【座談会】復興 道半ば―復興10年の現実とこれからの課題


東日本大震災と、福島第一原発事故から、この3月で10年を迎えます。

国が設定した復興期間10年の節目にあたり、復興の課題のうち何ができ何ができてないのかを、被災地の厳しい現実から被災者と自治の視点で検証し、これからの課題を提起したいと思います。

井上 博夫
井上

今年の3月11日をもって震災から10年を迎えます。国の復興期間も10年で終了という事になっていますが、もちろん、すべての地域や被災者の復興が済んでいるわけではないと思います。しかし、我々も10年の復興過程というものを振り返って一定の総括をしたいというのが、今日の座談会の趣旨です。

まずは岩手、宮城、福島の各県から復興の現状をご報告願いたいと思います。

人間本位、地域本位の復興が進められたか(岩手県)

井上 博夫
井上

北から岩手、宮城、福島の順に、岩手から桒田さん、よろしくお願いします。

桒田 但馬
桒田

まずは、10年経ち、ハード面の復興はかなり終えているわけですが、特に大型事業である防潮堤、水門、橋梁などはまだ、今年度中であっても終わりそうにないです。

くらしの方では、岩手の場合は「建設型仮設住宅」、「みなし仮設住宅」が(それぞれ)23戸、73戸と残っていて、現実としてはゼロにはなっていないという状況です。

仕事、産業面では、民営事業所を経済センサスで見た場合、震災前に比べて企業・事業所がかなり減っている状況です(2016年時点で、対2009年比で17・9%減)。岩手の場合は、中小企業基盤整備機構の支援による仮設店舗がかなり多かったわけですが、実際に本設に移行できたのは7割くらいで、少なくない事業所が仮設で終える、つまり廃業を選び、その他には仮設を続ける状況があります。産業面において非常に大きな影響が、今もこれからも及ぶということです。

自治体関係、行財政については、陸前高田市はじめ数市町村では、まだ他県市町村からの応援職員が継続されています。まだまだハード事業も残っていて、「応援職員ゼロ」とはなかなかならず、通常の行財政に対応する準備も同時にしていかなければならないことになっています。

岩手の場合は、復興(計画)は人間本位、地域・住民本位の性格が強く、全部が全部そうだとは言いませんが、そういう面に沿ってどれぐらい事業が進められたのか、その成果に加えて、影響とか問題はきちんと押さえていかなければならないのかなと思っていました。

これまでの大きな問題は、まちづくりとしての空間利用について、事業の考え方や手続きを含めて後ほど挙げておきたいと思います。

コミュニティ面についても、後ほど課題になると思いますが、ソフト事業に加えて、防災力の低下があり、この点を充実強化していく必要があります。(図1)。

岩手の場合は地域医療、特に県立病院の復旧問題が過去にもみられたのですが、市町村や地域住民との協議をほとんどせずに、県主導で医療供給の縮小を進めたということは、地域本位・人間本位の復興という点では問題が残っていると思いました。

図1:防災力の低下
消防団員(2010年4月~2020年4月)の増減
  • 岩手沿岸12市町村: 15.4%減
  • 釜石市:25.9%減
  • 大槌町:25.0%減

河北新報調べ、より)

井上 博夫
井上

どうもありがとうございました。

県の検証結果と県民の意識のずれ(宮城県)

井上 博夫
井上

では続きまして宮城県について、遠州さんからよろしくお願いします。

遠州 尋美
遠州

宮城県は昨年2020年の3月に、県の震災復興計画の検証結果を公表しました。阪神淡路大震災の10年後に兵庫県が行った詳細な「10年検証」とは比較にならない非常におざなりなものです。けれども、復興の現状を俯瞰するには役立ちます。宮城県の検証は、7分野24項目の達成指標を定めて、その進捗率に基づいて評価検証するという組み立てになっています。私は達成度合い別に並べ直しました(次ページ図2)。Aが目標達成と判断された項目、BとCは目標達成が困難な施策項目で、進捗率80%を境に区分しています。

まず、指摘しておかなくてはいけないと思うのは、検証指標の選定が恣意的で、県の取り組みを正当化するために、都合のいいものだけ選んでいるということです。特に重大なのは復興評価において最も重要な、被災者の生活再建の達成状況が欠けていることです。それを補うために、県の報告書の巻末につけられた県民意識調査の概要をまとめておきました(次ページ図3)。

