【論文】「死にたくないけど死んでしまう」貧困非常事態宣言発令中!―コロナをきっかけに露呈した社会の歪みに対峙してきた現場から


緊急アクションの相談フォームに連日のように届く悲痛なメール。それに対して、私たちは、現地に向かい、「新型コロナウイルス災害緊急ささえあい基金」から、当面の生活費と宿泊費を渡し、福祉制度につないでいます。そのような活動をほぼ休むことなく、9カ月も続けているのです。

「新型コロナ災害緊急アクション」の活動概要

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、増大する貧困問題を解決するために、筆者が事務局長を担う反貧困ネットワークが呼びかけて、「新型コロナ緊急アクション」(以下、緊急アクション)を昨年3月24日に設立、現在では40団体の参画で活動を進めています。「新型コロナウイルス災害緊急ささえあい基金」(以下、「ささえあい基金」)も4月16日にスタートさせました。現段階で、市民からのカンパ約1億1000万円が集まり、5000万円を給付しています。

新型コロナ災害緊急アクション参加団体

あじいる/移住者と連帯する全国ネットワーク貧困対策プロジェクトチーム/外国人ヘルプライン東海/蒲田・大森野宿者夜回りの会(蒲田パト)/官製ワーキングプア研究会/企業組合あうん/共同連/くらしサポート・ウィズ/クルドを知る会/寿医療班/こども防災協会/コロナ災害対策自治体議員の会/サマリア/NPO法人さんきゅうハウス/市民自治をめざす三多摩議員ネット/奨学金問題対策全国会議/新型コロナすぎなみアクション/住まいの貧困に取り組むネットワーク/首都圏生活保護支援法律家ネットワーク/首都圏青年ユニオン/女性ユニオン東京/生活保護費大幅削減反対!三多摩アクション/生活保護問題対策全国会議/滞納処分対策全国会議/地域から生活保障を実現する自治体議員ネットワーク「ローカルセーフティネットワーク」/つくろい東京ファンド/TENOHASI/「なくそう! 子どもの貧困」全国ネットワーク世話人会/反貧困ささえあい千葉/反貧困ネットワークぐんま/反貧困ネットワーク埼玉/府中緊急派遣村/フードバンクネット西埼玉/FREEUSHIKU/労働組合「全労働」/非正規労働者の権利実現全国会議/反貧困ネットワーク/避難の協同センター/POSSE(50音順 11月20日現在)

表 新型コロナウイルス災害緊急ささえあい基金給付進捗
(2021年1月17日現在)

筆者作成

緊急アクションの相談フォームに、連日のように届く「所持金が数百円しかない」、「仕事を解雇され寮から追い出されて、路上生活になった」、「何日も食べていない」、「このままでは死にたくなくても死んでしまう」などの悲痛なメール、それに対して、私たちは、相談者が待つ現地に向かい、「ささえあい基金」から、当面の生活費と宿泊費をお渡ししながら、その場でアセスメントをおこない、数日後の生活保護申請同行やアパート入居までの支援をしたり、必要な福祉制度につないでいます。申請同行せずに一人で福祉事務所に行くと、収容所のような施設に入所させられ、しばらく施設から出ることができないからです。寄せられる「住まいがない」「所持金がない」などのSOSは、12月まででのべ385件にも及んでいます。そのような活動をほぼ休むこともなく、9カ月も続けています。

「ささえあい基金」の3分の2が、在留資格にかかわらず生活に困窮している移民・難民などの外国人への給付となっていることも特徴です。11月3日に埼玉県の川口駅前キュポ・ラ広場で開催した「仕事や生活に困っている外国人のための相談会」では生活・医療・法律など各相談ブースを設け、コロナ感染拡大によって、さらなる経済的困窮に追い込まれたクルド人家族を中心とした外国人が行列をなしました。結果的に120世帯300人以上が参加し、ほぼ全ての相談者に家賃滞納で追い出しの危機が迫っていました。所持金ゼロ、医療も受けられず、受けられていても医療費滞納や病院までの交通費がないなど、身体がガタガタの親子が続出しました。ほとんどが仮放免で、在留資格3カ月で就労は禁止されています。もともと過酷な生活を送ってきた仮放免者は、食料もままならず、数年にのぼる入管施設での収容生活のなかで、健康状態に問題を抱えている人も多いのです。しかし、健康保険が使えないため診療を抑制し、さらに体調が悪化するという悪循環も生じています。まさに「医・食・住」という生きるために不可欠なものが脅かされている状況です。多くの家族が「ささえあい基金」から約3カ月前に緊急給付され、そのお金が尽きて、すがるように相談ブースの列に並んでいました。彼らは言います。「働きたいのに働けない」、「働いたら捕まり収容される、でも危険を冒してでも働かないと死んでしまう。でも仕事がないんだ。」悲痛な叫びの連続に言葉を失いました。

