【論文】西粟倉村の地域資源の利活用と循環型地域経済―「自然エネルギー社会」構築の課題について―

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西粟倉村は地域資源の森林などを利活用することで「脱炭素社会」につながる自然エネルギー生産を旺盛に展開しています。自然エネルギー生産には、地域に新しい企業、人材、雇用を創出することと新しい制度インフラを整備する課題があります。

西粟倉村は、岡山県の北東部に位置し、鳥取県と兵庫県の県境に接しています。面積は57・97平方キロメートルで、うち森林面積が95%、小さな村で農地が少なく典型的な「過疎、山村振興法指定」地域です。この間過疎地に関わらず、人口は1400人台で推移し、2021年4月末では1420人(608世帯)です。村周辺の智頭町、佐用町、美作市と比べると、人口減少率は大幅に低くなっています。2020年10月現在の高齢化率は36・3%ですが、保育園児から中学生生徒数の合計は150人程度を維持し、総人口に占める割合が10%を超えています。

財政面を見ると、財政力指数は0・13(2020年)、一般会計予算は約36億円(2021年)です。「人口減少、少子高齢化、過疎化」にある地方自治体から見ると、財政的には典型的な過疎地域ですが、人口数、年少人口を見ると違います。村は人口減少を食い止め、子どもたちの世代の展望を切り開くことができています。

以下では、この村が人口減少を食い止め、人口を維持している理由が、村の地域資源を利活用しながら自然エネルギー生産を「点」的開発でおわらせず、線・面に拡げているからだということを見ます。

「合併しない」との選択と『百年の森林構想』

西粟倉村は「平成の大合併」が推し進められる中、2004年8月に「西粟倉村の合併の是非を問う住民アンケート」を実施し、「合併する」21・7%、「やむを得ず合併する」18・8%、「できれば合併しない」17・5%、「合併しない」40・9%となりました。村民の58%の「合併をしない」との意向を尊重し、道上正寿前村長は合併協議会からの離脱を表明しました。「合併すると行政の合理化によって地方行革が図れる、効果が出る」といわれる中、財政的に余裕がない状況で、自主自立の道を選びました。

次に、合併をしないことを決定すると、自立できる新しい村の振興策が必要となります。そして、道上前村長は2008年に「百年の森林構想」を着想し、翌年に「百年の森林事業=西粟倉村森林管理運営に関する基本合意」を結びました。道上前村長は「50年前に子や孫のためにと、木を植えた人々の想い。その想いを大切にして、立派な百年の森林に育て上げていく。そのためにあと50年、村ぐるみで挑戦を続けよう」という理念を掲げました。

道上前村長は、「50年前に植えられた森林資源を持続可能な管理を行いながら、2058年に目を向けています。…森という地域資源を使って、小さな経済や雇用を作り出していくこと」を決めました。外来型の企業誘致などに依存するのではなく、内発的発展として、村の地域資源である森林を利活用する道を選びました。こうした方針をとる背景には、2004年から地域再生マネージャー事業で村と関わってきたアミタ㈱の熊野英介氏がいました。

地域資源を利活用した自然エネルギー生産

西粟倉村は百年の森林事業で森林を整備しながら、川中で木材加工を行い、建設用に利用できる材木であるA材・B材は木材市場を通すのではなく、森林組合土場から直接販売に変更しました。村内の木材加工会社が材木を地場の製材所、木工加工所、工務店などに販売しました。A材、B材として使えないC材を薪、木質チップなどに加工し、熱エネルギーとして活用し、山で残った間伐材などの林地残材も利用しました。

村内で薪を生産、販売するので、3カ所の温泉施設は薪ボイラーを導入しました。村外からの熱エネルギー資源である重油ではなく、村内の熱エネルギー資源である森林が木材加工、販売を通じて、村の温泉施設に利用されました。

「再生可能エネルギー」の議論で「太陽光、風力発電量はどれくらいのCO2削減量になるのか」等の議論があります。本来は、CO2を削減する自然エネルギー熱生産の薪ボイラー(点)だけを見るのではなく、地域資源である森林から木材加工、木質エネルギー生産、温泉施設の経費削減など、川上から川下までトータル(面的=地域経済全体)に見渡すことです。CO2削減だけでなく、地域資源の利活用から村内で新しい循環型地域経済システムが構築され、新会社の設立、新しい雇用が生まれている状況を見る必要があります。