目標達成が確実とされたものは、いずれも県・自治体が制御可能な事業で、国費で賄う以上達成できて当たり前なものでハード事業に偏っています。一方、達成が困難なのは、県や市町村のコントロールが直接的には及ばないもので、主体が民間事業者や被災者を含み、支援策がニーズに的確にヒットしない限り効果を発揮できないという分野が並んでいます。ハード事業であっても、保育所や福祉施設の復旧など民間が関わると達成困難な場合があり得る、ということです。

気がつくのは、生業再建の遅れの部分が非常に大きいということ。「仮設店舗から本設店舗への事業者移行率」、「観光客入込数」、「林業産出額」、「水産加工品出荷額」などが目標値をかなり下回っています。

もう一つ大事なのは、「被災地域における先進的園芸経営体(法人)数」「効率的・安定的農業経営を営む担い手への農地利用集積率」が目標値を大きく下回っています。広大な津波浸水農地に、莫大な費用をつぎ込んで大規模圃場整備を行い、家族経営を駆逐しながら、大規模経営と企業的農業の導入を意図したのが宮城県の沿岸地域の復興策なのですが、にもかかわらず、結果はこのありさまです。産業復興政策の誤りを象徴していると思います。

被災者に限定した雇用指標は唯一「基金事業における新規雇用者数(震災後)」ですが、あくまでも短期の臨時雇用ですし、2016年度で廃止されてしまったので、雇用回復に効果があったとは言い切れない。同事業の雇用者が正規雇用に結びついたか示すべきです。

次に、県の検証に現れない現在の問題点に触れたいと思います。在宅被災者問題とコミュニティ形成の著しい困難ということです。

最後に、県民意識調査の結果です。復興が「進んでいると感じる」「やや進んでいると感じる」高実感群は、8年を経過した段階で未だに6割に到達しないという状況です。

項目別で見ても、「大津波等への備え」「交通基盤の確保・整備」への評価が高い一方で、「雇用の維持・確保」「ものづくり産業の復興」の評価が低く、生業再建の遅延が読み取れると思います。私の報告は以上です。

図2:復興政策分野でとの進捗状況評価
【震災復興計画7分野】
  • ①被災者の生活再建と生活環境の確保
  • ②保険・医療・福祉提供体制の回復
  • ③「富県宮城」の実現に向けた経済基盤の再構築
  • ④農林水産業の早期復興
  • ⑤公共土木施設の早期復旧
  • ⑥安心して学べる教育環境の確保
  • ⑦防災機能・治安体制の回復

( ) 内は達成指標(2018年測定値/2020年目標値)

A:目標値を達成している(達成率100% 以上)

(略)

③雇用の維持・確保:正規雇用数(667,100/600,000)

(略)

④魅力ある農業・農村の再興:4高能力繁殖雌牛導入・保留頭数(11,453/14,400)

(略)

⑤道路、港湾、空港などの交通基盤の確保・整備促進:3 仙台塩釜港(仙台特区)のコンテナ貨物取扱量(193,775/191,000) ※TEU:20 フィートコンテナ換算

(略)

⑥安全・安心な学校教育の確保:1 スクールカウンセラーの配置率(市町村教育委員会・公立中学校・県立高等学校)(100%/100%)

(略)

B:目標値を達成しておらず、達成率80% 以上100% 未満
(略)

③ものづくり産業の復興:1 津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金の採択企業数(109/120)

③商業・観光の再生:1 仮設店舗から本設店舗への事業者以降率(64.0%/100%)

③商業・観光の再生:2 観光客入込数(6,230 万人/7,000 万人)

(略)

④商業・観光の再生:3 被災地域における先進的園芸経営体(法人)数(46/70)

④商業・観光の再生:5 効率的・安定的農業経営を営む担い手への農地利用集積率(57.8%/77.0%)

④活力ある林業の再生:1 林業産出額(80 億/96 億)

(略)

④新たな水産業の創造:2 水産加工品出荷額(2,343 億/2,582 億)

(略)

C:目標値を達成しておらず、達成率80%未満と判定されたもの

⑤海岸、河川などの県土保全:2 比較的発生頻度の高い津波に対し、施設の防護機能を有する河川敷(84.1%/100%) (略)

