【論文】東日本大震災からの復興政策 できたこと、できなかったこと


国が当初設定した復興期間10年の最終年度を迎えるにあたり、これまでの復興政策で「できたこと」と「できなかったこと」を検討し、今後のあり方を考えます。

今年の3月で東日本大震災から10年目を迎えます。当初の国の計画では、復興期間10年とされ、復興庁も復興庁設置法により2021年3月31日までに廃止すると定められていました。津波被災地のハード整備は終わりつつありますが、人とまちの再生はまだこれからという所も少なくありません。福島第一原発については、廃炉作業にまだ何十年とかかるのはもちろんのこと、避難指示が解除されない帰還困難区域も7市町村に広がっており、福島の人と地域の復興にはまだまだ時間を要します。

その意味では、昨年末、復興期間を延長する新たな「復興の基本方針」を閣議決定したことは、当然とはいえ評価できます。

新「基本方針」でも復興施策の総括に触れていますが、この機会に、これまでの復興政策で何ができて、何ができなかったか、という視点から10年目にあたっての評価を述べたいと思います。

1 災害救助

災害から救助し、避難所から応急仮設住宅へと当面の住まいを確保する段階ですが、その対応は今回も劣悪でした。避難所の多くは体育館などの床で、寝る場もトイレもプライバシーの確保も困難でした。

応急仮設住宅は、事前に県とプレハブ協会とで協定が結ばれていましたが、内容は全国一律で、寒冷な東北地方では、断熱工事を含めさまざまな追加工事を要しました。また、当時国が定めていた「救助の程度・方法・期間・実費弁償の基準」は低水準のため、震災後に弾力化を認め、自治体による「特別基準」の設定が可能とされました。それにより、寒冷地仕様・エアコン設置などが行われ、さらに、民間、賃貸住宅や空き家を活用した「借上げ仮設」も可能になるとともに、木造仮設など多様な仮設住宅も広がり始めました。とはいえ、建設型仮設住宅は、狭小・防音の不備など依然として劣悪な居住環境でした。

用地確保難も手伝って、避難所暮らしの長期化、コミュニティを分解する仮設住宅入居といった問題が繰り返されました。

2 被災者支援

生活相談・健康見守り・心の復興などの生活支援、仮設住宅や災害公営住宅での自治会づくりといったコミュニティ再生支援が行政の役割として位置づけられ、「被災者健康・生活支援総合交付金」などの財政支援に支えられながら、NPO、大学、ボランティアなどの活動が広がるという進展がありました。

しかし、被災者生活再建支援金は、給付額引き上げの要求が繰り返しなされたにもかかわらず変更されませんでした。内閣府の下に「被災者に対する国の支援のあり方に関する検討会」を設け支給対象・額が検討されましたが、2012年の「中間整理」では、支援金は見舞金的なもので住宅や土地の損失に対する補償金ではない、自助努力の取り組み意欲を阻害するという意見があり、拡大・増額を認めませんでした。

その欠落を埋めるため、被災各自治体は、「取崩し型基金」等を活用した独自支援を実施しました。内閣府調査によれば、2019年6月1日現在、36の都道府県が独自支援制度を設けています。

3 復旧・復興事業

(1)復興計画の策定

岩手県、宮城県の沿岸津波被災地では、全ての市町村が2011年12月までに復興計画を策定しました。しかもほとんどの自治体が、全体計画と同時に、地区別計画も策定しています。国の第3次補正予算が同年11月に成立したのを意識して、計画策定を急いだのではないかと推測されます。実は、この時に作られた計画が大筋で事業化され、その後の復興の姿を決定づけることになります。その点では、短時間で策定したことの功罪があったのではないでしょうか。

計画づくりは、安全の観点からまず防潮堤の高さを決定し、それに合わせて、かさ上げや高台移転によって住居を配置していくという流れになりました。しかし、まちは日々の暮らし・社会・経済などの全体から成り立っています。そうしたまちづくりを計画するには多くの時間と対話を要します。心のゆとりもなく、話し合いの場の設定も難しい状況下、短時間で決定するのは、将来のまちの持続可能性にも影響するでしょう。