新型コロナウイルス感染症の特徴は、全ての人が感染しうるという平等性・無差別性と、社会的な脆弱度に応じて影響に差が生じるという不平等性・差別性にあります。日本に住む全ての人々が何らかの影響を受けているなかで、在留資格が無い、あるいは短期のため、住民基本台帳に載らないことから公的支援の対象外とされた外国人の方に、一刻も早い支援がなければ餓死や病死の危険にさらされる人たちが多く出てしまいます。

また、ペットを連れて住まいを失った人からの相談も増えています。コロナ禍による経済停滞が続くなかでは、これからも増えることが予想されます。このような事情から、「反貧困犬猫部」を立ち上げ、フード代や宿泊費、病院代など、飼い主とともに住まいを失った犬や猫などのペットを支援しています。

その他にも合計4回の政府交渉、東京都、千葉県、神奈川県にも継続的な交渉をおこない、①路上生活を強いられることのないようにビジネスホテルなどの居所確保、②生活保護行政の対応改善、③定額給付金の対象拡大、④公的支援を受けられない外国人の生存権保障のための施策、などを要望してきました。

「住まいの貧困」を解決するための提言
  • 〇災害救助法を応用し、民間の空き家・空き室を借り上げる「みなし仮設」方式の住宅支援の導入。公営住宅の入居要件緩和(60歳未満単身者の入居を認める)。
  • 〇住居確保給付金を普遍的な家賃補助制度に。
  • 〇路上生活者のための個室型の緊急シェルターを整備し、NPOとの連携の下で、巡回相談(駅ターミナルや繁華街など)を実施、福祉事務所を経由せずに緊急シェルターに入所できる仕組みを作る。

支援活動の特徴

SOSを出される方々の全体的な傾向として、直前まで普通に仕事をしていたにも関わらず、コロナの影響でそれらを失い、あるいは減らされ、困窮状態に陥った方であり、比較的若い方が多いといえます。これらの方々は「いま、はじめて」住まいを失ってホームレス状態になり、公的な相談窓口を知らなかったり、民間の支援団体が行う炊き出しや相談会に行くのをためらったりする傾向が強く、その揚げ句、真夜中近くにやっとSOSメールを送って下さる方も珍しくありません。

大半の福祉事務所において、無料低額宿泊所(以下、無低)、自立支援施設入所が生活保護申請受理の条件とされ、路上に居ただけで、生活保護申請者に対する「疑い」「偏見」が差別的な運用につながりアパート転宅が阻まれる状況が頻発しています。そのため緊急アクション相談対応チームでは、相談者の生活保護申請に同行して、申請日当日から保護決定、アパート入居日までのビジネスホテルなどの一時宿泊先の確保、その後、約1カ月をめどに、アパート入居までの支援を行っています。

【相談者の傾向】

  • *所持金が1000円を切った状態でのSOSが過半数を超える。
  • *2008年の年越し派遣村には、20代はほとんどいなかった。30代もわずかで、圧倒的に多かったのは中高年だ。しかしいま、「ホームレスになった」とSOSメールをくれるなかでかなりの割合を占めるのが若い世代で、80%以上が20~40代である。
  • *以前からネットカフェなどで暮らし、日雇いおよびスポット派遣で収入を得ていたが、コロナで収入が途絶え、野宿生活を強いられている。当初からアパートを借りる費用がなく、数年ネットカフェで暮らしながら、生活していた。
  • *さまざまな理由から、公的な福祉サービスや仕事・住まいを失ったりアクセスできない状態におかれ、社会的孤立を抱えている方々の多くが「音声通話可能な携帯電話を失っている」状況であることが判明している。生活が困窮し携帯電話料金を払えなくなった人たちを対象に、「つくろい東京ファンド」がスマートフォンの無料貸し出しを始め、緊急アクションでも利用している。
  • *緊急給付以降、仕事に期待していたが、仕事が入らず、再SOSが来て、生活保護申請を行う事例が増えている。
  • *生活保護申請における「扶養照会」などで親や親族に知られたくないと生活保護利用を躊躇する人が多い。義務であるような言い回しをする自治体、担当者が多い。
  • *無低、施設の劣悪な状況に耐えられず、退所、失踪経験者が多い。
  • *親も貧困で頼れないというケースもあれば、シングルマザー家庭も少なくない。こうした事実を見ても、やはり「家族」は急速に、セーフティネットとしての機能を失っている。
  • *12月以降、家賃滞納による住居追い出し、強制退去案件が急増している。
  • *一人暮らしの大学生への給付が急増している。「コロナ災害」により、バイト先の飲食店が潰れてしまい、家賃の支払いに困っている。
  • *女性からのSOSが急増している。全体の20%を占める。80%以上が10代と20代で占められている。女性は宿泊、飲食、性風俗、小売りといった業種に非正規で就いている割合が高く、コロナ禍による解雇の影響を強く受ける。40代からの世代は突然のコロナ災害下の貧困で精神困難に直面している。
  • *2017年の東京都によるネットカフェ調査で明らかになった問題が、コロナ禍でさらに深刻化して表出した。
  • *住居を喪失した理由として、「仕事をやめて家賃等を払えなくなった」32・9%、「仕事を辞めて寮や住み込み先を出た」21・0%等となっている。相談者の平均の月収は11・4万円。「住居を確保することに関して、問題になっていることはありますか」との質問に対して、最も多い回答は「アパート等の入居に必要な初期費用(敷金等)をなかなか貯蓄できない」62・8%。