出典:「『宮城県震災復興計画』の検証」(2020年宮城県)より筆者作成、抜粋。

図3:宮城県県民意義調査の概要

出典:「『宮城県震災復興計画』の検証」(2020年宮城県)を基に作成。

井上 博夫
井上
はい、どうもありがとうございました。

複合災害による復興の著しい長期化(福島県)

井上 博夫
井上

福島については、西田さんからお願いします。

西田 奈保子
西田

全体像ですが、福島の特徴というと、やはり津波地震被災と、それから原子力被災との複合災害であるということです。

特に原子力災害については、帰還困難区域以外の避難指示は解除され、双葉町を除いた町村では居住も可能になっていますが、廃炉の工程や帰還困難区域の除染の見通しはいまだ不透明です。放射線量の高い地域における線量低減には長い時間がかかることが当初からわかっており、通常の計画行政のスパンで進捗や成果を語ることは困難な側面があります。被災地の環境の回復に必要な長い時間は、避難者のさまざまなライフコースとは噛み合わない場合も多いと思います。

次に、原発避難者の居住の状況についてです(図4)。これは、町、復興庁、県が一緒に実施している住民意向調査の結果を加工したグラフです。2012年から2019年にいたる間、持ち家への移行が進んでいることが見て取れます。しかし、福島県内全体に目を移すと、昨年末時点で仮設に住んでいる人が、借り上げ仮設住宅を中心に562世帯、940人で、帰還困難区域の方々を中心に、仮住まいの状況を続けている方が多くいます。

福島では、津波被災者向けと原発避難者向けなど全部で約8000戸の災害公営住宅が供給され、そのうち原発避難者向けが約4800戸、このうち約75%が共同住宅、そして戸建・長屋建が約25%という形になっています。この共同住宅のうちの約2000戸を対象に福島県内で調査した結果を紹介します。岩手、宮城でも同様に約2000戸ずつ調査しました。福島と、岩手や宮城とを比べた場合の大きな違いは、入居者の中で生活の回復を実感している人の割合が、少ないということです(図5)。「全く回復していない」が22・1%、「あまり回復していない」が35・0%で岩手、宮城との差が見て取れます。福島では、広域避難により避難元以外に居住している人が調査対象です。世帯分離をしている人の割合が福島は多く、また、震災前より近所付き合いが減って生活環境の変化が大きくなっています。帰還困難区域に住まいがあった人にとっては被災地の状況が現在でも大きく変化したとはいえず、生活の回復を実感できない人の割合が高めに出ています。

最後に、福島の市町村への職員派遣の需要が、2017年度から高まっていることを紹介します。ピークは2018年度ですが、これに対して岩手、宮城のピークは2015年度で、福島では応援職員の需要が高まる時期が他より遅くなっています。大熊町と双葉町における人材確保の状況を見ると、2019年に一部地域で住民の帰還が開始された大熊町と、2020年時点で町への居住が認められてない双葉町では、2020年度に最も多くの応援職員人数が必要とされていることがわかります。応援職員の派遣は、現在は震災復興特別交付税に基づいて国が全額措置する仕組みですが、今後、福島ではまだかなり需要があると考えられます。今後、この地元負担はどうなるのか、自己負担になるのかが一つの課題だと思います。

福島では、遠隔自治体からの応援職員だけでなく、市町村自ら採用した任期付き職員、再任用職員という非正規雇用にかなり頼った形で応援職員ニーズを満たしています。地元の原子力被災自治体の正規職員の採用をもう少し増やしながら、地域の再生に向けた取り組みを進めていけるかどうかも課題だと思っています。

図4:住民意向調査結果からみた住宅種別の経年変化

出典:復興庁webサイト「原子力被災自治体における住民意向調査」の結果から作成。

図5:県別にみた災害公営住宅入居者の生活の回復の程度

出典:「岩手県・宮城県・福島県における災害(復興)公営住宅入居者の生活実態に関する調査」(2019年11月~12月実施、調査主体:吉野英岐、内田龍史、高木竜輔、西田奈保子の研究グループ)

井上 博夫
井上

鈴木さん、何かありましたら補足してください。

鈴木 浩
鈴木

福島の災害が、他の地域とは横並びにはならないような状況であることを皆さんにご理解いただきたいと思います。

放射能汚染地域がなお多く、すごく広域で長期避難をし、自分のふるさとには戻れない人が膨大な人数でいる。生活や生業の再建はまだまだ困難を極め、帰還困難区域を抱えたり、ふるさとの復興すら道半ばと言うか、まだ半ばにも到達してないというのが、福島の状況であるということだけ加えておきます。