計画は、急いで決めるべきものと、じっくり話し合うべきものとを分けて、住民の意見を十分取り入れられる方法を模索すべきではないでしょうか。

(2)復興まちづくり

津波被災地では、浸水区域に住宅・商店・公共施設等を建設することが難しいため、再建すべき土地の整備が必要となりました。

しかし、市街地の面的整備を目的とした制度は、土地区画整理事業と防災集団移転促進事業だけでした。国は、既存制度の弾力化と津波復興拠点整備事業の新設で対応しました。津波復興拠点整備事業は、換地ではなく用地買収が可能なので計画・実施上の制約が小さくなります。ただ、1市町村あたり2地区まで、1地区あたり20㌶まで、2015年度末までに着手した事業に限るという条件が付されており、面的整備全体には使えませんでした。

そのため、かさ上げを伴う土地区画整理事業が市街地整備に多用されました。この事業は、地権者が換地後の土地を利用すると想定し、整備による地価上昇を前提に減歩で公共用地を確保するものです。ところが被災地では、津波の経験から居住は高台を望む住民が多く、事業に長期間要したことも加わって、整備された市街地に空き地が目立つ状況が各地で生じました。今日の地方圏で地価上昇を想定した減歩には無理があり、利用しにくい土地が生まれることにもなりました。自治体は、空き地の「見える化」や空き地バンクに取り組んでいるところです。

災害復興を目的とした市街地整備の法制度の検討が必要でしょう。

(3)生活環境の整備

津波被災地では、医療・福祉、商業、学校、交通機関など日常生活に不可欠な施設の多くが被災したため、仮設住宅の暮らしは困難なものになり、生活インフラなどの整備が急がれました。

それに対し、仮設診療所、仮設商店街、臨時の町営バスなどが提供されました。仮設商店街は、中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が施設を建設し無償で貸与する措置により、生活支援と被災事業者支援を同時に果たすことができ、その後の町の再生にもつながりました。

医療に関しては復旧・復興が直ちに進まない状況も見られました。国の主な支援策は、公的医療機関等を対象とした「医療施設等災害復旧費補助金」と「地域医療再生臨時特例交付金」です。後者は、民間医療機関も含む地域医療全般を対象として震災前からありましたが、2011年度には岩手、宮城、福島の3県に合わせて720億円を交付し、各県に地域医療再生基金を造成しました。各県は、この基金を元に地域医療再生計画を策定しました。

実施内容は県ごとに違います。まず、当座の医療復旧が急がれたので、国も2011年度第1次補正予算で仮設診療所整備補助金を計上しました。各県は、これに地域医療再生基金で補充して仮設診療所を整備しました。2012年6月4日までの設置数は、医科診療所26(岩手県19、宮城県4、福島県3)、歯科診療所21(岩手県14、宮城県6、福島県1)と、県によって大きく異なります。岩手県は、多数の仮設診療所を設置し最低限の医療確保を目指しましたが、宮城県、福島県では設置が進まず、結果として病院・診療所数が大きく減少しました。

なかでも宮城県がまとめた「地域医療復興の方向性」は、「自治体病院等の統合・再編等による医療資源の再配置」を掲げ、地域医療再生計画も「大幅な医療機関の再編と連携、ICTの活用などに積極的に取り組むことで、我が国における先進的な地域医療モデルの構築を目指」す、と謳いました。厚生労働省の「単に復旧するのではなく、…新たな医療提供体制のモデルとなるような形での復興を目指す」(厚生労働省「復興に向けたロードマップについて」(2012年9月))に符合します。

その結果、災害を契機に地域医療が再生するのではなく、身近なところから医療が引き上げられ、地域に住み続けることをいっそう難しくしたといえます。

4 生業と産業の再生

農林水産業については、共同化や共同施設の導入等を含め政府による支援の仕組みがありましたが、商工業者等の復旧・復興を政府が直接支援したのは、今回が初めてでしょう。

被災事業者の事業再開のため、中小機構が仮設商店街・仮設事業所を建設して無償で貸与しました。次いで経済産業省は、「グループ補助金」を創設して再建に必要な施設・設備費を補助しました。さらに、中心市街地の商業施設を整備するため、「まちなか再生計画」の策定に基づいて立地補助金を交付し、民設民営のテナント型商業施設整備を支援しました(福島県は公設民営)。これらの施策は地域産業の復興に貢献したと評価できます。

