【論文】横浜燃ゆ―カジノ阻止 闘いの最前線から―


ハマの名所山下公園の隣り山下埠頭になんとカジノをつくる? しかも、多くの市民の反対意見を無視して…「勝手に決めるな!住民投票によって、決着をつけよう!」と市民は立ちあがりました。

出発は、林市長の裏切り

横浜におけるカジノ誘致は数年前から動きがあり、前回市長選(2017年7月)の大きな争点でした。カジノ反対を前面に出した2候補とそれまでカジノ誘致に積極的だった現職の林文子市長との対決構図でした。ところが、選挙戦に突入してあまりにも市民の反対の声が大きいことから、林市長は突然「白紙」と言い出したのです。明らかに争点隠しです。選挙の結果は、カジノ反対候補が合わせて46・7%を獲得しました。林市長は、当選の弁でも「市民の声を参考にして、中立的な立場で研究していく」と述べていました。ところが、その後市民にも市議会にも意見を聴くどころか何の説明もなく、2019年8月22日、突如誘致表明をしたのです。この民意無視が市民の怒りを巻き起こしました。

続くは自民・公明の市会議員の豹変

2019年4月の統一地方選挙で、かながわ市民オンブズマンが横浜市会議員選挙の立候補者に対し、カジノ誘致に賛成か反対かのアンケートをとりました。賛成は1人だけでその人は落選しました。現在の市会議員のなかで選挙にあたってカジノ誘致に賛成表明した人は一人もいないのです。ところが、それから半年もたたない9月市議会で、カジノ誘致関係で約4億円を計上した補正予算案について、自民党、公明党の議員は賛成し、多数で可決されました。「カジノ誘致についての選挙の際のあなたの意見を参考に、一票を入れた市民にどう説明するの? 市民を馬鹿にしている」と市民は怒り立ちあがったのです。そして、何より「ハイカラなこのミナトヨコハマにカジノは似合わない、要らない」という根強い市民感情がその基盤にありました。

「カジノの是非を決める横浜市民の会」の結成

2019年11月6日、市民が中心となって、「カジノ誘致は市民に決めさせろ」をスローガンに「カジノの是非を決める横浜市民の会(以下「横浜市民の会」)」を結成しました。

これ以前にカジノ反対の立場から2つの運動が先行していました。1つは、神奈川労連傘下の労働組合や民医連・新婦人等の民主団体によって2014年6月に結成され運動を継続してきた「カジノ誘致反対横浜連絡会」が提起した住民投票運動、もう1つは、政党や組織と一線を画す「1人から始める」をスローガンとする市民が提起した市長リコール運動です。先行している2つの運動を前提に議論した結果、住民投票運動の成功のためには、より広範な市民や団体が結集できる運動体が必要だと考えたからです。

「横浜市民の会」の設立趣旨には、「これまで取り組まれている全てのカジノ反対運動と連携し、これまでにない大きな流れをつくり出すためにこの会を結成する」とし、「まずは広範な市民が参加・結集できる方法として住民投票を提起、開始する。ここにおいて圧倒的市民の声を集め、市長及び議会に突きつけることによって、山を動かそう」と呼びかけています。

なぜ住民投票か

まず、圧倒的多数の市民はどこに怒っているか、です。市長の誘致表明後、横浜市のカジノ付きIRに反対は63・85%、賛成は25・70%、住民投票については、どちらかと言えば実施すべきまで含めると72・48%、賛成の人でも半分近い45・52%が実施を求めています(神奈川新聞2019年9月17日付)。運動はここに依拠すべきというのが「横浜市民の会」の考えでした。そして、リコールには50万弱の署名が必要ですが、住民投票なら6万3000弱でクリアです。リコールはハードルが高すぎると思ったからです。

広がる戦線

賛同団体は、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組、神奈川ネットワーク運動、新社会党、緑の党の7党、労働組合も横浜市従、建設労連など神奈川労連傘下のみならず、連合神奈川傘下の横浜市教職員組合(日教組)、県私鉄(私鉄総連)などと幅広いものとなっています。

そして何より広範な市民の参加です。署名運動を具体的に進めるかぎである受任者の登録数は、開始直前には4万3500名にのぼりました。受任者がもう1人署名する人を獲得すれば住民投票は成立するのです。

また驚くことに、現総理の菅さんが横浜市議になるときからの後ろ盾で、「ハマのドン」と称されている藤木幸夫前横浜港運協会会長は「断固反対、1人になっても闘う」、県議会議長も務めた自民党県連のボス梅沢健治さんが「91歳まで生かされた命、私なりに反対運動を始める」と宣言されました。370万余もの人口を有するわが国最大の政令指定都市で、住民側が住民投票を提起するという壮大な挑戦に、運動はいまそれに見合った大きなものになりつつあります。

情勢は動く

1年前、「横浜市民の会」の出発のころ、市長がブチあげ、これに国政与党と横浜商工会議所はじめ経済団体もこぞって賛成し「横浜カジノ推進協議会」を結成し、壁はとてつもなく厚く、どうなるものやらという不安は隠しきれませんでした。しかしいま、進出を狙っていたカジノ業者が新型コロナの影響を受け、相次いで「撤退」を表明し、国も基本方針すら作成できず、ついに自治体からの事業者を特定した区域整備計画の申請を来年の10月開始と9カ月の延期を公表しました。一方、「横浜市民の会」の署名は9月4日から11月4日までの署名期間の半期の1カ月で法定数6万2541を突破し、現在では12万を超えています。条例案が市議会に提出されることは決まったも同然です。これらを受けて林横浜市長は、10月16日、これまで住民投票には法的拘束力はなく、カジノ誘致の可否には無関係としていたものを、突如「住民投票の結果は尊重する。反対が多ければ、強行しない」と表明しました。この180度の転換の真意は計り難いのですが、市民の大きな反対の声と運動が影響していることは確かでしょう。1年前にはとても予測できませんでした。

そして、これから

国の延期決定によって、来年8月で任期が終わる林市長は在職中に国に申請することができなくなりました。次に立候補すれば、こんどはモロにカジノが争点となります。住民投票の結果を尊重するという林市長の言葉がそのままであれば、住民投票になると私たちは勝ちます。前記メディアの世論調査の結果からしても負ける要素はありません。そうすると問題は市議会です。賛成派の自公議員に対する説得が当面の課題となります。そのためにも署名をもっと増やすことが重要となります。「市長は、住民投票の結果を尊重すると言った。もし条例案を否決したら市民は怒るよ。次の選挙危ないよ」と迫り、今まで市長が抗議の的だったものが市会議員に向いていきます。面白い展開です。

この運動は、本来主人公である市民が主権者意識を高め、自立した市民をつくる運動でもあるのです。人々が自覚し、自らが市政ひいては社会の主人公になっていく営み・運動なくして民主主義の確立、前進はありません。(10月26日記)

岡田 尚

1974年弁護士登録。国労・JMITUの本部、神奈川県内では医労連、神奈川高教組(日教組)、横浜高教組(全教)等の顧問弁護士。首長選挙では責任者を務め一貫して連帯・協同・統一戦線を求めて活動。「九条かながわの会」事務局代表。