井上 博夫
井上

はい、時間の問題というのが提起されていました。福島県の場合を中心に、岩手県や宮城県についても、確かにハード面は終わったけれども、まちや被災者の復興再建は終わったわけではない。これから先、長期に続く問題というのはまだまだ残っている、と。

うまくいったこと、いかなかったことは何か

井上 博夫
井上

さて、そうした現実の問題を踏まえて、こういう点が復興政策上うまくいった、こういう点がまずかったから課題を残した、ということに焦点を当てて報告を端的にお願いします。

桒田 但馬
桒田

これだけ超大型で広域災害だったわけですが、住民というのはそう長くは待てない。歳もとり、世帯構成も変わり、地域を離れたりもします。他方で人間復興とか地域住民本位からいえば国の政策の不十分さや個々の問題を抱えており、産業政策でも、再建を果たせないケースが非常に多いです。

まちづくりの点では、従来型の防集(防災集団移転促進事業)、土地区画整理事業というやり方を国として使わざるを得なかったわけですが、本来的な制度趣旨に沿っておらず、画一的に当てはめたところが大きな問題として挙げられます。

もう一つは、お金の面で、大きなところはやはり2011年度からの集中復興期間(5年)ですね。国のあおりで自治体はかなり焦らされ、「今使わなきゃ」ということで合意形成が不十分になり、あるいは県が先に「防潮堤を最優先に。それに応じてまちづくりを」みたいな話になる。国があおった問題っていうのは、きちんと指摘しなければならないということですね。

あと大きなところとしては、震災復興がエンドレスで終わりのないところですね(図6)。超大型災害だったがゆえに、長い時間の問題というよりも、時間では解消しにくい問題が多くの方々に残っています。

図6:エンドレスな震災復興の側面
  • 行方不明者1,113人
  • 少なくない避難者数
  • やむを得ず災害公営住宅入居(一時入居を含む)……とりあえず生きるだけ
    *仮設に長く居ることが恥&今は家賃が払えない
  • 仮設をなかば追い出され、廃業を決断した商店主
    *再建の仕方についていまだに自問自答する被災者
  • 本設を果たせず死亡した被災者
  • 思い出したくない、話したくない。「被災者」である・ないの葛藤(一生忘れることはない)。
  • 各種の公的支援制度の申請漏れ&煩雑等の理由で申請を諦めた被災者の存在
井上 博夫
井上

ありがとうございました。

続けて、宮城からお願いいたします。

遠州 尋美
遠州

いいことはほとんどなかったというふうに、残念ながら思っています。特に宮城県の場合には、被災者の生活再建を軽視して、惨事便乗が横行してしまった点、それから2点目に、コミュニティと自治の破壊が進められた点、3つ目に創造的復興という名の新自由主義的構造改革、平時ではやれないことが震災につけ込んで強行されてしまった、この3つの点があったというふうに私は思っています。

復興構想会議が村井嘉浩知事の傍若無人に屈してしまったのが、非常に大きかったですね。

土地取得の問題、土地区画整理についても後で議論した方がいいかなと思っています。

井上 博夫
井上

そうですね。ありがとうございます。

では福島について、お願いします。

西田 奈保子
西田

得られたものとして、借上げ仮設住宅が運用されるようになったことです。災害救助法上は可能であったにも関わらずほとんど使われてこなかったわけですが、建設型仮設の供給を待たずに、避難所から出て居住環境を早く改善できました。一方、借上げ仮設住宅の供給過程では、解決しなければならない課題も見つかっています。

特例型と呼ばれる、県を介さずにいったん被災者が自力でアパートを見つけて契約し、その後、県との契約に切り替える方法での住宅確保が、今回は多くありました。この方法では住宅確保がかなり競争的になり、自分での移動が難しいような方たちに行き渡るのが遅くなる事態も発生しました。

特例型では、民間賃貸住宅の質が問われない側面も発生しました。また、借上げ仮設住宅に被災者の方たちが入居すると、被災地域のまとまりとしての地域的意思決定の機会が持ちづらくなったり、民間賃貸住宅がある都市部に人口が移動する側面もあります。借上げ仮設住宅に関していくつかの課題を挙げましたが、こうした避難の状況に対応する工夫を開発しないと、一概に「良かった」から次からはこれで、とは言えない面があります。

