、かかる現場からの声も受けて、豊かな社会生活の内実を言語化していくことは、先の「自治体戦略2040構想」に対峙していくうえでもこれからの課題といえるでしょう。

リレートーク
リレートーク
夕食交流会
夕食交流会

第1分科会「移住・定住」の報告
宮下聖史
(立命館大学共通教育推進機構講師)

フォーラム2日目は①移住・定住、②地域資源活用・地域振興、③都市・農村交流、④町村長交流会という4つの分科会が実施されました。このうち、①移住・定住分科会の概要と若干の所感を述べさせていただきます。

まず、牧山先生からの問題提起「小規模市町村にとっての『移住・定住』を考える」がありました。そのなかで、「地方消滅論」のカウンターパートとしての「田園回帰」が注目されるなか、移住促進施策が①空き家バンク、②補助金等、③分譲地等の紹介、④お試し暮らし、⑤就農支援、⑥体験ツアー、⑦助言・交流組織の7つに定義されました。その後東日本での各市町村の悉皆調査の結果が示され、移住者の「数」ではなく「人」を見ることの観点から、お試し暮らしの活用の提案がありました。また、2年前の鳥取県岩美町フォーラムの際に記念講演のメインテーマでもあった「田園回帰1%戦略」を引き合いに、移住者確保は少しずつ継続することが重要であること、さらに子どもへの心配りとして保育園や小中学校だけではなく、高校、大学への進学を想定した施策の展開が必要である旨の報告がありました。この点は、前日のリレートークで中村さんが提起した「定着」につながる視点であり、今回のフォーラムの軸となる論点になりました。

続く事例報告は、開催地である南牧村、3年前のフォーラム開催地である高知県馬路村、昨年の開催地である北海道訓子府町の3町村からいただきました。「南牧村の明日の南牧を創る会」の宮下雄基さんからは役場と「南牧山村ぐらし支援協議会」が連携しながら移住・定住を進めている取り組みについて、馬路村副村長・中嶋健次さんからは、交流人口の拡大に向けた取り組みや地域おこし協力隊の雇用などについて、それぞれの成果が報告されました。訓子府町の菊池一春町長からは、確かな首長・議会を住民が支えることが、小さくても輝く自治体の課題であるとの力強い発言がありました。

今日では人口減少に直面する多くの地域で、移住促進が進められています。今回の分科会では、広い視点から行われた施策の動向と、現場の実践や成果を共有することができました。平成の市町村合併(区域の合併)は一応「一区切り」といわれています。しかしそこに新たに訪れようとしている自治体再編の波(機能の合併)を前にして、改めてフォーラムの存在意義が問われるときが来たといえるのではないでしょうか。今回のフォーラムでは、改めて24回を数えるフォーラムの歴史の積み重ねによる、思いを同じくする全国各地の皆さんとの広く深いネットワークの存在とその意義が再確認されたものと思います。


第2分科会「地域資源活用・地域振興」の報告
水谷 利亮
(下関市立大学教授)

■5つのチェック・ポイント

第24回全国小さくても輝く自治体フォーラムの第2分科会は、「地域資源活用・地域振興」をテーマに、2019年10月5日の午前9時から10時40分まで、南牧村役場の多目的ホールで開催され、参加者は約30人でした。

まず、助言者の槇平龍宏さん(大月短期大学教授)が、「地域経済振興の基本的な考え方を学ぶ」という内容で、持続的な経済振興についての総論的な考え方と具体的な方法論的視点について話されました。地域経済には、稼ぐ産業の「基盤産業(域外市場産業)」と、生活を支える「非基盤産業(域内市場産業)」があるとして、両方がうまくまわり地域が賑わい持続的な経済振興が創り出されるための5つのチェック・ポイントが提示されました。

①基盤産業として域外マネーを獲得している産業は何か、②基盤産業は持続的・安定的か、③基盤産業で生み出された付加価値は域内に落ちているか、④非基盤産業は所得を生み出しているか、⑤再投資は域内で行われているか、といったものです。

