【論文】地域医療体制と人減らしにつながるカラクリ


国を挙げての医療のダウンサイジングの強制を断じて許してはいけません。地域医療の崩壊から地域そのものが崩壊する危機であることを明らかにし、地域住民の手による、本当の「地域包括ケアシステム」を作り上げていきましょう。

「公表リスト」は公立病院の「成果主義評価制度」

地域医療構想はダメ構想です。撤回させ、真に必要な「地域包括ケアシステム」を地域から作り上げていくことが重要です。

424病院の「公表リスト」は、全国に大きなハレーションを巻き起こしています。公表リストの評価内容から、これは「公立・公的病院の成果主義評価制度」であると考えています。病院職場では職員の業務実績に対し「成果主義に基づく評価制度」が導入されており、その評価の仕方と瓜二つではないか!と感じています。その流れに沿っていくと、次は評価結果が賃金に連動する成果主義賃金であり、「公表リスト」の評価結果により、各種補助金等への連動が打ち出されてくるのではないか、という懸念が頭をよぎります。

本当に地域医療を活性化させようというのであれば、ネガティブ評価ではなく、厳しい経営状況の中でも、バージョンアップし成果を上げている病院を評価するポジティブ評価で士気を高めることが肝要と考えます。

病床削減等を強制する「必要病床数」

地域医療構想に基づく2025年の「必要病床数」119万799床を実現するためには、全国で15万6000床(約11%)の「過剰」病床を削減することが必要となります。ところが、今日の病床の運営状況は、平均在院日数の短縮、受療率の低下、マンパワーの確保困難による診療・入院制限など様々な要因で、年々減少傾向をたどっています。特に大掛かりな病床削減対策を講じなくても、すでに病床数全体では、「必要病床数」に向けて減少しつつあります。ただし、都道府県単位や、地域医療構想区域単位、4つの病床機能ごとでみると差があり、このままでは「必要病床数」に達しないことは明らかです。

厚生労働省は地域医療構想の達成に向け各構想区域に「調整会議」を設置し、公立病院は「公立病院改革プラン」、公的病院には「公的医療機関等2025プラン」の策定を義務付け、率先して公立・公的病院に病床削減の対応を求めてきました。しかし、「調整会議」で「合意済み」とされた公立・公的病院の2025年病床計画では、必要病床数への削減を達成できず、ほぼ現状維持の計画であることから、厚労省自らが都道府県及び「調整会議」での議論と確認を差し置いて、上から強制的に病床削減等を強制しようとするものです。地方自治を否定する、国の介入行為そのものです。

「公表リスト」の全体をどの様に分析・評価するのか?

「公表リスト」は、都道府県別、設置主体別、病床規模別、人口規模別などの視点から分析できますが、再検証内容は、全国339の構想区域単位で検討されることとなります。構想区域単位の「公表リスト」に着目すると、全国339構想区域別の「名指し」病院数分布(表1)は、1病院─101区域、2病院─45区域、3病院─31区域…、対象が最も多いのは8病院─3区域となっています。また、全体の約39%、132区域は名指し病院がゼロとなっています。

表1 構想区域別 名指し病院数
表1 構想区域別 名指し病院数

つまり、全国で名指しされた424病院は評価対象1455病院の約3割にも達しています。実際に再編・合理化の具体的再検証は各構想区域単位で検討が行われます。全体の4割を占める「名指し病院」のない構想区域での今後の検討はどのように行われるのか、という疑問があります。さらには、1病院のみの「名指し区域」では、今後、その「名指し病院」が「調整会議」の議論の中で、いわば「針のむしろ」状態にさらされかねない状況が危惧されます。

また、該当病院は公表しないとした人口100万人以上の構想区域の病院が全国に55病院もあり、「隠れ名指し病院」といえます。「名古屋・尾張中部」構想区域では7病院も存在しており、公表リストにある3病院と含めると10病院にもなります。

結局、すべての医療機関で「必要病床」完遂するよう再検証

厚労省による「名指し病院」への「再検証」要請の内容は、「今回の分析結果に係る診療科やそれぞれの診療科で提供する内容の変更」、「これらの変更に伴う医師や医療専門職等の配置」などを想定し、見直しの具体例として「周産期を他医療機関に移管」「夜間救急受入れ中止」「一部の病床を削減」「急性期から回復期へ転換」等まで示しています。