また、災害公営住宅の供給に関して、コミュニティ形成促進施策が導入された点は、過去の大災害に比べ改善されたと思う一方、入居者の社会関係の維持形成に設計段階から入居後まで一貫した取り組みを実施した自治体は、被災3県の57団体に調査した結果では2割程度で、自治体の部局間のさらなる連携あってもよかったのでは、と思っています。

それから、住民票は被災地にある避難者が、避難先の市に立地する県営の災害公営住宅に住んでいる状況があります。安否確認などの見守り事業で隙間が発生してしまいかねず、関係主体が連携できる運用を真剣に考えるべきです。

復興交付金に関しては、被災者と被災自治体の主体性を引き出すような方法であったのか。そこは問われるべきです。

自治体職員の派遣による応援の仕組みには、被災自治体はかなり助けられたと思われる一方、派遣した自治体の中でも被災自治体でも、災害対応経験をどのように組織的に蓄積していくのかについては、検討が不十分かなと思います。2019年の台風19号水害で活かそうとしてうまく活かせなかった面もありました。

鈴木 浩
鈴木

今の西田さんの報告にちょっと補足すると、災害時の仮設住宅は、プレ協(プレハブ建築協会)が47都道府県全部と協定を結んでいて、プレ協に発注しないといけない仕組みになっていた。岩手県住田町が、なぜあの木造仮設をつくれたかというと、仮設住宅の供給を県ではなく、町が独自にやったから成り立っていたんですよね。あまりにも供給量が多かったので、プレ協だけではない他の住宅産業が全く同じ協定書を作り、全国の30都道府県以上にわたってプレ協とは別の協定が結ばれ、両方とも選ぶことができるようになった。これは、大きな動きだったと思います。

木造仮設だとか福島県の事業者に発注する仕組みだとか、そういうことができるようになったので、日常的に地域調査をやること、あるいは政策提言をしてそういうものを蓄積していく、ということが重要だと思います。

みなし仮設が県を介さないで契約できるようになった一方で、さまざまなモラルハザードが、宮城県でも、福島県でも起きています。

それと、東日本大震災、原発災害が象徴的ですが、全部が特措法対応で、復興庁も然りですから、西日本でさまざまな災害が出ても復興庁は何の権限もないし、何の責任感もない、というようなとんでもない事態を実は発生させました。この特措法の中で蓄積されたいろいろな方向付けを、定常的な危機管理としての制度や機構を作るべきだということが今回の中ではっきりしてきたと思います。

もう一ついうと、今回初めて「惨事便乗型復興」という言葉が使われるようになりました。これに対抗することは何だろうかという対抗軸をしばらく考えて、2016年頃から、「SRGs」というのを私は提案しています(図7)。日本語にはなじまないかもしれないな~。日本では「SDGs」がもてはやされているけど、素地が市民の間に育っていなかった。だから企業だけが、SDGsはもうけのタネになるんじゃないかって動き始めている感じですね。ここのところの対抗軸をきちんと考えていく必要があります。

図7:生活再建とふるさと再生のゴールをめざして─SRGsの提案

井上 博夫
井上

ありがとうございました。

復興に向けて考えなければならないこと

井上 博夫
井上

復興に長期間かかるという問題に対してどういう仕組みを作って行くべきかということ。2番目に、人々の暮らし、住まい、コミュニティの再生のために何をするべきかということ。3番目に、鈴木さんが提起されていた「SRGs」も含めて、「まちづくり」の問題。

この後はこの3点で、議論をしていきたいと思います。

遠州 尋美
遠州

全体の問題に関係してくるんですけれども、そもそも惨事便乗を許してしまった非常に大きな問題点として、復興構想会議が定めた「復興7原則」と、その後の「復興基本法」があるわけですが、その中には「被災者」という言葉がひとつも出てこないと、最初の段階で非常に大きな話題になりました。

それから、もう一つ。資金が絡んできてしまうと、長期にわたる支援ということについての議論は非常に難しくなってくるので、そういうのを突破するという意味で非常に重要だと思っているのが、災害ケースマネジメントということですね。

つまり、一律に全体に適用される制度に加えて、被災者一人ひとりに応じた復旧のあり方、それぞれの被災者が抱えている問題に直接コミットするような形での支援の仕方を考えて実現していくという手法です。

これは鳥取県が今、全国唯一の制度として定着させています。制度にお金が絡むとどこかで線引きして分断が起きますが、制度自体は予算を絡めずそれぞれの被災者一人ひとりの生活の再建を見据えた支援を継続できるという意味で、非常に重要なのではないかと思っています。

井上 博夫
井上

単純に疑問に思ったのは、災害ケースマネジメントだって、費用負担問題は同様に生じてくるのではないでしょうか?