■元気づけられた、取り組み報告

その後、小さくてもキラリと光る自治体の具体的な取り組みについて、3名の町村職員の方から報告がありました。

佐藤伸さん(群馬県上野村振興課)からは、「上野村における木質バイオマスエネルギーの活用」として、未利用材を活用して製造した木質ペレットを、村内の多様な施設や家庭で熱利用するとともに、村の木質バイオマス発電施設で利活用することで、村外から購入していたエネルギーの一部を村内でまかなうエネルギーの地産地消の取り組みについて報告がありました。

山本嘉光さん(群馬県中之条町企画振興課)からは、「地産地消と地産外消の両立に向け」、「再生可能エネルギーのまち中之条」宣言を基礎に、「小さな自治体ならではのスピード感」を大切にしながら、持続可能な循環型社会や低炭素社会の実現をめざして、再生可能エネルギーを積極的に活用している取り組みについて報告がありました。

近藤諭士さん(高知県大川村むらづくり推進課)からは、「大川村プロジェクトの全体像」として、「土佐はちきん地鶏」の生産・販売の拡大による産業振興と、「小さな拠点」の集落活動センターを開設して高齢者の移動や買い物などの生活支援、廃坑などの地域資源を活用した観光交流施策による観光振興・交流人口の拡大について報告がありました。

小さな自治体のチャレンジし続ける取り組みに元気づけられ、勇気づけられた分科会でした。


第3分科会「都市・農村」の報告
山口誠英
(とちぎ地域・自治研究所)

「都市・農村交流」分科会は約20名の参加で、高崎経済大学片岡美喜教授の問題提起のあと3町村から事例報告がありました。

■問題提起「農業・農村の多元的価値─都市農村交流のこれからを考える」

都市・農村交流は、1990年代以降進展し、2000年の新農業基本法にグリーンツーリズムが位置づけられるなど一般施策として多様な形態・幅広い取り組みが展開されてきました。農業・農村にはさまざまな教育的効果があり、近年、都市農村交流の必要性や都市住民の農山漁村への定住願望が高まっています。都市農村交流の「第一世代」のリタイアの時期に入り、担い手の確保、ノウハウやナレッジの継承、現代的ニーズや状況に合わせた多面にわたるブラッシュアップなどが地域サイドにおける課題となっています。営農することが価値をもつ時代から、意図して営農環境・営農システムを作り守っていく時代になってきています。実践では、農村側、都市側双方の「ギャップ」をいかに埋めるかが重要になっています。

■群馬県神流町(総務課・黒澤英雄さん)

2009年から毎年「トレイルランニングレース」を開催しています。17の地域団体、総勢400名のボランティアで運営し、全国から800名近くが参加しています。「民泊」や手作りのオリジナル参加賞、郷土料理の提供などでとことん神流町らしさを追求しています。町民が誇りと元気を持ち「活力ある町」に変化してきています

■群馬県川場村(村づくり推進課・戸部正紀さん)

1980年代に東京都世田谷区との交流事業を始め、交流拠点施設を整備し、運営組織を設立して事業を継続してきました。区民健康村での移動教室は、毎年、世田谷区の小学5年生6000人が2泊3日で農作業体験や村巡りなどをしています。協働による森林整備・友好の森林事業などに加えて、新たな交流事業として木質バイオマス発電の世田谷区への電力供給なども始めています。

■滋賀県日野町(商工観光課・中江 凌さん)

田舎体験「民泊」に取り組み、10年間で累計3万人超の学生、25カ国以上のインバウンド需要がありました。約150軒の受け入れ家庭では趣味や特技を生かした農業・工作などさまざまな体験を構築しています。受け入れ家庭の増加、地域商店の活性化、田舎料理を通じた食育の取り組みなどの効果があり、町全体の取り組みになってきています。

■討論

短時間でしたが、地域の担い手・人材の育成方策などについて討論し、今後、相互に現状や課題などを情報交換しながら取り組んでいくことを確認して終了しました。

宮下 聖史
山口 誠英