森林整備では(株)百森、木材加工では(株)西粟倉・森の学校、(株)sonrakなど、新しい企業が川上から川下まで関わっていることが図を見てもわかります。

点的な温泉地への熱供給というレベルから、地域熱供給網を構築した線・面への木質バイオマス地域熱供給へと村の考えは発展していきます。

図の右上を見ると熱エネルギーセンターがあります。地下に熱導管(60℃の湯をセンターから送り、暖房と給湯を行い、40℃でセンターに戻し、また暖めてを繰り返します)を設置して、AからC(Eは計画中)までの保育所、役場、高齢者施設、小中学校へ熱供給をはじめました。将来的には村営住宅、農業プラントなど面的に熱供給を行う計画です。さらに、熱供給だけでなく、熱電併用の小型バイオマスを整備し、災害時には熱供給と電力供給を用意しています。

出典:「kwh=上質な田舎」─西粟倉村の再エネ導入─ 岡山県西粟倉村

小水力発電などの自然エネルギー生産

西粟倉村では「百年の森林事業」以前に、地域資源としての小水力発電事業(川の水の落差を活用)が行われていました。1966年「農業振興並びにへき地電力不足の解消」を図ることを目的に280キロ㍗の小水力発電所を建設しました。この発電所が老朽化したため改修計画を検討し、2013年に工事を行い、翌年に全量買取制度(FIT)に移行させ、売電収入を1600万円から7000万円にアップさせました。村は新しい再生可能エネルギー生産を展開する資金を手に入れました。そして、新たに西粟倉第2発電所「みおり」(199キロ㍗の小水力発電所)を2021年1月末から試験運転しています。この第2発電所をめぐっては、事業性、中国電力と関西電力のどちらにつなぐのかなどさまざまな障害がありましたが、村の担当者はその都度乗り越えました。

太陽光発電は49キロ㍗、20キロ㍗の2カ所、15キロ㍗の4カ所が比較的大きいものであり、村民出資参加型のソーラー発電も含まれています。現在、問題となっている外部資本によるメガソーラー発電は村にありません。その他にも、家庭部門での太陽光発電、薪ストーブ、ZEH(ゼロエネルギーハウス)など新エネルギー、省エネ対策を行っています。

多様な人材と新たな人材養成

西粟倉村調査の際、「森のうなぎ」で有名なエーゼロの牧大介さんに話を伺いました。牧さんは、2009年西粟倉村の地域再生マネージャーでした。牧さんは「百年の森林構想」を事業化していく村の総合商社「森の学校」を誕生させ、移住・起業支援事業を受け継ぎながら、木材・加工流通会社を立ち上げました。村の「ローカルベンチャー」の先駆け的存在です。

2016年に牧さんは農林水産省の基金を受け、うなぎの養殖業を村内で立ち上げました。うなぎの養殖場は旧小学校の体育館のなかにあります。養殖するには川の水温では低すぎるため、村の森林資源の熱エネルギーを利活用し、うなぎ養殖と結合させました。

牧さんの「ローカルベンチャー」は林業だけでなく、魚の養殖業まで拡大しています。うなぎを出荷するだけなく、うなぎをさばき、蒲焼きも行い、冷凍の真空パックでうなぎの蒲焼きを販売しています。うなぎの出荷から、加工・販売することで、付加価値を村内に吸収し、新たな雇用を生んでいます。まさに森林資源の利活用と同じように川上から川下の発想です。

この村から学ぶべきは、地域を活性化する多様な人材が村役場内部、村外に存在している点です。一例として「ローカルベンチャー」の育成により2009年から2016年の間で、「29名の移住起業経営者、従業員89名の雇用創出、売上額は1億円から9・4億円へと増加」させています。2019年から、「都市部からの移住が伴う場合、事業プランが採択されれば、事業化のためのスタートアップ資金として、2019年より最大3年間、月額20万円の委託費、年額100万円の直接経費補助を支給」する制度も創設しています。「20万円3年間」といえば地域おこし協力隊だとわかります。村では、地域おこし協力隊制度を活用しながら多様な人材を村外から受け入れ、地域で起業する人材として成長させています。