「名指し病院」ではない医療機関についても、「分析された各領域で診療実績が特に少ない」「類似かつ近接」に該当する場合に、「地域の実情に応じて、具体的対応方針の見直しの必要性を検討するよう求める」、「合意済みとされた具体的対応方針において機能や病床数の変更が入っていない該当病院や、現状追認病院に対しては具体的対応方針の議論を求める」としています。

全国424の「公表リスト」病院だけが再編・統合の再検証の結論を求められているわけではなく、「診療実績分析対象」病院が再検証の対象であるものの、その再検証の影響は分析対象病院内で完結するわけではなく、結局のところ民間病院も含めて、339構想区域において、全ての医療機関で「必要病床」を完遂するよう、再度計画を練り直すことが求められているのです。

見直すことを要請されて、さらにマンパワー確保が困難に

名指しされた病院は、地域から求められ、必要とされてきた医療を必死になって守ってきたにもかかわらず、「特に診療実績が少ない」「類似かつ近接している」と低い評価を下され、現状機能を見直すことを要請されました。そうなれば、少ない実績の中でも赤字であっても無理して守り続けることをやめ、成果の上がる特定分野・診療科への集約や、機能転換など、病床を削減する方向での選択の方が効率的であり、容易にできる内容です。「調整会議」で十分な検討をする前に、評価の低い分野の切り捨てやダウンサイジング経営を選択しかねないのではないかと考えます。

評価の低い診療科・領域の医師や看護師らは、厳しい勤務条件の中で働いているにもかかわらず、心が折れる状況に追い込まれ、今まで以上にマンパワーの確保に困難な状況が生み出されるのではないかと危惧されます。現に、マスコミ報道では、「内定していた薬剤師が採用直前で辞退した」(静岡県の公立病院)、「来年度からの勤務を承諾してもらった医師が『保留』になってしまった」(愛知県内の公立病院)等、すでにマンパワーの採用に影響が出ていることが明らかとなっています。

病床と医師・看護師の「需要数」推計の問題点

地域医療構想と「必要病床」の完遂は、「医師需給推計」や「看護職員需給推計」にも連動しています。ここでは「看護職員」の需要推計について問題点を指摘します。

地域医療構想の目標年次である2025年までに「必要病床」で推計された4機能区分ごとの必要病床数は、現状において達成は難しいことが予測できます。それにもかかわらず、4機能区分ごとの病床数を達成することを前提として、その病床数に4機能区分ごとの係数を掛けて需要数の推計を行っています。「高度急性期」や「急性期」病床は、現状から大幅に削減する計画です。病院の看護職員需要数は現状よりも大幅に少ない人員で構わないという推計となります。

ところが実際には、看護職員の就業先は、病院以外にも拡大している現状です。「働き方改革」に基づく年休や超過勤務の取得を加味することで、全体としては6~27万人もの看護師が不足するとの需給推計が発表されています。入院病床の需要数が都道府県でどのように推計され、現状と比べてどのような差異となるかを明らかにさせ、達成不可能な病床削減計画に基づく看護職員需要数推計を正すことが必要です。

地域医療後退の「悪魔のサイクル」

多くの公立・公的病院が「赤字」経営を余儀なくされている中、病院の経営改善と称して、病床数の削減や、病床機能の見直し転換(多くの場合急性期から回復期へ転換)のダウンサイジングが強行されています。それは、単なる病床数の削減にとどまらず、病床数減による収入減から、減収以上の支出削減が必要として、看護単位を削減し、看護師や医師などの削減へとつながっています。例えば、「50床・3人夜勤病棟」を閉鎖すれば、看護師は25名以上削減することが可能となります。

仮に病床規模を実態に見合って縮小や機能転換したとしても、働き方改革を進め、過重な労働改善や夜勤改善を図り、患者サービスの向上のために、医療スタッフは削減せず、ダウンサイジングではなく、病院機能のバージョンアップを図る見直しが必要です。そうした観点で病院機能の再編・合理化を進めている病院は、厳しい病院経営の中でも経営再建に向かい、地域医療を守る砦としての役割をさらに高め、地域医療の拡充強化へと「好循環なサイクル」へ進むことができます。厚労省が進める病床削減で地域医療構想の完遂を目的とした病院の再編・合理化に迎合した計画プラン策定では、ダウンサイジングを引き金に、止めどない地域医療の後退につながる「悪魔のサイクル」に転落しかねません。