遠州 尋美
遠州

鳥取県の場合はケースマネジメントにお金をかけていない。(鳥取県西部地震で被災した)一部損壊住宅の修復をどう進めるかという話から始まるのですが、応急修理のための費用をつけても、困ってる人たちの問題とかみ合わないことも多い。例えば雇用。それが解決できないと屋根の修理どころではない。それが分かってきました。解決費用はケースマネジメント側ではなく、つなげた先の制度側が持つのです。

桒田 但馬
桒田

住まいの器はどうなるんですか?仮設ということですか?

遠州 尋美
遠州

鳥取の場合は、最初は在宅被災者問題です。国には一部損壊住宅に対する支援というのは全然なかったのです。そもそも仮設住宅自体が造られていませんでした。

鈴木 浩
鈴木

どちらかというとゲリラ戦法ですけども、福島県の場合は、仮設住宅について今の「2年」という期限をゲリラ的に突破してきました。どうしても仮設住宅を移設しないといけないことが出てきて、もうその時はコンクリート基礎を打ったんです。それは復興庁や国交省も認めるようになった。それを受け、熊本地震の仮設住宅でも、「コンクリート基礎」ができるようになった。事業者が実績を蓄積する過程で、そういう知恵を編み出しているわけですね。それで、われわれは「仮設住宅研究会」なるものを作って、その後の再利用まで考えてきました。

西田 奈保子
西田

阪神・淡路の時は5年半ぐらいでだいたい仮設住宅は解消しましたが、今回は10年でまだ難しいわけですよね。長い時間、他の住宅に移る条件が整わない災害が起こった場合に、仮設住宅に無償で住み続けるのは制度上2年間にとどめて、それ以降になれば、所得の状況に応じて一定程度の負担をしてもらうような議論も出てきていますね。

井上 博夫
井上

今の問題は、災害救助法の想定が、本当に短期的な救済と考えているようだから、災害救助から復旧復興につなげていく、そういう仕組みが必要です。それは例えば仮設住宅のように、具体的な運動の中で、事実上進展した面もあるということではないでしょうか。

他県とは違う福島県独自の時間軸の問題

井上 博夫
井上

ここで議論の焦点を「時間軸問題」に向けたいと思います。その際、特に中心的な問題となるのは、福島の原発災害だと思います。これからも何十年という長期にわたるわけでね。それについてご意見をお聞きしたいと思います。

鈴木 浩
鈴木

僕は原発災害で、時間軸上でどういう課題があるかということを定点観測するために、こういう絵柄をずっと用意してきました(図8)。

2045年には、(除染土等の)中間貯蔵施設の役割が終わるはずです。今から1600ヘクタールにわたる中間貯蔵施設が返還されたらどうなるか、というプログラミングを考えていかないといけない。その時ではもう間に合わない。ある程度の節目節目に課題を考えるというのが原発災害の場合にはものすごい重要だなと思い、こういう絵柄の中でいろいろな仲間たちと議論を進めてきたところです。

図8:原発災害の特質と課題

井上 博夫
井上

議論の中身、質も問題になると思います。西田さんいかがですか。

西田 奈保子
西田

はい、おっしゃる通りで、原子力災害からの復興は、時間がかかることはわかっていたはずでした。しかし、現実にはかなり急ぎ足で、自治体としては10年の間に事業を「勝ち取らなければ」と焦るような、桒田先生がおっしゃっていた財政的な面でのあおりは感じます。長い時間がかかる災害に対して違うアプローチはできなかったのか、疑問に思います。

ただ一方、空間の回復を待つ中で避難した方々が疲弊してしまう面は確かにあります。避難先で生活を続ける方々がその場で生活の回復を感じられる暮らし方ができるメッセージを、もっと発していってもいいと思います。