今年2月にも「村内で様々な活動を行っている地域おこし協力隊35名(2020年12月時点)が、多種多様な9つの体験ブースを構え、加えて活動報告のスライド展示」(広報にしあわくら2021年3月号より)を行っています。

地域資源を利活用し自然エネルギー生産を行うには、単に太陽光パネル、木質バイオマスボイラー等を設置するだけでなく、森林整備(川上)、木材加工(川中)、木材販売(川下)などの業務を行う「ローカルベンチャー」企業なり、担い手である人材が必要だということです。

再生可能エネルギーの主体は、外部の大手企業・電力会社などではなく、地域自治体、地場企業です。

自然エネルギー生産の普及を地域ぐるみで行うために

最後に、自然エネルギー生産を普及させるための課題を指摘します。村でも、はじめから、薪ボイラー、木質バイオマスボイラー、地域熱供給なり小水力発電などがうまくいったわけでありません。ドイツから熱電併用木質バイオマスボイラーを輸入、設置した事業者が「スイッチを入れれば動くと思ったのに」と言うように自然エネルギーの生産は簡単ではありません。

初歩的ですが、薪ボイラーに切ったそのままの薪を使うと、含水率が高く薪はうまく燃えません。木質バイオマスチップボイラーもチップの含水率なり、形状などがマッチしていなければ、不完全燃焼となり故障の原因となります。氷点下の気温などでチップに霜が降りると含水率が上昇します。チップは自然素材原料なので品質管理が必要となります。

木質チップの厳格な規格も必要です。現在、法的拘束力をともなった制度的な規格はなく業界の規格、基準があるだけです。故障した場合、チップ供給者かボイラー機器メーカーのどちらの責任かなどでもめたりします。今後、自然エネルギー市場は大きくなるので品質規格などを制度的に整備していく必要があります。

小水力発電にしても取水口で土砂を100%近く沈殿させる必要があります。発電機に砂が混じってしまうと故障の原因となります。土砂を完全に沈殿させ、きれいな水だけを配管に流し発電させなければなりません。大雨の後などには、土砂や葉っぱなどが詰まることがありメンテナンスは欠かせません。

太陽光発電の場合、パネル設置などで簡単にエネルギー生産はできますが、木質バイオマスなどの自然エネルギー生産は業界としてはじまったばかりです。この業界は自然資源の充分な認識が必要です。故障、メンテナンス対応などノウハウの蓄積が必要です。地域資源を循環させる必要性があり、地域をトータルにコーディネートできる人材が必要となります。日本ではドイツ、オーストリアに比べると自然エネルギーに関する人材が圧倒的に少なく、人材を養成する教育機関も未整備となっています。

今後、西粟倉村は自然エネルギー生産100%地域となっていきます。環境省は「国・地方脱炭素実現会議」で、イノベーションを待たずに、既存技術による脱炭素社会の実現させるために先行モデルケースづくりを考えています。村が「脱炭素社会」の先駆けとなり、「脱炭素ドミノ」スタートとなります。

その際、ドイツ、オーストリアなどでは、評価機関から「エネルギー自立」地域は「e5」等と指定されています。太陽光パネルなどの設置という点で見るのではなく、村全体で自然エネルギーに取り組む「e5」として位置づける必要があります。「グリーン成長戦略」が将来のイノベーション依存だといわれていますが、水素産業などの創出を待たずとも、「脱炭素社会」は循環型地域経済を構築してこそ可能です。

現在の西粟倉村があるのは、「使いにくい」と放置していた森林資源に道上前村長が再度注目し、取り組んできたことを見ておく必要があります。

【注】

  • 1 この拙稿は、2019年8月までの4回にわたる西粟倉村の名城大学社会フィールドワーク調査での資料を参考にしています。
  • 2 過疎地域にあって「人口が維持でき、年少人口の比率から将来は明るい」と思いますが、15歳で村外にでる「高校生以上」問題を見ておく必要があります。年少人口比率は「都市部の地方自治体並みに維持できている」と評価されていますが、島根県海士町、北海道占冠村のような高校がなく、高校進学で村を離れる生徒がいます。
井内 尚樹
  • 井内 尚樹(いのうち なおき)
  • 名城大学経済学部教授

1959年徳島県生まれ、東海自治体問題研究所理事、地域資源としての自然エネルギーを基礎とした循環・小規模・分散型地域経済の構築を研究。

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