「地域医療構想」は地域経済への深刻な打撃

「地域医療構想」の完遂による「必要病床」の実現は、全国で15万6000床(2013年時点の必要病床数との差引)もの病床削減が必要であり、地域に必要な医療機関や診療科が縮小・廃止となるなど、深刻な地域医療の崩壊が起きかねません。病床削減による医師や看護師などの削減は人件費削減へとつながります。それは地域経済への深刻な打撃へと結びつくものです。

2014年「病床機能報告」に基づく病床数と2025年必要病床数との差し引きで、4機能区分ごとの「診療報酬」点数を基礎に試算したところ、総病床数の過剰数9万5575床の削減効果による医療費削減額は、年間1兆4814億円と試算されました。これを社会保障費の削減として国の「産業連関表」に当てはめ、マイナスの経済波及効果を試算すると、波及は全産業にわたり総額2兆4802億円のマイナス効果と試算されました。都道府県でも「産業連関分析シート」が公表されて試算ができ、「雇用誘発人数」は、33都府県合計で、約14万8000人の雇用喪失(失業)と試算されました。例えば愛知県では、医療費削減722億円、「産業連関表」の経済誘発効果1230億円(全国ワースト2位)のマイナスとなり、「雇用誘発効果」では、1万1238人(ワースト1位)の削減という衝撃的な試算結果となりました。

官民関係なく、必要な医療の提供体制の維持・充実を

最後に、医療における設置主体が「官」でも「民」でも、医療は公的なサービスの供給であると考えます。地域医療の拡充強化で、真に必要な「地域包括ケア」を実現していくためには、官・民関係なく必要な医療の提供体制を維持し、さらなる充実を図って行くことが重要と考えます。

しかし、「公表リスト」は公立・公的病院に限定して診療実績と機能を評価し公表しました。厚生労働省の「地域医療構想に関するWG」の検討や、経済財政諮問会議等での議論でも、官の方からは「民間の実績公表はどうするのか?」との意見が出され、日本医師会は、公立・公的医療機関等の現状を、主に「財政」の観点で分析し、「一般病床のある公立病院の約3分の1は赤字で…病床利用率が低い病院は地域の需要に対して病床が過剰である。一方で、病床利用率が高くても赤字の病院が多い。…繰入金で補てんされている」と報告しています(『地域医療構想調整会議での議論の活性化にむけて』)。さらに日本医師会総合政策研究機構から「公立・公的医療機関等の現状と課題」(日医総研ワーキングペーパー№.432 前田由美子)が発表され、公立・公的医療機関等の経営概況を分析し、「公的な繰入金、運営費交付金等の詳細、データの提示」を求めています。

病床削減をはじめとする再編・統合の検討は、「公立対民間」という対立構造にまで及んでいます。とりわけ公立・公的病院への各種補助金に言及、補助金削減に向けた世論形成と政策変更にまで進みつつある状況です。

また、病床削減や機能転換を推進するために優先的に補助金等が使える仕組みが必要と、「地域医療介護総合確保基金」が創設され、病床削減を目的とした再編・統合に優先的に割り当てられる仕組みができています(表2)。それらの使途の内容や、基金に組み込まれている医師や看護職員確保予算の削減というしわ寄せが起きないようチェックしていくことも重要です。すでに、看護職員確保予算は大幅に減額されています。今後進むであろう「調整会議」での議論は、地域医療と連動する「地域包括ケアシステム」を構築していくために必要な医療はいかにあるべきか、という議論と具体化が必要であると考えます。

表2 「地域医療介護総合確保基金」(医療分)=年次予算の推移(2014年度~2018年度)
表2 「地域医療介護総合確保基金」(医療分)=年次予算の推移(2014年度~2018年度)
*各年度の基金額及び項目ごとの金額は、各都道府県基金の項目ごと整理による。合計金額は四捨五入により合わないことがある。
*③'看護職員確保予算は、筆者が予算項目ごとに分類集計したもの
長尾 実
  • 長尾 実(ながお みのる)
  • 日本医労連社会保障・地域医療対策委員

1959年岐阜県生まれ。日本福祉大学卒業。1982年から全医労専従書記。全医労東海北陸地方協議会書記次長。愛知県社会保障推進協議会地域医療委員。