以上からも、「ネットカフェ難民」になってしまった人たちが、非正規雇用で何とか生計を立てようと働いてきた「普通の」労働者であることが分かります。

住居確保にあたっての問題として、初期費用の貯蓄の難しさが最も多く(62・8%)、ついで入居後に家賃を払い続ける安定収入がない(33・3%)、保証人確保の難しさ(30・9%)、が主要なものとして挙げられています。

ここから、日本の低所得層に対する住宅政策の不十分さが伺えます。

生活保護利用を躊躇する理由

(1)自立を阻害し、尊厳を否定する無料低額宿泊所の実態

生活保護を忌避する理由として多いのは、「一度申請したことがあるが、相部屋のひどい施設に入れられたので逃げ出してきた、あんな思いだけはもう勘弁」というものです。支援者が同行せずに路上生活で生活保護申請をした場合、劣悪な無低など貧困ビジネスの施設に入れられてしまうことも多いです。支援者が同行し、交渉すればそのような施設を回避してアパートに転宅する道筋をつけることができるのですが、一人で行くと、生活保護の「入り口」で、ある意味「地獄を見る」ようなことになってしまいます。

多くの自治体では、生活保護を申請する際に、半ば強制的に施設に入ることを勧めるなど、まるで生活保護を受ける条件として施設入居が当たり前のような対応をしています。

【事例】

*福島県出身のFさんから以前、失踪するしかない無低の実態を聞いた。千葉市内にある特定非営利活動法人だ。上野公園などで野宿している人々に声をかけて、生活保護申請を勧め同行し、そのまま無低に連れていくパターンだ。施設料を引かれ、手元に残る金額は2・7万円、連れていかれた施設は6畳の4人部屋と劣悪、部屋ごとに責任者が置かれるが、Fさんはよく殴られたという。問題なのはハローワークなどの就労活動をさせないこと。無低運営の労働を職員として担わせること。食事の配膳や片づけなどの労役を課すこと。無低からの自立支援でなく、無低経営のためにいかに退所させないか躍起になっていること。

(2)扶養照会で相談者の尊厳が否定される

生活保護の利用を困難にする国籍や在留資格などの問題がなく、誰がどう見ても生活困窮状態にあり、生活保護の利用資格があり、生活保護以外の手段が残されていないにもかかわらず、生活保護を申請することには積極的になれない人々が多いのです。

何が生活保護の利用をそれほど困難にしているのでしょうか。親や兄弟に知られるのが嫌だからと、申請をためらう人が多いのです。生活保護を申請すると、「扶養照会」といって家族に連絡がいくのです(虐待やDVなどがあるとされません。また、親が70歳以上、20年以上音信不通(東京都は10年以上)などのケースも照会されない場合があります)。「あなたの息子さん/親が生活保護の申請に来ているが面倒をみられないか」と言われます。扶養照会で相談者の尊厳が否定されます。

困窮者支援に奔走する足立区議会議員・小椋修平氏によると、2019年、足立区の生活保護新規申請世帯は2275件、うち扶養照会によって実際に扶養がなされたのはわずか7件で1%以下です。照会したところで、ほとんどが「扶養は無理」と答えています。

公的支援を受けられない外国人支援

移住者と連帯する全国ネットワークからの要請に基づく、「支援からこぼれ落ちた外国人」の給付支援は引き続き多いですが、直接支援を求めるSOSも増えています。

仮放免者たちは、難民申請が認められず、長い人では30年にわたって、何の権利も認められないまま日本で生活しています。非正規滞在者が抱える問題は以下のように整理できます。①仮放免者や短期滞在者は就労が禁止されているため、全ての生活を支援者に頼らざるをえない。②家賃と医療費がとくに生活を圧迫、未払いゆえに立ち退きを迫られている人が急増している。③症状が悪化して持ちこたえられなくなるぎりぎりまで受診を控えるため、医療費がさらに高額となっている。

【緊急に求められていること】

日本政府は、国籍を問わず、日本に住む全ての人々に生存権を保障してください。全ての困窮者にまず住まいを保障してください! 医療を受けられるようにしてください。

瀬戸 大作

反貧困ネットワークの事務局長として、昨今では新型コロナ災害緊急アクションで日々活動中。また、原発事故避難者の相談窓口である避難の協働センター事務局長でもある。