ただ、「グループ補助金」の根拠は、被災事業者の救済ではなく「経済外部性」に基づいており、①サプライチェーンの重要な一翼、②地域経済・雇用への貢献、③地域の基幹となる産業群、④地域コミュニティの維持に不可欠な商業機能という4条件のいずれかに該当することが交付要件でした。そのため、対象の絞り込みが心配されましたが、大きな予算規模に支えられて広い採択が実現しました。ただ、同様の支援がいつも実施されるとは限りません。

5 原発災害からの復興

課題を挙げておきます。

①津波とは違い加害者(東京電力と国)がいる災害なので、誰の責任でどのような復興を目指すかを明確にする必要があるでしょう。

②福島の復興と原発・エネルギー政策は切り離せないということを明確にすべきです。

③その上で、福島復興政策の問題点として指摘したいのは、被災者一人ひとりの復興と地域の復興とが必ずしも一致しない場合があることに注意する必要がある点です。福島復興事業の内容を財政支出から見ると、大半が除染と帰還環境整備および経済振興策からなっています。それ自体は大切だと思いますが、県外を含めて長期避難している被災者の存在を考慮し、どこにいても一人ひとりの復興を図る支援が必要でしょう。

6 復興財政

2020年度までに約31兆円の復興財政支出が執行される見込みですが、歳出の特徴ないし問題は次の点です。

①行政によるコミュニティ支援や心の復興などの取り組みも始まりましたが、歳出規模で見るとハード事業が圧倒的でソフト事業は少なく、被災者生活支援金に対する国の支出は約2800億円で、歳出の1%にも足りません(2011~2017年度累計)。

②「復興を担う行政主体は市町村が基本」(復興の基本方針)のとおり、国の復興財政支出の半分以上が地方団体への移転でした。ただ、大部分は国庫支出金のため、自治体の自己決定を十分保障するものではありません。「使い勝手の良い交付金」を掲げ、復興交付金が新設されました。確かに、災害復旧事業費で充てられない事業の実施、期間と事業間の一定の弾力性といった利点はありましたが、5省40事業の補助金という性格から、制度要綱や交付要綱によって縛られました。また、復興交付金には効果促進事業も認められましたが、ハードを中心とした基幹事業の延長や予備作業といったものが実態でした。

ただし、補助事業の自治体負担分に充てるため復興特別交付税によって自治体負担を事実上ゼロにできたことで、被災自治体が復興事業で財政危機に陥るのを防止することができました。

③特別交付税等を財源に創設された「取崩し型復興基金」は、使途限定がなく補助金では行き届かない役割を果たせました。被災者生活支援金が低額ななか、多くの市町村が住宅再建支援にこの資金を充てました。ただ、その金額は復興財政規模に比べて小さく(特別交付税総額1960億円)、この「取崩し型復興基金」を広げていくことが求められます。

④特区法等により東日本大震災限定で措置された財源も多く(復興交付金、福島再生加速化交付金、復興特別交付税、被災者支援総合交付金等)、災害が頻発する現代に適合する一般制度としての財源の検討が必要です。

7 復興庁と復興特別会計

東日本大震災限定の時限的政府組織として復興庁が新設されました。一元的に災害対応する組織というより、他省庁や地方団体とともに復興事業を進めていく連絡調整組織といった役割です。復興庁設置法でも、所掌事務は企画・立案及び総合調整とされています。とはいえ、復興庁と復興特別会計が作られたことにより、復興政策が国民に見えやすく、要望も批判もできるようになったのではないかと思います。

今後は、復興庁の総括を踏まえて、災害に対応する政府組織のあり方を検討・設置する必要があるでしょう。

8 復興期間10年のその後

昨年末に閣議決定された新たな「復興の基本方針」で、復興期間の延長と復興庁および復興特別会計の当面継続が決まりました。いくつかの問題を指摘しておきたいと思います。

第1に、復興庁も復興特会も、東日本大震災の特区法で定められた地域限定で全国の災害には対応できないことです。

第2に、対象地域でも、復興交付金制度は廃止され、復興財源がどのように確保されるかが不明だということです。5年間の財政規模を1兆円台半ばと見込んでいますが、津波被災地域の復興もまだ終わっておらず、とりわけ福島の復興や原発事故対策はこれからであり、この程度で済むか疑問です。

【参考文献】

井上 博夫
  • 井上 博夫(いのうえ ひろお)
  • 岩手大学名誉教授、同客員教授(陸前高田グローバルキャンパス担当)

1951年大阪府生まれ。東北大学大学院経済学研究科単位取得退学。専門分野は財政学、地方財政論。