鈴木 浩
鈴木

原発事故被災地における避難指示区域への対応は「除染→放射線量低下→避難指示解除→帰還」という単線型シナリオです。ところが、帰った時に生活の質を確保するための購買施設、医療福祉施設、学校なども整っていない。強引な帰還シナリオであることに疑問や不安・不満を抱く人たちも多い。「放射線量低下」と「帰還」との間に「生活再建準備期間」のようなプロセスを位置づけるべきであると思います。避難指示解除されてもその後のまちづくりが深刻な課題になっている中で、声を大にして提起していきたいと思っています。

生活再建とコミュニティ再生

井上 博夫
井上

2番目の生活再建とコミュニティ再生の問題について議論をしたいと思います。

桒田 但馬
桒田

岩手県の、生活面に対する独自の公的支援は評価されるべきです。財源の多くが復興基金でしたが、国には長く使えるような復興基金の拡充を求めて、どんどん地方から声を上げていく必要があると思います。

井上 博夫
井上

被災者支援総合交付金が作られましたが、あくまでも特区の範囲内の事で、特区法が終わったらこれも終わりで一般の制度化はされない、と。そういう意味では遺産として残せていないんですね。ほかにいかがでしょう。

遠州 尋美
遠州

みなし仮設にしたために被災者が分散して、行政が把握できない、なおかつ支援対象を特定することが非常に難しい、という話なのですけれども、災害対策基本法の2013年の改正で、被災者台帳の整備を義務付けるということになっています。今はまだ3割ぐらいしか実現していないんだけれども。本来であればそういう枠組みの中でできるはずです。

それから、石巻、気仙沼などの半島部で建設された小規模な防集団地の場合には、入居者は従前集落居住世帯の3分の1以下にとどまっており、コミュニティ維持は期待できず、限界集落化は避けられない状況です。

それから特に、コミュニティの問題で非常に大きいと思っているのは、災害公営住宅に3年目から収入基準が適用され、その割増家賃のせいで退去を迫られるという状況が進んでいることです。これはコミュニティの維持にも大打撃で。関連死や孤独死が増える中で、非常に大事な課題だと思っています。

鈴木 浩
鈴木

福島県の場合、原発被災者による「ふるさと裁判」がなぜ起きたかというと、生業を支えていた地域コミュニティなどに対する財物補償が全くなかったからです。

住まい、コミュニティの問題が大変重要になってきたので、地区避難計画みたいなものを、「まちづくり」のある種の最初の出発点にしようという動きも、もっと切実な課題になるだろうなと思っています。

西田 奈保子
西田

福島というと原発被災という面が多く取り上げられ、あまり津波被災地区の話が紹介されませんが、紹介させて頂きます。

全半壊棟数が多かったいわき市では震災復興土地区画整理事業が行われ、その一つが塩屋埼灯台の南側の豊間地区です。豊間では「ふるさと豊間復興協議会」が住民主体で設立され、この住民組織が主体になり復興に向けた取り組みを継続してきました。世帯数や人口は回復傾向にはあるものの持ち直してはいませんが、震災後のプロセスの中で、もともとあった伝統的な地域構造を活かしつつも、女性や若い世代などを少しずつ巻き込み、地域の新しい担い手を見つけ、地域での意思決定の新しいあり方を再構築してきた地区です。こうした住民主体の取り組みが被災からの住民や地域の回復を支えてきました。一方、10年間の中で培ってきた地域力を引き継いでいけるのかは、やはり簡単ではなく、課題です。

井上 博夫
井上

はい、ありがとうございます。

国も含めてコミュニティの破壊、ふるさとの喪失という問題にも正面から取り組んでいかなければいけない課題だと強調しておきたいと思います。

住み続けられるような「まちづくり」を

井上 博夫
井上

「まちづくり」の問題に移りましょう。

桒田 但馬
桒田

広域災害の中で、大型ハード事業の手続き面での時間をどこで短縮するかですが、惨事便乗型ではなくて、膨大な時間を要する用地取得はメスを入れるポイントじゃないか、見直しにもっと工夫が必要ではないか、と思っていました。

もう一つ、防災集団移転促進事業(以下、防集)の跡地整備問題です。高台移転となり、元地に非常に大きなスペースができるわけで、私としては「もったいない」ではなく、空間利用の概念、課題を住民なり行政等々と共有しておく必要があるんじゃないかと思っています。

また、(宮古市)田老町の三王団地はかなり高い所に整備され、10年経って高齢化が進み、あるいは経済社会の先細りがある中、まちの持続可能性が強く問われている事例です。かさ上げエリアを含めまちづくりのあり方の総括が必要と思っています。

もう一つ別の角度から見ると、画一的、各事業ごとに縦割り、パッチワーク的にやることの限界も証明されたと思うんです。できるだけ総合的に「まちづくり」をするにも、復興庁よりさらに権限が強力な、より総合的な恒久的な組織があってもいいんじゃないのか、災害大国として当然のことと思います。

遠州 尋美
遠州

私達が持っている危機感は規制緩和と特例措置で、土地の先買いを大規模にやれるようにしたり、市街化調整区域でも土地区画整理がやれるようにしたり、本来の制度の趣旨というのがどんどん形骸化されてしまったことです。それが前例になって、平時でも活用できるようにされては大変です。

それから、防集と都市再生区画整理事業を駆使して、高台移転・内陸移転ということを大規模に推進し、被災住民の反対を押し切って、守るべき人もいない巨大防潮堤の建設ということを進める一方で、津波対策のための河川堤防の改良新設が非常に遅れていて、大きな問題ですね。土建利権を潤すために惨事便乗で大規模土木事業を推進したわけですが、そのことが資材と人件費の高騰と不足を生んで、事業費の膨張と遅れの元凶となったということを指摘しなければと思います。

もう一点。桒田さんが言っていたことで、土地がない中で、工期を短縮して供給しなくてはいけなかったという議論の中では、やっぱり大船渡市での差し込み型の防集の評価は、ちゃんとしておいた方がいいのじゃないか、ということだけ付け加えておきたいと思います。

井上 博夫
井上

大船渡は私も一緒に市長に案内して頂いて、見て回りました。確かに既存の市街地の中に溶け込むことができるし、大規模な工事を必要としないから時間がかからないという利点がある。可能性のあるところでは是非進めていくべきだと思いますね。

鈴木 浩
鈴木

議論の延長にはなりませんが、原発地域でも災害危険区域問題でこんな議論があったという、あまり知られていないことを紹介しておきます。

ある小さな帰還困難区域の集落が、「我々の所も災害危険区域に適用してもらい、放射線量の少ない、近い将来に避難指示が解除されるようなところに、集団的に同じ町内の所に移転できないだろうか」、というようなことを、町、県、国に言ったけれども、もうけんもほろろだった、と。「これは津波災害のための制度だ」というようなことで。

全国的に多発する災害の中で、災害危険区域をどう考えたらいいのかなと思います。

ふるさとに戻れない中で宙ぶらりん状態です。地方自治体や地域コミュニティが、我々にとっての本当の復興というものを普段から考えておく必要があって、望ましい生活の質、コミュニティの質、環境の質とは何だろうか、ということを蓄積していく必要があるんだろうな、と思って提案している次第です。

こういう試みをしてみたいなーっていうのは「県民版復興ビジョン」の目指しているところでもあります。

井上 博夫
井上

はい、ありがとうございます。

簡単に復習だけしたいと思います。

最後、3つの論点に基づいて議論を進めました。

1つ目は「時間軸」という問題についてです。これはそもそも法制度が想定している以上に、非常に長い時間が復興にはかかるので、それに対応していく必要があるという問題ですね。で、特に福島の場合には、これから先まだ数十年という単位でかかるということを今から考えておく必要があるでしょう。

2つ目は、地面の復興とは別に、被災者の生活回復ということも含めて考えなければいけない、ということです。生活再建、住まいの確保、コミュニティの再生については、なかなか今回の復興過程の中で十分に法制度等が改善されてこなかった部分です。ですから、それらを進める必要があります。当面の課題としては、自治体が自由に使える復興基金を広げることが重要ですね。

それから3つ目は「まちづくり」の問題でです。「まちづくり」についても今回、大規模な災害に対応して大規模な面的事業を必要とするような状態が生じましたが、これに対する仕組みが現状ではまだうまくできていない点が明らかになりました。既存の防集と土地区画整理事業の制度で対応してきたけれども、それでやっていった場合かなりの時間がかかってしまい、まち自体から人がいなくなってくるという問題も起こってきました。持続可能なまちという観点から考えておく必要があるということでした。

本日は、ありがとうございました。長時間にわたりましてお疲れ様でした。

(2021年1月11日、オンラインにて実施)

遠州 尋美
桒田 但馬
西田 奈保子
鈴木 浩